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3―闇の中―

その後、警察や実花の家族といろいろあり、実花の部屋に着いたのはもう夜になっていた。


警察は実花の死を、自殺とした。


目撃者もいて、実花は自ら手摺の向こうへ飛んだとのことだった。


原因もあった。


実花は学校で、イジメにあっていたのだ。


しかもかなり陰湿で、実花がコンクール用にと描いた絵を、絵の具で塗り潰されたり、筆を壊されたことも何度もあったという。


実花の家族は学校に相談したが、犯人が特定できないが為、対処に困っていた。


美術関係で言えば、生徒全員が容疑者とも言えたから。


しかし実花は実行犯を知っていた。


だから…このスケッチブックに描けたのだ。


電話で言っていた通り、実花の机の上には一冊のスケッチブックが置いてあった。


その上に手紙が置いてあった。


宛名は『真名へ』だった。


開けて見ると、手紙が入っていた。


『真名へ


このスケッチブックをあなたへ預けてしまうことを、許してください。


アタシではどうにもできなかった…。


火で焼こうとも、水に濡らしても、破り捨てても、必ず元の形で、アタシの手元へ戻ってきてしまう。


もうアタシにはどうにもできません。


きっと一度でも使用してしまったアタシへの罰なのでしょう。


このスケッチブックに描かれた、アタシと同じ制服の女の子三人は、アタシに嫌がらせをしていた人たちです。


アタシの絵のせいで、自分達の絵が落ちたと言われました。


謝ろうが、無視をしようが、イジメをやめてはくれませんでした。


彼女達はコンクールで賞を取る常連で、しかも実家に権力がある人達で、先生達は何もできずにいました。


真名に相談することもできず、毎日泣いて暮らしていました。


けれどある日、学校へ行きたくなくて、街の中を歩いていると、一軒のお店を見つけました。


今思い返せば、どうやってあそこへ行けたのか分からないぐらい、心が混乱していた時でした。


お店の人に悩んでいることを見透かされ、相談したところ、このスケッチブックを勧められ、買いました。


このスケッチブックに憎い人の死体を描けば、その通りになると言われて…分かっていて、買いました。


死体を描く条件として、赤い色を使うことを言われました。


…見れば分かると思いますが、アタシはひどい絵を描きました。


描き上げた翌日、三人は絵の通りに亡くなりました。


その時から、スケッチブックには亡くなった三人が宿りました。


三人はアタシが描いたとおりの姿で、アタシを見ています。


もう…耐えられません。


処分しようにも、持ち主となったアタシには何にもできない…。


だから真名に預けます。


どうかもう、アタシのような人を増やさない為にも、このスケッチブックを処分してください。


真名は強いから…こんな物を使うことは絶対に無いと言い切れるから、安心して預けられます。


後のことはお願いします。


そして身勝手なアタシのことは、スケッチブックと共に消してください。


それじゃあ…さようなら。

            

実花』


「実花…」


真名は手紙を封筒に入れて、スケッチブックを手に取った。


それはどこにでも売っていそうなスケッチブック。


しかしその中身は、死体の絵でいっぱいだった。


顔をしかめながら、それでも真名はページを捲り、目的の絵を探した。


そして見つけた。


実花と同じ制服を着た三人の女の子達が、全身から血を流して倒れている絵を。


そして刑事から聞いた話を思い出した。


今から十日ほど前、ビルの建設現場で三人の女子高校生が亡くなった。


三人は現場近くを歩いていたところ、上から鉄骨が降ってきて、彼女達の体に当たった。


頭や胸を打った彼女達は血を大量に流しながら、命を落とした。


それは事故として、処理された。


けれどそれより先に、実花はその現場を絵として描いていた。


そしてそのページを捲ると…今日見た実花の姿が、スケッチブックいっぱいに描かれていた。


「…っ!」


思わずスケッチブックを閉じた。


絵を見ずとも、目を閉じればありありと浮かんでくる。


絶望に満ちた実花の顔は半分潰れ、制服は真っ赤に染まっていた。


「実花っ…!」


止まりかけた涙が再び溢れそうになるのを、必死で堪える。


今はまだ、泣けない。


泣く時ではない。


実花のことを思って泣くのは、このスケッチブックを処分してからだ。


真名は唇を噛み締めながら、スケッチブックを胸に抱いた。


「消してやる…! 必ずこの世から消してやるっ!」


憎しみに満ちた声は、主のいない室内に虚しく響いた。



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