星祭《カルネヴァーレ》の夜(4)
「――どうやって」
冷たい表情のまま、ジョバンニはおもむろに口を開いた。
「どうやって探すんだよ」
「……そりゃあ、俺の愛車に乗ってさ」
カムパネルラはそう言って後ろを振り返る。
「機関車型宇宙船、フェロヴィーア。SSSランクのかわいいやつだよ」
「SSS!? ……そんなの俺だって見たことないぞ?」
ジョバンニは怪しむように、カムパネルラをにらみつけた。
「……まさかそれもハッキングで手に入れたんじゃねぇだろうなぁ」
とがめるような言葉にぶんぶんと首を振ると、険しい視線にさらされた当の本人は、「とんでもない! 俺は至って優良なユーザーだよ!」と慌てて叫ぶ。
「……それで」
カムパネルラは幾分緊張した面持ちで、そうジョバンニに切り出した。
「……どうやって探すのか気にしてくれてるってことは、君の中に『協力する』っていう選択肢ができたってことでいいのかな?」
「……」
ぐっと押し黙って、ジョバンニはカムパネルラの顔を見つめる。視線の先には、今にも泣き出しそうに揺れる二つの青。それらが必死に訴えかけている。自分を、この世界を助けて欲しい、と。
しょせん『仮想世界』だと、ひとは言う。しかしジョバンニは決してそうは思わない。
自分だけの星。自分だけの宇宙。それはジョバンニの、ジョバンニのためだけのかけがえのない居場所だ。
そして今、こうして、同じ考えをもつ人間に初めて出会った。
「――仕方ねぇ……」
「……!」
瞬間、カムパネルラの顔がぱっと明るく輝いた。
「――そのかわり、少しでもおかしいとか、やばいとか、そういう状況になったらすぐに手を引くからな」
面倒くさそうにそう言うジョバンニに、カムパネルラは喜色満面で手を握ってくる。
「それでもいい! いいんだよ!!」
感極まって叫んだカムパネルラは、握った右手を勢いよく上下に振った。
「じゃあ、契約完了ってことで! よろしく、相棒!」
誰が相棒だ、と悪態をつきながら、ジョバンニは頭上にあるカムパネルラの顔を恨みがましくにらみつける。
にかっと花咲いた底抜けに明るい笑みは、悔しいけれども少しまぶしいと、ジョバンニは思った。
「じゃあ、行こうか!」
そう言ってカムパネルラは、つないだままになっていたジョバンニの手をぐいっと引っ張る。
「行くって、どこへだよ」
怪訝な顔で尋ねるジョバンニに、あきれたようなため息をついてカムパネルラは言った。
「君、俺の話聞いてなかったの?」
「聞いてたっつーの!」
そのやりとりの間にも、ジョバンニはずるずるとカムパネルラに引きずられていく。
「飛び出すんだよ。宇宙へね」
カムパネルラはそう言ってウインクすると、機関車の――機関車型宇宙船フェロヴィーアだったか――とにかくそいつの扉を開けて、足をかけた。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はまだ星の整備がだなぁ!」
ぐいぐい引っ張ってくるカムパネルラに、ジョバンニは懸命に訴える。
「遠隔管理機能をオンにしたらいいじゃないか。そしたらフェロヴィーアの中からだってメンテできるよ」
「俺はちゃんとこの星を見ながらやりたいんだっ!」
そう言ってジョバンニは、勢いよくカムパネルラの手を振り払う。やり場のなくなった腕をひっこめながら、カムパネルラはすねた子供のように唇をとがらせていた。
心外だ。そんな顔をされたら、まるでこちらが悪者みたいじゃないか。
ジョバンニは自分の髪をぐしゃぐしゃかき回してから、少し考えて口を開いた。
「……十分だけ待て。それで今日の調整を終わらせる」
そう言ってジョバンニは、カムパネルラの返事を聞かないまま丘の上のHOMEへ向かう。
「――しょうがないから待っててあげるよ!」
遠ざかるジョバンニの背中にそう叫んだカムパネルラの声は、さきほどまでとはうってかわって上機嫌だ。
「……ったく。子供かよ」
誰にともなく悪態をつくと、ジョバンニはすぐに小高い丘の小さな小屋へと入り、生態系管理のメンテナンス作業を始めた。