表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集 リヨンの記録

喫茶もふもふ

作者: 紅白

 吾輩はもふもふである。名前はまだない。ただ、とある人間の女から大いに頬ずりされまくっているだけの存在である。

「婦長様のばかやろーっ! もう、このもふもふの癒しがなきゃやっていけないわー」

 この女はここに来るたび、同じような愚痴をこぼしている。つくづく人間は同じことを繰り返すのが好きなようである。一方、我が主は苦笑を浮かべてうなずくだけであった。いつも通りである。

 我が主が言葉を発したのは、店じまいの時間になり、女が帰った後のことだった。

「今日もありがとう」

 吾輩と白君、三毛君は、そろって「×××」と鳴いて返した。

 我らもふもふ属は、魔力を有する聖獣である。その魔力は毛が短いほど強い。最大魔力を持つもふもふは不毛と呼ばれ、人間は非常に重宝しているようである。しかし、優雅さも気品もないあんなつるっぱげのどこに魅力があるのか、理解に苦しむばかりである。

 一方、吾輩や白君、三毛君の長さまで毛が長いと、魔力はないに等しく、「毛布」と呼ばれる。防寒具にしかならぬという揶揄である。

 しかし、我が主人はその揶揄など物ともしなかった。不毛を買いあさり、毛布を処分するのが常であった人間の中で、我が主人だけは吾輩たちを拾い、喫茶店の中で餌を与えてくれた。曰く、かわいかったからつい、と。

 喫茶店に来た客たちは、今まで流通したこともない毛の長さの吾輩たちを見るや、顔をデレデレさせて撫で回した。触らせてなるものかとも思ったが、嬉しそうに火照る主人を見て、撫でさせてやることにした。そして次第に、さきほどの女のような吾輩たち目当ての常連客ができたのである。

 主人は店じまいをすると、奥の居間へと入っていった。珈琲を入れて椅子に座り、今日も楽しかったねと言う。主人は、他者がいないところではよく喋った。

 人前で喋ることを不得手とする我が主人は、どうやら学生時代にも苦労したようである。底辺高校の出身らしく、「馬鹿の門人」との悪口はよく聞いた。しかし、我が主人は腹を立てない。ただ、少し寂しそうな顔をしながら言うだけである。

「不毛も毛布ももふもふのうち。人間だって、一緒よ」

 このような見方をする人間が如何程いるのか、吾輩は知らない。よくいるのかもわからない。しかし、君が疲れたときには、吾輩と吾輩の主人に会いに来てみるのも一興であろう。目印は、大きな看板と小さな入り口――我らが店の看板は「喫茶もふもふ」である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ