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おまわりさんこいつです


 【アレイン視点】



 「ありがとうございます! 完売です!」


 鳴り響く拍手。時刻は十二時。コミケが始まってから二時間程で隣のサークルから歓喜の声があがった。俺も拍手しておく。

 

 「すごいねえ。おとなりさん。朝あんなに有った本が完売だって」


 「まだ並んでいる人がいるが、あの人達は買えないのか?」


 「ああ、可哀想だけど売り切れはしょうがないよ。だからみんな始発で来たりするんだ」


 そうか、そういうものか。


 「やはり完売した方がいいのか?」


 「完売するに越した事はないけど、どっちでもいいかな。常連さんは来てくれたし、のんびりしようか」


 並んでいた列も捌け、今は本を手にとってパラパラと物色していく客がまばらに来るだけになっていた。

 用意した本も八割以上が売れ、小休止と言ったところか。


 「売れ残ってしまってもいいのか?」


 「うん。残った分は同人ショップに委託するから」


 なるほど、ギルドに置いてもらう訳か。それはいいな。今日用事があって来られない客でも手に入れるチャンスがあるという事だ。

 お世辞ではなく、タマの描いた本も素晴らしい。

 タマの同人誌は性描写は少なく、精々下着がうつるぐらいだ。微エロというらしい。レイン一行のほのぼのとした日常にスポットをあてている。

 これが尊い。

 何でもない日常が一番大切なのだと気づかせてくれる。

 ただ、『おまひろ』本というよりはラヴィーン本と言った方がいいだろう。なんというか、絵の力の入り具合から違う。ラヴィーンは他のキャラに比べて本当に細かく描かれている。作者の愛がひしひしと伝わってくるのだ。


 「タマ殿はラヴィーンが好きなのか?」


 「大好きだね。ロリ最強。ロリ万歳」


 キリリと凛々しい顔で即答する。

 ロリ、とは少女趣味の事だそうだ。成人前の女性の事を指すらしい。

 しかし、この国では成人男性と少女の深い交際は禁止されているらしいのだ。少女趣味の男は世間から後ろ指をさされるんだとか。

 それなのに堂々と公言するとは、さすがタマは狂信者、闇の司祭である。


 「ロリ、とは成人前の女性の事だろう? ラヴィは残念ながら二十二歳だ。ロリからは外れている」


 「マジで? 二十二歳? 本当に? どう見ても十五、六歳にしか見えないじゃん!」


 ガタンッ! っと立ち上がり、俺に詰め寄ってくる。唾が俺の顔にあたるが、興奮しているのか本人は気づいていない。


 「ああ、れっきとした二十二歳だ。成長期に十分な栄養がなかったからじゃないかとアンナは言っていたな」


 「元奴隷だもんね。可哀想に。そっか、原作にはラヴィーンの年齢については言及されてなかったからなあ」


 ペタン、と弱々しく椅子に座り直す。


 「そう気を落とすな。二十二歳でもラヴィはラ……」

 「気を落とすなんてとんでもない! 合法ロリ最高!」


 細い目をクワッと見開いてタマは叫んだ。更には両手を天に掲げる始末。その目は見開いてもまだ細かった。

 どうやら年齢は関係なく、タマの中でのロリとは見た目の問題らしい。なるほどわからん。根が深いな。


 「そうか~、二十二歳かあ~。最高だ。オハナシしても警察を呼ばれないなんて。アレインさんお願いします。どうか僕をラヴィちゃんに紹介してください」


 椅子を蹴倒し、地面に膝をつき頭を下げた。揺るぎないな。どこまでも狂っている。


 「構わない、と言いたい所だが、あいつらの真意がわからん事には会えん」


 そう、アンナには剣を向けられ、ラヴィにも縄を投げられた。俺は裏切られたんだ。どんな顔で会えるって言うんだ。


 「それなんだけどさ、誤解じゃないかな?」


 「誤解?」

 

 確かに、アンナの腕なら不意をついたあの時に俺に一太刀浴びせられていた筈だ。それなのに俺は避けられた。つまりアンナは本気じゃ無かったって事だろう。


 「『おまひろ』がアレインさん達の事を描いたものだっていうなら、絶対にアンナさんはアレインを裏切ったりしないよ。二人はさ、何て言うか、魂が繋がっているっていうか、どんな試練だって二人で乗り越えて来ただろ? 二人は最高のパートナーだって、読者はみんな思ってるんだよ」


 そうだ。

 言われなくても、そう思っている。

 アンナは最高のパートナーだ。

 ラヴィは素直でいい子で、妹のようなものだ。


 「そうだな。何か事情が有ったのかもしれん。一度話してみる必要があるな」


 「うん、それがいいよ。あ、いらっしゃいませ」


 新しい客がやって来て、タマの同人誌に手を伸ばす。


 「中、見てもいいですか?」


 「はい、どうぞどうぞ」


 立ち読みというと語感が悪いが、試し読みしたい時はサークル主に一声掛けるのがマナーらしい。

 客はパラパラとページをめくっていく。


 「四冊で全部ですか?」


 「はい、全部新刊なんです。一冊五百円になります」


 「じゃあ四冊ともください」


 「あ、ありがとうございます!」


 この客もロリなのだろうか。このラヴィーン超カワイイですね、やっぱりロリ至高ですよねー、などとタマと盛り上がっている。代金を支払うと、俺にも話し掛けてきた。


 「お! レイン完成度高いですね! 賢者の腕輪とか本物みたいだ」


 本物だからな。

 しかし本物の魔法使いなんてバレたら大騒ぎになるから、コスプレイヤーの振りをしろとタマから言われている。適当に合わしておく。


 「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」


 「西館の深川文庫のブースのディアンナとラヴィーンも本物みたいだったけど、年々コスプレもレベル上がってるなあ」


 「企業ブース、ですか?」


 「ええ、ディアンナなんて本当の外国人のコンパニオンさんですっごい綺麗でした! ラヴィーンも可愛くて、十五、六歳にしか見えないんですがブースの人によると成人してるみたいで、合法ロリ最高でしたよ! いやあ今日は素晴らしいなあ。じゃあまた、冬コミで」


 客はひとしきり喋ると、手を振って満足そうに他のサークルへと歩いていった。

 思わずタマと顔を見合わせる。


 「アレインさん、ひょっとして……」


 「ああ、あの二人もこちらに来ているのかもしれん。しかし、二人一緒なら安心だ。ラヴィは翻訳の指輪を持っていないから一人だと心配だが、アンナがついているなら大丈夫だろう」


 ラヴィは目を離すとすぐどこかへ行ってしまうからな。アンナはラヴィの手綱を握るのが上手いが、俺の手には余るのだ。


 「大丈夫だろうじゃなくて! すぐ行った方がいいよ。ここはもう僕一人でいいからさ。心配でしょ?」


 「う……心配ではあるが、タマ殿一人では……」


 「いつも一人だったから大丈夫だよ。でも、戻ってきてよ。打ち上げ行くんだから。ラヴィちゃんも一緒にね」


 フッ、ちゃっかりしている。


 「わかった。西館へ行ってくる。ありがとう」


 俺はマップを握りしめ、西館へと向かった。



 【今回の教訓】


 買う意思が全く無いのに立ち読みはやめよう。

 あくまで試し読みだ。その際はサークル主に一声掛けよう。

 また、長時間サークルの前で陣取っていると迷惑だ。そっと隅の方でなるべく時間をかけずに試し読みをしよう。

 


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