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信管、作動

こんにちはー

更新ペースは不定期!

ゆっくり更新していくのでそれでよければご愛読いただけると幸いです!


激しい殴打音とその衝撃が体中を揺さぶる。

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

笑い声が聞こえてくる。

俺が痛めつけられているのが愉快なんだろう。

ーーー殺してやる。

いつになるかわからない。

もしかしたらその前に殺されるかもしれない。

ーーーそうなったら死んでも死にきれないな。

ようやく終わった。

どうやら死なずに済んだみたいだ。


「ッしゃ帰るかぁ!」


ぼろ雑巾のようになった俺を放っておいて帰る支度をする集団。

そうだ、銃が欲しい。

俺にも人を殺せるだけの力を。


ーーー拝啓、未来の俺へ。


罪を背負う覚悟、できてますか?

_____________

「行ってくるよ」


「行ってらっしゃい!」


歩道をぞろぞろと歩いていく集団。

まだ春なのにもかかわらず、海の上で熱気を遮るものもなければ日光は直接注ぐので体感ではもう夏のようだ。

その集団をぼんやり眺めながら真新しい制服姿で歩く影が一人。

嫌そうな顔を隠しもしない。この時代に制服指定とか時代遅れもいいとこだろと顔に出してはばからない。

しかし、髭などはしっかり手入れしているらしく、無精髭のようなものは見受けられず、身なりを整えてきているのは誰が見てもわかる。

腰に下げたホルスター、そして白いすべり止め付きの昨日買った手袋。新調したのだ。

ビル群の間を吹き抜けるジェット気流で髪や制服がバタバタと暴れる中、一人青年はつぶやいた。


「帰りてぇ・・・」


ここは人工島。

誰の手にもわたることがなく、誰のものでもある人工島だ。

川が流れ、山があり、自然があり、動物が生息しているのは当たり前。向こうには電車の駅もあるし、道路も通っている。

俺は行ったことがないが、確か、地下にもその類の施設が整備されていたはずだ。

水流を利用した水力発電、地下の海底火山を利用した地熱発電、海上の人工島であるという地の利を生かした風力発電、さらに原子量発電などの大規模なものまで大体の技術を詰め込んで先進技術を試験する都市、それがこの人工島の用途だ。

それらの施設は地下に収容され一般人が見ることは少ないが、一部生活区画からでも見学できる区間があったりする。

自分たちの過ごしているのはその上。

海面から少し高めに設定された地面の上に暮らしている。


港などはもちろん海面と同じ高さなのだが、そこから続く地面は一段高くなっているのだ。


「・・・暑い」


俺には優しい家族がいる。さっき見送ってくれていた人はその一人だ。

両親は料理屋を営んでいるが、たまにいる乱暴な客が騒ぎを起こす事があって大変だったのだ。

事実、俺も被害を受けていた。


小さな頃から“力”の理不尽さを知っていた俺は子供でも人を殺せる武器を使った。

それが両腰に下げられたこの拳銃、「HG132-20」だ。

名前の由来は13.2mm口径、銃身長20口径分ということから来ているらしい。製作者はそう言っていた。


両手に一丁ずつ、合計12発もある弾丸は中に炸薬が入っていて、内側で炸裂するため死ぬほど痛い。

まあ、自分に撃ったことはないからわからないんだが。

どうやら供給量が多くなく、先行試作型が俺にわたってきたらしい・・・そのまま、無駄撃ちできないということだ。

しかも鉄板などを仕込まれていると貫通できない。本当の本当に一般人に撃つことを前提として作られた拳銃なのだ。


しばらく歩くと学校に着く。家からはそんなに遠くない。

校門を過ぎたら学校なのだ。


「よぉ、ヤジロベエ。今日もそのおもちゃ持ってきたのか?」


古い日本のおもちゃの名前。俺のあだ名だ。

両手に銃を持っているからと安直だが、銃というものをなめ腐っている。

彼らは自分たちの持っている県のほうが強いと信じて疑わないのだ。

ーーー人を殺傷できるのに変わりはないのに。


「...なんだよ、雑魚どもが...失せな、目障りだ」


「んだとゴルァテメェ!!こっちは5人いんだぞ!!

先輩だって呼んだんだ...今日は無視させねぇぞ」


各々武器を握った5人組が襲いかかってくる...が、遅い。


剣武ダンス多重加速スクランブルブースト


剣武...人の中に眠る未知のエネルギーである『刀気』の助けを借りて発動する接近戦における切り札。世界中から人が集まるこの都市が悪化する治安に対して対抗するために開発された世界最強の暴力。


近接武器の使い手なら自然と固有の物である『固有剣武ブレイドダンス』を持っているのだが、俺は生憎この拳銃しか使ってこなかったために“固有のもの”は持っていない。

が、俺には基本の剣武だけで十分だ。

たとえ固有のものを相手にしても俺のほうが強い。

“力”の使い方を知っているんだからな・・・!

ギュっと地面を踏みしめる音が聞こえる。靴底が地面をつかみ、足が地面を蹴るエネルギーを余すことなく伝えきる。

ドロリと濃い粘液のような加速度に押し戻されそうになりながら急所を押えて撃ち抜いていく。


「お前らに割く時間は無い。さっさとママ呼んでおうちでおねんねしてな」


小指を撃ち抜いたやつはもうあの手で武器を握ることはできないだろう。

太ももを撃ったやつは普通に歩けないし、もう誰も傷つけられない。

ーーー俺が欲しかった力。誰かを守れる力。

この感覚だ。誰かを助けたことよりしっかり感じられるこの感覚。

...さっさと教室に行こう。あっちの方が空気がいくらかマシだ。


「フゥ...」


まだ熱がある銃を腰に下げ、教室に向かった。

______________________________________

クラスのドアを開ける。

世界中の技術が入ってくるだけあってドアの立てかけはすこぶるいい。

強く開けすぎて大きな音がしてびっくりしてしまうくらいだ


「...ヤジロベエ」


クラスの誰かが呟いた。俺がクラスに入るといつもこうだ。なんだか変な雰囲気になって、そしてそのあといつも静かになる。

何人か笑ってるやつもいる。多分あいつらが何かしら吹き込んだんだろう。

一人だけ、例外もいるけどな。


「テツテツ!また撃ったの!?」


「ああ、5人だけ」


「“5人だけ”じゃないの!撃っちゃダメって言ったでしょ!?」


赤兎馬せきとば 緋色ひいろ

クラスではお人好しで通っている女子で、本当はうちの制服は女子は男子の色と逆のパターンなのだが、少しズルをしたらしく、俺ら男子と同じカラーパターンの制服に身を包んでいる。

長い茶髪は毛先に行くほど赤さを増し、先端はほぼ赤色の特徴的な髪色をしている。

おせっかい焼きで非常にめんどくさい相手の一人だ。

どうして俺にぐいぐい来るのかわからない。ほかのクラスメイトにはここまで寄らないのだ。


「いいだろ別に...向こうから始めたんだ」


「それじゃ良くないんだってば...何度も言ってるでしょこのわからずや!」


...この女子はいちいち小言がうるさい。

撃たれたら痛いのも暴力がダメなのもわかってる。

でもやられっぱなしではいたくない。それを咎められるなんて理不尽だ。どうして先に手を出した方にはお咎めなしなんだ?                        


「止めなさい。よくないよ、それ」


と鋭い眼光で釘を刺され、怒られた。

なんなんだコイツは。


哲はこの話をされるたびに少し不機嫌になる。

ーーー何もしなきゃ殴られないとでも思ってるんだろうか?


それはそれとして守らなければいけない。

汚してはいけないとさえ思う。自分にはもうないものがゆえに。

ーーーそれなら余計に朝の奴らみたいなのに絡まれたら大変だしな・・・

距離を縮めてしまったら緋色が何をされるかわからない。

それだけは確かだ。


「ほら授業始めるぞー!外でろー!」


いつでも元気な男性教師のバカでかい声で教室を追い出された俺らは、いつも通り護身用の戦闘訓練を開始した。

授業の進みはあまり早くない。

主に俺だがその他の生徒も厄介なのがいるからな・・・


廊下を歩き、靴を履き替え、昇降口からグラウンドに向かう。

手は出すな、手は出すな、手は出すな。

これから起こる事態を予測して自分を落ち着ける暗示・・・のようなものをかけておく。

まだ春だというのに、日差しは肌を焼くほど強かった。

______________________________________

「テツテツ!ペア組むよ!」


緋色が薄い胸を張って俺の前に立ちふさがる。

避けようと横に動いてもついてくるし進路をふさいでくる。

俺は顔ではなく揺れる髪を見ながらどうしたらいいか、と考える。

ここまでいつもの流れだ。

でも断ってもそこから動かないのまでいつもの流れだから困る。


「はぁ?...なんで俺と組もうとするんだ?

俺と関わっていてもろくな事にならないのはわかってるんだからさっさと別の奴と組めばいいのに。」


「いいじゃない、あなたどうせ相手いないでしょ?」


緋色がきょとんとした顔で普通のことのように返してきた。

優しいのか優しくないのかわからない棘のある言葉を受け取り、哲はダメージを受けながら返した。


「いないけどさ・・・」


哲は応じない。

めんどくさいという気持ちを隠しもせず堂々と嫌な顔をする。

この意地の張り合いは緋色が吹っ切れて哲の手をつかんだ時点で勝敗は決まった。


「来 る の!」


顔を赤くしてわがままな子供のように俺の手を引く。

俺の腕を握る手が小さく、細くて怖かった。

本当に近づけちゃいけない。こいつを傷つけることになる。


「待て待て待て待て!」


「...どうしたの?」


必死に拒む俺をまた睨み付ける緋色。

こういう時の緋色は緋色じゃないみたいに何か暴力めいた圧がある。


「どうしてそんなに俺を誘うんだよ!変な噂とか立てられたら嫌だろ!?」


緋色はそこでようやく周りを見た。

始めて気が付いたとでもいうかのように口元に手を当て「あー・・・」と小さく漏らした。

何人かはニヤついて遠巻きに眺めている。

不機嫌な奴もいる。このまま騒ぎになるとめんどくさい。

俺のガラスなメンタルが脈を打ってひび割れそうになる。

心臓が痛い。絶対この後何か起こる。


「無視してるから!変に意地はって!」


授業が止まっちまっただろ・・・

俺もまた睨み返し、その場にいる生徒も教師もシーンと静まり返った。

むきになって緋色は言う。これだから女子は面倒臭い。


「危ないっ!!」


何かが飛来する。金属光沢。

周りで見ていたほかのクラスメイトが声を出すより早く体が反応する。


「ーーーえっ...?」


冷静なふうになって謝った緋色に、不穏な影が迫った。一筋。鋭く。

このままでは緋色の顔面にクリーンヒットする。

...ヒュッ!

ありえない速さで反応した哲が緋色と飛来した何かの間に割って入る。


空気の音。

すかさず掴まれている腕を庇い、掴まれていない手...左手で緋色を引き寄せる。

すぐ近くで空を切る音がした後、俺の右頬から血が滴り落ちた。


「調子乗ったな・・・避けきれなかった・・・」


「なんだよ...これでも反応すんのか」


再びヒュヒュっと何かが飛んでくる。

強引に腕を振り解き、右手の銃も使って2丁で迎撃する。

飛んできた物の一つが撃ち落とされ地面に突き刺さる。

カッターナイフのような物。何かが飛んできた方向にいたクラスメイトの一人がこちらを見ている。


「・・・お前だな?」


すさまじい嫌悪と敵意をむき出しにして犯人に向き直る。

瞬間、まるで途中経過だけを省いたかのように犯人の目の前に移動した哲は、加速したままのその右足で前蹴りを繰り出し、踏み倒す。


「チッ...」


あからさまにそう舌打ちをした後、何事も無かったかのようにクラスメイトは立ち上がり前に向き直る。

ーーー受け身をとったか。なんにせよ人間離れした耐久度だな。

俺の嫌いなパターン。やったやつだけが逃げて得をする。

ーーー思い知らせてやる。

察した教師はその瞬間に頭を抱えて止めることすら放棄していた。


パァンッ!


乾いた銃声が一つ響く。

そして次の瞬間、舌打ちをした奴は右頬を押さえてしゃがみ込んだ。

その手には赤い血が滴っている。

追撃をかけようとしたが、緋色が俺の右腕に取り付きまだ熱いであろう銃身を押えてきたので諦めた。


「受け取れ。代金だ」


余程屈辱だったのかそのまま運動場から逃げるように奴は去って、地面は奴が通った場所がそのまま血で汚れていった。


「あーあー...地面が汚れるだろうが」


「何?...え!?」


横で緋色が驚いた表情を見せたーーー怒っているようだった。

俺の手にしがみつき、銃を下ろさせたのだ。無意識だったんだろう。

きっと彼女の手は大変なことになっているに違いない。


「撃っちゃダメって言ったでしょ!!なんで撃ったの…!?」


哲の脳内は無事でよかった、という安堵とどこまで能天気なんだ、という怒りが限界まで膨らんでいた。

もう我慢できないと思ったその瞬間、少しブチっという様な音が頭の中で弾けた。


「お前がノロマだからだろうが!馬鹿なのか!?」


ハッと緋色が目を見開き、ビクッと肩が跳ねる。

そしてそれも一瞬、すぐに俯く。心が痛むが、これをさらに追い詰める。


「ノロマ、ご、ごめんなさーーー」


「この右頬を見ろ。お前が反応できなかったのを庇ってこうなったんだ。

この血を見ろ。お前が反応できなかったのを庇ったからこうなったんだ。

俺が庇わなければどうなってた?

今頃お前の顔には傷がついてただろうな!

わかったか?お前は俺に近付くには()()()()んだ!」


振り払おうとした時、気づいた。

しがみついてきた緋色の腕の力が、更に強くなっていたのだ。


「嫌だ!」


「ハァ?まだわかんーーー」


言葉の真ん中で、珍しい。そう思った。緋色がうつむいて俺の腕にしがみついている。しつこいが俺の言うことはよく聞いていた緋色が、だ。


「心配してくれたんでしょ!?私のこと!」


黙った俺を黙認ととり、必死な声で緋色は続ける。

このままじゃ人を殺すことを容認してしまう、まだ間に合う、と信じて一人の少女は叫ぶ。


「〝顔に、傷がついたらいけない“って思ってくれたのよね!?」


「...」


...思ったんだろうか。混乱した脳が思考を受け入れなかった。

こいつは何を言ってるんだ?殺されかけたんだぞ?ついさっき。

なんでその状況で感謝なんて感情が脳内に浮かぶんだ!?


「ありがとう、あとその傷ごめんね。」


「緋色ちゃん...」


俺が無言なのをどう受け取ったのか、ほかの女子生徒が緋色に声をかけたが緋色は俯いて離れていった。


さっきあのカッター野郎と組んでた女子が心配そうに駆け寄ってきたが、俺が怒っているのに気づいたらしい。

緋色の方に駆け足で向かっていった。


「ごめんね」


全く...なんなんだ、コイツ。

緋色はそれだけ最後に俺に伝えてくれたのだ。


「もういい、悪かったよ」


それを言えなかった俺はきっと意地っ張りだ。


「ちょっと・・・」


医務室につれていこうとした緋色を,

俺は振り払った。

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