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だめっ! このキングキャタピラー()は何も悪くないの!

 

 【三人称】



 ビックサイトの玄関とも言えるエントランスプラザ。

 十二時を過ぎコスプレエリアとして開放された当所では、多くのコスプレイヤーやカメラマンで賑わっていた。

 その人波を鬱陶しそうにかき分けて歩く二人の男。

 カイルとスタークである。

 カイルは茶色の鎧で上半身を包み、同じ素材、色で合わせた籠手とすね当てを装備した軽装の戦士姿。髪は鋭く刈り上げられており、筋肉質な体とマッチしている。

 一方のスタークはヒョロッとしたやせ形。杖を持ち、オカッパ頭に白の法衣といった、いかにも僧侶の姿。

 二人とも見るからに暑そうな格好である。

 暑さを粉らわそうとスタークが口を開いた。


 「あー、暑いなあ。地獄の蓋でも開いてんじゃねえか? って笑えねえか」


 「うるせえよ、冗談にもならねえ。くそっ、ラヴィの奴おもいっきり引っ掻きやがって」


 カイルが右の二の腕を痛そうにさすっている。ミミズのような長い傷が出来ていた。


 「回復魔法かけてやるって言ってんじゃねえか」


 「いらねえって。ラヴィに同じ傷をつけてやるんだからよお。ククク、楽しみだぜ」


 いやらしく笑うカイルをスタークがたしなめる。


 「だから遊ぶなって言ってるだろ。さっきだってさっさと奴隷紋を発動させて命令してれば逃げられる事もなかったんだ。そうやっていつも油断するのがお前の悪い癖だ」


 帝国は役立たずとわかればすぐに処分する。今回の任務も失敗は許されない。


 「チッ、わかってる。次は範囲に入ったらすぐに奴隷紋を使う」


 奴隷に命令するには主人が近づき魔法で奴隷紋を発動させる必要がある。企業ブースではアンナがいなかったから必要無いだろうと使わなかったのだが、それが失敗だった。


 「頼むぜ、主人登録はお前なんだから。それにしても、異世界の奴等浮かれすぎだろ」


 「ああ、こっちは仕事してるってのにな。見渡せば着飾ったいい女ばかりで、目の毒だぜ」


 コスプレエリアの中でも一番混みあうのがエントランスプラザだ。あちこちでカメラマンがコスプレイヤーを囲っている。

 女性は皆華やかで、カイル達からは帝都の踊り子のように魅力的に見えた。


 「さっさと仕事終わらせてよお、帝都で綺麗所集めて酒飲みてえなあ」


 「だったら真面目にやれカイル。とにかくラヴィを捕まえるぞ。奴隷紋を使ってラヴィを人質に取れば、アンナもアレインも、それにこっちにいるっていうお姫様も俺達の言いなりに出来る。そうしたら計画通りにドカンとやってトンズラだ」


 「わかった。俺は頭悪いからな、お前の言う通りに動く。都度指示をくれると助かる」


 カイルは素直に頷いた。

 肉体派のカイルに頭脳派のスターク。潜入工作を得意とする彼らはいつも役割を分担し上手くやってきた。異世界だろうとそれは変わらない。

 

 「じゃあ早速だが、水分を補給しておけ。ほら」


 スタークはカイルに向かって瓢箪のような形の水筒を投げた。

 『大深林の湧泉』といわれる神の産物(アーティファクト)である。常に冷たく、水が枯れる事のない水筒だ。

 カイルは怪我をしてない左手で受け取ると、栓を開け勢い良く中身をあおいだ。

 

 「あーうめえ。こいつがあって助かったな」


 「ああ、アンナ達は翻訳の指輪があるから上手い事現地人に接触してたみたいだが、俺達はそうもいかないからな」


 なんせ言葉の一つもわからないのだ。ジェスチャーで意思の疎通を図るのも限界がある。そんな事に労力を割くのならさっさと目的を達して帝国に戻った方がいい。なに、どうせ侵略する世界だ。深く知る必要はない。


 「お、おいスターク! あれを見ろ!」


 「な……あれはキングキャタピラー? Sランクの魔物がこんな市街地に?」


 彼らの指差す先、柱の手前に二メートル程の青黒い芋虫がいた。十四個も有る目は全てが赤く、多脚の足が気持ち悪い。勿論たまたまキングキャタピラーに似ているだけで、正体は風の谷とか腐海の森にいるあいつである。


 「おいおい刺激するなよっ! 仲間を呼ばれて大海嘯(だいかいしょう)なんて起こされた日にゃあ……ん? 様子がおかしいな」


 そのキングキャタピラー()はピクリとも動かない。キングキャタピラーと言えばどう猛で好戦的な魔物だ。じっとしているなんてあり得ない。


 「な、なあスターク。ひょっとすると……あれも仮装なんじゃねえのか?」


 異世界の言葉はわからないが、なんとなく二人にはここが仮装を楽しむパーティー会場なんだろうと察しがついていた。奇抜な格好をしている人間が囲われてちやほやされている、だから仮装パーティーなんだろうと考えたのだ。


 「は? そんな仮装して何の意味があるって言うんだ?」


 「知るかよ。考えるのはお前の仕事だろ?」


 「馬鹿言え。俺にだってわかんねえ事がある」


 キングキャタピラー()のコスプレをしている青年はただ目立ちたいだけだ。その一心でクソ暑い中、じっとしているのだ。ただでさえ意味がわからないのに、コスプレ文化のない世界から来た二人に理解出来るはずもない。


 そんなキングキャタピラー()に近づく人影が一つ。

 

 ラヴィだった。


 やはり異世界の人間には気になるのだろう。傍にしゃがみこんで指でツンツンとつついてみた。反応はない。


 「お、やっと見つけたぜ。いいかカイル。そーっと近付いて奴隷紋を発動させるんだ」


 「わかってる。もうヘマはしねえ」


 人混みに紛れてゆっくりラヴィに近づく。しかしラヴィはシーフだ、五感の鋭さで彼女に叶う者はいない。もう少しで奴隷紋の範囲内、という所でラヴィはバッと振り向き、二人に気づいた。


 「――!」


 慌てて逃げるラヴィ。カイルとスタークもそれを追う。


 「絶対逃がすなよ!」


 「わかってる! 絶対に見失わな……なんだ?」


 突然ラヴィの姿が消えた。

 確実に視界の中にいた。十メートル程の距離にいたのだ。それが、突然消えた。


 「クソっ! 隠者のマントか!」


 苛立ちを抑えきれずに、二人は地団駄を踏んだ。




 ◇◆◇◆◇



 「カイル……! じゃない……?」


 ラヴィに隠者のマントを被せて匿ったのは生粋のロリコンだった。カイルによく似たその顔に一瞬驚いて突き飛ばそうとするラヴィだったが、すぐに違う男だと気づいて抵抗をやめる。


 「大丈夫? 僕はT@MA。アレインの知り合いで……って翻訳の指輪持ってないんだっけ。えーと、キャンユースピーク……」


 英語など通じるはずがないが、大好きなラヴィを前にT@MAもテンパっているようだ。


 「ラヴィ、日本語わかるよ」


 「え? そうなの? 何で?」


 「んー? なんでだろ? 小さい頃に教えてもらったような……わかんない。忘れちゃった」

 

 「そっか。わからない事は考えてもわからないからね。とりあえずここを離れよう」


 隠者のマントを被ったまま、出会ってしまったロリコンと合法ロリはエントランスプラザから逃げ出したのだった。




 【今回の教訓】


 やはりネタコスプレと言えばエントランスプラザだろうか。

 ビックサイト内だと以前紹介した『庭園』、今回の『エントランスプラザ』、西館四階の『屋上展示場』が主なコスプレエリアになる。


 是非一度 コミケ コスプレ ネタ で画像検索してみて欲しい。

 すごいのがいっぱい。

 頭おかしいのがいっぱい。

 幸せな気分になれる事間違いなしだから。


 

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