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おっさんコミケに立つ

 

 暑い。異様に暑い。

 太陽の陽射しとはこんなにも肌を焼くものだっただろうか。ゆっくりと、だが確実にヒリヒリと痛い。思わず帽子を深く被り直す。


 ここは何処だ?


 さっきまで黄金の地下迷宮にいたはずだ。

 そう、最深部に到達して、伝説の秘宝を目の前にしたら奴等が裏切ったんだ。女騎士のアンナとシーフのラヴィが分け前を増やしたいが為に仲間を殺して、俺までも手にかけようとした。

 クソッ、誰が最奥を守るガーディアンを倒したと思っているんだ。この俺の魔法があの黄金のゴーレムを粉々にしたんじゃないか。

 地下迷宮の秘宝、黄金水晶を手にした時、アンナが斬りかかってきた。間一髪かわしたが、ラヴィの投げた縄が俺の足をからめとって転んでしまった。その間にアンナは他の二人の仲間を斬り殺していた。

 身動きが出来ず、死を覚悟したその時、黄金水晶が突然光輝いて、俺の魔力を吸い出し始めた。吸われるがままに魔力を込めるだけ込めたら、気がついたらここにいた。


 ここは何処だ?


 前方には三角錘を二つ並べて逆さにしたような門がある。かなり大きい。帝国の凱旋門よりも立派ではないだろうか。

 まさか、異世界か?

 眉唾だと思っていたが、異界への扉を開くという黄金水晶の伝説は本当だったのだ。

 生唾をゴクリと一度だけ飲むと、改めて辺りを見渡してみる。

 周囲には人、人、人。

 視界を埋め尽くさんばかりに人がいた。たくさんの列を作り、大人しく何かを待っている。たまに俺の方を指差して何か話している奴もいる。

 初めて聞く言語だ。やはり異世界なのだろうか。

 俺は小指にそっと神の産物(アーティファクト)である翻訳の指環を嵌めた。

 こんなに暑いのによくじっとしていられるものだ。

 皆一様に汗だくになり、丸い紙のような物で扇いだりしている。

 その紙にはエルフだろうか? 耳が尖った金髪の女の絵が描いてある。豊満な胸を強調していて、美人だ。あまり見ない画風だが何故だろうか、男の本能に訴えてくるものを感じる。嫌いじゃない。


 「おっ、いたいた。レインさーん!」

 

 手を振りながら一人の男が近付いてきた。

 首にタオルを巻いて、眼鏡を掛けた男。少し細いが、アンナに殺された戦士のカイルによく似た男だった。


 「はじめましてレインさん。T@MAです。今日は売り子としてよろしく。初めてのコミケ参加らしいけど、なんでも僕に聞いてください」


 そう言って握手を求めてきた。反射的に右手を出して握手をする。

 レインだと? 俺を知っているのか? それとも誰かと間違えている?


「まあ、初めてだからしょうがないんだけど、レインさん。コミケはね、中で着替えなきゃダメなんだよ。そういうルールなんだ。コスプレで来場しちゃ駄目なんだ。スタッフに何か言われると面倒だから、とりあえずこれを着てよ」


 タマと名乗った男は、俺が返事をする前にマントを外し、無理矢理白い服を着せてきた。前面にはアンナによく似た女騎士の絵が描いてある。


 「俺はアレインだ。誰かと間違えていないか?」


 「アレイン? ああ、なるほど。亜レインね。よく見ると少しずつ服の細かい所が違うね。でもすごいよく出来てるよ。まるでレインそのものだ。本当に魔法使いみたいだよ」


 「みたいだと? 俺は歴とした魔法使いだ」


 「え? レインさんて何歳なの?」


 「三十二になるが、それがどうした?」


 「うわ、本当に魔法使いなんだ! まあ、でも気にする事ないよ。僕も含めてここにいる奴等、ほとんど魔法使いだから」


 なっ? なんだと? 魔法の素養があるのは百人に一人。その中でも幼い頃から修練を積んだ者だけが魔法使いになるのだ。千人に一人と言われる魔法使いがこんなにいるだと? 異世界の奴等は化物か?


 「ほとんどだと? い、一体何人いるのだ?」


 「えーと、三日間で五十万人以上だから、今日だけで十五万人ぐらいかな」


 「十五万っ? 圧倒的じゃないか……。そんなに魔法使いを集めて何をするんだ。戦争でもしようって言うのか?」


 「確かに戦場とは言われるけどね。さあ、設営の時間もあるし、早く入ろうか」


 タマはずんずんと三角錘の門の中へと歩いて行く。


 恐らく誰かと間違えているのだろうが、俺も状況が全く理解できない。とりあえずタマについて歩き出したのだった。



 【今回の教訓】


 コスプレは現地で着替えよう。

 敷地外でのコスプレは禁止されている。

 普通の服で行って普通の服で帰ろう。

 誰でもコスプレ参加は出来るが、受付で登録が必要。千円かかるぞ。

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