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抱き枕カバーが一番ヤバい


 【アンナ視点】



 ……。…………。



 ハッ!


 言葉を失っていた。

 この『アイスクリーム』とやらが美味しすぎるせいだ。


 「ん~! おねえさま! このね! 『プリン』っていうのもね! すっごいぷるぷるしててね! すっごいの! はい!」


 ラヴィが黄色い『プリン』を乗せたスプーンを差し出してきた。反射的にパクッと食いつく。

 見た目はスライムのようだが……どれどれ?


 「ふぉぉぉ……! くっ、殺せ!」


 甘い! そしてとろける! 噛むまでもなく無くなってしまった!


 「ね! ね! 美味しいでしょ!」


 無理だ。降参だ。

 異世界の『スイーツ』とやらはとんでもない。我らの世界の女性達はすべからず洗脳されるぞ。しかし、それも望むところだ。『スイーツ』が毎日食べられるならそれも構わない。



 深川文庫の企業ブースとやらに着いた私とラヴィを迎えてくれたのは異世界のお菓子達だった。女性には甘いもの、というマミヤの配慮らしい。なかなか気が利く男だ。


 『アイスクリーム』

 『プリン』

 『マカロン』


 どれも今まで食べた事のない魔法のような味だった。

 いや、味だけじゃない。こちらのお菓子達は見た目も鮮やかで可愛いのだ。実に乙女心をくすぐるのだ。くっ、殺せ!


 「お口に合いましたか?」


 「ああマミヤ殿! こんなに美味しい物は初めてだ!」


 飲み水もただの水では無かった。シュワシュワして甘いジュースという飲み物も、喉で弾けて最高だった。


 「そんなに喜んでくれると用意した甲斐があるってもんです。おっと電話だ、失礼」


 トゥルルルル、とマミヤの服の中から音楽が鳴った。ズボンのポケットから小さい板を取り出して己の耳にあてる。そして誰かと会話を始めた。

 マミヤだけでなく、多くの人間がこの板を操作している。

 どうやら離れた相手と会話が出来る機械のようだ。会話だけでなく、魔導硝子に文字や映像が表示され書物のような役割もするらしい。

 外や頭上の大きな魔導硝子にも驚いたが、あの板に使われているのは極めて小さくペラッペラで、まるで紙の様だ。大きくするのは資材を惜しみ無く使えばいいが、小さくするには高い技術が必要だろう。やはりこちらの世界の文明はとんでもなく高度だ。


 「えっ? 熱が出てコンパニオンが来れない? は? でもここに、え? はい。いえ、わかりました。はいどうもー」


 板をポケットにしまうと、顔を青くして恐る恐る尋ねてきた。


 「あ、あの、お二人は会社から派遣されたコンパニオンでは?」


 「私もラヴィも、どこのギルドにも所属してはおらんぞ」


 私は後にも先にもエルドラード王室以外に仕える気はないのだ。

 そう答えると、マミヤは腰を曲げて深く頭を下げた。


 「い、一般のコスプレイヤーの方でしたか! すいません、契約先から派遣されたコンパニオンと間違えました! すいません!」


 ふむ、やはり人違いだったようだ。頭を下げたまま、マミヤは言葉を続ける。


 「謝るついでに無理を言いますが、どうか今日だけでも我が社のブースでコンパニオンをやって頂けませんでしょうか? 今から代わりなんて探せないし、何よりお二人以上のディアンナとラヴィーンなんていない! 高坂先生にも紹介しますし、どうか、お願いします!」


 少し思案する。

 優先すべきはあのお方にお会いする事だ。それにはマミヤに協力するのが一番の近道だと思う。アレインも探さなければいけないが、なに、アイツはほっといても死にはしない。後回しでいい。


 「マミヤ殿、頭を上げてくれ。散々飲み食いもしたし、今更逃げるつもりはないよ。ただ、さっきも言った通り私もラヴィも勝手がわからん。仕事を細かく教えてくれると助かる」


 「本当ですか?!」


 ガバッと顔を上げたマミヤは嬉しそうに顔を崩した。


 「ああ、騎士に二言はない。アンナと呼んでくれ。ラヴィもそれでいいか?」


 「うん! よくわかんないけどいいよ!」


 「ありがとうございます! じゃあ早速説明しますね」


 マミヤから仕事の説明を受ける。 

 ふむ、主に接客だな。商品を買った客と一言二言会話して、求められればポーズを取って写真とやらを一緒に撮ればいいと。

 

 ほう、写真というのはすごいな。絵ではなく実際の風景をそのまま切り取る訳か。

 マミヤの指示の通りに何度かポーズの練習をする。しかしポーズといっても、一人で腕を組んで家畜でも見るような目で不機嫌そうにしていればいいらしい。ラヴィは手でハートマークを作ったり可愛らしいポーズが多いのに、何故だ。くっ、殺せ。


 「マミヤ殿、本当にこんな偉そうな失礼な態度であのオタク達が喜ぶのか? 私もラヴィみたいに可愛いポーズの方が……」


 「いえ、必要ありません。アンナさんは笑わないで結構です。たまに恥じらってくっ殺言ってればオッケーです」


 私の扱いが酷くないか? あのアニメの中で私はそんなキャラだというのか? あのお方は私の何を見ているのだ!


 「そうそう、この抱き枕カバーを買ったお客様には特別サービスで踏んであげてくたさい」


 踏む? こいつは何を言ってるんだ? いや、それよりもだ。


 「抱き、枕?」


 私の背丈と同じサイズの抱き枕。表には鎧を装備した騎士姿の私。裏返すと赤面して下着姿の……何故下着なんだ! 何に使うと言うのだ!


 「くっ、殺せ!」


 「そうそう、その表情ですよ!」


 「これは演技じゃない! くっ、殺せ!」


 仕事を受けた事を少しだけ後悔したが、あとのまつりだ。

 くっ、殺せ!



 

 


 【今回の教訓】


 プロのコンパニオンだからっておさわりはもちろん厳禁だ。

 彼女達は花だ。

 花を愛でるように紳士として接しよう。

 写真もブースの人の指示に従って楽しく撮ろう。


 ちなみに、抱き枕の次はマウスパッド(おっぱいが柔らかいやつ)がヤバいと思う。


 *追記


 紙袋が一番やべーわ



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