第31話 アルフ村
じいさんとのやり取りを行った後、俺は自室で外出用の荷物をまとめ、街外に出てアルフ村に向かった。
アルフ村はラシオンを出て、歩いて半日ほど離れた場所にあった村だ。
”あった”というのは、現状、アルフ村は存在していない。アルフ村の悲劇で俺一人が取り残されている以外、村にいた人、物、全てが無くなっている。
そう、悲劇が起きる以前にあったもの全てだ。
「はぁ~」
現地に到着した俺は、手頃な岩肌に座り、学院を出るときに持参したお昼ご飯を食べ、一息ついていた。
アルフ村の場所は初めて来る人でもすぐに分かる。
だって、草原の中にぽっかりと空いたように、地形が変わっているからだ。というより、完全に地肌が見えてしまっている。
(アルフ村の悲劇から5年。師匠の言う通り木々どころか、草の根一本生えていないな)
地面の土を掬い取ると、さらさらと風で流されていった。
”この土地はもう死んでいる”
以前、ここに訪れた時に師匠に言われた言葉だ。
死んでいる土地には、草木は生えることが無いのだそうだ。当時の俺には理解できなかったけど、今なら何となく理解できる気がする。
「よしっ!」
俺は昼食を済ませ、勢いよく座っていた岩から立ち上がる。
これから母さん、父さんに会いに行くぞ。
二人は、俺が座っている岩から少し離れた場所にいる。
サクッ、サクッ。歩くたびに砂がこすれる音が聞こえてくる。
そんな砂の音を楽しみながら、歩いていると、石をかき集めて造られた小さな山があった。
「ただいま」
周囲には誰もいない。声は風によって掻き消え、静寂が辺りを占める。
ここが俺の目的の場所。母さんと父さんがいる場所だ。
じいさんが言っていた”両親に会いにいったらどうだ”というのは要は両親のお墓参りに行ってはどうだということだ。
ここは、ラシオンの外にあることから、滅多に来ることが無い。俺が村を離れてから訪れたのは2度目になる。この石の山は俺と師匠が以前に来た時に一緒に造ったものだ。俺が両親のことを弔いたいと師匠に言うと、一緒に造ってくれたのだ。だから二人の遺体がこの下にあるとかは一切ない。
二人に会って話したいことがたくさんあるんだ。
師匠と訓練したこと。アリアナおばさんのところで生活していたこと。そして・・・母さんの母校のゴーレム育成学校に入学したこと、入学してからのこと。
色々。本当に色々な話をした。
気が付けば、真上にあった太陽が地平線に沈みかけていた。
「お母さん、お父さん。もっと話したいことはあるんだけど、少し待っていてね」
俺は二人の墓に手を合わせてからゆっくりと立ち上がり、後ろを振り返る。
「俺に何か用?」
俺が二人と話している時から、ずっと、こちらを観察するような、そしてほんの少しの殺気が籠った視線を感じていた。
「なんだぁ、気付いていたのか。こんな何もないような場所で子供が一人でいるなんておかしいと思って観察していたんだがな」
きゃはは、と男は笑う。
太陽と重なり、男の姿はシルエットでしか分からない。
「一体何がそんなにおかしい」
分からないが、明らかに俺のことを笑っている。
「いやいや。俺っちの予感もよく当たると思ってな」
一通り笑い終えた男は真顔になる。
「予感?」
「あぁ、予感さ。俺っちの前に強敵があらわれる・・・な」
話し終わると、男のシルエットが僅かにぶれた。
”かがめ!”
俺の中の本能が一斉に悲鳴を上げる。
その本能に従い、急いでその場にしゃがみ込む。
ブォォン!
凄まじい風切り音と共に、男の拳が俺の頭があった場所を通り過ぎて行った。
あぶねぇ~
今のが当たっていたら、顔が吹っ飛んでいるな。
「いいないいな。お前のことを好きになりそうだぜ」
「悪いけど、俺にそんな趣味はない」
男が変なことを言いながら、続けざまに回し蹴りを繰り出すが後ろに飛び、回避する。
今の二回の攻撃だけで一撃一撃が必殺の破壊力を持っていることが分かった。
何故俺を攻撃してくるのか、この男がこの場所にいる理由など疑問はある。
けど、俺がこいつに付き合う必要はない。
だって、こいつと絡むと面倒だし、何より両親が眠るこの地で争いをしたくないからだ。
逃げれるか分からないけど、適当に巻いて逃げるか。
そう考えて、相手からさらに距離を取るべく、魔脚を発動する。
「おっと、この場を逃げるのは得策じゃないぞ」
あろうことか、男は両親の墓に足を置いていたのだ。
「お前はどうやら、勘違いをしているみたいで悲しいぞ。俺っちはただお前と遊びたいだけだ。そしてその遊びの妨げになるなら、どのよいうな障害も壊すつもりだ」
墓に置かれていた足に力がかかっているのか、徐々に石の山が崩れだす。
俺が両親を弔うために師匠と共に作った墓を、だ。
「やめろ」
「あ?なんか言ったか」
きゃははは、男は胸糞の悪い笑い声をあげながら、両親の墓に力を入れていく。
ぷっつん
この光景を見た瞬間。
俺の中で切れてはいけない何かが切れた。




