小早川由香の場合
三ヶ月待ちだった。それも友達のママが天才占い師、土御門薔薇子様の常連のお客様だから、頼み込んで口を利いてもらいようやく三ヶ月待ちで入れた。
土御門薔薇子様は的中率百パーセントという、驚異の天才占い師だ。
土御門神道という組織を母体にしている霊能者で、その卜いは外れたことがないらしい。
著名人や政治家までが薔薇子様のお告げを聞きに列をなしている、という噂だ。
友達のママに頼み込んで、やっとの思いで薔薇子様に視てみらえるんだから、もう朝からドキドキしっぱなしだった。
その日の学校なんか上の空で、お弁当も食べたかどうか記憶にない。
ただただ携帯電話を握りしめて、午後四時半になるのを待つだけだった。
「こ、小早川さん……」
そわそわと時間ばかり気にしているあたしに声をかけてきたのは、同じクラスの春樹だった。先山春樹は近所に住む幼なじみだ。小さい頃は仲良く遊んだけど、中学に上がった頃から自然に疎遠になっていた。
同じクラスになってもふーんとしか思わない間柄で、特に春樹は勉強は出来るけど何か暗くて趣味もオタクみたいだし。何よりちょっと太めで眼鏡かけてて、全然好みのタイプじゃなかった。
「何?」
「大丈夫?」
「何が」
「何か揉めてるって……聞いたけど」
「はあ? べ、別に……あ、親に余計な事を言ったら許さないからね!」
「うん……」
「あー、約束あったんだぁ。じゃあね」
あたしは椅子から勢いよく立ち上がった。
冗談じゃない。昔は仲良かったけど、今は春樹とは全然カーストが違う。
あんな冴えない君と噂にでもなったら大変。
学校が終わるとダッシュで薔薇子様の卜いの館まで走った。
銀座の一等地のどでかいビルの最上階に卜いの館はあり、あたしはさっきトイレに行ったばかりなのに、またトイレに行きたいような、でも行ってもきっとでないな、と思いながら、エレベーターに乗り込んだ。
ママに口利きしてもらった友達の絵美は一緒についてきたがったけど、薔薇子様の規則に会えるのは依頼人だけというルールがあるそうなので、諦めて「後で報告してよ!」と言いながらイケメンの大学生の彼氏とデートに行ってしまった。
最上階でエレベーターの扉が開くと、そこは素晴らしくファンタジックなロビーだった。
ロココ調の椅子、ソファ、壁に駆けられた絵画。
カーテン、絨毯、黒を基調としたそのインテリアは霊能者というよりは西洋の魔女のようなイメージがした。
受付には女性が座っていた。
黒いロリータファッションで、ドレスヘッドから出た髪の毛は金髪で私を見返すその目はブルーだった。
名前を告げると、そちらの椅子でしばらくお待ちください、と言われたので、ふかふかの椅子に腰を下ろす。
「小早川由香様、どうぞ、こちらへ」
執事のような格好をした年配の男性の声がして、私は顔をあげた。
「は、はい」
「こちらへ」
その人の後をついて歩く。
一番奥の真っ黒な両扉を開き、
「さあ、どうぞ、薔薇子様がお待ちでございます」
あたしが一歩部屋の中に入ると背中でバタンとドアが閉じた。
部屋の中は薄暗かった。
「どうぞ、そちらへお座りになって」
思ったよりも若い声に導かれ、あたしは部屋の奥まで歩いた。
部屋の真ん中に大きなグランドピアノがあり、素晴らしく派手なゴスロリの少女がピアノの前に座っていた。
ピアノの横にソファがあり、あたしはそのソファに座った。
「あの……あたし……」
「しぃっ」
薔薇子様は人差し指を唇に当てて、しいっと言った。
薔薇子様はボブ風な髪型で前髪を綺麗に切り揃えていた。
小さい顔にアイメイクは黒く濃く、お人形のように綺麗な人だった。
瞳はコンタクトレンズなのだろうか、金色の瞳だった。
「まあ、賑やかね、うふふ」
と薔薇子様が笑った。
「え?」
「ご相談事は何かしら?」
薔薇子様はぽーんとピアノのキーを一つ叩いたて、あたしの方を見た。