全隊~~~~ッ並べッ! 進めェェェェ~~~列!
【アンナ視点】
暑い。暑くてかなわん。
ラヴィも私も、ハァハァと舌を出しながら歩いていく。
しかし見事だな。
いや、異世界人の事だ。
決して隊列を崩さず、誰一人不満を言う事もなく、たまに列ごと移動しているがそれも一糸乱れぬ動きで素晴らしい。
驚くべきはその面構えだ。
全員が死地へ赴く覚悟を完了しているように見える。目的の為ならどんな犠牲も厭わない、そんな妄信的な目だ。
噂に聞いた帝国の洗脳戦士を思い出すな。恐るべし異世界。
ふむ、もし戦争にでもなったら我らは相手にならんだろうな。
兵士の士気うんぬんの前に、文明が違いすぎる。
目の前の大きな建物には巨大な映像が映し出されている。なんと美しい映像だろうか。
帝国が開発に乗り出したという魔導硝子。こちらでは既に実用化しているのだ。
そして、空を見てみろ。
なんだあれは?
ドラゴンか?
白い大きな、多分人が乗っているのだろう、ゴオーッと地獄の底のケルベロスの鳴き声のような音を響かせながら、空を真っ直ぐ飛んでいるのだ。
しかも何機も。
周りの建物を見る限り、魔物ではなく空飛ぶ機械だろうな。
ありえん。
あれがそのまま突っ込んで墜ちてきただけで、我らの世界は終わってしまう。
こんなのと戦争するなど、想像するだけで震えがくる。武者震いではないぞ、心の底から本当にごめんだ。
異世界の侵略など出来るつもりでいるのか? 帝国の馬鹿さ加減にはほとほと呆れ返る。
「マミヤ殿。彼らの隊列は実に美しいが、どれ程の訓練をなされているのか?」
今でこそ冒険者だが、私も騎士のはしくれ。後学の為に聞いてみる。
「コミケは初めてですか?」
「このせか……この国自体詳しくないのだ。くっ、殺せ!」
「ああ、外国人の方でしたか。お顔を見る限り外国の方かと思いましたが、日本語がお上手なのでてっきり日本の方かと。そうですね、海外でも世界一綺麗な隊列だとか評される事もあるらしいですが、訓練なんてしていませんよ。国民性というか、彼らは生まれながらの戦士なんでしょうね」
生まれながら……? これが先天的なものだと!
無理だ、降参だ。
「これが訓練で得たものでは無いと言うのか……! くっ、殺せ!」
「義務教育が訓練に当たるかもしれませんけど。それに、スタッフの存在もありますね」
スタッフ?
ほう、隊列を指揮する者がいるな。将校なのだろう。
「あれが無償だって言うんだから、本当に頭が下がりますよ」
なっ? 無償? タダ働きだと! なんという国への忠誠心だっ!
狂っている。
マミヤの話によると異世界の中でも、この国だけ特別なようだが……。
「この国では戦士を何と呼ぶのだろうか?」
「オタクですよ。昔は蔑称でしたけど、今では敬意を込めてオタクと呼んでいます」
なるほど。以前は狂人として蔑まれていたが、今では戦士の中の戦士として認められているのだろう。
オタク。その名、胸に刻んでおこう。
マミヤの後についてしばらく歩くと、やがて階段を昇った。
上階では列が細かく別れている。
「ほら、見てください。おかげさまで我が社の待機列が一番長いですよ」
『深川文庫最後尾』と書かれた札を持った者の列は長く、私達がその横を通るとざわざわと騒がしくなった。
「おおっ! 『おまひろ』のディアンナとラヴィーンだ!」
「ラヴィーンたんハァハァハァ……」
なんだこいつらは。
さっきまで鬼気迫る表情だったのに、私達を見るまなざしは気持ち悪くて蹴りつけたくなる。
さすがに蹴る訳にはいかない。
代わりに家畜でも見下すような視線で睨み付けておく。
「うおおっ! ディアンナ様の冷ややかな目!」
「次はくっ殺ですか~?」
「ご褒美ですっ! ありがとうございます!」
何故こいつらは睨み付けたのに喜んでいるのだ。
気色悪いにも程がある。
ラヴィなんて完全に怖がっていて、私の服を掴んで離さない。
「サービス精神旺盛ですねえ、ありがとうございます。さあ、西館に入りましょう」
サービス? 睨むのが?
理解できない。
異世界、くっ、実に恐ろしいところだ。
【今回の教訓】
スタッフの指示に素直に従う事。
おまいらは極悪中隊の一部だッ!
隊列を乱すなッ!
西館では企業ブース毎に待機列が分かれるぞ。
スタッフの言う事をちゃんと聞いて正しく並ぼう。
また、彼らは数々の名言を残している。
それらも要チェックだ!