廃莢、再装填
先に言っておきます
題名はわざとです!
あとは何か欲しい情報とかがあれば感想とかでいただければ返信しますのでよろしくです
哲がボロボロになって緋色に寄りかかりながら足を進め、緋色はひっきりなしに「大丈夫?」と聞いてくる。
心配性め、と思いながら何回か聞かれた後に大丈夫だと返す。
「大丈夫ならそんなことになってないでしょ」
「ははは・・・」
いや面目次第もないんだが。何も言い返せない。
緋色はなんだか少し不機嫌だ。
さて、校門をくぐったはいいのだが、人がとにかく多い。
昇降口までずっと人混みばかりで歩けるスペースはなさそうだ。
「どうしてこんなに人が・・・」
______喧嘩だって?
______傷害事件として処理されるとか。
______あれやじろべぇとか呼ばれてた子じゃないの?
・・・
なるほど、何があったのかはなんとなく広まってるわけだ。
誰だ広めたのは。後で3枚におろしてやる。
「...通るぞ!」
人混みはすさまじいものだ。
校門前にこのアカデミーの大体の生徒が集まっている分、ボロボロの俺らじゃ押し通す気にもなれない。
その時だった。
「緋色ー!」
声のした方に視線を向けると、一人の女子が駆け寄ってくる。
茶色がかった長い後ろ髪が風に踊り、満面の笑みで駆け寄ってくる。
さて、そこまではいいのだがどうにも速度を緩める気配が見られない。
「...ッ!?おいおいおいおい待て待て待て待て!!」
それはそのままの勢いで俺らを人混みごと5mほど吹っ飛ばし、俺と緋色の顔を上から見下ろしてきた。
ああ、首が痛い。さっき吹っ飛ばされた衝撃で痛めたかもしれない。背中を押されたのに背中は何ともないらしい。
「よかったぁ〜っ!大丈夫?無事!?」
「いやどこ見て走ってきてんだ!こっちはけが人なんだぞ!」
「緋色、その足大丈夫?だいぶ無理したでしょ」
「...」
俺は少し呆気にとられた。話を聞いているのか?こいつは。
少しむかついたがそれはそれとして今のやり取りは少し胸に刺さるものがある。
緋色が無理をしたのは俺が変に置いていったからだ。
「ご、ごめんなさい・・・」
「んなっ...いきなり何よあんた!謝ることないでしょ!?あんただってボロボロじゃない!」
思わず口を突いて出てしまった。
怒っているわけではないわよ、と彼女は言った。
俺はしっかり両の足で立ち、頭を下げ、心から謝った。
誰かを守るために戦っているのに、その過程で他人に無茶をさせた。
その事実は俺が怒られるべき要素だと、そう思った。
「俺が緋色に無茶をさせました。」
「…」
「っ...!な、見てるのよ...」
お前も敵か、と言わんばかりに緋色の身内のその視線が野次馬たちを射抜いた。
その瞬間、背中に冷たいものが走った。
何か本能的な恐怖。逃げ出さなければと感じるほどの圧倒的な恐怖だ。
「...君の、名前は?」
俺がそう聞くと、にらみつけたままの視線が少し穏やかになった。
緋色の身内は名前なんて聞いてどうするのよ。と小さくいったあと、こう続けた。
「そういうのはあなたから名乗るものじゃないの?
それに、初対面の相手にお前呼ばわりは流石に失礼だと思うわよ?」
優しい声音で諭すような口調に、少し驚いていた。
驚いていたのは哲ではない。
誰よりも緋色が驚いていた。
「悪かった・・・俺は轍 哲。で君は?」
緋色の身内の顔が今度は少し自慢げになった。
めんどくさいが可愛げはあるぞ、この子。
そこで彼女は「はぁー・・・」と大きくため息をついた。
「テツテツ...?」
緋色が目を輝かせながら俺と彼女を目線で往復している。
「どうかした?」
「あ、なんでもないよ!続けて!」
目線を正面に向けると、名前も聞いていない彼女は少し不機嫌になっていた。
「何を緋色と喋ってるの?私に聞いたんじゃなくて?
私の名前は赤兎馬 藍よ。藍でいいわ!」
「緋色と同じ苗字か」
よかった。身内ではないとかいう最悪な落ちではなかった。
じゃあ似ていないのは俺の気のせいか?
「・・・どういう意図で“同じ苗字だ”とか言ってるのかわからないけど、私と緋色は姉妹よ。」
凄く失礼なことを聞いてしまったかもしれない。
またあの冷たいものが背中を走った。
・・・初対面の相手に名乗るとか気付けば初めてかもしれない。
そうか。緋色を相手にしても俺は自己紹介してない。
緋色が勝手に名簿を見て俺の名前を呼んだのが最初だったはずだ。俺も俺だな。
またよそ見をしていると、藍がずいっっと距離を詰めてきて、息のかかるような距離でにらみつけてきた。
俺だって男子だ。美形の女子にここまで近づかれて平常心でいられるほど肝は据わっていない。
「...痛い。足を踏むな」
「言っとくけど私は重くないわよ!体重はちゃんと管理してるんだから・・・!」
藍はさっき俺がしたように俺を観察しようとしているらしい。
「なんっっにもわからない・・・」
負けず嫌いなのか?
俺が顔を引かないのに応じて、藍もまた引こうとしない。
「俺の顔に何かついてるかな・・・!?」
「あんたこそどうして引かないのかしら・・・!?」
緋色はそれをニヤニヤしながら見ているだけだ。
クソッ、俺は結構きついんだぞこれ・・・!
俺の靴を踏めるくらいの距離に女子がいるんだからな・・・!
「アンタやっぱりちょっと失礼なんじゃないの!?」
「そんなこと言われても!」
先に靴を踏むくらい近づいたのはそっちだろ!?
顔を赤くしながらにらみつけてくる美少女には耐性が足りていない。このままだと俺にはどうにもできない・・・!
身長差のせいで下からにらまれる形になるのだが、どうにもやっぱり距離が近すぎるんだよ!
足を踏まれてるせいで逃げることもできないし・・・!
「ち・・・近くないか・・・!」
緋色の顔が豆鉄砲を撃たれた鳩のようになった。
少しポカーンとしたのち、顔を赤くしながら「知らないわよ、そんなの!」と肩を揺さぶってきた。
「...そうだ緋色、荷物ってどこに...」
足を踏まれたまま距離を取ろうと上半身をのけぞらせている俺がよほどおかしいんだろう。
笑いをこらえられてない緋色が指さしながらこう言った。
「あそこのトラックだよ?」
指をさした方にあったトラックはもう走り出していた。
「おいおいおいおい...!」
剣武を使ってまで追いつこうとした俺を緋色が止めた。
そして踏まれたままの足を忘れていたため、そのまま転んだ。
「行き先は言ってあるから問題ないよ!あ、テツテツのところね?」
それって、どういう...?
何か知っているかもしれないという動物的な勘で首は藍の方を向いていった。
転んだままの俺を上から見下して、藍はこう言い放った。
「そういうことだけど?」
「状況説明もなしに“そういうこと”は理解が追い付かないんだが?」
「あんたとアタシと緋色、一つ屋根の下。」
「...」
開いた口が塞がらない。
話の進み方が急すぎる。
俺の家がダメになったのはさっきの戦闘でだ。時間にして1時間無いくらい。
で、どうしてここまでの事態になってる?
「あんたの親から話はもらってたわ。
あんたの家がダメになったら受け入れられないか?って」
そんなことがあるか?
どうやったって変だ。うちの親は何回ごろつきに荒らされても移転しなかった頑固だぞ?
まさか襲撃を仕組んだ誰かとつながってるとか・・・?
「うちの親はどうなってる?病院に運ばれたのか?」
「ノーコメント。」
「身内にも伝えられない状態、か?」
「・・・」
緊張が極度に高まる。
さっきまで騒がしかった校舎内の野次馬も完全に静まっている。
「そんなはずないだろう!?うちの親がそんなんで!・・・そんなんで・・・っ!」
そこまで言ってはっとした。
誰に怒ってるんだ?
自分が暫定で犯人の仲間だと決めつけた女の子に?
「あなたの親御さん、何かあったの?」
そこで緋色が首を横に振った。
なんとなくその意味を察した藍は、口元を押えて「ごめんなさい・・・」と弱弱しく言った。
謝るなよ。まるで俺が・・・俺のせいでこんな空気になったみたいじゃないか。
哲は不敵な笑みと自信を顔に満面にたたえてこう言い放った。
「うちの親はそんなんじゃ死なないさ。普通にひょこっとどっかから戻ってくる。」
「・・・そっか!それなら大丈夫ね!」
「結構ころっと物を信じるタイプなんだな?」
「だって、君がそこまで信じてるなら大丈夫でしょ?」
藍はうちの緋色といるんだし、と付け加えた。
緋色が後ろで大きくうなずいている。
先生たちが昇降口から何か怒鳴っている。
俺たち3人は、先生たちの方に向かった。
「・・・あんまり怒られないといいなぁ。」
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ヒィィィィィィィィィィィイイイイ・・・・・・
なにかの楽器とも違う。
電子音というにも少し違和感がある。
電気自動車が動く時のような音を発しながら、“それ”は帰還した。
「どうだい?“ファイアフライ”の調子は?」
「うん、いい感じだ。でもまだ操縦系の感度を上げてほしいな。」
体の上から装着する人間用の増加装甲のようなもの...“機動装甲”をまとった彼はそう言った。
しかし、あの機体の感度はもうすでに運用目的を鑑みれば敏感すぎるものだ。
狙撃用プロトタイプアーマー。
彼の狙撃用の機体はもはや近接戦闘用の機体にすら匹敵する感度になっている。
呼吸ひとつのずれでもあの機体は拾ってしまうだろう。
「それ以上の感度は狙撃に影響が出ますよ?アシストを利かせればある程度の動きはカバーできます。」
「・・・なら、テストしよう。アシストONとOFFの命中精度をね。」
「正気ですか?」
あの機体のアシストはこれまでの他の試作機の機動や様々なデータをもとに組まれている。
並の人間では、いや、人間である限りあの命中精度を上回ることはできない。
私は自慢げにうなずいた。絶対に勝てる勝負のはずだった。
___認めよう。私は敗北したのだ。
アシストが命中させられなかった偏差射撃を彼はあてて見せた。
「ははっ、これで文句はないだろ?操作感度を上げてくれ。」
満面の笑みを浮かべて勝ち誇る青年。
彼はトリスタンと呼ばれている。
トリスタン・フェイルノート。
この新兵器、“ファイアフライ”とそれに類似する機体のテストパイロットで・・・唯一の生き残りだ。