第16話 上書き
「失礼します」
学院長室に入ると、学院長であるじいさん・・・もといロンドベルとラウン先生がいた。
じいさんは部屋の中央に置かれているソファーの一つに座り、ラウン先生はその隣で立っているという構図だ。
「よく来たの、まぁ、座りなさい」
じいさんに向かい合う形で、ソファーに座る。
「それで、お、僕の処遇はどうなりましたか?」
ここに呼ばれたのは、ゴーレム召喚できない俺が学院に残れるのか。
それを、知らせるために設けた場だろう。
だから、無駄な話は無くし、単刀直入に尋ねてみる。
間違って、俺と言ってしまいそうになったが、気にしない。
「処遇とな・・・ふむ。謹慎処分は解けておるからお主がこの場におるのではないか?」
いや、何で処分を与えた方が疑問系で返してくるんだよ。
「そっちじゃなくて、ゴーレム召喚できない俺がこの学院にいていいのかってこと」
「おぉ、そういうことか」
ポン!と手を叩いている。
絶対分かっていただろ。何で、気付かなかった雰囲気を出しているんだよ。
「確かに理事会でお主のことは取り上げられたよ。”ゴーレム育成学校なのにゴーレム召喚さえ出来ない学生がいるのはいかがなものか”とな」
そりゃそうだよな。この学院はゴーレムについて学ぶ場所だからな。
「だがの、過去の学生でゴーレムを召喚できない生徒も確かにいたんじゃよ。確かに珍しい事例ではあるがな。そやつは見事に卒業しよったよ。だから言ってやったのだ、ゴーレム召喚だけで考えるのはおかしいとな。そしたら理事会の連中が何と言ってきたか分かるか?」
知らんわ。何で、こっちに問いかけてくるんだ。答えを先に言えばいいじゃないか。
えーと?何か条件を出してきたとか、かな?
「それはの。夏学期中にゴーレムを使役していなければ、退学してもらうことじゃ」
ほら、俺が回答する前に答えを言ってしまうし。待つ気が無いじゃないか。・・・と言うよりも
「た、退学!」
予想はしていたけど、実際に言われると堪えるものがあるな。
夏学期ていうと、残り約5ヶ月しかないじゃないか!
「そんな目で見ないでくれ。儂だって頑張って交渉はしたんじゃ。と言うことで次はお主が頑張ってくれ」
じいさんはヨヨヨと泣き崩れた振りをしている。
このじじい、俺を使って完全に遊んでいやがる。
腹が立ったが、口に出すと後が怖いので言葉を飲み込んだ。
冷静になり、そして思い出す。
そういえば、じいさんはゴーレムマイスターだったよな。だったらゴーレムの”上書き”について何か知っているかもしれない。
「学院長、図書館で本を漁っていると、ゴーレム契約の上書きといった内容がありました。これは今回の退学問題を解消する手がかりになると考えているのですが、どうなのでしょうか?」
ディアス先輩に聞き謹慎期間中に発見した、俺がゴーレムを使役出来る唯一の方法。しかし、どの本を探しても、名前程度が出てくるのみで具体的な方法までは記されていなかったのだ。
「うむ。儂が思い当たる限りだと、お主が述べた上書きを行うほかあるまい。そう考えていたところじゃ。しかしの上書きに関してはそれほど研究が進んでいないんじゃ。」
なんでも、他人のゴーレムと再契約するのはほとんど不可能に近いらしい。理由は簡単で、一度ゴーレムに流されたゴーレムの魔力を簡単に塗り替えることができないから、らしい。
通常ゴーレム召喚をする際にゴーレムには召喚者の魔力が刻まれ、召喚後も一定期間行動出来るようになるのだそうだ。もちろんこの段階のゴーレムには召喚した際に注いだ魔力しか入っていない。その後、召喚者とゴーレムの同意がなされれば、ゴーレムは召喚者から魔力の供給を定期的に受けるために、”パス”と呼ばれる魔力で出来た連絡線を結ぶことになっている。
それだけ人とゴーレムとは強固に結ばれ、他者が入る余地が無いといった感じか。
じいさんから聞いた話をまとめてみると不可能という答えしか無いじゃないか。
実際、これまで上書きについてはほとんど調べていなかったのだし。
「お主がどう考えているのかだいたい想像がつくが、話は最後まで聞け」
あきらめた様子が顔に移っていたのか、じいさんに注意される。
俺的にはそれほど落ち込んでいる雰囲気を出しているつもりはないんだけどな。
「じゃあ、どうすればいいんだ?今の話を聞く限り上書きは不可能に近いんじゃないのか」
「あくまでも、ほとんど不可能に近いだけじゃ。儂の知る限り過去に二人だけゴーレムの上書きを成功させた者を見たことがある。その内一人はこの目で直接確かめたからの、間違いないはずじゃ」
目を瞑ったじいさんが、ポツリポツリと話し始める。
「儂が直接見たのは、学院長になってすぐのこと。今のお主と同じく、一人の学生がゴーレム召喚出来ないでいたが、そいつは自身の全魔力を強引に流し込み、ゴーレムの上書きを成功させてしまった」
しかし、じいさんが言うには、上書きを成功させた学生は儀式が終了して直ぐ、意識を失い、そして帰らぬ人になってしまったらしい。
「奴の死は魔力欠乏による人体損傷が原因だった。儂が儀式の場に治療班を配置していればあのような事故は起こらなかったんじゃ」
人類史上二人目のゴーレムの上書き成功事例は一人の学生の犠牲によって終わったようだ。
じいさん的にもかなり堪えたものがあったのか、言葉の端々に自分を責めているような雰囲気が現れていた。
ゴーレムの上書きには死が伴っている、俺にその死と向き合うことが出来るか?
つまりじいさんはそう言いたいんだな。
「アルよ、ゴーレムの上書きを行うのであれば儂は全力でお主を手助けするぞ。次こそは死なせたりせん。しかし、覚悟は持っていて欲しい。勿論、お主が嫌なら断ってくれて構わん。その時は再度、儂の方から退学の件、理事会に交渉してみようと思う」
ソファーから腰を上げたじいさんが、俺の腕を優しく包み込む。
こういったところは年輩者だと思ってしまった。
覚悟、か。
・・・・・・・え?そんな覚悟ないよ。当たり前じゃん、好き好んで死にに行くような馬鹿な真似はしないよ。
「俺は、死にたくありません」
俺の命は両親が守ってくれたものなんだ。簡単に死を選べる訳無いじゃないか。それに、俺にはこの学院でアルフ村の悲劇について調べる必要があるんだ。
だから死にたくない。
「・・・そうか。分かった、儂が精一杯、理事会の連中に交渉してみよう。もし無理だったとしても、儂の秘書という名目で学院に残してやる」
何を言っているのだか、このじいさんは。まだ結論までは言っていないんだけどな。
「じいさん、俺の言葉を最後まで聞いてくれ。俺は無駄死にはしたくない。けど、ゴーレムマイスターであるじいさんが守ってくれるんだろ?なら死の心配はない。俺はじいさんを信用するよ。だから、俺はゴーレムの上書きに挑戦してみようと思う」
「本当にいいのか?」
心配そうな表情を見せるじいさんに少し呆れてしまう。
今更迷う余地はないと思うけどな。
「じいさん、確認はなしでいいじゃないか。俺が決めたことなんだ。
俺は学院に残って、母さん同様に学院生活を楽しむ。そしてアルフ村の悲劇について調べる。じいさんは、過去に助けてやれなかった学生の無念を晴らすべく、俺を助ける。
お互い、やりたいようにすればいい、堅く考える必要は無いと思うけどな」
「・・・・・」
「じいさん?」
下を向き、何故か黙りを決め込んでしまうじいさん。このタイミングで無言とか恥ずかしいからやめて欲しいのだが。
後、一連のやり取りを見ているにも関わらず、終始無言のラウン先生が地味に怖い。
等と考えていると、下を向いているじいさんがクツクツと震え出す。
どうかしたのだろうか?心配になりじいさんの顔をのぞき込んだとき
「あっはっはっはっは!」
じいさんの高笑いが室内に響きわたった。
気が狂ったか?
「いやなに。まさか12歳の小僧に説かれるとは思わなかったものでの。少し驚いてしまっただけじゃ。」
うん、気が狂った訳じゃなく、いつも通り・・・そう、いつも通り人をからかう時の表情だ。
「お主の心意気、しかと承った。安心して儂に任せてくれ。・・・話しは聞いたな、ラウンよ」
握っていた手を離したじいさんが、今度は俺の肩を叩くようになった。
痛いからやめて欲しい。
俺の背中を叩きつつ、じいさんはラウン先生に向かって話しかけていた。
もしかして先生は承認役としてこの場いたのかもしれない。
「はい、しっかり聞きました。これで心おきなくこの小僧を教育できます」
え?教育って何。そんな話し聞いてないんだけど。
ラウン先生もいい獲物が見つかったみたいな笑みを浮かべないで!
もしかして、と思うが
「えーと、学院長。全て計算ずくでした?」
やり取りは兎も角、最終的にゴーレムの上書きをさせる気満々だった・・・とかないよね?
「はて、なんのことやら。最近物忘れがひどくてかなわんわい」
ですよね~。これ完全に填められた感じだ。道理で最後じいさあんが笑っていたわけだ。ラウン先生もこの結末が分かっていたから、口を挟まなかったと。
うん。これからこの二人は信用しないでおこう。
「お主から言質も取れたことじゃし、今後の方針を決めていこうと思う。お前もいつまで隠れているのだか。入ってよいぞ」
俺の後ろにあるドアが開く音が聞こえた。
じいさんに呼ばれた人物がソファーに座る俺の横を通り過ぎ、ラウン先生の隣に立つ。
その人物にはかなり見覚えがあった。
俺が謹慎処分を与えられた時に授業を行っていたロゼ先生だ。
ロゼ先生は入室してから、ずっとキョロキョロと辺りを見渡している。
はっきり言って、挙動不審だ。
じいさんも頭を抱えているようだ。
「はぁー、ロゼよ。いくらアルベルトに会わせる顔が無いと言ってもその行動はいかがなものかの」
ん?ロゼ先生がどうして、俺と合わせる顔が無いんだろう?
「学院長、やめてください。いや確かに、原因は私にあるのですが・・・・・」
学院長に話を振られたロゼ先生がぶつくさと話しているが、小声のため全く聞こえない。
「まぁよい。アルベルトよ。これからお主にはここにおる二人、ロゼとラウンが夏学期の間、お主を鍛えることになる」
「僕はクラスで授業を受けるのでは無いのですか?」
てっきり、クラスごとの授業を行った後。放課後に指導を付けてもらえると思っていたのだけど、どうやら違うようだ。
「残念じゃが、夏学期中はお主一人で鍛えねばならん。どう考えても時間が足りないんじゃ」
学院長が言うには、上書きを成功させた生徒でも学院生活全てを犠牲にしてやっと成功に結びつけることが出来たらしい。
なので、普通にやっているようでは夏学期中には到底間に合わない。
そのため、授業は朝に座学も交えた実践をロゼ先生が。昼からは体力トレーニングや模擬戦闘をラウン先生が担当することになっているそうだ。二人ともゴーレムマイスターとしてのじいさんが一目置くほどの実力者のため、今回のトレーニングに選んだそうだ。
一日中特訓を行うものだと思っていたけど、どうやら違うらしい。じいさんが言うには半日。それも午前中に行う方が身体的にも魔力的にもいいらしい。
理由は聞いたけど小難しいことを言われて終わってしまった。
それに俺的に体力トレーニングは必要なのか、疑問ではあったのだけど、上書きには体力も必要になってくると言われてしまった。
「それでは、ロゼよ頼んだぞ」
「は、はい。かしこまりました。それじゃあ、アルベルト君行きましょうか」
緊張する先生によって学院長室を後にすることになった。
「辛いかもしれんが何とか乗り切ってくれ」
部屋を出る直前、じいさんが何か述べていたが、あまり聞こえなかった。




