第18話 部活紹介
あの後、勝手に帰ったことがラウン先生にばれ、こってり絞られることになった。
おかげで、昼食は完全におじゃんになってしまった。
「そういえば、お前。部活動はどうするんだ?」
説教が終わった後、ラウン先生と部活動の話になる。
そういえば、そんな話もあったな。退学がかかっている時期なのに部活動の話は出てくるんだな。
「退学のことは一旦忘れろ、常に考えていたら身が持たんぞ。何より、今は学院の生徒だ。部活動を義務付けしているこの学院でお前だけ特別扱いは出来ん。早く決めろよ。期限は残り三週間だからな」
先生の言う通り学院から退学を言い渡されるまでは学院生だ。なら部活動をするのは義務になるのか。
まぁ、部活動でも行って、気分を紛らわせろっていう先生なりの気遣いが地味にうれしい。
「え?三週間も期間があるんですか」
余裕じゃないか。急いで決める必要はないんじゃないか?
「はぁ~」
先生に何言っているんだ、こいつは?みたいな表情された。
「あのな、二組の連中はお前以外全員部活動を決めているぞ」
あれ?みんな部活動を決めるの早くないか。まだ部活勧期間が始まって一週間しか経ってないぞ。
「二組だけじゃない。期限は残り3ヶ月だが、ほとんどの学生は一週間以内に決めている。お前も早く決めないと仲間づくりに乗り遅れるってことだな」
がっはっはと笑うラウン先生。
何がそんなに楽しいのだか。
「まぁ、今日は無理ですね。この後用事があるんで」
「何かあったか?上書きのトレーニングは午前中に終わって、昼からは自由時間のはずだが?」
「ディアス先輩に呼ばれているんですよ。昼が終わってから先輩の教室に向かうようにって」
「ディアスが?そういえば、あいつは今年から新たに部活を始めたとか言ってたな。名前は何だったか・・・」
へぇ、先輩は新しく部活を作ったのか。どんなことをする部活なんだろうか?
部活動名を思い出そうとしている先生には悪いけど、そろそろ時間なんだよね。
「先生、申し訳ありません。これからディアス先輩のところに向かおうと思うので、ここらでお暇します」
「あぁ、行ってこい・・・・・・・・もしかしたら、面白いことがあるかもしれんぞ」
最後の方で先生が何か言ってたけど、聞き取れないほどの声だった。小声になったことだし、どうせ先生の独り言だろう。
先生と別れ、俺はディアス先輩の教室である本校舎の一階、とある教室の前に立っている。
教室は2-1。俺たちの学年と同じくクラス分け戦でクラスを分けているのか、2組、3組には多くの学生が見受けられた。
つまり先輩と同程度の才能を持つ生徒がいるということか。緊張するな。
一度、深く深呼吸を行う。
よしっ、気持ちが落ち着いた。
前扉から入るのは気が引けるので、後ろ扉から教室を覗くと、教卓に一人。椅子には30人ほどの学生が確認できた。
何かの会議でも行っているのだろうか?
教卓の人物は俺に気付いたのか、会議を中断して俺に話しかけてきた。
「アルベルト君、待ってましたよ」
「遅くなってすみません。ディアス先輩」
教卓に立っていたのは、俺を呼び出した人物であるディアス先輩だった。
"自由に座って下さい"と教卓から見て一番手前の椅子に座るように促され、俺は先輩に言われるまま、空いている席に座ることにした。
「全員揃いましたね」
教室を見渡した先輩が、いつもと同じ笑みを浮かべ、話を進めていく。
「まずは、アルベルト君。急な呼び出しにも関わらず、来ていただきありがとうございます。今回君には私が創設する部活動に入ってもらいたくて声をかけました。今から部活動の紹介を行うので、よければ聞いていってください」
あ~、部活紹介の一環だった訳ね。ラウン先生にも言われていたしちょうどいい機会かもしれない。もしかしてこの場にいる学生は全員新入生だったのかな。
周りに座る人物に興味はなかったから、顔は全然見ていないんだよな。最前列に座ったから、今更後ろを振り返って見ることもできないし。
「私の造る部活の名前は"ユートピア"です。この言葉には理想郷という意味があります」
どうでもいいことで悩んでいると、教卓に立っているディアス先輩による部活紹介が始まった。
いけないいけない。ちゃんと聞いておかないと。
「部活では学院に日々舞い込んでくるクエストを受けてもらいます。クエストと言っても新入生の方々には馴染みがないと思いますので、軽く説明します。私たちが暮らすラシオンはサルバトリ王国の副都にあたる都市です。近隣都市とも密に交流を図り、多くの商人たちが行き来します。何より、人口が8百万を超します」
交流か。確かに俺が暮らしていたアルフ村にも、年に一度ラシオンから騎士団が来ていたな。
街から騎士団が来る時は両親たちが長老に呼び出されていた。
村でも、少しお祭りみたいなものを開いてたっけ。
懐かしいな。
「そのため、ラシオンには多くの仕事が日々舞い込んできます。街の子供の世話から始まり、薬草の採取や他都市に出向く商人の護衛等、内容は多岐に渡ります。このような内容は数年前まで、国が保有する騎士団やゴーレム魔術団が協力して解決してきました。ですが、現在は様子が変わってきています。本来彼らの存在は魔獣の出現や他国による侵略があった際に市民を守る盾であり矛なのです。しかし現在では国家間で協定が結ばれ、皆さんが考える”平和”が手に入りました。その結果、私たちの国では市民が安心して生活できるようになりました。逆にこの”平和”によって、本来国を守る騎士団やゴーレム魔術団のレベルの低下が見受けられるようになってきたのです。これが何を意味するのか分かりますか?」
ディアス先輩は一旦話を区切り、部屋全体を見渡す。聞き手に考える時間を取ってくれているのだろう。
意味すること、か。平和なのは確かにいいことだと思う。正直、俺もアルフ村の悲劇に始まり師匠と修行の旅に出るまではそう思っていたよ。
でも、違うんだよな。戦争に関しては分からないけど、確かにこの街では魔獣が出ない。正確にはまだ観測されていない。けど、他の街では違う。魔獣の被害はほぼ確実にでている。
野生に生息する動物と似ているが、その姿は動物よりもドス黒く、そして大きい。その場にいるだけで逃げ出したくなるような圧迫感が常に発せられている。そんな生き物が確かに存在する。
師匠と一緒に何度か戦闘を行ったが、勝率は3割位だったな。あぁ言った存在には遭遇しないのが一番いいけど、それは無理な話だと思う。魔獣の発生原因がはっきりと分かっていない現状、分かっていないのだから。
だから、先輩はこう言いたいのだろう。
「”平和”は常に危険と隣り合わせである」
俺は自身の中の答えをディアス先輩に伝えてみる。
僅かな静寂の中で、ディアス先輩も含めた全員の視線が俺に向いた・・・ような気がする。
プッ!
その中で誰よりも席の一番端に座る生徒が何やら噴き出しているようだ。その様子を見た他の学生の中からも、笑い声が聞こえてくる。
「あはははは!何を言い出すかと思えば、アルベルト。君はなかなかユーモアがあるね。ジョークとしては面白いよ」
この声は確か、バセルか!
俺を謹慎処分に追い込んだ男子生徒だ。
聞き覚えのある声がしたので、そちらに向き直る。
そこには青いブレザーに身を包んだ、銀髪の生徒が座っている。顔には・・・包帯?
「えっと、ごめんなさい。どなたでしょうか?」
学生の顔全体的に包帯が巻き付けられていたのだ。確認できない。
「誰とは失礼だな。分からないかい、僕だよ僕。」
だから誰だよ。こんな包帯姿の変人は知らんぞ。
関係ないけどよく見れば話易いように口回りには包帯が巻かれていない。器用に巻いたものだな。
「人違い、じゃないですかね?」
「そんなわけないだろ!」
包帯男は席を立ち上がり、俺の胸ぐらを掴みかかってきた。
顔は見えないけど、怒っているんだろうな。
「お前のせいで、こんな状態になったんだ。知らないとは言わせないぞ」
そうは言われても。バセルには胸ぐらを掴むくらいのことはしたけど、顔全体に包帯を巻くような怪我をさせた人物に心当たりはないな。
「・・・一発だ。顔面を一度殴らせろ」
怒りに任せているのか、正常な判断ができていないみたいだな。
言葉と同時に男子生徒が拳を振りかざしてくる。
しかし、振り上げられた手は俺に届くことはなかった。
少し考えれば、この場所に誰がいるのか分かっただろうに。御愁傷様。
男子生徒の腕は一人の人物によって止められている。
「今は部活動の時間で、この場所での決定権は私にあります。残念ながら貴方の今の行動は看過できるものではありません。静粛に願います」
先程まで、壇上に立っていたはずのディアス先輩が男子生徒の後ろに回り込んでいる。
「うるさい、うるさい。僕に触るな」
「やれやれですね。一度は忠告しましたので、強行手段に移らせて頂きます」
先輩は呆れたように男子生徒を一瞥した後、鳩尾に拳を叩き込み、騒ぎの現況を沈静化する。
今の一撃は完璧に決まっているから、暫くは起き上がれないだろう。
「さて、この場を騒がしくした学生には寝ていただきました。次は貴方の番ですね」
男子生徒を席に転がした先輩が俺に向かって歩み寄ってくる。
目が笑っていないし、威圧感も凄い。無意識に後退してしまった。先輩恐ぇぇーー
「おめでとうございます。私が出した問題に対し貴方は答えに気付いてくれました」
先程とは一転。ニッコリと微笑む先輩。
問題ってなんだっけ?あぁ、騎士団やゴーレム魔術団の能力低下が今後、どうなるのかっていうやつか。
先輩が恐過ぎて、前の内容が飛んでいたよ。
着席をするように促され、席につく。
「この都市に住む者の多くは先程のバセル君同様、危機管理が出来ておらず、街を守ると言う意識が欠如しています。しかし、それではダメなんです。魔獣や敵は待ってくれません。常にそのことを意識する必要があります。こういった経緯で学院に導入されたのがクエスト制度です。しかし、クエストの半分は護衛系や討伐系であり、死の危険があります。そのため、ほとんどの学生はこの制度を利用したがりません」
絡んできていたのはバセルだったんだ。何であいつは包帯でグルグル巻きにされていたんだ?まぁどうでもいいけど。
ディアス先輩は話の最中に恐い表情に戻ったように見えたが、気のせいかな?
その後も、ディアス先輩による部活紹介は行われたが内容としては一つだけだった。
ゴーレム育成学院の学生のほとんどは、将来ゴーレム魔術団に入団が決まる。言わば内部推薦として一定数の枠が確保されているのだ。そのため、今後の魔術団の意識と実力の向上を目的として学生の間に国内外に仕事を行い多くの経験を得てもらいたい。ユートピアでは生徒が見てみぬ振りをするクエストの依頼をこなしていくことを目的とし、今後全校生徒が積極的にクエストを受けやすいものにするための模範者となることが目的になる。
要はそう言いたいんだろう。
個人的にはアルフ村の悲劇に関して、国外でも似たような事例があるのか現地で確かめたいので、その意味でもこの部活動は丁度いい腰掛けになるんじゃないか。何よりも、俺自身も学院一位にならないと、図書館の資料をすべて閲覧することができない。そういった意味でも同じ部に所属することで現学院一位の先輩の実力を直に見る機会が増えるのは大きな成果になるかもしれないな。
「ご清聴ありがとうございました」
色々と損得勘定を行っているといつの間にか、部活紹介が終わっていたようで、ディアス先輩が話を締めくくっていた。
集められていた生徒たちは席を立ち上がり教室から出ていったようだ。バセルはまだ寝たままだけど。
「学校に出てこれたんだね」
後ろに振り向くとシモンが立っていた。いつも通り明るい奴だな。
「あぁ、ちょうど今日から学校に出てこれるようになったんだ。まぁ、少し問題があって春学期は2組の連中と別クラスで授業を受けることになってるんだけどな」
さすがに退学の件を言いふらす気にもなれないから、適当にはぐらかすことにする。
「へぇ、そうなんだ。じゃぁ特別待遇ってことだ、いいね」
シモンがお気楽に返事を返すことに少しホッとする。
あまり詮索する奴じゃなくてよかった。
ん?そういえばシモンがこの部活動にいるということは入部を決めているってことかな?
少し疑問に感じて話を聞いていると
「そうだよ。僕の他にもグリル君やマゼフ君もいるよ」
へぇ、シモン以外にも2組のメンバーが勢ぞろいじゃないか。というよりバセルのことは特に触れないんだな。
「後ね、一年生主席のシルビアさんも入部を決めているよ」
え、あのシルビアがいるのか。
どうしよう、一気に入りたくなくなってきた。だってあいつクラス分け戦で俺のことをボコボコにしてきたんだぞ。何よりも話しかけにくい印象が大きい。苦手なタイプだ。
「私に何か?」
「あっ、シルビアさん。こんにちは」
「!」
シモンと話していると後ろから声をかけられる。しかも丁度話に出ていたシルビア本人が。
驚いて心臓が止まるかと思った。
「えぇ、こんにちは。隣の生徒は確か・・・」
ジーー
あの、シルビアさん?俺の方を見るのやめてくれませんかね。
まぁ、声には出さないけれども。凝視されるのには慣れてないから、なんというかくすぐったいんだよな。
「ごめんなさい、あなたとはどこかで会ったような気がしますが思い出せないようです」
そして、思い出せないと。うん、これほど誠意のないごめんなさいは初めて聞いたよ。思い出す気ないじゃん!
俺、あなたのゴーレムを吹っ飛ばしたよ・・・
これ以上考えると悲しくなってくるから一旦思考は中断しておこう。
ポンポン
右肩に何かが触れたような気がし、振り返ると親指を突き出すシモンがいた。ドンマイ!みたいな表情をしている。余計なお世話だよ。
「気にしなくても大丈夫。クラスも違うから名前を憶えてなくてあたりまえだよ」
俺は覚えていたけどね。一度戦ったことあるから。
「そうですか、分かりました。気にしないようにします」
俺は相手を気遣って今の言葉を言ったつもりだったんだけど、シルビアは額面道理に受け取ったらしい。
もうどうでもいいや。
「それよりも、ここで話していてもよろしいのですか?」
この話は終わったとばかりに、内容を切り替えてくる辺り、すごいな。
「それってどういう意味?」
「言葉通りの意味です。あなたもユートピアに入部予定ですよね。今からディアス先輩が競技場βで新入部員の実力を計るそうですから、早く向かった方がよろしいですよ」
実力を計る?そんな話聞いてないんだけど・・・
隣ではシモンが”忘れてた”みたいな表情をしている。
えっ、もしかして知らなかったのは俺だけ?そういえば、さっきまで教室にいた生徒が全員いなくなっているし。
「急がないと!」
隣に立っていたシモンが俺の手とシルビアの手を繋いで教室から引っ張り出そうとする。
なんでシモンはそんなに楽しそうしているのか分からないけど、今の様子を見ていると急いで向かわないといけないという実感がまるで湧いてこないな。
「早く!」
シモンによって半ば強引に教室から連れ出された俺たちは目的地である闘技場βに向かうことになった。
教室を出て、シモンを前に走らせていると、
「そういえば、闘技場ってどこにあるの?」
シモンがそんなことを呟きながらこちらに振り返る。
分かってなかったのか、こいつは。
これからのことを考えると少し不安に思えてしまったのはここだけの話である。




