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15歳の誕生日前日

勢いよく家を飛び出してきてしまったが早計だった。

鍛冶屋のギースのところへは今日の午後から、手伝いに入るのだ。

暇をつぶすため、俺は自分の家のある貧困街の区画から出て平民が暮らす街へと繰り出していた。

街の市場では、朝の集客の精を出す商人がたくさんいる。

少しでも商人の仕事を盗むために、5歳から俺はよく街に来ていた。全ては15歳になり成人してから商人になるために。


「おい、アル! またウチの店でバイトしてくれよ!」

「前の清掃の時は手伝ってくれてありがとよ! おかげでまた俺の店にもお客が少しずつ増え始めたよ」

「またバイトしに来いよな! これもってけ坊主!」


 市場を歩けば、各々の店の人が俺に食べ物をくれたりする。

 これも15年間の成果だ。

 なにも俺は15年間ただアホみたいに過ごしていたわけではない。

 幸い、アジカとルウは何でも屋みたいな仕事をしていて、俺はその手伝いとして街の市場でアルバイトをしていた。

 そこで培ってきた信頼と親しみを皆(人気者の俺に嫉妬して嫌悪感を示す奴を除き)が俺に話しかけてきてくれる。

 その中でも街の角にある店へと俺は足を運んだ。

 決してきらびやかではないが、品があり落ち着いている店にたどり着くと俺は扉を押し入った。


「いらっしゃいませって....お前さんか。お客かと思ったぞ」


 出迎えてくれたのは今にも逝きそう老人、しわがれた声が印象的でニチェっと笑う少し気味が悪い商人だ。


「最終確認として立ち寄ってみた。本当は夕方に来る予定だったがちょっと時間が空いてな」

「ほう、ということは明日で晴れてお前さんは15歳になるのか? ふう、これで儂も余生をゆっくり送れるということか。めでたいことじゃの」


 簡潔に言うと、俺はこのじいさんから店を譲ってもらうことになっている。

 このじいさん、ベージは若い時に結婚はしたが子供に恵まれず、妻も結婚して10年後に病気で亡くなったのだそうだ。そして義理堅いというか、頑固というか再婚することなく養子も取らなかった。

 そんな偏屈なじいさんのアルバイトを5年ほどして、俺が15歳を迎える時には自身が持つ店を譲ってくれることになった。はじめは引き継ぎのため仕事を教えてくれるが、1年後からはいよいよ経営を自分に任される。


「本当にいいのかこの店を貰ってしまって。いくら売れ行きが良くない貧乏な店だとしてもせっかく自分の店を持ったんだ、養子なんかをとって継がしたほうがいいんじゃないか?」


 そういうと皺だらけの顔をよりいっそう皺を増やし、怒気を含ませた声で言った。


「儂はもうお前さん以外にこの店を譲る気はないのじゃ。そりゃもちろんお前さんがこの店が欲しくないというのであればもう5年は商売を続けて、そのあとこの店を売ってやるさ。それにもうお前さんは儂の孫じゃぞ」


 嬉しいことを言ってくれる。俺は頬が緩んでしまうのを気を付け務めて務めて冷静な声で言った。


「それならば、よろこんでこの店を引き受ける。任せてくれ必ずこの店が大陸に名がとどろく大商店にしてみせるから」


「期待せず待っておくよ。もう儂の先は長くないのでな、その大商店を見ることはできないかもしれないが」


 嘘つけ、さっきあと5年は生きるといっただろうが! あ、もしかして俺がこの店を5年以内に大商店にするのが難しいとでも思っているのか? 大丈夫、もう手は考えている。


 そんな内心でのツッコミと納得は億尾にも出さず、2人で笑いあった。






 夕方、俺は悲鳴を上げている体をどうにか動かしながら帰路についていた。

 鍛冶屋のギースは本当に容赦がないな! こき使えるだけ使いやがって!

 内心ツッコミを入れるのも仕方がない。鉱物の運搬に、できた武器の配達、その他もろもろの明らかにキャパオーバーである仕事量を振ってきたのだから。

 まあ、その分しっかりとした給金はいただいているけどさ。

 今日の稼ぎは、5枚の銀貨。

 硬貨の種類としては白金貨、金貨、銀貨、銅貨の4種類で、価値は日本円で右から10万、1万、1000円、100円というくらいになっている。

 半日で5000円の儲けだ。この金額は、平民の泊まる宿だと5泊できるくらいの金額だ。

 

「へい、いらっしゃい! いらっしゃい! 今日は美味しいバーボの肉が入っているよ! おお! アルじゃねえか! どうだ割引するぜ!」


 今日の儲けにホクホクしていると肉屋の前を通り過ぎた時、店主に話しかけられた。店主の言った通り、店には大きなバーボ(日本でいう牛)が3頭ほど吊るされている。

 バーボか、アジカとルウの大好物なんだよな。給金ももらったし少し買っていくか。


「おっさん、そこの右足をくれ」


 この世界に国際単位系などないので肉などの量測定と値段は全てその店主によって決められる。だから注文もこのように大雑把なものとなるのだ。

 俺が注文すると店主は大きな肉切り包丁を取り出し、俺が指さした一番小ぶりなバーボの右足が切られる。小ぶりと言っても成人男性より一回り大きいので、右足は15歳を迎え、身長が180センチ越えようとする俺の右足と同じくらいの大きさだ。


「ほら、銀貨2枚と銅貨3枚だが特別にまけて銀貨2枚だ」

「話にならんな、銀貨1枚と銅貨三枚だ。小柄な分は安くしろ」

「おいおい、無茶だぜアル、銀貨1枚と銅貨9枚だ」

「銀貨1枚と銅貨5枚、これは譲れん」

「銀貨1枚と銅貨7枚だ! もこれが限界だな」

「よし買った、ありがとおっちゃん!」


 俺は銀貨2枚を払いお釣りに銅貨三枚を貰い、肉を腰にある大き目の皮袋に入れた。

 いいお土産ができた、アジカもアルも喜ぶだろう。


「ところでおっちゃん、日ごろは一匹はいれば良いぐらいのバーボがなんで今日は3頭も入ってんだ? 凶暴で仕留めにくいんだろ、バーボってやつは」


「詳しくは知らねえが、どうやら冒険者ギルドでS級討伐クエストを受けた二人組がいたらしくて、それに感化された冒険者何人かが、バーボを仕留めたらしんだ」

「S級クエストってあのランク7の冒険者複数人で受けるクエストだろ。2人ってことは相当腕に自信があるのかそれとも無謀なのか、どっちだ?」


 店主は両肩をわざとらしくすくませた、どうやら知らないようだ。

この世界には地球と違って魔物というモンスターが街の外の原生林などに生息しているらしい。魔物は魔素を喰らった動物だと言われているが定かではない。

 その魔物はなぜか人間を見ると攻撃的なり、襲ってくそうだ。そこで街が作った組合が冒険者ギルド、魔物討伐などの依頼を斡旋したり、報奨を支払うそうだ。

 さっきから伝聞系なのは全てを人づてに聞いたからである。それもたまたま耳に挟んだ程度だ。興味がないから調べたことなどしたことは一切ないし、俺はそちらの道を歩むのを2歳の時から諦めている。

 店主に情報代としてお釣りの銅貨を1枚投げると、俺は家に帰った。 

 若干の胸騒ぎを感じながら。





 肉を盗まれないように貧困街にある家へとたどり着き、俺は元気よく扉をあけ放った。

 扉を開ける際、少しつっかえた気はしたがあまり気にせず家の中に入った。


「帰りました、ルウ、アジカ! 今日はバーボを買ってきたからこれを夕食に加えてくれって….あれ? おかしいな、いつもルウは既に料理を作り始めているはずなのに」


 部屋の中にいつも漂うのはルウの料理の匂いではなく、鉄のような匂いだった。


「なんだ、この匂いは? これは鉄っていうより、血の匂い!?」


 急いで家の中に踏み入ると、靴で踏んだ床がベチョッという音を立てた。

 訝しげに思いながら下を見るとそこには、床いっぱいの血、血、血。


「なんだこれ!? おい! アジカ、ルウ! 悪ふざけはやめてくれ、これは少したちが悪いぞ!」


 俺は動揺を隠せず大声で言った。

 頭の中には、強盗がおしいった、アジカがなにか狩りで捕まえた獲物の血抜きをせずに家に持ち入ったなどの可能性がよぎるが、どれも想像した可能性であり、事実がどうであるかなど分からなかった。


「ア….ル。ここだ、後ろだ」


 俺は聞きなれたルウの声に安堵しながら振り返った。

 目を見張った。

 ルウの体は傷だらけで、至るとこからは血が滴り、左腕に関してもはや原型をとどめていないほどぐちゃぐちゃになっている状態で、床に倒れていた。

 さっき扉を開ける際に感じたつっかかりはルウだった。


「どうしたその傷? おい! ルウ!」


 俺は急いでルウの近くに駆け寄った。

 ルウの体は髪の毛に負けないぐらいのくすんだ赤でいっぱいだった。

 その片目はつぶれ、もう片方の目はもうすでに光を映していなかった。



少しというかとても展開が早いです。

これからはもっと急展開です。

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