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マジカル三角


 【アレイン視点】



 東館を抜け、西館へと通路を歩く。

 ん? 右手の方向に人だかりが出来ている。何だろう、寄ってみようか。


 布地の少ない露出の高い衣装を着た若い女性を中心にして、男達が群がっている。

 女性の足元には名前や情報の書かれた板が置いてあり、客へアピールをしているようだ。

 そんな集団がいくつもあり、囲っている人間が多いもの、少ないものとそれぞれだった。


 まるで奴隷市場だ。

 ラヴィを買った時の事を思い出す。


 とある街のスラム街で丁度奴隷市場が開かれており、アンナとそこを通りすぎようとした。

 しかし、青色の髪の少女を見つけるとアンナは酷く取り乱し、有り金をはたいてその奴隷を購入したのだ。

 その少女の身なりは酷いものだった。

 胸と腰を隠すだけの布を纏い、髪も手入れされておらずボサボサで伸び放題。

 更には痩せぎすで目に生気もなく、生きているか死んでいるのかといった状態だったのだ。

 名前もなかった彼女にラヴィと名付け、食事を与え身なりを整えさせた。一週間もすると見違える程に健康的になって、笑顔も見せるようになってくれた。奴隷紋の解除もして、アンナはラヴィを一人前の冒険者に育てると決めた。どうして奴隷一人にここまでするのか、アンナの真意がわからなく疑問に思ったが、嬉しそうな彼女を見ていたらどうでもよくなったのを覚えている。

 そうして冒険者として育てる事になったのだが、育成方針についてアンナと衝突した。ラヴィは魔力量が多い。それも相当だ。だから俺は彼女に魔法を教えようとしたのだが、アンナがこれを却下。自分の側で前衛として育てると決めてしまった。幸いラヴィは身のこなしも軽くシーフとして優秀だったから良かったが、今でもラヴィに魔法を教えようとするとアンナが反対するのだ。



 「レインコスのお兄さん! 私達と一緒に併せませんか?」


 背中に掛かる声に足を止める。声の主はディアンナとラヴィーンの格好をした二人組の女性コスプレイヤーだった。

 なるほど、ここは奴隷市場ではなく、コスプレエリアというやつか。

 基本的にホールの中は写真撮影が禁止されている。コスプレイヤーの写真を撮る場所は決められているのだ。それをコスプレエリアという。

 東館と西館の通路の脇にある『庭園』もその一つだ。

 ちなみに彼女達の言う『併せ』とは、同じ作品のキャラ同士で併せる、という意味らしい。


 「む、西館に行かないといけないのだが……」


 東館で同人誌を物色するのに時間をかけてしまったからな。これ以上道草を食うのは……。


 「え~? ちょっとでいいんですぅ! お兄さんみたいな完璧なレイン他にいないもの~」


 ディアンナコスの女は渋る俺の腕を引き寄せると、その豊満な胸に押し付けて懇願してきた。その胸はアンナよりも大きいが、残念ながら硬い胸当てに遮られてその感触を楽しむ事は出来ない。


 「む、まあ、十分くらいなら……」

 

 決して色仕掛けにかかった訳ではない。異世界をもっと知る為に仕方なく……ゴホン。そう、仕方なくだ。


 「本当? オジサンみたいなレベルの高いレインと併せられるなんてボク嬉しいよ!」


 ラヴィーンコスの少女は上目使いで俺を覗きこむ。思わずその顔の美しさに息を飲んだ。

 正直に言うとディアンナコスの女はアンナと比べると数段見劣りするが、この少女はラヴィーンに輪をかけて美少女なのではないか? 

 おまけに自分の事をボクと言った。

 ボクっ娘というやつだ。

 タマに属性について教えてもらったのだが、こちらの世界における属性とは加護を受けた精霊の種類ではなく、キャラクターを形成する特徴の事だそうだ。主にヒロインにつけるものらしい。

 例を挙げると、妹、ツインテ、ニーソ、ツンデレなど意味のわからない単語もあるが、ボクっ娘というのは名前の通りに自分の事をボクという娘の事だ。

 話を聞いた時は女のクセにボクなんてみっともないと思っていたが、これはこれで悪くない。美少女がボクというとグッとくるものがある。

 尊い。


 「こらナツキ、オジサンは失礼でしょ!」


 「ああ、ごめんごめんお兄さん。ボクはナツキ。ディアンナコスをしてるのがボクの姉さんで、ハルカっていうんだ」


 なんと、二人は姉妹らしい。ちっとも似てないな。


 「アレインだ。よろしく頼む」


 軽く自己紹介を済ませ、空いているスペースに陣取る。

 名前とツイッターアイディーとやらを書いた白い板を置いて、カメラマンが声を掛けてくるのを待つ。その間に姉妹にずっと気になっていた事を聞いてみた。


 「一つ教えてほしい。あの逆三角の門の様な建物、あれは何だろうか?」


 そう質問すると、姉妹はまるで知っているのが当たり前のように驚いた。


 「え? アレインさんどこで着替えたの?」


 「あれは会議室なんかが入っている会議棟よ。コミケの間は男子更衣室になるの。男性レイヤーはみんなあそこで着替えるはずだけど……」


 「俺はルールを知らなくてな。この格好で来てしまったんだ。慌ててこの上から服を着て誤魔化したんだが……。そうか、更衣室なのか」


 どんな景色が見えるのか、ちょっと興味があるな。アンナと合流した後に時間があったら行ってみてもいいかもしれない。


 「うん。ボクもあそこで着替えたんだよ」


 「は?」


 ナツキの言葉に、思わず上ずった声が出てしまう。


 「今、なんと言った?」


 「ボクもあそこで着替えたんだよって」


 「ナツキ。アレインさんあんたの事女の子だって勘違いしてるんじゃないの?」


 ハルカはそう言うが、勘違いも何も女の子にしか見えないのだ。俺は悪くない。そう、男にドキドキしてしまったとしても、俺が悪い訳ではないのだ。


 「ええっ? 始めからボクって言ってるじゃないか」


 ナツキはボクっ娘属性ではなく、男の娘属性だったようだ。

 異世界恐るべし。




 【今回の教訓】


 あの三角は魔法の箱なのだ。


 普通のにーちゃんが入って行ったと思ったらミニスカートの超可愛い女の子が出てきたりとか。

 普通のにーちゃんが入って行ったと思ったらやたらリアルなゴジ○が出てきたりとか。

 おっさんが入って行ったと思ったら体毛の濃いぜかましが出てきたりとか。

 集団が入って行ったと思ったら平成ラ○ダー全員集合したりとか。


 男子更衣室は本当に予想もしないスゴいものが出てくる。



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