↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/40

巨大な卵8

 ビュンビュン風を切る音がする。


「だ、大丈夫ですか? フォルカーさん」


 すべての風を正面から受けて、フォルカーうつむきながら必死に耐えていた。

 フェニックスの羽にしがみつきながら。


 今、フォルカーはフェニックスの背に乗っている。いや、正解にはしがみついている。









「フェニックスの背に乗りなよ。ソイツの気が変わらないうちに」


 と言ったのはリュカだった。


 いったいいつ、フェニックスが背に乗る許可を出したのだろうか。

 ただ毛繕いを止めて、ほんの少し頭を上げただけだった。どうやらソレが許可だったらしい。


「残念、時間切れ」


 フェニックスが羽を広げた。


 羽を下げたかと思うと、その一振でふわりと森の木の上まで上昇した。あれほど立派な羽が動いたというのに、地上にいるビビアナ達には一切の風圧はなかった。

 風に押し上げられたかのようなフェニックスの動きに驚きながら、上を見上げる。


「へぇ、おっさんヤルじゃん」


 そういえばすぐ側にいたフォルカーがいない。

 フェニックスの尾羽に人影が見えるのは気のせいか。いや、あれはもしかしなくても……。


「フォルカーさん!

 ああ、どうしよう。あのままじゃ落ちちゃうよね? お布団とか持って来たらいいかしら? ポフッと受け止めて」


「布団じゃ受け止められないんじゃない? おっさんデカいし」


「なら、魔羊を群れで呼んで、モフッと受け止めて……ダメだわ。私の契約した魔羊は小型種しかいないもの」


「ビビアナ、落ち着いて」



 と、ビビアナが分かりやすくオロオロしているうちに、フォルカーは自力でフェニックスの背まで這い上がっていた。



 優雅に空を飛ぶフェニックスは、人間を乗せていることなんて忘れているかのように、クルリと回転したり高度を急上昇したり、自由気ままに飛んでいる。

 その度にフォルカーが落ちていないか、ちゃんとくっついているか、ビビアナは心配でたまらない。


 当のビビアナは、リュカと一緒にケルベロスに乗っていた。

 翼もないのに空を飛ぶなんて、魔物は不思議な生物だ。

 しかも自由気ままなフェニックスと違って、ケルベロスの乗り心地はとても快適。揺れも最小限だし、何故か風も当たらない。


(タンクの背に乗って走ると髪がぐちゃぐちゃになっちゃうけど、これはいいわ。ただ何て言うか……)


 なかなかのスピードで空を飛んでいるのに、無風。浮遊感も重力加速度も感じない。


(高貴な乗り物みたい)


 優雅な貴族の乗り物のようで、物足りなさを感じる。


「ビビアナ。下を見て」


 眼下に森が広がっていてたのも、ほんの一時。すぐにビビアナがたまに行く町が見えて、人々が一斉に空を見上げていた。


「うわ、注目の的だね……。あ、あれってフォルカーさんのお連れの二人じゃない?」


 ローブの二人組なんて怪しいシルエットは彼らしかいない。

 必死に走っているのは、フェニックスを追いかけようとしているのだろう。一瞬で見えなくなったけれど。



 いくつかの街を通り、その度にフェニックスはわざわざ高度を落として、街の人々の注目を集めている。




 どれだけ飛んでいただろうか。



 ビビアナがこっそり欠伸を噛み殺した頃。

 見えてきた景色に、思わず目を疑った。


「国旗が……外国の国旗だわ。紫色の鷲って、どこの国だったかしら」


「シェルム国だ」


 答えたのはフォルカーだ。

 その表情はあまり良くない。


 フォルカー達の家族を人質に取って、フェニックスを使役しようとした人がいる国。


 高度を落としたフェニックスの姿に、地上の人々が騒いでいる。フェニックスは真っ直ぐ一番大きい建物に向かった。


 まさしく城と言う建物から、わらわらと武装した兵士が出て来る。


 フェニックスは美しい羽の炎をいっそう赤く燃やした。


『王を呼べ』


 力強い、女性の声だ。

 それがフェニックスから発せられたと気付いた時には、フェニックスの炎はより大きくなっていた。


「ふふ、ビビアナ良く見てて。これから一番いい場面だから」


「何がどうなってるのやら……」


「ほら、国王が出て来た。うわわ、若いけど悪い顔してるなぁ。ぷぷっ、あのマント、趣味悪っ」


 フェニックスの呼びかけに出て来た、いかにも国王風の男を見て、リュカが笑う。


「おお! 我がフェニックスよ……」


 王が言葉を発した瞬間。

 フェニックスの炎が彼の身体を覆った。

 それは幻術の類いではない。すべてを焼きつくすと言われる炎の最上位種、フェニックスの炎だ。


 金色にも似た炎が消えた時、そこに王の姿はなかった。














「シェルムの王族がフェニックスに呪われたんですって」


 優雅にティーカップを置いて、ミルクジャムを手に取る。

 豊かな赤い髪を綺麗に編み込んだ女性が、艶やかな唇をニヤリと持ち上げた。


「クッキーもどうぞ、アンジェラ様」


 アンジェラは「あら、ありがとう」とビビアナ手作りの素朴なクッキーを一枚パクりと口に入れた。

 高貴な身分とはいえ、たまご屋に入ればごく普通のお嬢様だ。後ろに控えている護衛も、ここでは「毒味を」とは言わない。


「呪い、ですか」


「そう。国王の身体がブワッと燃えて、チリ一つ残らずに消えたんですって! 他の王族も悪夢にうなされて、フェニックスの呪いだぁ~って国中大騒ぎらしいわ」


「悪夢の呪いだなんて、フェニックスにそんな力があったのかしら」


「呪いでも、そうじゃなくても、いい気味よ。

 シェルムの王子と会ったことがあるけど、本っ当イヤな奴だったんだから! 思いっきり足を踏んでやったわ」


 最近ますます綺麗になったと評判の彼女は、子供のようにイーッと顔をしかめた。

 今、彼女の使い魔であるキュウビのエリアナは姿を消している。アンジェラのこんな姿を、マナーに厳しいエリアナに見られでもしたら、すぐ様、幻術の炎で警告されるところだ。フェニックスと同じ炎の使い手でも、エリアナの炎は幻術で、実際に丸焼きになることはないけれど。


「本当にムカつくのよ! こっちは社交辞令で必死にアイツの相手をしてるっていうのに、『健気な子猫ちゃん。後で僕の部屋においで。今夜の相手は君に決めたよ』ですって!!」


 社交の場で、微笑みながら当たり障りのない挨拶をかわす。それをアンジェラが必死に好きアピールをしてるように捉えたなら……残念な人だ。


「だから私、言ってやったの」


 アンジェラは艶やかに微笑みながら。


「あなたなんか、タイプじゃないわって」


「ぷっ」


 そういえば。

 フェニックスが炎に包まれた国王に向かって言った言葉があった。


『我の好みではない』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。