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第五話「鍛冶師レイン」

というわけで、クラスメイト視点になります。

「ふう。大分歩いたね……なのに見えるのは壮大なる草原ばかり。時々、休憩に良さそうな岩とかがあるけど……」

「人どころか、鳥一羽すら見かけないね。村とか町とかそういう場所も今のところないし」


 突然異世界に召喚された私達は、召喚先の森を皆で抜けてからさっそく飛鳥くんの捜索に入った。ちゃんとすぐに抜け出せるような範囲で探して、成果は……なし。

 やっぱりもっと奥の方にいるかもしれない。

 皆がそう思ったけど。さすがに、このまま森の奥へと進むのは危険だと寺島先生が判断した。携帯で連絡しようにも当然のように電波はない。


 私達は、飛鳥くんがこの森ではなく別の場所にいると信じて歩き出した。

 私を初めとした、女子組みや清くん達はずっと飛鳥くんのことを気にして森から離れられなかったけど。これ以上私達には何も出来ない。

 このまま森の前で、日が暮れるの待っていたら今度は私達が危険に晒される。決して、飛鳥くんのことを諦めたわけじゃない。

 だけど……。


「……」

「ソフィー。どうしたの?」


 会話がない移動の中、ずっと俯いていたソフィーちゃんを気にして望ちゃんが話しかける。ソフィーちゃんは、スマフォを取り出し写真などが保存されているアルバムを開いた。

 そこに保存されている一枚の写真。

 それは、元気に自作の木の剣を構え、私と対峙している場面のものだった。


「あ、これ去年の夏休みに撮ったものだよね」


 飛鳥くんが、自慢げに木の剣を二本持ってきて突然打ち合いをしようって言い出したんだ。なんていうか、いつまでも子供な心を忘れていないって感じ。

 私も、ついノリで勇者ごっこみたいなことをしちゃったっけ。


「はい……飛鳥さん。ご無事、でしょうか」

「ずっと、心配していたんだね」

「まあ、飛鳥はソフィーのお師匠さんみたいな感じだからねー」

「お師匠さんって……ただ、日本の文化とか田舎のいいところを教えていただけでしょ?」

「でも、一番ソフィーに教えていたのは飛鳥でしょ?」


 飛鳥くんは昔から、面倒見が良かった。

 私が転校してきた時も、都会っ子だった私に景色がいいところ。学校への近道。自作の秘密基地など。色んなことを教えてくれた。

 中学生になってからは少し大人になったというか、落ち着きが出てきたというか。まだ昔の名残はあるけど身長も伸びてきたし、体つきも大人って感じになってきている。

 一緒にプールに行った時に見た時は、運動部じゃないのに腹筋が割れていたのを覚えている。


「ソフィーちゃん」

「さなえさん?」

「大丈夫。飛鳥くんは、言っていたよ。俺は、森で一週間サバイバルをしたことがある! だから、もし突然異世界へ飛ばされても生き延びる自信がある!! って」

「いや、さすがに異世界とあっちじゃ勝手が違うと思うんだけど」

「まあまあ。飛鳥だったらなんとかしちゃうんじゃない? ね、ソフィー」


 私達の笑顔を見て、ソフィーちゃんは少し口が笑った。


「はい。私もなんとなくですが、そう思ってきちゃいました」


 よかった。元気になって。

 でも、実際のところどうなんだろう。望ちゃんの言うことは、一理ある。こっちでは、生物や植物の違いがあるから、知識があっても……。


「あれは……」

「先生どうしたんですか?」

「人だ!! 人がいるぞ!!」

「人!?」

「マジで!?」


 と、考え込んでいると寺島先生が人を見つけた声が耳に届く。

 私も思わず顔を上げて視線を向けた。

 確かに、人だ。丁度いい大きさの岩に腰掛けて分厚い本を読んでいる。傍らには、それは大きなリュックサックが置かれていた。

 相当物が詰まっているのかな? となると商人さん?


「先生! さっそく話しかけてみましょう!!」


 清くんがそう言うが、寺島先生は足を止めたままだった。


「どうしたんですか?」

「いや……もしここが別世界だったとしたら、言葉とか通じるのかってな」

「あっ、そういえば」

「け、けどよ。こういう召喚ものって大抵最初っから言語とかは共通になっているもんじゃね?」

「そうなのか?」


 確かに、異世界ものではよく最初から言葉が完全に理解できているというパターンが大半を占めている。それから文字などを書けたり。時々、言葉だけ理解できて文字が理解できないというパターンも多いけど……私達の場合はどうなんだろう。


「そ、そうですよ先生! 思い切って話しかけてみましょう!」

「そう、だな。よし、行くぞお前達」


 寺島先生は覚悟を決めて歩き出す。

 そして、後六メートルというところで本を飛んでいた人は私達に気づき本から顔を上げる。


「読書中にすみません。少々よろしいでしょうか?」

「ん? ああ、別に構わないよ」


 よかった、言葉はちゃんと通じるみたいだ。それがわかり、寺島先生も安堵したように息を漏らす。

 白いシャツは、谷間が見えるぐらいボタンを外しておりポケットが左右で六つほどあるベストを着用している。肌にぴったりと張り付くようなズボンを穿きかっこいいお姉さん、という印象だ。

 炎のように赤い髪の毛は肩まで伸びており、驚くことに左右の目の色が違う。

 左目が翡翠色で、右目が青色だった。所謂オッドアイというものには思わず惹かれてしまった。


「信じて頂けるかわからないのですが……」


 それから、寺島先生はこれまでの経緯を全て話す。お姉さんは、話を途中で切ることなく最後まで無言で聞いていた。


「っと、言うわけなんですが」

「ふむ。別世界から、ねぇ。そりゃ、大変な目に遭ったな。あんたらが転移した森は【ツバラの森】と言って攻撃的な動物や虫、植物なんかが大量に生息している森だったんだ。そんな森で、よく一人も欠落せず生還したものだよ」


 そ、そんなに恐ろしい森だったんだ。

 お姉さんの話を聞いて、私達は身震いをする。自分達はよほど運がよかったんだ。もし、あのまま森にい続けていたらどうなっていたことか。


「あの、信じて頂けるのですか?」

「んあ? あんたらが、別世界から来たって話かい?」

「は、はい」


 あっさりと信じてくれたことで、少し寺島先生は反応に困っている様子。本来なら、簡単には信じてくれないものだとそう思っていたんだと思う。


「信じるさ。あたしは、人を見る目は良い方なんだ。あんたから感じるものは、真摯なものだ。悪意なんて全然感じられない。それに、この世界では召喚魔法は普通にあるし、別世界から召喚される奴らなんてこれまで数え切れないほど見てきたからねぇ……もう慣れちまったよ」


 そんなにこの世界では、別世界からの人達が召喚されてくるものなんだ……。


「さて、大体の話は理解した。そこで、まずは自己紹介といこうじゃないか。お互いに、名前を知らないんじゃまともに会話も進まないだろ?」

「そうですね。では、俺達から。俺は、寺島絃児です。そして、俺の教え子達で」


 寺島先生に続き私達も軽い自己紹介を開始した。

 そして、最後にソフィーちゃんが終えたところで、とうとうお姉さんの番。お姉さんは、岩から腰を上げ腰に手を当てて自己紹介を始める。


「あたしは、レイン。まあ、鍛冶師をしている」

「鍛冶師? ということは、その大荷物は」

「ああ。これは、武器を作るための鉱石なんか詰まってんだ。自分で素材を採った方が色々と達成感ってものがあるからねぇ。さて、自己紹介を終えたところでだ。これから、あんたらを近くの街まで案内してやるよ」

「いいんですか!?」

「言いも何も、そのつもりであたしに話しかけてきたんだろ? それに、あたしも丁度素材採取を終えて戻るところだったんだ。今は休憩していたってわけさ」


 レインさんの言葉に私達は歓喜した。

 ようやく人が集まる場所にいける。これで、少しは安全になるだろう。大げさに喜んでいる私達を見て、レインさんは小さく笑いながら素材が詰まっているリュックサックを軽々と持ち上げ背負った。


「ほら。さっさと行くよ。早くしないと日が暮れちまうよ!!」


 こうして、私達は異世界で最初に出会ったレインさんの案内で近くの街に行くことになった。

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