タイムスリップしたら元カレになっていた件(なろうラジオ大賞)
目覚めると、私は男性になっていた。何を言っているのかわからないと思うし、自分自身でも何を言っているか意味がわからない。しかし、本当に、気がついたら、私は男性で、しかもよく知った男、私をフッた男になっていた。
私は1週間前、彼にフラれた。さらに、悪いことは重なり、仕事でも失敗が続き、自暴自棄になっていた。
フラれて1週間が経った金曜日。仕事が終わらず、終電ギリギリに駅に駆け込んだ。駅は、デートや飲み会帰りの人で賑わっていた。そんな人達をみて、私はとても悲しくなって、つい魔が差してホームから飛び降りてしまった…気がする。
そして、気がつくと病院のベッドの上で、男になっていて、私をフッた男の姿をしていた。さらに、「現在」の元彼ではなく、私と出会った直後の彼…だった。ふと、カレンダーを見ると、“2009年”の表示。そう、私は、彼と出会った頃にタイムスリップした上に、彼と入れ替わっている。
そう言えば、聞いたことがあった。私と出会う1ヶ月前に大学のサッカーサークルで顔面にサッカーボールがあたって、少し入院した…と。検査の結果異常はなく、すぐに退院したが、しばらくサークルを休むことにして、図書館に通っていた頃、私と出会ったんだ。
なぜこんなことになったのかわからない。私はいつまで「彼として」いられるのかわからない。しかも、「今の私」がどうなっているのかもわからない。けれど、このまま「彼として」しばらく生活すれば、私は、私に出会う。
うまく生活することができれば、10年後にフラレない未来を作れるかもしれない。そう思った。
それから、私は3ヶ月ほど「彼」として生きた。サッカーサークルに復帰してまた、顔面にボールが当たった。私は、サッカーなんて未経験だったから、当たり前といえば当たり前だ。ボールが当たり目の前が真っ暗になり、目が覚めると病院にいた。「私」の母が涙を浮かべて抱きついてきた。どうやら、私は、自殺をはかったものの、死にきれず3ヶ月間植物状態だったそうだ。精密検査を重ねたが異常はみられず、ほどなくして退院した。
退院直後、母は私に聞いた。
「悠くん、1度もお見舞いに来なかったわね。連絡、しなかったの?」
「え、お母さん、悠って…誰?」
そう、私は未来の自分が傷つかないように、10年前の彼…悠として過ごしている間、自分自身と会わないという選択をしたのだ。