拗らせ気味で口の悪い義妹とかエロゲかよ
「ん?」
前の席のやつがなにやら紙をこっちに回してそそくさと黒板に向き直った。
これはなにか気になったが…聞き返すのもめんどくさい。
丁寧に端を揃えて折られた紙を開け、中身を読む。
「呼び出しかよめんどくさ…名前もなし?バカなのかコイツ」
あまりにおかしかったので口に出てしまっていた。
とりあえず目の前のことを片付けてからこれに対応しよう。
まずは俺に5回目の質問を飛ばしてきた先生からだな。
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定規かなんかを使って書いたかのように綺麗な地図に従い、中庭についた。ここはグラウンド、昇降口及び正門、そして駐輪場(駐車場含め)から直通で来れる待ち合わせの人気スポットだ。
真ん中に大きな桜の木の生えた円形の花壇があり、木製の、ガラスが主役である校舎とレンガが主役の中庭がいい対比になっている。
「悪いな…待たせた?」
「...待ったわよ。5分も待った!」
声の主は緋色の妹だった。藍とか言ったか?
「普通は待ってないって言うもんなんじゃないのかよ」
この学校には放課後という概念がない。
というのも先生方が駐在してローテーションで訓練をつけているので授業が一日中あるようなものなんだ。
それで俺らの言う放課後を指すのは基本的に午後の日程がひと段落ついた自由解散後の時間だ。
時間にして3時くらいじゃないだろうか?
今日の時計を見たら3時10分を回ったくらいだった。
「...まあとにかくよ。
同室になる以上、挨拶をしないとと思ったのよ」
嫌な予感を感じて銃口を藍に向ける。
これは...固有剣武の発動時と同じ〝感覚“だ。俺は使えないが戦った相手に使われたことがある。その時の感覚と同じだ。
「危害は加えないわ。って言っても信じないでしょうね...」
「当然だ」
「パパと同じ…それもおかしいかーーー説明するわ。銃を下ろして...それを向けられたら怖いわ」
大人しく下げてやるか...たしかに顔も強張っていて汗をかいている。
怖がっているのに逃げないで抵抗もしなかったらしい。
...コイツは強いタイプの人間だな。
「流石に銃は初めてか?わかったよ...んで?説明すんだろ?」
「...素直に聞いてくれるのね」
「いいから説明しろよ」
「アンタ実は悪い奴じゃないんじゃない...?」
「うるせぇなさっさと...」
銃を向けようとして藍を見るとニマニマしながらこちらを見ていた。そこまで似てるのかよ、いらねえよそんなとこ。
「かーわいー!」
なんで姉妹そろって煽ってくるんだ...?
...とりあえず反応するのはやめて睨みつけることにした。
いちいち言うことを聞いてたら調子に乗るタイプか?
めんどくさい女子しか居ねぇのかよ…
「あっ...わかった!説明するわよ!」
そう言うと藍の手のひらにいつの間にか炎を纏って青い剣が現れた。
燃えてはいないが、その刀身から立ち上る陽炎が熱量を物語っている。
なんというか...美しい。
「ペイル・ブルー。それがこの子の名前よ。」
そのままツカツカと靴を鳴らしながらこちらに歩いてくる。
「綺麗でしょう?でも触っちゃダメよ」
「...何が?」
「この剣は所謂即死攻撃の属性を持ってるの。だから触れたら死ぬわよ」
「...は?」
そんなこと信じるとでも?という意味だったのだが、怖がっているように思ったのか
「当然あなたも例外じゃないのよ?」
なんて微笑んできた。口元以外は笑っていなかった。
「あっそ」
「...怖くないの?」
「あ“?」
「だって逃げたりしないじゃない!
お父様もお母様も、この力がわかった瞬間に私を遠ざけて監禁したのよ?なんで逃げないの?あなたやっぱり変なんじゃないの?」
「じゃあ俺を殺すような理由でもあんのか?」
「え...?」
「さっき出した時から俺を殺せたわけだろ?んで今になって切る理由あんのか?」
「...でも、お父様もお母様も」
「そいつら、何かしらの理由があって逃げてるんじゃないのか?あとは俺その剣の能力疑ってるし」
「じゃあなんで銃を向けたのよ…」
ーーーやべ、反射でとか言えない。
藍はその場で黙りこくってしまった。
まるで俺がまずい事をしたみたいじゃないか...
こういう時が一番どうしたらいいのかわからないんだ!
「あー...その...」
「...どうかしたの?」
「俺、これから新しい家に住もうと思ってたんだ。」
「聞いてたわよ。話ずらさないで頂戴」
「知ってるよ。逃げたかったらウチに来い。
多分緋色もOK出してくれるさ」
すると藍の顔が少しずつ明るくなっていき...
また俯いた。
「なんだ次はどうしたんだよ」
「...いいわよ、私は」
沈黙が降りた直後、俺は思いっきり自分の頬を引っ叩いた。
え、マジで?今の断る流れ?
パアン!という、銃声とは異なった快音が辺りに響く。
「聞こえねぇ。もう一回言え」
すると肩をビクッとさせて顔を真っ赤にした上に目には涙を溜めた藍が、こちらに向かって半ば叫ぶような声で言い返してきた。
「行かないって言ったの!!」
そう言うと顔をあらぬ方向に向けて頬を膨らませてしまう。
「...わかったよ、しゃあねぇな...」
「な、何よ...」
強引に手を取って教えてもらった道を進む。
俺の新しい家までの道だ。父親のメモ…もといへそくり帳の最後のページに書いてあった。
「ちょっと...!」
とかなんとか口には出していたが目立った抵抗はしてこなかった。それどころか握り返してきた。手のひらの大きさの差が身に染みたところで家が見えてきた。
「…バカ」
「抵抗しなかったくせによく言うわ…」
素直じゃねぇな…人のこと言えてねぇか。
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新居にて。
外から見るとちょーデカい。
なんかアレだわ。よくテレビで見るような豪邸って本当にあるんだね。
「いらっしゃい、よく来たね!」
「ここが緋色の家?なかなか綺麗じゃない!」
「俺のだよ!」
「そっか、藍はあんまり来たことなかったね!」
「お前もだろ!」
このおかしいリアクションに関して何も反応がない。これは実家もヤバイに違いない。お嬢様なのかなんなのか…色々と心配になるわ。
「…そういや今の会話、姉妹なのに一緒に居ないのか?」
「なんか藍からは距離置かれてるような気がするんだよねー」
おい。話題に困るだろ。やめろよそういう話。
後ろでは藍がクローゼットをガサゴソやっていた。
「...いい匂い...」
「何もしてないよ?もう〜...」
嘘だー!さっき緋色がめっちゃファ○リーズしてたぞー!
めっちゃ気にしてたぞー!俺のなのにな!
「ーーー何?」
「なんでもねぇよ」
「...ちなみに関係はどこまで行ったの?」
緋色が途端に慌てだす。なんかまずかったか?
「ん?どこまでって...どういうこと?」
「...恋愛とか?」
「え、無い」
「んなっ、な、な...!」
「俺にはわからないとだけ言っておく。緋色は何かそういうことあるか?」
「お姫様抱っこしてくれたよね?」
「ほーん...あれカウントすんの?すると俺かなりの人数にやってるんだが」
「嘘でしょ!?」
「ああ、おばあさんとかが困ってたときにやってた」
「よかった、そういうことね…」
「おばあさんも恋愛対象なの…?」
なんだか意地悪で、それでいて嬉しいような顔をする。
親がこの状況を見たらなんて言っただろうな...俺は胃に穴が開きそうだよ。
「よろしくな、二人とも。」
「はい!」
「しょうがないわね!」
俺は血を吐きそうになりながら、風呂を目指した。早く寝たい。その一心で。
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午後10時。
お風呂にも入り終わって、あとはもう寝るだけ。
しっかし変な奴もいるものね...
私の固有剣武を見てもなんとも思わず、それどころか普通に挨拶してきたなんて。
私、3歳の時に固有剣武を発見した時からは両親にすら抱きしめてもらったことがあったかしら?
「...まだ、ドキドキしてるのね...」
「あら、藍も気になってるの?」
「なわけ...!っていうか、向こう意識してないみたいじゃない!」
はっきりと否定できないのがなんか悔しい!
でも、なんだかんだ言って今までで一番距離が近かったのはアイツが初めてじゃなかったかしら?
「う〜ん...どうなんだろ...」
きっと、これ以上にいい人なんていないと思う。でも、私の悪い癖として好きな相手ほど素直になれないのがあるから...
「素直にならなきゃ...」
考え事をしながら歩いていると、何故か哲の寝ているベッドの前にいた。
またドキドキする。
入りたい。でも...流石に嫌がられそう。
もう一つのベッドが運び込まれている部屋に入る前に、哲に声をかける。
「お休み...ダーリン」
もしかしたら、私なりの救難信号だったのかもしれない。
「藍、寝るよー?」
「はーい」
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...言っちゃうと俺、起きてるんだけどな。