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注文の多い武器商人Part2


「なぁ、機嫌治せよ...」


「別に〜?」


とか言いながら未だに機嫌が悪いのである。

取り敢えず下に降りて買い物を、と思ったが少し困っている。


「何が悪かったんだ?謝るからさ...」


「〝テッちゃん“だってね?」


「ああ、ああ呼んでもらってる。長い付き合いだしな。」


「呼んで〝もらってる“...?」


「...呼ばせてるの方がいいのか?」


不機嫌な顔を隠そうともせず緋色が組んだ腕を解いて正面に回り込む。立ち止まると、腰をかがめて顔を覗き込んできた。


「テツテツ!!」


珍しく怒った様子で大声を出す緋色。


「な、なんだよ…目の前で大声出すな、全く…」


「私のことは、会話の最初に〝緋色“って名前で呼ぶこと‼︎それ以外は許しません!!」


「唐突だーーー」


「ゆ る し ま せ ん ! !」


「...緋色、わかったよ。悪かった。な?

これからは名前を呼んでから喋るからさ。」


「わかったならいいけど〜...」


頬を大福のように膨らませて睨みつける緋色。

哲には何故かその顔が眩しく見えた。


「しかしほんとに珍しいな、緋色がそんなに怒るなんて」


「…?ーーーにへら!」


「っ!?」


急に笑顔を見せた緋色から急いで目を逸らす。

このままだと何か自分がしでかしてしまいそうだ...!


「? どうしたの?」


「いや...なんでもない」


ーーーなんだったんだ?今のは...

今、こいつがとてつもなく可愛く見えた。

めっちゃ可愛かった。口には出さないが。


「緋色、何か買うものとか無いのか?

助けてもらった礼がまだだろ?」


「買い物に付き合ってくれるの!?」


「お、おう」


「やったぁっ!!」


「どこ行くんだ?まずは装備を整えないと...」


「じゃあまずは靴からだね!

装備が揃ったらさ、その...個人的な買い物にも付き合ってくれる?」


「服とかってことか?いいけど...絶対変な噂流れるだろこれ...」


「そんなの気にしてたら動けないよ?ほら行くの!」

______________________________________

靴屋にて。

俺らが履く靴は普通のものではない。

というか普通のは一瞬で壊れる。なんせ凄まじい威力で地面を蹴ったり踏ん張ったりするから靴底がズレるのだ。横に剥がれる。

ここにあるのは構造を強化してある特注の戦闘用靴だ。そう、俺ら専用の。

どれだけ動いても...いやもちろん限界はあるが壊れない。


「これはどっちかって言うと防御型の方なのかな...?」


「そうだな。バネを活かす構造ってよりは踏ん張る構造になってて中々重いんだよ」


「よく知ってるんだねぇ?」


「何回靴壊したかわかんないからな...」


...と、緋色の目線が意外そうな雰囲気を発しているのに気が付いた。


「どうした?何かあったのか?」


「いや〜、いきなり雰囲気柔らかくなったな〜と思って。

私が会った時なんてすっごいぶっきらぼうだったのに今や普通の男子だもんね!」


「...靴は選んだな?次行くぞ」


「あ、ちょっと待ってよー!」

______________________________________

手袋。武器を持つうえで重要な手を保護する目的で着用するのだが、これも沢山の種類がある。

滑り止めがついているものと、ついていないもの。

ケプラー製だったり、絹製だったりもするなど種類も沢山だ。


「俺はケプラー製で滑り止め付きの奴を使ってるけど、なんでもいいんじゃないか?」


「...これにするかなー?」


そう言って緋色が手に取ったのは絹製、滑り止めなしでフィット感を追求したものだった。


「滑り止め、いらないのか?」


「剣を持ち替えたりするからねー...

スルって動いてくれる方が嬉しいかな!

あと絹製なのは手触りくらいだね!」


〝意外と考えてるんだよ!褒めて!“

みたいな顔をした緋色が気合いの入った顔をしている。


「ふぅ...」


軽く頭を撫でてやる。

サラサラした髪が慣れない感覚を手に伝えてくる。

なんだ?自分の髪を触るのとは訳が違う。

ちょっとクセになりそうだな...恥ずかしいしすぐに辞めるが。


「痛い!何で最後軽くしばいたの!?」


「なんとなく。あと買うものはあるのか?」


「もー、無いよ!じゃあ改めてっ!行こっか!お買い物!」


「んーーー案内しろ。ついてくから」


「りょーかいですっ!」

______________________________________

服屋にて。

緋色はずっとはしゃいでいる。

不思議なことに一緒に居るこっちまで楽しくなってきた。

しかし時々視線が別の方向に行っているのが気になるな...

方向的にはさっきの手袋屋か。警戒はしておこう...


「ねえねえ!このシャツとこっちのスカート合わせたら良さそうじゃない?」


「...こっちの方が好み」


「え、好みって...!」


「...なんだよ」


チラッと緋色に目線を送る。

...どうやら俺は不用意な発言をしてしまったらしい。

緋色の目が普段以上に輝いていた。


「こっちの服を着てた方が可愛いってことね!?」


「お、おう」


「コレ下さい!!」


あっという間に会計を済ませてきてしまった。

なんだったんだ今のは。

...まあいいや。楽しそうだし。


「いくらだった?」


「ん...そんな高くないよ、大丈夫!

ありがとうね!」


「お礼の意味がないじゃんかそれ...」


「いいの!選んでもらったからそれでナシ!

ーーーあそうだ」


「どうした?」


「あそこ...」


緋色が指さす先にいるのは1組のカップル...か?

まあいいや。男女だった。場所はさっきの手袋屋だ。


「ずっと悩んでるみたいで...手伝ってあげられないかな?」


「...あの人達をチラチラ見てたのか...

いいよ。手伝いに行こう」

______________________________________

「...どうかしたのか?」


「...あ、えーと...」


「初対面の人にその口調はまずいでしょ?

何か手伝う事はありますか?」


緋色がマトモな女の子のように話しかけ、相手に微笑み掛ける。

俺には難しいことをさらっとやってのける…スゴいヤツだ。


「あー...銃器を売ってる場所ってわかりますか?」


...この男子、見たところ俺らのような日本系の人種じゃないな。そして背中の長い銃。相方らしい女の子は近接武装か...?

距離がアンバランスすぎるから男の方が射程を短くしにきたか女の子が射程を伸ばしにきたか...


「何かあるのか?バッチも腕章もないから治安維持部隊じゃあるまいし」


「あー...まあその選考会に出るんですよ」


「ん、じゃあ同じか」


「本当ですか!?」


...なんだこいつ。

純粋なのかなんなのか…

装備は見たところ女子はバネ型の靴だから近接系か...

男子はバネ型...だが靴が硬そうだな...新しいのか。

これは男子が射程距離を縮めにきたか。


「...あげようか?これ」


「え!?いいんですか!?」


「遠慮すんな。ライバルである以上助ける義務がある。」


「いや、でも...」


遠慮しようとする相手半ば引っ張る形で案内する。


「哲、正気!?」


「ああ」


「名前は、なんと言いますか?」


「俺か?俺は『轍 哲』。テツテツでいい」


「俺はトリスタン。

『トリスタン・白羽・フェイルノート』です!」


「そうか。覚えておく。」


そう言ってトリスタンは『AN-94』を手に取った。

両手で恭しく受けとる様はまるで中世の騎士だった。


「このお礼は、いつか必ず。連絡先下さい!」


「ん、はいよ」


一方お互いの連れていた女子たちは、何か通じたものがあったらしく意気投合していた。

______________________________________

屋上に戻って空を見上げる。

空はすっかりオレンジ色と紺色のグラデーションに支配されていた。

その中でエレベーターから出てくる人影が一つ。


「ん、来たか」


「えへへ...今日は2回目だね...『AN-94』は渡しちゃったのね?」


「ああ、『トリスタン・白羽・フェイルノート』って言う奴らしいんだけど...

靴とか渡したのアンタじゃないのか?」


「その名前、確かにウチの姉から聞いたような...なんでも、この都市の都長さんを助けた人らしいよ?

ーーーあれ、『武器調達は自分でやらせた』って言ってたような気が...ほらこれLINE」


「へー...」


ーーーとなると相手も何かしらの一芸に秀でているかもしれないのか...

少し不味かったかもしれないな。ちょっと後悔してる。


「今渡せるのは...これくらいじゃないかな?」


と言って香月が背中のバッグから相当な数のライフルを取り出していく。

その中で一つのアサルトライフルが俺の目についた。


「これは...?」


「『AK-12』。AN-94と同じロシア製アサルトライフルだから、ある程度扱いは似てるんじゃないかな?」


「ん、意外と軽いな。」


「そうでしょ!性格はカービンに似てるしだし市街地での戦闘は強いんじゃないかな?」


「...まあ、そうか。これがいいかな。」


「ねえ、『セミオート』って何?」


銃の説明書を見て小首を傾げる緋色。

そうだな。緋色は銃器に精通してないから知らなくて同然か。


「そうか、緋色は銃を触ったこと無いもんな。

連射できる銃の中でも引き金を連続で引くタイプのことで、引き金を引き続けて連射が続くのは『フルオート』って言われるんだ。基本はセミオートで使うな。制圧用にフルオート」


「へぇ〜...」


あ、『わかんない』って顔してる。明らかに顔がボケ〜っとしてるよこの子。


「はいお代、毎度ありがとうな!」


「うん!...あ」


香月が思い出すような挙動を見せる。

心当たりはあるようだ。


「もしかしたらトリスタンって人、この辺りの人じゃないのかも...?」


「...ん、どういうことだ?」


「あっちは姉さんの担当なんだけど、別の場所は銃が主流らしいんだよね...?

こっちで言うところの『剣武』が使えないから銃器が有効なんだって言ってたよ。

私の姉さんも『剣武』が使えないから銃器を使ってるしね?

あでも、数年前の話だから越して来たのかもね。」


「ふうん...じゃあこっちに来たのは試験の下見がてらってとこか...?ん?住んでる場所はここなのか?」


「そうじゃないかな?」


「ちょっと!ふ、二人だけで話さないでよ〜っ!」


と、話の間に緋色が入ってきた。

それを見て何か閃いたのか、香月の目が俺と緋色の間を往復する。

手荷物にも念入りに目線が注がれる。


「ど、どうかしましたか?」


「ふーん...」


意味ありげな視線とともに吐き出された何かを理解した声。

香月がこの声を出した時は何か把握した時だ。


「泣かせないようにね?テッくんといい、一緒にいてくれる人なんてもう居るかわからないんだからさ...」


「ん?別れる気なんて毛頭無いぞ?」


「ッ!?何言ってるの哲!!⁇」


「えへへ、それは何よりだよ〜。それじゃあまた!試験当日に会おうね!」


お熱いことで。と言い残して香月は去った。それはもう足早で。

ずっと顔を真っ赤にして顔を隠している緋色を横目に取り敢えず景色を眺める。

コイツが落ち着くまで、俺はこの高さ50m程からの景色を楽しむことにした。

ああ、射線の下調べって建前で。


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