第30話 取り残された者
アルベルト視点
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「あ~あ、皆行ってしまったな」
同級生の皆はこれから校外学習に向かうべく、学院の門を潜っていく。街の外に出る機会が少ないため、ほとんどの生徒はわき合い合いとしている。
そんな生徒達を学院の教室から眺める俺。
一人だけハブられた生徒みたいになってしまった。
さて、と。教室内を見渡すと、机と椅子だけが並べられていて、人の姿は何も感じられない。
当然か。
校外学習にラウン先生とロゼ先生も同行者として出て行ってしまったし。
あれ?よくよく考えたら俺は二日間何をして、過ごせばいいのだろう。
まさかの放置か。
変なことを考えないで、自主訓練でもするか。
(早く、私を見つけ出してください)
黒髪の女性、ソニアの声が聞こえた気がした。
ベーマの森での出来事以来、ソニアが発した言葉が耳に残っている。
彼女がどこにいるのか、情報は一切ない。けど、何となく彼女があの場所にいるような気がしてならない。
「でもな~、あそこは街の外だからな。滅多なことが無い限り出ることができないんだよな」
それこそ、今回みたいに校外学習に行ったついでによることができればいいんだけどな。
レムの森だとちょうど近い場所にあるんだよな。
何とかついていくことは出来ないかな。
ん?廊下から足音が・・・
「ほっほっほ!何かを悩んでおるようじゃの、アルベルトよ」
このタイミングで愉快に笑いながら話しかけてくるのは俺の知る限り一人しか思い当たらない。
「何か用ですか?学院長」
誰もいなくなった校門を眺めながら、後ろの人物に反応をしめす。
「何でそんながっかりそうな反応をしとるんじゃ」
「・・・」
「無反応はさすがにひどくないか!」
いや、じいさん。明らかに俺をからかいに来てるのが分かるしな。
「はぁ~。お主をからかいに来たつもりじゃったが」
やっぱりからかいにきてたんかい!
「でも、お主の様子を見ておると、校外学習に行けないことで、へそを曲げておるだけではなさそうじゃの。何を考えておったんだ?」
「何でそう思うんですか?」
「何かを必死に考え、行動に移す時の者に似た目をしておるからの。それぐらい分かるわい」
確かに彼女を探しに行きたいとは思っているけど、俺はそんな目をした覚えはないんだけどな。でも、じいさんは国に数人しかいないゴーレムマイスターだ。相談を持ち掛けるにはちょうどいいかもしれない。
「実は・・・」
俺はじいさんに、レム平原での戦闘で力を貸してくれた女性について、説明を行っていく。レム平原の戦闘については以前にも伝えていたけど、女性については教えていなかったはず。
なので、俺が今回の女性の言葉が、心に引っかかる旨。彼女がどこにいるのか何となく分かることを伝えていく。彼女に居場所が何となく分かると言ったけど、正直自分でも信じることができない。
そんな話でもじいさんは真面目に聞いてくれた。
そして、全てを聞き終えたじいさんはゆっくりと口を開く。
「アルベルトよ、一度頭の中を調べてもらった方がよいのではないかの」
真剣に心配された。主に俺の頭の中を。
いや、気持ちは分かるから何とも言えないけどさ!
・・・・・
「ゴホン!まぁ、これをやるから機嫌を直せ」
そう言って、ポケットから一枚の紙切れを取りだし、こちらに渡してくるじいさん。
紙には"通行書"と書かれている。
これってもしかして
「さすがに一人だけ学院に残すのもかわいそうじゃったからの。行事には参加できんがこの機会にお前の両親に会いに行って来たらどうだ」
ニカッと笑うじいさんに俺は初めて感謝の気持ちを抱いた気がする。
「ム?今、初めて感謝の気持ちを抱いたとか考えたか」
「い、いえ考えてません!この通行所は大事に使わせていただきます」
じいさんに俺の考えを当てられた時はかなり動揺したけど、気付かれてなさそうだ。
「ですが、学院長。自分は先日の戦闘で脚が負傷しており、遠出は出来ないのですが?」
外出許可が出たのはうれしいけど、俺は今、前回の魔獣との戦闘で脚を負傷して車椅子で生活してるんだけど、この状態で外出してもいいのだろうか?
「なんじゃ、アルよ。儂がお主に何をしていたのか気付いていなかったのか?」
そう言ったじいさんが、俺の脚に取り付けられているギブスを取り外し、僅かに持ち上げて地面に落とした。
ドスン!
ん?今、ギブスからは考えれないぐらい重たい物が地面に落ちる音が聞こえた気がする。
もしかして・・・
俺はジト目でじいさんを睨みつけると、
「ほッほっほ」
笑ってごまかされた。
つまり、じいさんはどのタイミングかは分からないけど、俺の知らない間にギブスを重りに変えていたってことか。
どうりで、ラウン先生は車椅子状態の俺を特訓と称して、車椅子状態で走らせていたわけか。
それに、クレサも止めに入らなかったところを考えると全員がグルだったのか。
地味にショックだ。クレサまでも知っていたとは。
「学院長、いつから俺のギブスを変えたんですか」
「いや、お主の回復力があまりにも異常だったからの。骨の骨折などが二日で完治しておったからそのまま、ギブスを重りに変えてやっただけじゃ」
つまり、俺は二日で傷は完治していたと。じいさんの言葉に少しイラっと来たが、仮にも学院長だ。何か思惑があって、こんなことをしたに違いない。と無理やり自分を納得させていると、
「いや~、まさか自分の怪我が完治したことも分からずに、そのまま重りを付けて生活しておったとか、かなり笑えたわい。いい暇つぶしをありがとう」
こいつ、完全に暇つぶしでギブスを重りとして使いやがった!
「おっと、手が滑った。ふん!」
俺は車椅子で地面に置かれた重りを持ち上げ、力任せにじいさんに重りを投げつける。
「危なっ」
じいさんは俺の行動をギリギリで反応したため、重りには直撃せず、あごに無駄に蓄えられた髭に僅かに掠るのみだった。重りはそのまま、教室の壁にぶち当たり、そのまま、地面に落下するのみだった。
「チッ!」
「今、舌打ちをしなかったか!」
「いえ、気のせいです」
俺は笑顔でそう告げると、じいさんは若干、ひきつった笑みを浮かべていたが、気にしないでおこう。
「まぁ、良い。それよりも、儂と話すより、アルも早く出発したらどうだ?」
確かに、早く俺も出発したいんだよな。どこかのじいさんが俺に変なことをしていなかったらもっと早く出発出来ていたものだけど。
「今から帰るよ、母さん、父さん。」
俺は学院長に再度礼をして、急いで学院から出発し、俺の生まれ故郷であるアルフ村に向かった。




