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第3話

スマホで変なサイトをタップしてしまって、しかも「契約が完了しました」とかカメラのシャッター音がしてパニックになる、なんて事を経験したことはないだろうか。

 

 俺はさっき、その数十倍のパニックに襲われていた。

 この、気づいたら教室から森の中に移動しているという事態に。

 光弥が落ち着かせてくれなければ、俺は今頃少し離れた所にある川に飛び込んで溺れ死んでいただろう。

 鋭いボディブローからのアッパーカット、右フック左フックそしてワンツーフィニッシュ。

 お前の右は世界を制する右だぜ………カハッ。

 

 てな訳で、俺の調子も落ち着いた所で光弥と二人、現状確認をすることになった。

 まず今俺達がいる場所、どっかの森の中。

 ここで二人しばらく気絶していて、光弥が先に目が覚めて俺を起こそうと試みるも起きなかったので周りを軽く探索してきたらしい。

  

 探索結果は近くに人の気配なし、とのことだった。

 つまり完全に学校内や学校の近くではないということだ。

 つまり詰んでいるということだ。

 だが大丈夫、俺はいつだってクールで冷静沈着な男。

 こんなことで慌てふためいたりなどはしない。


「ど、どどどどどどうしよう光弥、やややややばいよ」

「落ち着け明」

「し、ししししし死ぬ? 死んじゃうのかなぁ?」

「大丈夫、死なないよ」

「でででででも………」

「あーもううるせえなぁ!!」

「ぐほぁっ⁈」

 

 縋りつくように俺は両手を光弥の肩にしがみつかせていたので、無防備な腹に本日2回目のパンチが入った


「おま………、みぞ………痛い………」

 

 俺は昔から勉強も運動も真面目に取り組むほうで周りから図太そうなどと言われることがよくあったが、実際は臆病で応用の利かない人間だった。矛盾することに打算は利くのだが。

 

 反面、光弥は文武共に真面目にやらなくても出来てしまう、天才型の人間だった。

 どんなことも要領よくこなしてしまうため、突然の事態に強い人間なのだ。そのくせ妙に情に厚いところがある。


「とりあえず今日はここで休む。幸い近くに川もあることだし明日から川沿いに進んでいこう。火が欲しいから明は枯れ枝をなるたけたくさん集めてくれ、俺は食料を調達してくる。頼んだぞ」

「お、おう」

 

 光弥は指示だけ出すと早速作業に移っていった。

 森の隙間から除く空を見上げれば既に陰り始めており、すぐに枝を集めに行かなければ暗い森の中で迷うことになるだろう。


「………………え?」

 

 その時、俺はとてもありえないものを見た、気がした。


「おい! なにボーっとしてんだ。火がないと魚も焼けないだろうが!」

「あ! わ、わりぃ!」

 

 あまりの光景に我を失っていた俺は、光弥のどやし声に背中を押されるようにして枝を探しに走り出した。



 今見たものを俺は光弥に伝えるべきだろうか。

 一生懸命助かろうと、使えない俺を励ましてくれている光弥に余計な負担をかけたくなかった。 

 

 いや、光弥は多分気にするどころか喜ぶかもしれない。

 あいつはどこか、この状況を楽しんでいる節がある。

 そうじゃなくて、それを口にすることで俺が今の状況を認めてしまうことが怖かった。

 

 言えない、言いたくない。



 月が、二つあったなんて。



 この世界が別の世界かもしれないだなんて



 俺は、心の底から望んだことなんて一度もなかった。

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