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小早川由香の場合3

「あなたみたいな女の子はたくさんいますのよ。恋愛沙汰で呪う、呪われるってね。自分の行いを省みず、恨みを背負って自分は不運だ、ついてない、それも全部親の責任って嘆きながら生きてる人間もいますわ。でも何パーセントかはあなたみたいに命を賭けたやりとりになって、負ける。負けた人間は必ずどこかで命を落とし、今度は自分が悪霊になる。自分ばかりが悪霊じゃ不公平だって、生きた人間を引き摺りこんでやろうとしますの。

 あなたの先輩の生き霊は本来ならすごく小さい恨みなんですけど、それに荷担してるモノがいる。あなたみたいな女の子に愛する人を奪われ命を絶った女性達が先輩の嘆きに惹かれて集まって大きな塊になってますわ。きっかけは些細でもトントンっと悪意が巨大化する事はありますわ。それでもあなたの理屈を通すならそれもいいでしょう」


「どうすれば……いいんですか!」

 とあたしは身体を起こして、目を開いた。

「キャー!」

 その途端に視界一杯に広がる無数の顔。怒っている。睨んでいる。

 もの凄い形相の顔がいくつもいくつもあたしの肩にくっついて、あたしを睨んでいる。

 あたしをもの凄く恨んでる。

 死ねばいいって笑ってる。

 お前が死ぬまでつきまとってやるって言ってる。


「た、助けて…」 

 薔薇子様からの返事はなく、ただたんたんとピアノの音色が流れる。

「あ、謝ればいいんですか。た、助けてください。謝ります……先輩に謝りますから。ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」

 曲の途中でピアノの音が止んだ。

「あなた、春に心当たりは?」

「え。は、春?」

「そう、春、というワードがあなたに大切だわ」

「え……あ、幼なじみが春樹って名前で……」

「そう、ではしばらくはその方と行動をご一緒したら良いみたい。その方はあなたに良い影響を与えるでしょう」


 それからあたしはすぐに先輩の家に行った。

 ドーナツと花を買って先輩宅に向かうと、先輩はずいぶんと身体が衰弱して寝込んでいた。ベッドの横にはいつも仲がいい同級生の二人がいて、思いきりあたしを睨みつけた。

 あたしは丸いテーブルに花とドーナツの箱を置いてから、絨毯に正座をした。

「先輩、ごめんなさい。そんなに苦しんでるなんて知らなくて。ごめんなさい!」

 あたしは頭を下げて、絨毯に手をついた。 

「何よ、今更! どれだけ夏美が泣いたと思ってるのよ!」

 と先輩の友達が言った。

「すみません……とても簡単に考えてました。男の子なんて他にもいるんだから、先輩がそんなに傷つくことないと思ってました。他の女の子に目が行く彼氏が悪いって思ってました。でもごめんなさい。あたしが無神経でした。友達としても先輩の彼氏と軽々しく映画に行くべきじゃなかったです。本当にごめんなさい」

「……何よ、それ、しおらしい振りしちゃって。夏美、拒食症にまでなっちゃったんだから!」

「ごめんなさい」

 先輩の友達が激怒してあたしにクッションを投げつけた。

「待って……よっちゃん、もういいわよ」

 ベッドから細い声が聞こえてきた。

「謝ってるじゃない。もうそれでいいよ」

「でも夏美!」

「ううん、本当に悪いのは慶君……浮気性で、でも嫌われたくなくて、小早川さんに怒りが向いてしまった私が……みっともなかった」

「夏美先輩、ごめんなさい」

「いいよ。謝ってくれたし。あたしももうあんたの事恨むの止めるし、もっといい人探そうかな」

 と言って夏美先輩は笑った。



 ニャーオと猫が鳴いた。

 ポーンとピアノの音がする。

「ねえ、クロ、人間って困った生き物よねぇ」

 土御門薔薇子は黒猫を抱き寄せてその喉を撫でた。

 黒猫は喉をゴロゴロと鳴らす。

「今回は伊集院の奥様のご紹介だったし、高校生だから料金はお安くしてあげたけれど、十万では安かったわね。あの先輩って方と一緒になって憑いていた諸々の貧乏たらしい霊魂、まとめて粉砕してさしあげましたのよ」

「ニャーオ、薔薇子様、次のお約束のお時間でございます」

 黒猫が薔薇子の腕から飛び降り、床に着地すると同時に黒いタキシードを着た執事へと姿を変えた。

「はいはい、まったく、忙しいったら」

 薔薇子はポーンとピアノを鳴らしてから、

「お入りなさい」

 と言った。


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