瑠璃色の空と赤い海
いつも連載を書いてますが、今回は短編ということで書いてみました。
制作時間はだいたい4時間ですかね。
なんか最初はBL方向に進めようかとかヤンデレルートに進めようとか色々考えて結局普通に恋愛モノになるって言うね。
まあ、とりあえず適当に読んでみてくださいw
瑠璃色の空と赤い海
「雄くん、雄くん!」
あれ、おれ寝てた?確か、数学の授業で、先生はいつも通りつまらん話して、おれは解き終わって、ああ、その時寝たのか。
「聞いてるの?もう数学終わってるよ!ずっと寝てたなんて不真面目なんだから!」
「寝てなんかないよ。考え事してたのさ。」「嘘ばっかり!あんなに下向いちゃって」
「ところで次何?」
「話終わってないよ!もう、日本史ね。どうせまた寝るんでしょ?」
日本史か、日本の歴史を学ぶことは俺たちのルーツを知ることができるから好きだ。どこかわからん土地の歴史や気候なんか勉強するよりなんぼか合理的でいい教科だと俺は思う。
「数学でたっぷり寝たから寝ないよ。さて、加奈ちゃんのとこに行ってくるか。」
「金本先生でしょ?名前呼びなんて馴れ馴れしいんだから」
「いいんだよ、加奈ちゃんがいいって言ってるし」
「そうじゃないでしょ!」
こんな話してないで移動教室しないとな。とりあえず教科書、資料、ファイル持ったし行ってこよっと。
教室移動してきたけどやることは無い。
退屈な教室と鬱屈した俺の心。周りの話し声なんて耳にも入らずに机に突っ伏して微睡んでいると加奈ちゃんが来た。
「皆さんこんにちは〜!日本史始めますよ〜!」
相変わらずの甲だかい声で挨拶してら。しかし、加奈ちゃんの日本史教える腕は他にはいないと言っていいくらい上手いからそんな声がどうとかなんて気にならない。
「じゃあ出席取りますよ!浅山くん」
「あ、はい。」
考え事をしてると返事を忘れそうになってしまうから困ったものだ。しかし出席に今更返事させるなんて小学生の教室かここは。まあ、今日も授業期待してるぜ加奈ちゃん。
教室に流れるどこか気だるげな空気も夏のせいか教室に溢れてるジメジメした重い空気も今の俺には心地よくすら感じさせる。授業は聴くものであり書くものでは無い。書くだけの授業なんて授業じゃない。それなら教師はいらない。そう思う俺だが、加奈ちゃんの教え方はたくさんメモを取りたくなるくらい面白い雑学を話してくれる。受験勉強だけが勉強じゃないってことはそういうことを言うんだろうな。彼女の目の奥から感じる日本史への情熱、よっぽどこの人日本史好きなんだなと最初は侮っていたけど日本史は面白い。今ならあの瞳にも俺は大きく頷ける。それくらい俺も日本史に魅せられた。
授業が終わって加奈ちゃんがまた次の授業の話をしている。
「次は演習の時間です!ワークを忘れないでね、特に浅山くん。」
「え?あ、忘れませんよ」
急に振られたから本気なのかからかいなのか分からず少し焦ってしまった。少し憎らしいところもあるのが可愛さだなと思う。
「浅山くん、ここ教えてよ」
教室に帰ると日本史の時間に分からなかったとこがあるらしい女子が俺のとこに来て質問をしに来た。
「超然主義か。これは民衆に媚ばっか売ってる帝国議会の言うことを聞いて国内を統制する内閣なんてやらずに、自分達は自分達の考えで内閣を組織するんだ。ってやつだ。実に当たり前なことを言ってる。何がわからなかった?」
「それだよ、それが分からなかったの!ありがとう!」
「え?おう。」
感謝をされるのは慣れてない。なにか恩を売ったような気がして申し訳なさを感じるから。しかし、彼女のあの目は本気で勉強に打ち込んでいるという目か、それとも何か他の訳があったのかは分からないが、キラキラと輝く加奈ちゃんが日本史を教えている時のような目をしていた。
俺は当たり障りのないただ過ぎて行く日々を好んだ。惰性に生きたいわけじゃない。変化を嫌う人間特有な当たり前の考えだ。俺はそう思っている。そんな日々もたまにはなにか面白いことがあればな。なんて思ったりもする。そしていつもどおり夜が来て、俺はベットに倒れ込んでそのまま眠る。夢も見ないで。だが今日は、なにか不思議な夢を見た。
「雄、雄。」
誰だ俺の名を呼ぶのは。ああ、陽太か。陽太は俺の小学生以来のダチだ。彼は体つきがよく腕っ節も強く、俺が年上に絡まれた時も助けてくれたっけ。
「なんだよ、陽太。」
返事をしたその瞬間、陽太は俺に抱きつき言った。
「逃げろ。たとえこの先何があっても、あいつからは逃げろ。」
「え?何言って、あいつってだ」
「何も言うなもう。」
そう言って陽太は俺に接吻をした。何も考えられない。何が起きているのかも分からない。ただ、陽太がただいま俺の事を考えて泣いている。分かるのはそれだけだった。
「はっ!」
夢だった。目が覚めたんだ。なんという夢を見てるんだ俺は。夢とはいえなかなか驚くような内容だった。この夢にはなにか意味があるのかと考えてみる。倫理で確かあのふざけた先生は言っていた。倫理を教えるのにふざけてちゃらんぽらんってそれはいいのかと思うが面白ければなんでもいいと思っていた。
ある思想家は夢の中でこそ人は合理的に判断できると言ったらしい。
この夢は、俺に何を訴えたのか。何が合理的だったのか、俺にはわからなかった。
学校に行っても何も変なことは無いし、陽太も変わらず俺に話しかけてきた。俺の考えすぎだろうか。多分そうなんだろう。
だが、その日から俺は奇妙な夢を見るようになった。
「雄くん、花火っていいよね。」
「なんだよ急に、まあ、嫌いではない。」
「ああいうすぐ消えちゃうものって、ずっとあるものと違ってより一層価値があると思うの。だから、私自分の名前大好きなんだ。」
「花火、か。たしかに悪い名前ではない。だけど世の中には佳人薄命なんて言葉もある。消えてしまう有終の美もいいものだが、それは少し寂しくも感じるな。」
「そう?私は人のあるべき姿だと思うの。いつか死ぬ時に向かってその人生を謳歌するって。でも、私は終わりになんてさせないよ。絶対に。」
「何を言って」
急に花火は飛びついてきて俺は床に倒れた。
「は、花火?」
「私は離さないからね。貴方のこと。だから、陽太くんなんかじゃなくて、私を見て。」
「な、何を言って。陽太…?」
目が覚めた。また不思議な夢を見た。まるで漱石の夢十夜を体験してるような気分だ。漱石はきっとこんな気分だったんだろう。だけど、知ってる人間の出る夢十夜なんて聞いたことも無い。でも、俺はある意味この体験を小説なんかにしてみたりして、自伝を書いたりして、なんて、楽しそうだなと思いベッドから起き上がった。
学校に行くと何故か俺の席の前に女子が立っていた。どこかで見たことのあるような顔だなと思い、自分の席だと言って追い払おうと思ったら
「ちょっと、そこは俺の席なんで」
「あ、浅山君ですか?」
「え?はい、そうです。」
「あの、良かった今日、一緒に勉強しませんか?」
「え?あ、いいですけど」
「ほんと?やった!じゃあ駅前のカフェに来てください!」
「ああ、あそこの。って、君ところで」
「私は柊木花火です!一緒のクラスだから知ってくれてるかと思ったけど、やっぱり浅山くんは孤高の存在だもんね。」
「は?何を言って、ちょ、ちょっと!」
行ってしまった。花火、花火、夢の中にでてきた少女と同じ名だ。カフェか、指で数えられるほどしか行ったことは無かったな。まあ、少しは居心地がいいところならいいけどな。
授業も何も無く終わり下校時間が来て普通に家に帰ろうとしていた。その時校門にはあの少女が立っていた。
「あ、浅山くん!」
「ん?ああ、行きますか。」
単純に忘れていた。危なく帰ってしまうところだった。待っててくれたのはありがたいがカップルと間違われるのはあまり好きではないからこの状況はなあ、なんだかな。
しかもなんかさっきからこっちの事見て少し笑ってるよ。なんだろうこの人は。何が言いたいのだろうか。
「着いたよ!実はね、ここのお店私のお家なの。」
「あ、そうなんだ。学校から近いなんていいね。」
たわいもない話をして席につき、何が言い?と聞かれたのでとりあえずコーヒーを頼んで参考書と教科書をカバンから取り出そうとした時
「あ、浅山くん、あのさ、雄くんって呼んでもいい?」
「え?まあいいけど」
「ほんと?じゃあ私のことも花火って呼んでくれる?」
「ああ、いいけど」
なんの話をしているんだおれは。とりあえず早くコーヒーでも飲んで落ち着いて勉強したいものだ。こう人と勉強というのは相手のことを気にしなきゃいけないと自然に思ってしまうから苦手だ。
「ちょっとまっててね!私が入れるから。」
そう言って彼女は裏に入っていった。この時間だから結構人がいるらしい。駅前というのもあって同じ高校の人もいる。変に絡まれないといいと思っていたら彼女は戻ってきた。「おまたせ!私が持っていこうとしたら妹がどうしても持っていきたいっていうからね、持ってきてもらうことにしたの。」
「そう、妹さん店の手伝いしたりするんだね。」
「いつもはしないんだよ?ただ、今日はなんかしたくなったらしいよ。」
今日は、か。どんな風の吹き回しだよ、なんて思うのもなんだな。
「お待たせしました〜」
「あ、ちーありがと!」
「あ、どうも」
「あら、姉ちゃんの彼氏?初めまして、柊木ちひろです。」
「いや、彼氏だなんて。浅山雄です。」
「浅山さん、よろしく」
花火の妹と言ったちひろちゃんは、女の子なのか一瞬わからなかった。そのくらい彼女は中性的で、髪はショート、パーカーの上にエプロンを羽織って家の手伝いと言われて仕方なくやっている様子がとても目に見えて感じる。
妹さんはすぐに裏に帰っていって俺は2人で勉強をしていた。たまに質問してくるくらいで普通に勉強していたから人と一緒という環境を除けばなかなか快適だった。
帰り際、駅まで花火とちひろは送ってくれるらしい。直結の建物だから別に大丈夫だと言ったがついてくるらしい。改札を通る前、ちひろに話があると呼ばれたので2人っきりになった。
「お前って、姉ちゃんの彼氏じゃないの?」
「違うよ、俺はただ今日呼ばれただけ。」
「あ、そう。まあならいいけど、また遊んでやってくれよ」
「遊んではないさ、まあいいけど。」
「姉ちゃんは、小中の時あまり友達が居なくて男友達なんてましていなかった。仲良くしてやってくれよ」
「ああ、もちろんだよ」
「だがこれだけは忠告しとく」
そう言ってちひろは俺の胸ぐらをつかみ自分の方にぐっと近づけて耳元で囁いた。
「姉ちゃんがなんか危ねぇ目に遭ったらお前のせいだからな。だけどこれだけは覚えておけ。お前が姉ちゃんのことで困ったら俺が守ってやる。おれはお前と姉ちゃんどっちも応援してるぞ」
そう言って勢いよく手を離した。あんまり勢いが強いので後ろにひっくりかえりそうになった。ちひろはそれだけ言い残して花火の元に帰って行った。
「あ、雄くんバイバーイ!」
花火は大きな声で僕の名を呼んで手を振った。ちひろは花火の後ろで少し振り返りながら手を振っていた。
俺はあまり慣れない微笑みで手を振って改札を去った。
家に帰ると花火から感謝のLINEが届いていた。
「今日はありがとう!また色々と聞きたいこともあるから、週末遊ばない?よかったらお返事待ってるよ!」
週末か、遊ぶなんて俺の今までにはなかなか無い響きだったな。たまにはいいだろう。そう思って返信をした。
そうして俺は月2回くらいのペースで週末花火と遊んだ。たまに家に行ったりしてカフェではなく彼女自身の部屋で教えたこともあった。何かあるのかなんてくだらない期待はせずに家庭教師のような気持ちで家に行った。
5ヶ月くらいたった時、花火にまた家に呼び出されたと思い行ってみたら今日は何かオシャレをしているようだった。化粧をしたりオシャレをしている花火はとても綺麗だった。
俺はその日、花火の昔の話、勉強の話、クラスでの話など沢山話をした。そして帰り際
「実は、今日呼び出したのはどうしても言いたいことがあったからなの。」
「なに?どんな話?そんなに改まって」
「今更だけどさ、雄くんと私、沢山お話したり勉強したりして、最初はクラスでちょっとからかわれたりして会う機会少なくしてたんだけど、どんどん私雄くんのこと気になっちゃって、好きになっちゃった。ねえ、私のことどう思ってる?良かったらなんだけど、お付き合いとか、どうですか?」
完全に思考は停止した。状況すらも理解できなかった。おれが?花火と?確かに花火は良いやつだし一緒にいて楽しいが、俺は彼女なんて、でも、ここで踏み切るのも。
「わかった。付き合おう。」
「本当?ありがとう!とっても嬉しい!これからよろしくね!」
そう言って花火は抱きついてきた。
「おう、よろしく。」
これでよかったのかどうかは知らない。ただ、この先のことは予想なんて出来ないことはわかった。
学校でも花火と過ごすことが増えて、日に日に人は関係に気づいていった。それに何か不都合がある訳では無いがどこか気恥しい。
ある日、幼なじみの陽太に話があると呼び出された。
陽太とは小中から仲がよく、高校に入ってからは話すことは無かったが、仲良いことに変わりはない。
生徒のたまり場と呼ばれるホールに行くと陽太はベンチに座っていた。
「あ、雄!久しぶり」
「おう、久しぶり。」
久闊を叙して互いに顔を見合せ近況報告をしていると
「お前、柊木と付き合ったのか?」
「え?まあ、そうだけど。」
陽太はその返事を聞くとなにか焦った様子でこっちを見た。
「お前、まだ何もないよな?」
「は?何を言って」
「よく聞け」
そう言って陽太は俺に抱きついてきた。
「あいつから逃げろ。ここで話す訳にはいかない。いつか教えてやるから、とりあえずこれだけは伝えたい。あいつは危険だ。逃げろ。」
「そんなに言うか、わかったよ、少し変なことがあったら言うから」
「ああ、頼む。それじゃ」
「おう」
そう言って去ろうとしたその時
「雄!」
「ん?」
振り返ると急に陽太は近づいてきて接吻をした。夢で見た時と同じ場所同じ状態だ。あれは予知夢だったのか。フロムの言うことは本当、なんて落ち着いてる場合じゃない。
「おい、急にどうしたんだよ!」
「ごめん、俺実はお前のこと好きだった。でも、俺はお前のものにはなれないから、せめてこれだけでもしたかった。ごめん。」
「いや、いいけどそれくらい。初めてじゃねえし。」
「もう行くわ。わざわざありがとう。」
「お、おう。」
その日以来、陽太のLINEは消えていて、彼と学校で会うことは無かった。
花火と付き合って半年が経った頃、俺はいつもの通り家に呼ばれた。最近はよく彼女の家で遊んだり勉強したりしている。陽太には気をつけろと言われたけど特に変なこともなかったし、普通に楽しい日々だ。
「いらっしゃーい雄くん!待ってたよ」
「お邪魔します。」
いつも通り勉強を教えて、話をして、楽しい時間だった。
でも、今日はカフェの方が忙しそうで、花火は手伝いに呼ばれた。
「ごめんね!ちひろが話したいみたいだからお話してあげて!私は行ってくるね!」
「あ、うん。」
そう言って花火は部屋を出た。1人で部屋にいると色々なことを考えるものだ。こんな幸せな青春と呼べる日々が自分にやってくるなんて夢にも思わなかった。まるで2人だけの世界で遊んで暮らしているようだ。小学生の時に読んだ気がする。アダムとイブは楽園で2人きりで自由に楽しく暮らしていた。だが、2人は蛇の悪いそそのかしにより禁断の果実を食い楽園から追放される。これになんの意味があるんだと思っていたが、きっと楽しい日々には終わりがあるという教訓なんだろうと思っている。じゃあいつか自分の日々にも終わりが来るのかと思うと少し寂しくも感じるが、それでこそ人生。楽あれば苦ありってものだなと思っているとちひろが入ってきた。
「よっ、雄」
「おう、ひさしりだなちひろ」
「会いたかったぞ、元気だったか?」
「もちろんだ、花火から話は聞いてなかったのか?」
「全然、話してないよ?」
「そうなのか?なら、LINE交換してるんだから送ってくれれば」
「姉ちゃんがあんまり話すなって」
「そ、そうなのか。じゃあ、俺が話しかければよかったかな」
「いいよ、そんな気遣い。だって、雄はもう姉ちゃんのだろ?俺が入る隙なんてないよ。」
「そ、そうか。でも、俺はちひろとも仲良くしたい。姉妹とも仲良しがいいしな。だから、これからは花火ともちゃんと話するんだよ。」
「…そうじゃないよ。姉ちゃんと仲が悪い訳じゃないよ。ただ、同じ人に心を取られたんだよ。」
「え?どういうこと?」
「どんだけ鈍感なんだよ、この雄の馬鹿。」
「は?なんだよ急に」
「俺は、お前のこと好きになっちゃったんだよ。お前のこと、姉ちゃんの恋人として見てられなくなっちゃったんだよ。もう、俺の男になって欲しいんだよ。」
「え、それって」
「ここまで言わせんなよ、恥ずかしいんだから。だから、もう耐えられない。ごめん!」
顔をこの上ないくらい赤らめたちひろは俺を押し倒して床に突っ伏した。俺はその瞬間頭を打った。俺は驚きで何も考えられない。ただ、彼女の目にはいっぱいの涙が溜まっていることは理解出来た。彼女の赤い顔はまるで熟れた林檎のようで俺まで顔を赤くしそうになってしまった。
俺は今、海に泳いでいるのか。でも、この海は何故か赤い。真っ赤でまるで血の海か、インクの海か、絵の具なのか、よく分からないがまさに真紅だ。
泳いでいるはずなのに、体はどんどんその海の中に沈んでいく。泳いで岸に進めば進もうとするほど体は沈んでいく。海草に足が取られたのか、その足を引きずり出そうとしても足は取られてしまったのか動かない。もがいて外に出ようとしても出られない。掴むものもなければ地面に足もつかない。やがて抵抗する力もなくなり、どんどん沈んでいく。そして沈んで沈んでついに俺は海の中に完全に沈んだ。
俺、なんでこんなことに。海、海に沈んでいく。母さん、さよなら。俺は何故か今までの事を思い出せないまま死んでいくようだ。
何も出来なかった上先にどっかに逝ってしまう馬鹿息子でごめん、本当。でも、感謝してるよ
(雄?雄!聞いてる?)
懐かしい声、ちひろだっけ、この声は
(雄!聞いてんのか!)
え?聞いてるかって…
「はっ!え、なんだ今の、ちひろ!」
「雄!どうしたんだよ急に気失って」
「いや、頭打ったんだよあの時、いてて」
「あ、ごめん。強く押し倒しちゃって、でも、良かった…!このまま目覚めないのかと思った…」
うう、と言ってちひろは泣き出した。さっきまで目に溜めていた涙は堰を切ったように溢れ出した。俺は思わずちひろを抱きしめた。
もう泣くな、俺がいるんだから。そう言い聞かせるように、落ち着かせるように目を瞑って頭を撫でた。
「雄、俺もうずっとこのままいたい。お前が俺の頭撫でてくれてるなんて、考えられないし、こうやって抱いてくれてるの、すっげえあったかい。また好きになっちゃうじゃん。」
「今は喋るな。その涙を止めろ。お前には涙は似合わん。出会った時は笑わないでつんとしてて、でも今は俺の顔を見て笑うそんな顔が俺は好きだから。だから柄でもない涙はもうやめろ。」
「うん、もう大丈夫。もう泣かない。ありがとう、大好きだよ。雄。」
「良かった。でも、この状況は少しまずいんじゃ」
「なんでだよ、俺ずっとこのままがいい。こうしてずっと一緒にいて雄の顔見て抱き合って、接吻したり、やることしたり、一緒に暮らして生活したり、ずっと笑って暮らしたい。俺の心を奪ったんだお前は。だからお前はその罪を俺の心を埋めることで償えよ、この泥棒。お前のその声で、その顔で、その手で、俺を抱いて俺の心を満たして、俺を壊してくれよ。なあ、姉ちゃんじゃなくて、俺を選んでくれよ。姉ちゃんの妹じゃもう耐えられないんだよ。俺は隅にいるんじゃなくて、お前の隣にいたいんだ。」
「落ち着け、とりあえず今は、落ち着くまでこうしててやる」
ここまで自分のことを思っててくれたのかと思うと何か心の中で揺れるものがある。今の俺の状況を花火に見られたら最悪だ。でも、何故か離れられない。おれもこのままいたいなんて思ってるのか。だけど、離れられない。もういっそこのままちひろと…
「何してるの?2人で抱き合って」
「ね、姉ちゃん…違うんだよ、これは訳があって」
ちひろは勢いよく起き上がって手をバタバタさせながら花火の方に近づいて必死で弁明しようとしている。
「お姉ちゃんの彼氏に手出すことに訳があるの?ふざけないで!2人で何してたの?言ってみなさい?」
「た、ただ喋っててそれで、言い合いになって、俺がカッとして押し倒して、ちょっと反省させようと思ってそれで。」
「そ、そうだよ!俺が怒らせたから悪いんであって、ちひろは」
「雄君は黙ってて!これは姉妹の話。ところで、今の話嘘でしょ?だって、貴方達気づいてなかったかもしれないけど、私貴方が雄君を抱いてたの見てたんだからね。反省が必要だね、ちー。」
「ま、待って、それだけは、うっ!」
スタンガンだ。ちひろにスタンガンを当てて花火は気絶させた。ちひろはばったり倒れてしまった。
「おい、ちひろ!」
「気絶してるだけだよ。ほら、雄くん、話をしようよ。私はもうこんなことしないよ?」
「うるせえよ、姉貴のくせに妹のことも大切に出来ねえのかよ。そんなやつだと俺は思ってなかった。まるで裏切られたようだな俺は。お前なんてもう知らねえよ。妹も大切に出来ねえやつを、俺は幸せにはできない。」
「そんな、やめてよ。そんなこと。ちーが悪いじゃん?今の話は。人の彼氏に手出してさ」
「やりすぎなんだよいくらなんでも。もう話は終わりだ。俺は帰るからな。おい、ちひろ起きろ。大丈夫か?」
「2人揃って、私をひとりにする気?やめてよ、もう1人は嫌なの。ねえ、何とか言ったらどうなの?雄くん!」
「だから、何度もって、え?ちょ、待てって!」
花火は俺に対してもスタンガンを向けてきた。まずい、このまま俺まで気絶しては何をされるか分からない。無我夢中で手からスタンガンを払おうとした。当てようとするのをかわして何とか手から払い、花火を押さえつけて落ち着かせた。
「俺はお前ら2人が仲良くして欲しい、それだけなんだよ。だからお前たちが仲良く出来ないなら俺は、お前とも付き合えない。だから、もう終わりにしよう。じゃあな。今までありがとう。ちひろと仲良くしろよ。」
「待ってよ、そんなの勝手すぎるじゃん。私のことは、私のことはどうも思ってないの?ねえ、私はずっと雄くんと一緒がいいのに。ちひろも他の友達も皆捨ててでも雄くんといたいの。だから、ずっと一緒にいるのよ雄くんはここに。貴方は私のものだから。」
花火の言葉を一通り聞き終えて俺は家から出ようとした。
「出てくの?じゃあ、これだけは言っておくわ。この場を切り抜けたって私は貴方のこと諦めないからね。絶対に。」
後ろもみず俺は家に帰った。その日はどっと疲れた気がしてちひろに一言LINEを送って返信を待ったがいつまでも返ってくることは無かったので寝た。
それからというもの、クラスは同じだったので花火は毎日学校に来てたし年が明けてクラス替えをしてからはクラスが違ったから分からないが、ちひろが俺らと同じ高校に入学して後輩となった。
今はもう前のようなことも無く前のように平凡な日々を送っている。でも、俺は気づいたんだ。こんな暇な平凡な日々こそ幸せだって。
「いやー、生きててよかった!」
これで、良かったんだよな。姉ちゃんの為にも、あの時雄がはっきり言ってくれてよかったんだよな。雄には感謝しないとな。
ありがとう、そして大好き。
これからもずっと一緒だからな。あ、出てきた出てきた。
「よっ!俺の雄!」
これを読んでいるということは、ひと通りこの小説を読み上げたということだと思うので、ネタバレも込で話します。読んでない方は今すぐお戻りください。
なんか書いてるうちに乗ってきたので最後にいくにつれ花火と雄とちひろの感情の絡み合いで読んでてドキドキするように書いたつもりです。たまに変な比喩表現が出てきますが、あまり気にしないでください。作者の好きな小説家のリスペクトの表れです。
個人的にはちひろは結構好みのタイプに似せたので最後に上手くいっちゃうっていうかなり自分勝手な構成なんですけどwまあ、結局まとまったからいいかみたいな感覚ですはいw3人をひきたてたかったので今回はかなり脇役が少ないし、名前のない人物もいますが、想像で読んでください。
とりあえず、ここまで読んでくれてありがとうございました!皆様に幸せがあらんことを願ってます!
とりあえずここまでお疲れ様でした!バイバイ!!