第12話 ゴーレム召喚
実習室は学院校舎内の1階にあった。
部屋には六人掛けの長方形型のテーブルが4つ置かれている。
人数の関係上、黒板が置かれている方面から前の二つに生徒が固まっている。
それぞれのテーブルの上には直径60cm程の水晶が置かれている。
「アルベルト君は空いている席に座ってちょうだい」
ロゼ先生に促されるまま、席に座る。
同じ机にはシモン、クレサが座っている。後は・・・・・えーと、うん。昨日の自己紹介の段階で”ブタ”呼ばわりをして欲しいと宣言したグリルの合計4人が座っていた。
う~ん、グリルという生徒にはあまり関わりたくはなかったんだけどな。
だって、明らかに挙動がおかしいし。
まぁ、仕方ないか。
少しだけ周囲のメンバーの顔を眺めているとシモンが笑顔で手を振り替えしてきた。
よく分からないがとりあえず手を振り替えしておいた。
「今回が初めての授業ということですから、手始めに君たちには実験をしてもらおうと思っています」
教壇に立つ先生は教壇の下から机に並べられている水晶と同じ物を取り出す
「これは、魔晶石と呼ばれる鉱石で、皆さんの中。つまりは体内にある魔力を計る物でもあるの」
試しに先生が水晶に手をかざすと、水晶の中は次第に青くそして弾けるように輝きが増してくる。
「きれい」
クラスメイトの誰が発した言葉なのか分からないが、恐らくこの場にいる全員が同じ感想を抱いたことだろう。
図書室にある検索用のクリスタルと似たようなものなのかもしれない。
ふと、そんな感想を抱いてしまった。
時間にして一分と満たない時間が過ぎた頃
次第に光が弱まっていることが分かった。
「はい、これでお終い。どうだった、綺麗だったでしょ?」
得意げな先生に対し、俺たちは無言のままだった。
その様子に先生が次第にアタフタしだす。
「先生何か失敗したかな?」
「それ私にも出来る?」
一番最初に反応したのは、元気いっぱいのアドミラだった。
目がキラキラしていると錯覚するほど興味を示している。
その様子に満足した先生が黒板に文字を書き始める。
「出来ますよ。この学院の入学条件が魔力の有無で決まってますから」
話しながらも先生の腕は止まらない。
「今、君たちが見た水晶の輝きは青色だったのを皆は覚えているよね。この色の違いこそ、ゴーレムを召喚する際の重要なポイントになってくるの」
黒板の文字を書き終えた先生がこちらに振り返る。
黒→全属性型
赤→人型
青→元素型
緑→自然型
黄→土型
茶→鉱物型
黒板にはこのような内容が記されている。
型って何のことだろうか?
「ゴーレムを召喚する時には依り代が必要になるの。今回の実習では皆の型がどの系統に属するのかを調べることになるわ。私の場合だと青色の光だったから、元素型の依り代が最も相性がいいってことになるわ」
「先生。これは反応があった系統の依り代しか使えないのですか?」
「いいえ、この水晶ではあくまでも一番扱いやすい系統を調べることができるだけなの。だから、私は青色の光しか出ないけど元素型以外に土型も使えるわよ」
”みんなもやってみて”という先生のかけ声と共に、二つの机で実習が開始された。
「僕がやってみてもいいかな」
シモンが少し腕を上げて挙手の構えをとっている。
同じ机に座っている生徒で最初にやりたがる人がいなかったので、なんなく許可が下りた。
やや緊張した様子のシモンが水晶に手を乗せる。
ほんのりと赤色に染まった気がする。
赤色は・・・人型?
黒板に板書された文字を読むとそんなことが書かれていた。
人型ってどういう意味だろう?
「へぇー。珍しいわね」
たまたまこちらの机に近づいていた先生がそんなことを述べる。
「僕の型は珍しいんですか」
「ええ、この型はあまり見ないわね。人型は人の命、生命力を媒介にゴーレムを召喚できるものなの。もちろん用いる人の了承があって初めて成立する型よ。そのかわり、この方法で召喚されたゴーレムは他の召喚方法で出てきたゴーレムよりも性能が高い場合が多いの」
へぇー、人型ってそんなに凄いのか。
前の席ではシモンがポカーンとした表情になっていた。
恐らく理解できていないのだろう。
おおー!
隣の机でそんな言葉が聞こえてきた。
どうしたんだろう?
もう一つの机では弱い光ではあるものの黒色の発光が見られた。
うへぇ~、黒色は確か・・・全属性使えるんじゃなかったか。
発光させている人物はだれだろうか。
見たところ、記憶には一切にいない人物だ。
確か昨日自己紹介を行っていなかった男子生徒だ。
顔を見た感じ、このぐらい出来て当たり前みたいな表情をしている。
何人かが賞賛しているが、男子生徒は「君達の適正が低いんじゃないですか?」
等の嫌みを漏らしている。
なんだか感じが悪そうなやつだな。
気を取り直して俺の机に気を戻す。
こちらでは、丁度クレサが水晶に手をかざしているところだった。
顔が少しこわばっているように見える。
どうしたんだろう?
少し様子を見てみると、「緑色、緑色、緑・・・」
って言う呟きが聞こえてくる。
緑色は自然型だな。
黒板に書かれている内容を見て確認する。
そういえば昨日の図書館で薬草辞典を借りている位だから、その繋がりで自然に関係するゴーレムを召喚したいのかな。
徐々に水晶が光り出す。
光が強く輝きを増す中、一つの色が浮かび上がる。
色は緑。彼女が望んでいる色だ。
クレサを見ると、反応が見られなかった。
前髪で目が見えないが、もしかしたら目を瞑っているのかもしれない。
その証拠に全身に力を入れてプルプルしている。
おまけに”緑、緑”と言っていることから間違いないだろう。
「クレサさん、水晶の発光がしてるよ」
「は、はい」
先生はもう一つの机に様子を見に行っているため、この様子を止める者がこの場にいなかった。さすがに見てられないので、声をかけると裏声の返事が返ってくる。
かなり緊張しているようだ。
「や・・・やったー!」
テンションがあがっているのかクレサは大きな声をだしている。
昨日の自己紹介時や図書館で話したときには見せなかった声量だ。
俺は驚きのあまり思わず椅子から落ちそうになった。
危ない危ない。
周りの生徒も同じだったのか、全員がクレサに注目している。
「おめでとう、クレサさん」
場の空気を読んだであろう先生が声をかけに行く。
クレサも周りの様子に気付いたのか、顔を真っ赤にしながら席に座る。
着席前に「す、すみません」
と言っていたのだが、声が小さいため周りには聞こえていないだろう。
席に座ってから、一瞬だけ俺の方に顔を向け、ペコリと頭を下げていた。
「アルベルト君、先にやりなよ」
グリルがこちらに視線を向けながら話しかけてくる。
「分かった。それじゃあ、遠慮なく」
「その代わり・・・俺のことを罵ってくれないか?」
・・・へ?今の流れおかしくなかったか?
恐る恐る、グリルを見るとワクワクした顔をしている。
やばい、こいつマジだ。
どうしたものか。
うん、無視しよう。それが一番確実だ。
さて、俺は何色に光るだろうか。希望はやはり黒色か青色なんだが。
こればかりは水晶で見てみないと分からんな。
横では”これが放置プレイか”と言いながら息を荒げる生徒がいるがとにかく無視だ。
俺はそっと水晶に手を乗せ、目を閉じる。
何故目を閉じるのかって?
決まっているじゃないか。結果は直前まで分からない方が面白い。
等と一人で考えていると、体の中にある魔力が水晶に吸収される感覚があった。
どうやら魔力を水晶に取り込んで発光しているようだ。
持って行かれる魔力は全体からみるとほんの一部のため、体には影響がない。
さてさて、俺の色は何色だろうか。
水晶が光り出しているタイミングで目を開ける。
・・・・・白色?
そう、水晶は白色に光っているのだ。
そんな項目が黒板にあったかな?
板書された内容を確認しても、白という項目は書かれていなかった。
試しに先生の方を見ると、目を見開いていた。
もしかして、板書されないほど特殊な型なのかも。
母さんがこの学院始まって以来の優等生だったんだ。俺だって、ゴーレム使いの才能があるってことか。
色々な期待感で心臓がバクバクしてきた。
この間も水晶に魔力が込められている。
光は水晶内に留まらず、教室全体に広がった。
眩しさのあまり思わず目を瞑ってしまった。
目を開けると先生が正気を取り戻りてこちらに歩いて来るところだった。
何故か困惑顔でだ。
俺は水晶から手を離した状態で先生を待つ。
教室全体を光で覆ったことから生徒全員の視線が俺に向けられる。
「アルベルト君。もう一度、もう一度水晶に手をかざしてもらえる?」
先生が提案してくる。
そんなに見たいのかな。
俺は再度水晶に手を乗せると先程と同様に白い光が発せられた。
光を見る先生が険しい表情になってくる。
「もういいわ、ありがとう」
「?はい」
何をさせたかったのか分からないので、間の抜けた声が出てしまった。
先生はブツブツ言っているが小声すぎて聞こえなかった。
「結論から言うわ。君にはゴーレムの召喚はできない」
「・・・え?」
先生が何を言っているのか分からない。
どういうことだ。魔力が無い人間では召喚は不可能とは聞いていたけど、魔力がある人間でゴーレムを召喚することができないといった話は聞いたことがない。
何がいけないんだ?
分かったぞ。先生は冗談を言っているんだな。
先生が申し訳なさそうに顔を伏せているけど、あれは演技で実は特殊な素材で召喚できる型だって言ってくれるんだろう。
全く人が悪い先生だ。
さぁ、早く言ってくれ。
さぁ!
「白色の魔力にはどの型も反応しないの。これは過去からの研究で証明されていることだから、絶対。でも白い魔力を持つ人は過去から見ても少なく、とても珍しい存在よ」
先生は明るい声で励ましてくれるだけだった。
そう、励ましてくれているのだ。
冗談を言っているわけでもなく、ましてや嘘でもない。
それってつまり、俺には魔力があっても使えないただのお荷物だっていっているようなものじゃないか。
「あはははは」
別の机から一人の生徒が笑い声を上げる。
「それってつまり、この学院では役立たずってことですよね」
いつの間にか下を向けていた顔を上に持ち上げる。
声の主はさっき、水晶を黒色に発光させていた人物だ。
「やめなさいバセル君」
隣に立つ先生が男子生徒、もといバセルを注意している。
「でも先生。この学院はゴーレム育成学校ですよ、ゴーレムを召喚できないならここにいる意味が無いでしょ?まぁ、俺は全属性を扱えるから関係ないけどね」
嫌みったらしく色々呟き、先生が注意をしているが、もはや今の行動自体耳に入ってこなかった。
「うるさい」
「お、お前。何しているのか分かっているのか」
気が付いた時にはバセルの胸ぐらを掴んでいた。
向こうは焦っているのか、声が裏返っている。
「アルベルト君、手を離しなさい。それ以上の行動に出てしまうと処罰を下さないといけなくなる」
処分?どうせ、ゴーレムが召喚できなければそいつの言うとおりただのお荷物だ。どうなっても、関係ないだろう。
だから俺は気にしない。そのまま空いている左手でバセルの顔を殴ったのだった。
後になって振り返れば、この時の行動はただの八つ当たりでしかなかった。
母さんが学院始まって以来の天才。俺自身もゴーレムマイスターである師匠に面倒を見てもらったことから、知らず知らずのうちにゴーレムに対する才能が備わっていると考えていたようだ。
まぁ、そんなものは一切無かったのだが・・・
こうして、俺は学院から1週間の謹慎処分を言い渡されたのだった。




