第28話 レム平原②
投稿が一週間遅れてしまいました。申し訳ありません。
それと、今回の話はクレサ視点で書いてますので、彼女の視点からの物語をお楽しみ下さい。
クレサ視点
ふぅー、
深呼吸を一度行い、乱れた呼吸を整えます。
「お、おはようございます」
朝、挨拶を行ってから教室に入ります。
一瞬、誰が入ったのか確認するためにクラスメイトがこちらに視線を向けてきますが、興味を失ったかのように全員が一斉に視線をもとに戻して、会話に戻っていきました。
私はそんな中で空いている席に着席します。
「今日の校外授業楽しみだね、マゼフ君。今日もよろしく」
「そうだね、こちらこそよろしく」
クラスの中心ではマゼフ君が女子生徒達に囲まれています。いつもの光景です。
話の内容はもちろん、校外学習の件でした。
今日から一泊二日でラシオン近郊にあるレム平原に動物の狩りに行くことになっています。今までの授業では各々、ゴーレム召喚の歴史や召喚方法を実際に行ってみるなどゴーレム使いとしての道を進み始めている状況で、今回の校外学習は学院外で初めてゴーレムの召喚を行い、運用する貴重な機会となっているそうです。
ゴーレムを使用するのは色々な状況でありますが、人族の歴史の中で最も成果を挙げている場面は魔物との戦闘においてです。魔物から身を守る手段や、傷ついた者を助けること。そういった手段を全て示すことができるためです。
ラシオンでは魔物が出ないため、動物を狩ることになっていますが、王都ではゴーレム魔術団に入隊したゴーレム使いが一人前として認めてもらうために、最初に行う試練が魔物との戦闘となっていると、おばあちゃんから聞いたことがあります。
(皆さんは楽しそうにしていますが、命を奪う行為を私は出来るか、心配です)
確かに、私もゴーレム使いになりたいとは思ってますが、命を奪うことよりも、ゴーレムがもたらす恩恵を使って、傷ついた人達を助けたいだけ。
だから今回の授業は、それほど乗り気になれません。
そういえば、アルベルト君は今回の校外学習に行きたいと言って楽しみにしていたのに、行けないことになるなんて、とても残念です。
アルベルト君が参加してくれたら、楽しいと思えたかもしれません。
代わりに、土産話を持って行きたいです。アルベルト君は喜んでくれるでしょうか?
そう言えば、最近は何かにつけてアルベルト君のことを考えているかもしれません。
それに彼のことを考えると、胸が少し締め付けられる感じがありますが、この感覚は何なんでしょうか?
「ほら、席に着け。校外学習の説明をする。さっさと目的地に向かうぞ」
気が付けば、始業時間になっており、ラウン先生が前扉から教室に入って来ます。
いよいよ、校外学習が始まるみたいです。
校外学習を行う場所は、学院があるラシオンの街から半日程度で到着するレム平原です。
今回の行程は、昼過ぎに現地に到着。その後に寝床の準備と各自で持参した食料を元に夕食を用意するみたいです。
狩り自体は日が沈んだ時間から、太陽が真上に来る時間まで。目標は1生徒につき、一匹の動物を仕留めることが言い渡されています。
どうして夜から狩りを行うのか、私には分かりませんが、ラウン先生には何か考えがあるのかもしれません。
「よし、これから狩りを行う。俺達の目標数は最低3匹。各々が使える最大限の力を使って今回の校外学習を終わらせようぞ」
「スピー、スピー」
「こら、シモン。寝るんじゃない!さっさと起きんか」
起きる気配が全く感じないクラスメイトのシモン君を必死に起こそうとするグリル君。
時間は既に日没になり、狩りの時間が始まっています。でも、私がいるパーティーメンバーの雰囲気は凄く軽いものです。
今回の校外学習では、同じクラスの生徒同士で、パーティーを組み、狩りを行うと言うルールが設けられています。
私には仲のいいクラスメイトがいないので、グリル君のパーティーに誘ってもらえた時は嬉しく思いました。でも・・・
(この調子で大丈夫なのでしょうか?)
そんな二人のやり取りを見て、私は少し不安になってしまいました。
「ダメだ、起きん」
シモン君を起こすことをあきらめたグリル君はリュックから一枚の紙を取り出し、地面に置きました。その後、地面を掘り起こして土をかき集め、紙の上に乗せています。
「我が呼び出すは意識ある土の人形。いでよゴーレム。」
そして、ゴーレムを呼び出すための詠唱。
無作為に置かれた土の塊が徐々に形作り、大きな腕の形になりました。
私達が授業で習う、基本的なゴーレム召喚の流れをグリル君が行っています。
「凄い、です」
その光景を見て私は思わず、呟いていました。
だって、一部でも、これだけ人間の形に近いゴーレムを私は見たことがありません。
一般のゴーレムは素材の形に近いものから順番に、人型、異形型と形作るのが難しくなってきます。
ゴーレム召喚できる数や大きさ、形作るのも全ては召喚者が持つ魔力量によって決まります。
つまり、手だけでも簡単に作ってしまうのは凄いことです。
「お主の役割は・・・そこに寝ている馬鹿を運ぶことだ」
ゴーレムにシモン君を運ぶように命令を出しています。
召喚するゴーレムも凄ければ、使い方も凄いです。
「クレサさんも、そろそろゴーレムを出してもらってもいいか?狩りを始めよう」
一仕事を終えたグリル君は少し怒っているように見えました。
「は、い」
というよりも、シモン君が起きなかったことに対して、完全に怒っていました。
「よし、こんなものか」
太陽が頂点に登り、そろそろ校外学習が終了する時刻になりました。
結論から言うと、私とグリル君で合計8匹の動物を狩ることができました。
狩った動物は兎から始まり、大きいものですと猪まで含まれます。
グリル君がシモン君を運ぶために出したゴーレムを3体召喚して、動物を追い込み、私が木を媒体にして召喚したゴーレムで動きを拘束して、仕留めるという方法で次々と動物を狩ることができました。
あとは今回狩った動物たちをラウン先生が待つ休憩所まで持って行くことができれば、授業は終了です。
(正直しばらく、こんな行事は行いたくないです)
今回の校外学習で分かりました。やっぱり私は命を奪うことをしたくありません。
一つ良かったことは、誰も怪我をしなかったことでしょうか。持って来た薬草も何一つ使わずに授業を終えれそうです。
「そろそろ帰ろうか」
「そう、ですね。そう言えば、シモン君は、起こさなくても、良かった、のですか?」
「あ~、起こさなくても大丈夫ではないか?いつもこんな調子だし」
「そう、ですか。分か、りました」
雑談をしながら、休憩所に戻るため、私達は歩き出しました。
話の間にアルベルト君の介護のことも自然に考えていました。
そうです。今回の校外学習の話をいっぱい聞かせてあげたいましょう。
「クレサさん、そこまで速く帰らなくても集合時間までには間に合いますよ」
アルベルト君のことを考えていると歩くペースが自然に速くなっていたみたいです。
「ごめん、なさい」
回りのペースを乱してしまったことに少し反省です。
冷静になり、辺りを見渡し、一つの違和感に気が付きました。
「グリル、君。あれ、は何で、しょうか?」
私達から少し離れた、そう。丁度休憩所の付近から、黒い煙が立ち込めていました。
隣を歩くグリル君に顔を向けると、彼の顔は真っ青になっていました。
そして、休憩所に向かい駆け出して行きました。
「ま、待って、下さい」
私はそんな彼の後ろを訳も分からず追いかけて行きました。