第二話「これが俺のイマジネーション!」
「ここが……異世界!」
鉄の扉を潜り、辿り着いたのは……。
「うおっ!? ……矢!?」
反射的に伏せて避けた俺は、草むらに隠れ周りを見渡す。
「全軍! 一斉射撃!! 敵の防御を崩せぇ!!!」
「魔法の一斉射撃が来るぞ!! 障壁準備!! 前衛の兵士は、障壁の範囲に一度退けッ!!」
矢が魔法が飛び交い、剣と剣、槍と槍が混じり合い、大勢の気合いの叫び。そして、悲痛なる叫びが響く……戦場だった。
(ええええ!? なんでいきなり戦場に来ちゃってるんだ俺! こういうのは普通、森の中とか街の中。それか幻想的な雰囲気のある王の間みたいなところだろうが!!)
「確かに、あなたの力はすごいですが。まだ想像力が足りなかったようですね。想像する時に、ルストリアという曖昧な想像をしたせいで、出現場所がランダムになった、と思われます」
「……その声から察するに、もしかしてあの全身黒タイツ?」
いつの間にか、俺の隣で一緒に伏せていたのは世にも二色の髪の毛を持つ少女。と言っても毛先の部分だけが黒で他は白。
まるで筆のような配色だ。
「はい、その通りです。ちなみに、全身黒タイツではなくサーニャと言います」
しかし、ひとつ気になるのは。
「なんでメイド服?」
ミニスカートのほうではない。
健全な! 清潔なる! ロングスカートのほうのメイド服を身に着けている。こんな戦場には不釣合いな格好だ。
まあ、学生服の俺が言えたことじゃないが。
「これは、あなたの好みに合わせて衣服を変化させました」
「いやいや!! 俺、別にメイド萌えじゃねぇし!! まあ、確かにメイドは良いものだとは思うけど……いやいや、もうだが……違う! とりあえずさなえ達の場所を早く教えてくれ! こんなところに長いなんてしている場合じゃない!!」
今は、さなえ達のところへ行くのが先決だ。
こいつが、俺に協力してくれるっていうのはここに来る前に約束している。こいつは、こっちの神様だから当然今さなえ達の場所を把握しているはず。
「無理です」
「は?」
「無理なんです。本来なら容易なのですが、あなたを転移させるために半分の力を使い、更には勝手に複数の異世界の生物を転移させてしまった罰として力を極力抑えられているのです」
「え? お前がこの世界の最高神じゃないのか?」
「私は順位的に全五柱存在する神の中でも最下位なので、一位の神に逆らうことはできない」
……なんてこったい。
さなえ達をすぐに助けられると思っていたのに。こうなったら、自力であいつらのところに行くしかないな。だが、試しに。
「……イマジネーション!!」
「ん?」
「なんかこう叫んだほうが雰囲気がでるって思っただけ。これは成功なのか?」
「あれ? 飛鳥くん?」
さなえだ。
サーニャとは逆側にはさなえが現れた。
転移しようと思ったのだが、あっちのほうが転移してくるとは。だが、これなら残りの皆を想像すれば……いや待て。
よく見たら、どうしてこのさなえは制服じゃない?
「おそらく、あなたは無意識にこの姿の彼女を想像してしまったと思われます」
「確かに、さなえって巫女姿が似合いそうだなぁ、なんて思ってはいたけど」
じゃあ、今そこに居るさなえは本物ではなく、想像で出来たさなえってことなのか。本物を転移させるってことはできないのか。
便利だと思っていたんだがなぁ、俺の力。
「今のあなたは眠りし力が解放されたばかり。だから、徐々に本当の力を取り戻していくと思われます」
「なるほど……あ、さなえが消えた。―――あ、なんかこっちに降ってくる」
人間の頭ぐらいの大きさはある火球がざっと数えて十二ほど俺達目掛けて降ってくるのに気づく。
「あれは、この世界における火属性の中級魔法で《フレアレイン》と言います」
「へー、まるで隕石みたいだなぁ……って!!」
俺は、急ぎサーニャをお姫様抱っこをしその場から走り出した。
「冷静に言っている場合か!」
「どうやら、長いし過ぎたみたいですね。敵対勢力だと見なされました」
「だから、冷静に言っている場合か! ちょっとー!! 俺達は何にも関係ない一般市民です!! 攻撃を止めてもらえませんかねぇー!!!」
第二波を放とうとしている魔法使いの集団に俺は叫ぶ。
だが、こんな戦場にいて、じっと草陰に隠れているような奴の言葉など。
「ふざけるな!! 貴様もミィルド王国の者であろう!!」
「ミィルド王国?」
「現在狙っている者達と戦っている軍勢のことです。こちらを狙っているのは魔王軍になります」
「魔王軍!?」
俺達を現在狙っているのは魔王軍、漆黒の鎧に身を包んでいる兵士達と魔法使い達。対して、ミィルド王国なる者達は白だ。
おそらく、俺達が若干だが魔王軍の近くで伏せていたものだから勘違いをしているのだろう。
ただでさえ、魔王軍は苦戦しているようだし。
なるほど魔王軍か……言われて見ればなんだか人じゃない者達が一杯いるな。
「ま、待った待った。いや、どう見ても俺兵士じゃないっすよ? ほら?」
「我々を欺くための偽装であろう!! 奴の言葉に耳を傾けるな!!」
「魔王様に盾突く人間が!! 覚悟!!!」
話なんて聞いてくれない。
平和的解決はないんですか!? まあ、相手は魔王軍なわけだし、人間である俺なんてただのむしけらみたいな存在なのだろうが。
一人の兵士が長剣を手に俺達へと切りかかってくる。どうする、どうする俺……喧嘩ならともかく、命を懸けた戦いなんてしたことがない俺がこの場合は。
「想像してください」
「想像?」
「あなたが想像すれば……それはあなたの力になります」
「死ねぇ!!!」
くそっ! なるようになれだ! 想像……戦う力……この場を切り抜ける俺の力……!
「ぐああっ!?」
「な、なんだ?!」
俺の今までの記憶。
今まで培ってきた二次元などの知識。
俺の想像力に変えて今……俺は、戦う力を得た。
紅蓮の炎を纏いて、俺は戦場へと立つ。全身を真紅の機械な鎧で守り、炎を生み出している両腕のタービンは高速回転している。
俺が想像したのは、変身ヒーロー。
やっぱり、男だったらかっこいい! ロマン! 爆発力! それを求めなくちゃな。攻撃を弾かれた兵士は剣から手を離し、異質なものを目にするかのように尻餅をついたまま震えていた。
他の兵士達もそうだ。
突如として戦場の現れた紅蓮の戦士に……釘付けだ。
「おめでとうございます。今のあなたはこの場にいる誰よりも……強くなられました」
「マジで?」
どうやら、完全ではないにしろ。俺の想像力は、すごかったらしい。
「なんだあの膨大な魔力は!?」
「軍隊長! どうなされますか!?」
お? なんだかあっちは、今の俺を見て腰が引けているようだ。こういう場合は、俺が魔王軍を蹴散らして解決! なんて展開なんだろうが。
「突撃ぃ!!!」
「お?」
ミィルド王国の兵士達が、俺に釘付けになっていた魔王軍へとチャンスと思ったのか一斉に突撃していく。俺がやらなくとも、王国の兵士さん達がやってくれるだろう。
けど、俺も少し活躍してみたい。
「よし。サーニャ。行くぞ」
「はい」
俺は再度サーニャを抱きかかえ、ぐっと足に力を入れる。
「ミィルド王国の兵士さん達!! 巻き込まれないように動きを止めてくれ!!!」
「なに?」
想像するんだ。
今、俺が纏うのは魔王軍だけを焼き払う炎。抱きかかえているサーニャにもミィルド王国の兵士達にも被害を出さないように……。
「いざ、炎の突貫!!! うおおおおおおっ!!!」
紅蓮の炎を纏いて、俺は駆ける。
魔王軍を蹴散らしながら、クラスメイト達を探しに行くために。
「うわあああ!?」
「ぐあああっ!?」
「なんだこの炎は!? 全然消えないぞぉ!?」
よし、どうやら成功したみたいだな。
ミィルド王国の兵士達に被害はない。魔王軍だけを焼き払い、そのまま離脱。突如として表れ、颯爽と魔王軍を蹴散らし去って行く謎の戦士。
くぅ! かっこいいじゃないか!! と自分のかっこよさに酔いしれているとサーニャが声をかけてくる。
「神の子よ、報告します。このままでは私は、生まれたてになってしまいます」
やっぱり俺の想像力はまだ未熟だったらしい。
サーニャを気づけずには済んだが、サーニャの衣服は無事ではなかった。徐々に炎によって消えていくメイド服。
サーニャは、無表情のままそれを俺に伝えてきている。
「す、すまん……」
「いえ。あなたは、力に目覚めたばかり。完全に扱えるまで時間がかかることは想定していたこと。それに、神の子も男子。女子の裸に興味があることも理解しています」
「冷静に言われるって……なんだかくるものがあるな……」
「くる? もしや、私が裸になるのを想像して興奮したということですか?」
「サーニャよ。お前はもう少し女子としての恥じらいというものを覚えたほうがいい」
「ご心配なく。裸を見られたぐらいで、恥ずかしがっているようでは神など勤まりません」
あ、そうですか。うーん……容姿的には、ヒロインって感じなんだけど。
恥じらいがないと、なんだかなぁ。