第一話「一方クラスメイト達は」
今回は、クラスメイト達の話。
さなえ視点で書きました。
気がつくと私は、森の中にいた。
ううん、私だけじゃない。
クラスメイト全員が森の中にいた。どういうわけなのかわからないと混乱している生徒達を寺島先生がなんとか落ち着かせようとしている。
「……ここが異世界」
私、天宮さなえはまるでジャングルのような風景をぐるっと見渡す。
見たことのない植物。
見たことのない果実。
見たことのない魚。
何もかもが初めてだ。こんなの地球にはない。泉から顔を離し、私はもう一度一緒に異世界転移してきたクラスメイト達を見る。
皆怪我はしていないみたいだけど……やっぱり混乱している。
当たり前といえば当たり前だよね。
普通は、いきなり変な現象が起こったり森の中に居たら。
「あれ? そういえば、飛鳥くんは?」
一緒に異世界に行ける、そう手を繋いで喜び合っていたはずの渡飛鳥くんの姿が見当たらないことに気づいた。
慌てて、近くにいた松下清くんに話しかける。
どうやら珍しい虫を見つけたらしく採取していた。カブトムシみたいに角が生えている蝶々だ。
「清くん!」
「わあ!? さ、ささささなえ? どうしたんですか?」
どうして敬語なんだろう?
「ねえ、飛鳥くん見なかった?」
「飛鳥? ……そういえばいない、な」
もしかして、飛鳥くんだけ別の場所に転移しちゃった? でも、私と手を繋いでいたのにそんなことがあるのかな……でも、そうだとしたら早く見つけてあげないと。
「皆! 聞いてくれ! まだ混乱していると思うが、まずは状況確認のため一旦集合だ!!」
一通りクラスメイト達を落ち着かせた寺島絃児先生が大声で私達へと声をかける。
「寺島先生! 飛鳥くんがどこにも見当たらないんです!」
「なに? 渡が?」
全員集合したところで、私は飛鳥くんのことを寺島先生へと報告する。
顎に手を当て考えた寺島先生は、私達を見渡す。
「よし。俺が渡を探しに行く。お前達は、ここで待っていてくれ」
「せ、先生! 危険です!」
「そうですよ! こんなジャングルみたいなところ一人で歩いたら……」
「皆で一緒に居ましょう!」
頼りになる大人である寺島先生がどこかに行ってしまう不安が、皆から発せられる。
寺島先生も、皆が不安がることがわかっていたように眉を顰め頭をかいている。今、ここにいる大人は自分だけ。
不安がる生徒達を大人として、教師としてどうにかしないといけない。でも、生徒の一人である飛鳥くんも心配で、見過ごすことはできない。
「ねえ、さなえ。これってあんたがよく話してる展開なの?」
私に話しかけてきたのは、いつも仲良くしている女子組みの一人で名前は片瀬望ちゃん。
男子よりも男子っぽいって言われているほどかっこいい女の子。昔は、短髪で半ズボンをいつも穿いていたから本当に男の子みたいだったけど今ではどこからどう見ても女の子。
黒く長い髪の毛は後頭部で一本に纏めていて私がプレゼントした花のヘアピンをいつもつけてくれている。
「うん、たぶん」
「じゃあ、ここは異世界というところなのですか?」
逆隣から震えた声で話しかけてきたのは、綺麗な銀髪が目立つ女の子。
ソフィーナ・アルテシアちゃん。
私が転校してから一年半に転校していきた外国人。最初は日本語がまったくだったけど、一緒に勉強をして今ではすごくぺらぺら。
いつもあわあわしていて、クラスではマスコット的な存在。でも、やる時はしっかりとやる。芯の強いところがあって、努力家なんだ。
「はっきりとは断言できないけど、どう見ても日本じゃないし。見たことのないものばかり」
「うぅ……あ、そうです。あ、飛鳥さんがいないって言っていましたよね?」
「うん。さっきまで一緒だったんだけど……」
「そういえばあんた達手を繋ぎあって笑顔だったわね。まったく、あんな状況であんた達は……」
望ちゃんは、あの時の私達を思い出して呆れたようにため息を吐く。
「えへへ、ごめん。でも、本当に嬉しかったんだもん」
「あんた達って昔からそういう話でよく盛り上がっていたもんね」
「私も日本のお勉強をする時に、参考にしましたけど。こうして体験すると……」
ソフィーちゃんは日本語や日本のことを勉強する時に、私や飛鳥くんなどが日本の娯楽などをたくさん進めたおかげで、ソフィーちゃんはアニメや漫画、小説などの知識は豊富だ。
飛鳥くんや望ちゃん、清くん達で一緒に遠くまでお買い物によく行ったなぁ。
「やっぱり怖い?」
「怖い……ですけど、ちょっとわくわくしているのは嘘じゃない、です。はい」
「もう、ソフィーもか……。たくましいわね、あたしの友人達は」
「そういう望ちゃんも落ち着いているよね」
「あたしだけが、動揺していたらかっこ悪いでしょう」
そんなことはないと思うんだけどなぁ。
私達三人はともかく、他のクラスメイト達はまだ不安が残っているみたい。空はまだ晴天で、時間帯的にお昼頃かな?
太陽はまだ随分と上だから……でも、ここは異世界だからなぁ。
「……わかった。皆で移動しよう」
「移動するんですか!?」
「で、でもこんなジャングルを移動するのは危険じゃ……」
「だけど、このままここに止まっていてもいずれ暗くなるし。そっちのほうが危険だと思うよ、皆」
私は思わず立ち上がり、皆に進言する。
自然に視線が集中。
こうして皆の顔を見ると、改めて不安の色があることがよくわかる。
「お、俺はさなえに賛成だ! 明るい内にこの森を抜けて、安全なところに移動したほうがいいと思う!」
「清くん……」
まだ若干声は震えているけど、清くんは私に続き立ち上がり叫んだ。
さらに望ちゃんもソフィーちゃんも立ち上がった。
「あたしも賛成。こんなジャングルさっさと抜けちゃいたい」
「わ、私も賛成です……! 怖いですが……暗くなったほうがもっと怖いですから!」
私達四人の言葉を聞き、クラスメイト達は互いの顔を見合い騒がしく会話をする。そして、しばらくするとまだ恐怖心が見られるも次々に立ち上がっていく。
「お、おし! 俺も男だ! 覚悟を決めたぜ!」
「私も! ソフィーちゃんが言ったように正直怖いけど。いつまでも暗くなんていられないもん!!」
「それに、飛鳥も見つけてやらないとだし……やるしかねぇよな」
よかった……皆元気になって。
安堵の息を漏らすと、寺島先生が安心した表情で声を上げる。
「皆、落ち着いてくれたようでよかった! 天宮! 片瀬! アルテシア! 皆を元気付けてくれてありがとう!!」
「い、いえそんな……」
「大したことはしていませんよ。それより、先生」
「ああ。皆! 暗くなる前に森を抜け出す! 密集して離れないように! 先頭は俺が。周囲を警戒して確実に移動するぞ!!」
☆・・・・・
それから私達は、歩き始めた。
周囲の警戒を怠らず、未だに行方不明な飛鳥くんを探しながら。一歩、また一歩と道なき森の中を確実に……。
歩くたび、ここが異世界なんだと思い知らされていく。
鬼のように角が生えている紫色のキノコ。
ギザギザしたくちばしで、ノコギリのように木を切っている鳥。
今のところ、自分達を襲ってくるような凶暴生物には出会ってはいない。このまま、何も起こらないまま森を抜けられれば一番良いんだけど……。
「さーなっえ」
「どうしたの? 陽香ちゃん」
私の後ろから話しかけたのは、女子組みの四人目。
栗色のサイドポニーテールが良く似合う元気な女の子。名前は加々美陽香。実家は、定食屋を営んでいて、陽香ちゃんはそこの看板娘。
将来は、家業を継ぐっていうちゃんとした夢がある。ポニーテールを纏めているシュシュは、曜日によって色を変えているんだ。
「さっきのさなえかっこよかったよ~。皆が混乱している中で、先導者のように冷静な言葉で皆を安心させちゃってさ~」
「そ、そんなことないよ。ただ、あのままじゃだめだって思っただけで」
「それでもだよ。いやぁ、皆のことを気遣える優しさ! そして、抜群の容姿! これがモテる女子ってやつなのか……!」
もう陽香ちゃんったら。
ちなみに、移動している隊列は先頭が寺島先生。一番後ろを清くんを初めとした男子四人。真ん中に私達女子四人という隊列になっている。
移動してから大体七分は経つかな?
あまり大声を上げたら凶暴生物が襲ってくるかもって先生は言っていた。だけど、飛鳥くんを探す都合上声を出さないというのは無理な話。
できるだけ声を絞って、飛鳥くんの名前を呼びながら草木を掻き分けている。ずっとではなく、間を置いて。
「うおおお!?」
清くんの叫び声だ。
木の上から見たことのない虫が真っ直ぐ清くんに突撃していっている。
まるでドリルのような一角を生やし、騒がしい羽音を鳴らして。
「せりゃ!!」
間一髪で、虫は撃退。
撃退したのは望ちゃんだった。太い木の棒を思いっきり振り下ろしたことで虫はどこかへと逃げていく。
尻餅をついた清くんに望ちゃんは手を差し伸べた。
「まったくだらしない。虫博士になろうっていう男が、虫に襲われるなんて」
「う、うるさいな! ここは異世界だから生態とかがわからないんだよ!!」
「はいはい」
メガネのズレを直し、望ちゃんの手を取って立ち上がる清くん。
やっぱり、危ないところだ。
さっきの望ちゃんがなんとかしていなかったら、清くんが危なかった。こういう展開だと、私達は何か能力に目覚めていもいい頃なんだけどな……。
「ん?」
「どうしたんですか? 先生」
寺島先生が何かを見つけたみたいだ。
一度足を止め、先を見詰めている。
飛鳥くん、かな?
「皆! 喜べ! 出口だ!」
「出口!?」
「森から、抜けられるのか!!」
私も、列から少し外れて先を見詰めた。確かに、障害物のない広々として草原が見える。よかった……これで少しは。
でも、まだ飛鳥くんが見つかっていない。
寺島先生は、どう判断するんだろう?
「まずは、森から抜けるぞ。渡を見つけてやりたいが、身の安全を確保してからだ」
「飛鳥さん……どこにいるんでしょうか?」
「ソフィー。あたしも、ううん。皆、飛鳥のこと心配だけど。まずは先生が言ったとおり、安全を確保しないと」
「そうだよ、ソフィー。飛鳥が帰ってきた時のために、ね?」
「は、はい」
私達は一気に駆け抜けた。
今にも何かが飛び出してきそうな鬱蒼とした森から、いち早く脱出したい。光差す方へと飛び込んだ私達が見たのは……。
「……広い」
地上はどこまでも広がる草原。
天上はどこまでも広がる青空と雲。私達の町も、自然が豊かなほうだったけどここまで壮大な草原は初めてかもしれない。
「はあ……とりあえず一安心ってところか」
「なんだか一気に疲れが襲ってきたぜ……」
皆、一安心とその場に倒れるように座り込む。
今まで冷静に生徒達を導いていた寺島先生も、額の汗を拭い大きく深呼吸をしていた。そんな中、私は森のほうを見詰め、飛鳥くんのことを思い浮かべる。
「きっと、無事……だよね」
そう願い、私は望ちゃん達と休憩することにした。