世界の終わりとモーニンググロウ(2)
デバイスの中で目を覚ましたハルカは、もつれる指でタッチパネルを操作し、外へ出た。体には少しの異常もないが、そのことに安堵する余裕はなかった。ばたばたと自室を飛び出して、トールの部屋へと向かう。
ノックもせずに扉を開くと、真っすぐに彼のデバイスに向かって走った。祈るような表情で、強制ログアウトボタンを連打する。
「それ、コンマ数秒ずれたら、あんたも道連れじゃない」
エリザベッタの言葉が頭の中によみがえり、背中を冷や汗が伝っていった。
早く、早く、と念じながら、顔をくしゃくしゃにしてきつく目をつむる。
すがるように祈った時間は、恐らく一分弱。
わずかな稼働音とともに、デバイスが開く気配があった。
「……うるさいな」
気だるげなその声が聞こえた瞬間、ハルカは両目を大きく見開く。
その拍子に、たっぷりと潤んだハルカの瞳から大きな滴がぼろりと二つこぼれ落ちた。
「そんな風にされると、アラートが鳴りやまないんだけど」
いつものように少し斜に構えた、小憎たらしい態度。
「トール……!」
それが気にならないのは、彼のらしくない一面を垣間見たからだろうか。
素直になるのが下手くそなのは、きっとお互い様なのだろう。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、胸ぐらにつかみかかるようにしてしがみつく。
「この、ばか野郎……っ!」
どんな言葉をかけたらいいのかわからなくて、結局罵倒になってしまった。
できるだけ憎たらしく聞こえるように吐き出したのに、全くもって迫力がない。
「まったく。兄貴の癖に泣き虫だな」
トールの長い指が、ハルカの肩に遠慮がちに触れた。
「……うるせー」
絶えることなくこぼれ落ちるハルカの涙が、トールのシャツを優しくぬらす。
意地が悪いはずの弟は、泣き止まない兄の肩を、あやすようにいつまでも優しくたたいていた。