ハロー・マイ・ロンリー・プラネット(2)
それは、ミッドカンパニーが、はじまりのおわり事件の事後処理に追われている時だ。
ハルカは、事件当事者としてミッドカンパニー本社へと招かれた。
初めてリアルのエリザベッタと顔を合わせた時は驚いたものだ。茶色く染められたセミロングヘアを後ろで束ね、パンツスーツをスマートに着こなす彼女は、ゲーム内の姿とは似ても似つかぬ、れっきとした大人の女性だったのだから。
「エリザベッタ……さん?」
恐る恐るそう呼びかけると、彼女は一気に破顔した。
「やだ、気持ち悪い。よりにもよって今更『さん』付け?」
けらけらと笑う彼女を恨みがましくにらみながら、ハルカは「どんなちびっこかと思ったら、まさかこうくるとは」と、あきれたように肩をすくめる。
「いいじゃない。そういうサプライズがひそんでいるのが、ネットのいいところよ」
快活に笑いながら、彼女はハルカに向かって右手を差し出した。
「アカリ・ノノムラよ。でも、好きなように呼んでくれて構わないわ」
はきはきと話す彼女はいかにも仕事のできるキャリアウーマンという感じで、どうしたってエリザベッタのイメージに結びつかない。ハルカは彼女の手をとってから少し考えて答える。
「……ハルカ、だ。でもできることなら、いつもみたいに呼んでくれ。あんたに関してはその方が落ち着く」
努めてぶっきらぼうに言い放ったのは、少しでもあの日の自分たちに近づこうとしたからだ。
そんなハルカの思惑を知ってか知らずか、彼女はほほ笑みながら答える。
「わかった。私もいつも通りでいいわよ、『ジョバンニ』」
「ああ」
うなずくハルカの顔もやわらかく笑んでいた。「わかればいいのよ」なんて偉そうに言ってみせるところは、リアルでもオンラインでも変わらない。
だがそう思えたのも、彼女の背後からいやに目つきの悪い幼児が登場するまでの話だ。
「かあさん、こいつ、だれ?」
小さくて丸い瞳は、いぶかしげにハルカのことをにらみつけている。
「こいつなんて言ったらダメよ、ユキヒロ。この子は『ジョバンニ』。かあさんの大切なオトモダチなんだから」
しゃがみ込んでそう諭す彼女の態度は、完全に母親のそれだ。驚きのあまりに目をむくハルカに、振り返りざま彼女は柔らかく微笑む。
「この子よ。私の、大切な子」
少年の頭を優しくなでながら続けた。
「ね、誰かさんによく似てるでしょ?」
自信満々に言われて眉根を寄せる。
そんなに似ているだろうかと幼い彼を見つめていたら、敵意に溢れた瞳で睨み返された。
「ほら、こういうところとかそっくり!」
渋い顔をしてお互いを見つめ続ける二人を見て、エリザベッタはけらけらと笑う。困り果てて眉尻を下げたら、少年も同じような顔をしていた。