7―結末―
真名はスケッチブックを、家の地下室の奥にしまい込んだ。
ダンボールに入れて、封じることにした。
「これで少なくとも、私が生きているうちは誰も手にすることはできない」
願わくば永久に使われることがないよう祈りつつ、地下室を後にした。
祖父に頼んで、ある程度の現金を用意してもらった。
骨董品を買いたいのだと言ったら、すぐに用意してくれた。
今度見せろと言うので、あの箱に入れた筆を見せるつもりだった。
現金を封筒に入れて、真名はあの骨董屋に向かった。
「…しかし、相変わらず客がいないな」
「ここには品物を必要とする方以外は来られないんですよ」
「その営業スマイルと胡散臭い口調は止めろ! お前の本性を知った後だと、尚更気持ち悪いわ」
「酷いですねぇ。―まっ、こっちの方が楽なんだけどな」
そう言って大きな欠伸をする魅弦に、封筒を差し出した。
「ほれ、筆の料金だ」
「あいよ」
魅弦は札束の枚数を数え、口笛を吹いた。
「随分多いな」
「一応注文にそった物を取り寄せたからな。礼はキチンとするさ。…経緯はともかくな」
「良いしつけをされたんだな」
「ほざけ」
言い捨てた後、真名は店内を見回した。
「―で? 何からすればいいんだ?」
「ん?」
「バイトだ、バイト。お前から言い出したんだろうが」
真名が渋い顔で言うと、魅弦は手元の現金の束を見た。
「報酬って、コレだろう?」
「それは筆の礼だ。スケッチブックの礼はバイトをすることだと、お前が言ったんだろう?」
そこで真名は息を吸って、一度止めた。
そして真っ直ぐに魅弦の眼を見て、呼んだ。
「魅弦」
僅かに魅弦の眼が揺らいだ。
「真名…」
互いの名を呼ぶことは、一応信頼関係ができたということ。
そして縁ができたということだ。
「さあ、これで契約は交わした。お前が何か悪行をしようとしたら、遠慮なく止められる立場となったわけだ」
「えっ? もしかしなくても、目的それ?」
「当たり前だろう? お前みたいな危険なヤツと危ない骨董品をほおっておくわけにもいかないからな」
そこまで言って、真名は笑みを浮かべた。
「これからよろしくな。魅弦」
真名の笑顔に一瞬心を奪われかけたが、すぐにいつもの笑みを浮かべる。
「まっ、お手柔らかに頼むよ。真名」
「それはお前次第だな」
暖かな日の光が、店内に差し込む。
二人の笑みは、輝いて見えた。
「それじゃあ早速、お互いを良く知る為に食事にでも行こうか」
「高くて美味くて安全な所で、オゴリなら喜んで。しかし店はいいのか?」
「今日は臨時休業。どうせ客は滅多に来ないし」
「いい加減な店主だ。明日からはビシビシいくぞ」
「あははっ。じゃあ行こうか」
外に出ると、夕日が眩しかった。
けれど―不愉快には感じなくなっていた。
【終わり】