第32話 暗殺者
今回はアルベルトの前に現れた男の視点です
レム平原で一仕事終わらせた俺っちは、アルフ村があった場所に来ていた。
何故来たかって?そりゃー、暇だったからだ。このままアジトに戻って仕事の報告するのも、アジトであいつに会うのも全てにストレスを感じてしまう。
俺っちは、楽しいことをしたいんだ。
だから、ストレスをため込まないためにそこに向かったんだ。
適度な息抜きは大事だから。
それと、俺っちの感が、その場所に向かえば面白いことがあるって教えてくれている。
今まで、この感が外れたことは無いから、俺っちは今回も感に従って行動に移す。
ストレスを解消するために・・・・・強者をグチャグチャにしてやるために。
アルフ村と言えば、5年前の悲劇で村人全員が無くなったんだよな。残念だ、悲劇の影響であの女も亡くなってしまっているんだから。
そう言えば、俺っちが手も足も出ずにやられたのはあの時が初めてだったな。
昔。組織に所属する前、俺っちが野良で仕事を行っている時のことを思い出していた。
当時を思い出すと、今でも笑いが込み上げてくる。
あの時は確か・・・何故かアルフ村に国の重鎮が来ており、その重鎮の暗殺を請け負った俺っちが村に入り、ターゲットのいる家に向かった時のことだ。自慢じゃないが、この仕事を行うようになってから、失敗をしたことが無かった。でも、この時ばかりは違っていた。
ターゲットが宿泊している家の前に着くと、隣の家から女が出てきたのだ。
時間は真夜中。人が起きてくるような時間じゃない。でも、その女は俺っちが来る時間が分かっていたかのようなタイミングで家から出てきた。
おかしいと思っていた。昼から観察していたが、国の重鎮が村の中で護衛を付けずに行動をしているのだから。
もしかしたら、この女が村人に変装して護衛していたのかもしれない。どちらにせよ、姿を見られたのはまずい。ここで、大声を出されれば、今回の暗殺は失敗に終わってしまう。なら、取るべき行動は女を殺して、ターゲットを狙いに行くことだけだ。
そう考え、腰からナイフを取り出す。ナイフの先端には毒を塗り込んでいるため、掠めただけでも、死に至る。暗殺者なら誰でも持っている保険の一つだ。そして、もう一つの保険も用意しておく。
「カラス、俺に纏え」
空を飛んでいた、相棒に声を掛ける。飛来してきた黒い鳥、カラスは俺が初めて召喚したゴーレムだ。そして、恩恵もしっかりともらうことが出来ている。俺っちの右肩に止まったカラスは、全身にまとわりつくように変形する。
俺は恩恵を発動するために、ゴーレムを体の一部にまとわりつかせないといけないって言うのは正直面倒だと思う。まぁ、この作業を行うだけで、恩恵を使えるようになるのだから我慢するしかないわけだが。。
「気配遮断」
この仕事で失敗がなかったのは、この恩恵に恵まれたからだ。いかに強くても、気配がないものを探し出すことは不可能。だから俺っちは、どこでも、誰でも自由に殺すことができた。
周りの空気に溶け込む感覚を得ながら、女に向かって、走り出す。狙いは首元。頸動脈を断ち切ってやる。
女の背後に回り込み、首にナイフを突きつけた瞬間。
今までに感じたことが無いほどの、寒気が俺っちに襲い掛かってきた。
その寒気が何なのか、こと時には理解できなかったが、答えはすぐに理解できた。
「ゴフッ」
腹部に激痛が走ったのだ。それも、呼吸が困難なほどの激痛がだ。
何が起こったのか理解できないが、痛みの場所である腹部に視線を落とすと、女の肘がめり込んでいた。
そして、痛みのあまり前のめりになった体に襲ったのは浮遊からの落下だった。
この女とんでもないぞ。
気配遮断を見破り、かつ、鳩尾に肘を入れ、前かがみになったところを、さらに後ろ蹴りで後方に吹っ飛ばしてきやがった。
あぁ、俺の命もここまでか。
痛みで、意識を失いそうになった俺っちは死を覚悟した。この稼業をしていると、いつかはこんな日が来るとは思っていたが、まさか今日来るとは思わなかっただけに、現実味がいまいち湧いてこない。
だんだんと、俺っちに近づいてくる死神の足音を聞きながら、目を見開く。せめて、俺っちが完全敗北をしたものの顔を見てやりたいと思ったからだ。
月に架かった雲が流れ、女の顔があらわになった。
金髪が月明かりに照らされ、キラキラと輝き、目には強い意志を感じさせる、女性。
正直、美しいと思ってしまった。
呼吸すらも困難なはずなのに、俺っちは女性の顔をずっと眺めていた。
その様子に気づいたのか、気づいてないのか。女性は俺っちを見下しながら、口を開く。
「私のアルちゃんが起きてしまったらどうしてくれるんですか」
「・・・は?」
俺っちは間の抜けた声を出してしまった。
だって可笑しいだろ。たった今、殺しにかかった相手に対して、我が子の睡眠の心配をするのか?
意味が分からずポカンとしていると、女性が顔を近づく。
「だから、近所迷惑なんです」
「お、お前は護衛でこの村に来たのではないのか?」
「護衛?私はこの村の住民です。分かったら早く帰って下さい。私はアルちゃんの寝顔を見るので忙しいのです」
「いや、俺っちも仕事で」
「は・や・く・帰・って・下・さ・い」
「はい」
結局、女性の迫力に負けて帰ってしまったんだよな。
ターゲットを仕留めれなかった俺っちは用済になり、野良の仕事が極端に減ったのは古い記憶にしまったままだ。
そして俺っちはこの女性よりも強くなりたい、そう心に誓った。
「おっといけねぇ。思わず過去を思い出してしまってた」
俺っちは今、アルフ村があった場所に座っている。
何も無くて正直暇だ。
思わず過去を思い出すぐらいには。
何でここで座っているのかって?そりゃぁ、お前。こんな何もないところに坊主が一人。しかも、何かよく分からねぇ、石の山に向かって話しかけてれば、見てみたいと思わねぇ~か?
それに感が告げているんだ。あいつは面白いぞってな。
案の定、俺っちの予想は正しかった。
見た目はただの坊主なのに、パンチと回し蹴り両方とも避けられてしまった。
けど、解せない。何であいつは攻撃の意思を示して来ない。こっちはバチバチの殺しあいをしたいだけなのに。
何とかして、殺しあいををしたいもんだけどな。
・・・そうか。よく分からねぇがさっきまで坊主が拝んでいた石の山。あれを使えばいいじゃないか。
そうと決まれば。
「おっと、この場を逃げるのは得策じゃないぞ」
石の山の隣から、足を乗せる。
む?思ったよりも頑丈だな。
「お前はどうやら、勘違いをしているみたいで悲しいぞ。俺っちはただお前と遊びたいだけだ。そしてその遊びの妨げになるなら、どのような障害も壊すつもりだ」
まぁ、頑丈なら、それ以上の力を込めて踏めばいいだけだ。
力を込めると、次第に山が崩れ始める。
よし。順調だな。坊主に視線を向けると、下に顔を落とし、拳を握り閉めている。
もう少しかな。
「やめろ」
坊主が何か呟いたが、声が小さくて聞き取れなかった。
「あ?なんか言ったか」
だから、石の山にかける力を強くしながら聞き返す。
はぁ~、黙りを決め込むか。面白くねぇ。
「残念だ」
俺っちは石の山を完全に壊すべく足に力を入れる。
ガン!
頭に突然衝撃が走る。
俺っちは迷わず右耳辺りに左手を持ってくる。
パンッ!
左手に衝撃が走り、気持ちのよい音が周囲に響き渡る。
左手にぶつかってきた、物体を掴むとそのまま、前方に放り投げた。
物体もとい、坊主に視線を向けると
殺気の籠ったいい目を向けてくる。
思わずゾクゾクきてしまった。
「殺してやる」
全く。本当にいい殺気を向けてくれる。
俺っちは思わず笑みを溢していた。




