第四話「白騎士、ギルドに現る」
次か、そのまた次ぐらいにクラスメイト達の話を投稿する予定です。
ミィルド王国へと辿り着いた俺達は、まずサーニャの衣服をどうにかしようと洋服屋へと訪れていた。
街中を歩いていた時と似たような視線を店に入った瞬間に浴びる俺。
そんな中、視線を無視して服を選んでいくサーニャ。
特に服にはこだわりはなかったらしく、サーニャが選んだ服は……。
「なんでまたメイド服?」
「あなたの思考の中の―――」
「だから違うって!!」
「自分の心に嘘をついてはいけません。あなたの家には、メイド関係の本が何冊もあることは把握済みです」
な、なぜそんなことを。
まさか、こいつずっと俺のことを監視していた? それとも神様の超絶パワーかなんかで俺の思考をマジで読んでいる?
「……まあいいや。これでサーニャの服もしっかりしたことだし、変な目で見られることはまずないだろう」
「そうだといいですね」
そうだね。
ここまで来るのにどれだけの人達に冷たい目で見られたか。冷たい視線だけじゃない。なんだか嫉妬の念が篭った視線も感じたような感じがする。
それと、サーニャのことを変な目で見ている奴とかもな。
だがもう、ロングスカートになり袖も戻ったのでその心配はないだろう。それにしても、よくメイド服なんて売っていたな。
普通に市販で売っているようなものじゃないだろうに。さすがは王国っていうだけはあるな。品揃えが豊富なことで。
「んじゃま、さっそくさなえ達の情報を集めるわけだが。さすがに街の人達に一人一人に聞くのは時間がかかりそうだ」
こういう時は、情報が集まりそうな場所に行くのが良い。
つまりは、冒険者達が集まるギルド。
ゲームなどでは定番だな。オンラインゲームをやっている頃は、チャット会話でどれだけの時間会話していたことか。
ちなみに俺はニートでも引き篭もりでもなかったから大抵オンラインゲームに潜るのは学校帰りか休みの時ぐらいだった。
「でしたら、この先の道を真っ直ぐ進んで突き当たりを左に曲がったところにギルドがあります」
「サンキュー。さすがは神。俺の考えていることをわかってらっしゃる」
「力は制限されていますが、これぐらいは。私も伊達の神の一柱を勤めているわけではありませんので。それに、地球へと転移した時に色々と勉強もしましたから」
え? あの全身黒タイツの格好で?
サーニャの発言に、俺は想像してしまった。あの全身黒タイツが本屋で立ち読みをしたり、ネットサーフィンをしている姿を。
「ふむふむ。なるほど……」
「あ、出ちゃった」
つい想像してしまった。俺の想像が、まだ未熟な力のために具現化。周りに人がいなかったのが幸いだった。
こんな全身黒タイツがいきなり本を凝視した姿で現れたらかなり驚くに違いない。
あ、やべ。また想像してしまった。
これはあんまり下手に想像できないな。
「飛鳥。私はこの姿で、そしてこのような勉強はしていません」
「じゃあ、どういう風に勉強したんだ?」
俺が想像したサーニャが消えたところで俺達はギルドを目指し歩き出す。
その間、サーニャがどうやって俺の世界のことを勉強したのかを語る。
「簡単なことです。あなたの部屋に潜り込んでネットサーフィンで調べました」
「は?」
この子、なにさらっとすごいこと言っているんだ?
驚く俺を傍らに、サーニャは語りを止めない。
表情ひとつ変えずに、淡々と語り続ける。
「地球というのは、すごいところです。ルストリアとはまた違った文明の進化を遂げており。特に娯楽文化は惹かれるものがありました。あ、ちなみに検索したものは全て消去しましたので。飛鳥はお気づきになられなかったでしょう」
「あ、うん……そのなんだ。お前、本当に神様?」
「なぜそんな疑いの目を向けるのですか? 正真正銘、神様です」
こいつは、嘘が嫌いだと言っていたけど。ここまで堂々と話すとは。普通に考えてそれって不法侵入なんだけど……。
それにどうして俺の部屋なんだ。
あ、いやそれは俺のことを知るためにって答えそうだな。それにしても、もっとすごいことをしていそうで聞くのが怖いんだが。
「そうこう言っている内に着いたか」
「受付が八名。調理師が三十名。ウェイトレスが十名の従業員に加え、冒険者多数が出入りしています。ちなみに、受付はクエスト、換金と二つですが各二名ずつ四人配置されています」
「結構大きなところなんだやっぱり。これは、案外すぐに情報が集まりそう、か?」
「それはわかりません。もしかしたら、見ている人達がいるかも、とだけ」
それでもいい。
まずは情報だ。冒険やクエストの基本は情報。探すのも大事だが、情報がなければそれだけで苦労してしまう。
よく情報なしに採取のクエストに言って相当迷ったことが結構あったなぁ。あれは苦い思い出だ。
苦笑いしながらギルドへと入っていく。
木の扉を開けると、丁度出て行こうとしていた大柄の男とぶつかってしまった。
「おっとと……す、すみません」
「あぁん? なんだてめぇ」
「飛鳥。これは、あなたが書いている小説の展開に似ています」
「お、おまっ!? そこまで見ていたのか!?」
「ログインしたままの飛鳥が悪いと思います」
「いやいや! 勝手に人のパソコンを覗くお前が悪いだろ!?」
「おいてめぇら! なに無視してんだ!!」
あ、やべ。
入り口付近で、俺とぶつかった大柄の男はぶつかられた上に、完全に無視されたことで怒り心頭している。それに加え、周りから笑われている始末だ。
「あーえっと、とりあえずこの通り謝ります。なので、許してくれませんか?」
と頭を下げたのだが。
「んなことで許すと思ってんのか? ぶつかった上に俺のことを無視しやがって!」
「おいおい。あの二人、見ない顔だな」
「あーあ、また新人に八つ当たりしてるよ、あいつ」
周りからのこそこそと話し声が聞こえる。
なるほど、やっぱりこの人ってそういう人なのね。これはどうしたものか……こういう場合は、俺がかこよく倒す展開なんだが。
「とりあえず一発かましましょう」
「お前……無表情でなに言ってんの?」
「こういう展開は、飛鳥がこの大男を倒し皆からすごい奴だと言われる展開なのでは?」
「うん。確かにそういう展開もあるけどここは穏便済ませよう。ね? だから、君は少し黙っていてくれないか?」
「……わかりました」
よし、とりあえずこれでなんとか。
っと、思ったところに。
「だから無視してんじゃねぇええっ!!」
あまりにも無視をし続けた結果。大男は、拳を俺に振りかざした。
俺は咄嗟に、この状況を打破するため想像した。
が、それよりも先に俺と大男の間に割って入ってくる人影。バシン!! という大きな音を響かせ、一瞬静寂に包まれる。
「僕の目の前で、一般市民への暴力は許さないよ」
「お、おい。あいつって」
「あ、ああ。間違いねぇ。あの白い服と甲冑。それに金髪は……!」
「し、白騎士。白騎士アルフォード・メセシアだ!!」
大男の拳を軽々と受け止めたのは、俺よりも少し小さい金髪の少年……少年か? 流れる黄金に輝く長い髪の毛は、一本に纏めてありその純白の肌は目を惹かれるものがある。
白い衣服に銀色の甲冑。
それに白いマント。まさに白騎士か。この反応から考えるに、この人はかなりの有名人のようだ。
拳を振り下ろした大男も、冷や汗を掻いている。
「これ以上の暴力を振るうようなら、僕も騎士として容赦はできない。いくら、君が苛立っていたとしても無関係な一般市民に当たるのは良くないことだ」
「ぐっ……! わーったよ!!」
ギロッと俺のことを一睨みして、大男はギルドから出て行く。
ひとまずは、助かった……。
「君達、大丈夫だった?」
「あ、ああ。この通り、どこも怪我はしてないよ」
「それはよかった。あ、自己紹介がまだだったね。僕は、このミィルド王国で魔法騎士団で騎士をしているアルフォード・メセシア。力なき者達を護るため日夜戦っている者だ」
笑顔が眩しい。
というか、可愛いとも思ってしまう。整った顔立ちに、高めの声音。すぐには、男だと判断はできない。いや、僕って言っているし男か?
でもなぁ、僕っ娘っていうこともありえるし……こういう女顔のキャラクターって大抵実は女の子でしたーっていうのがお約束なわけで。
このアルフォードっていう騎士もそうかもしれない。
「ご丁寧にどうも。俺は、渡飛鳥。それでこっちはサーニャだ」
「よろしくお願いします、アルフォード」
「うん」
それにしても、気のせいか。
腕や足の装備品に填め込まれている光る石。なにか不思議な力を感じる。それに、腰にある剣もだ。これも神の力に目覚めたから、なのかな。
「……」
「えっと、なにか?」
こちらが観察していると、アルフォードのほうも俺達をじっと見ていた。そして、声をかけられ慌てて顔を引く。
「い、いや……少しいいかな?」
「え? まあ、いいけど」
何をするつもりだ? と首を傾げていると、アルフォードはメモ帳のようなものが取り出しぺらぺらとページを捲っていく。
そこで、とあるページで止まり数秒ほど確認すると。
「やっぱり。すまない。ひとつ質問をしていいだろうか?」
「お、おう」
「単刀直入に聞く。君達は、ミィルド王国へ来る前……我が騎士団と魔王軍の戦いに介入した二人組み、かな?」
……思っていた通りになった。
あれだけ派手に介入すれば、そりゃ少しは気にしちゃうよな。ここで、嘘をついても無理そうだし。ここは素直に言おう。
さなえ達の情報も得なくちゃならないしな。
「そうだ」
刹那。
アルフォードの表情はぱーっと輝き、俺の手を両手で包み込む。
さらに……近い近い! 顔が近いって!?
「是非! 是非、お礼をしたい! 僕に着いて来てはくれないだろうか!?」
「お、おう……」
少し押され気味だったが、俺は首を縦に振る。すると、更にアルフォードは子供のようにはしゃぎ、俺の手を握ったままギルドを出て行く。
「ありがとう! では、出発だ!!」
「ちょ、ちょっ!?」
「やりましたね。やはり、良い事はしておくものです」
その後、有名人であるアルフォードに手を引かれている俺は、物珍しそうな視線を向けられるのであった。