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15年の月日が経って

「起きろぉぉぉぉぉぉ! アルぅぅぅぅぅぅ!」


 バンッと大きな音を立てながら扉がこじ開けられた。


「朝だぞアル!今日も仕事がみっちりある! しっかり働いて1日を生きるぞ!」


 まだ重たい瞼を開けながら、俺は大きく伸びをした。扉の前には相変わらず筋肉隆々のアジカが豪快に笑っている。屈託ない笑顔でとても好感が持てる顔だ。


「毎朝、毎朝、うるさいな。ちゃんと起こされなくても起きるよ。だいたい、今日の仕事は午後からだろ」


「関係ないさ! 朝が来たら起きる! 朝が訪れたことに感謝する! そして今日もしっかり生きると神に誓いを立てる!それが朝ってもんよ!」


 ここは戦場か! とツッコミを入れたくなったが我慢する。ここでツッコむと長くなるのだ。

 命となんだの、生きるとは何だの永遠と語られる。朝からそんな面倒なことはご免だった。

 俺は寝間着を着替えながら部屋の窓を開ける、小鳥がちゅんちゅんと鳴いている。

 うん、いい朝だ。


「今日の仕事は武器屋のギースのとこだよな。えっと、今日はアジカも来るのか?」


「いや今日は別件があってな。俺もルウも行かない、一人で寂しいか? がっはっはっは!」


 こういう時は無視に限る。これが脳筋バカと付き合う鉄則だ。

 俺は部屋から出て階段を降り、一階の食卓へと向かった。


「起きたか、アル。もう飯ができているから座って食べろ。今日のは自信作だぞ。特にこのスクランブルエッグはうまくいった」


 香ばしいにおいが鼻をくすぐった。朝食のイチオシであるスクランブルエッグは黄金に輝いている。

 しばらく待っていると、アジカも降りてきて一緒に座り食卓を囲む。そして神にお祈りを捧げ一斉に食べ始めた。

 スクランブルエッグを食べると、口の中でやんわり溶け、ほのかな甘みと塩の辛みが絶妙に合い最高のハーモニーを奏でている。今日も旨い。


「今日も美味しいよルウ。いつもありがとう」


 そう言うとルウはサッと顔を赤らめる。なんだ、その恋人みたいな反応は! お前は男だろうが!


「がっはっはっは! 今日も旨いぞルウ! いつもありがとうな! お前は本当に最高だよ!」


「黙って食べろ、アジカ。食事中は静かにして食べるもんだ」


 なんだその塩対応! 俺への反応と全然違うじゃないか! とはさすがに言えず黙々と朝食を食べる。


「今日の予定はアジカから聞いたか、アル? 今日は俺もアジカもお前と同行しない、別件があるからだ。まぁ、別件と言っても大したことではないが」


「その別件ていうのは何なんだ? さっきから気になっていたんだが」


 聞いてみるとルウもアジカもギクッとした。なんだか、怪しいな二人とも何を俺に隠しているんだ。深くは詮索しないがあまりいい気はしないな。


「別に気にすることはない! お前は今日、鍛冶屋に行って働いてくれ!」


「そうだアル。もうアルは14歳だ。それも明日で15歳になる。お前ももうこの家の立派な働き口だ」


 そう、俺は拾われてから15年の月日が経とうとしていた。この15年間、俺は普通の人生を歩んできた。普通と言っても異世界での普通だ。

 よく異世界転生では、幼少期から自分を鍛えて親にびっくりされている場面を見るが俺は普通の一般市民としてすごしてきた、いわゆる村人A的な存在だ。

 俺も幼少期から自分を鍛えようと思ったことは否定しない。でも無理だった。

 二歳の時に連れていかれた教会で自分のステータスを測った。

 ステータスを測るといっても、まだ二歳だ。あまり身体的なステータスは変わらないはずだった。

 呪いの影響を受けている俺のステータスは以下の通りだ。



 ステータス

筋力:F 1

耐久:G 10

攻撃力;G 10

敏捷:G 10

魔力:F 13


 一般的に最初の二歳は全てがオール10が平均で村人レベル。そこからの変動値で才能があるかどうかわかるらしい。10より1大きければ普通より強い。5で王国の軍兵レベルで、10で勇者級となる。

 ステータスを見ると普通に平均だ。俺は戦闘に向いていなかった。

 魔法が少しできるぐらいだから、農作業にいかせと神父さんに言われた。

 この世界ではモンスターが跋扈しているらしいので街の外にはなるべく出ないようにしようと心に決めた。

 けれど俺がこの世界に来た目的を忘れたわけではない。

 妹を探すためだ。

 でも見つかる可能性は極めて低いが諦めたわけではない。

 いつかは見つける。

 そのためにはこの世界で有名にならなけばならない。

 ここで生きてくるのは現代日本の知識だ。

 俺にモノづくりのセンスは皆無だが知識だけはある。

 これで商人になって有名になろうと思っている。

 妹も現代日本に生きてきた、日本人だ。俺と同じくその知識を利用すれば有名になることは可能だろう。

 そういうわけで俺は成人である15歳を迎えると同時にこの家を出て商人になる予定である。

 ルウとアジカには悪いがこれが俺の決めた道だ。納得してもらうしかない。

 閑話休憩。

 1人、物思いにふけっていたのを不思議に思ったのかアジカが話しかけてきた。


「明日はお前の成人の日だ! だから期待しておけ! 俺らなりに祝う予定だからな!」


 そうか。アジカたちが今日、別件でどこかに行くのって明日にサプライズでも用意しているからなんだろう。水臭いなこいつらは。


「あぁ、期待しておくさ! でもルウの料理にだけどな!」


「どういうことだ! アルぅぅぅぅ!」


 俺はそそくさと残りの朝食をかきこみ食べ終え急いで家から出ていった。鍛冶屋のアルバイトをしに行くために。


「おいしかったよ、ルウ! 明日も期待しておく!」





「あいつは鍛冶屋の仕事が午後からだと知っているのか?」


 ルウはアルの食べた朝食をかたずけながら言った。

 アジカはお替りした、スクランブルエッグを食べている。


「本当に月日が経つのは早いもんだな、アジカ」


 しみじみとした声でルウが言った。

 アジカは食べている手を止めて、少し考えてから言った。


「なぁ、今日はあいつへのプレゼントを買いに王都へ行く予定だったが変えねえか?」


「どうしてだアジカ、王都に言って杖を買ってやろうといったのはお前だろうに。何か考えでもあるのか?」


 アジカは立ち上がり言った。15年の月日が経とうとも一向に衰えない筋肉が震えた。


「俺、見たんだよ。アルの部屋で。あいつの日記を、いつどこで文字を習ったかは知らないが、そこには成人を迎えたら家を出て商人になると書かれていた。だからよ、あいつにこれから

必要になるのは杖とかじゃなくて、珍しいものや金になるものじゃないかって」


 アジカから語られた事実にルウは動揺を隠せない。ルウは律義な奴でいくら家族同然だからと言って部屋などに入るのはマナー違反だとアルが10歳になってから、無断で部屋に入ることをやめたからだ。


「なんだそれ。商人になるだって? そんなの聞いてないぞ!」


 声を震わせながらルウは言った。肩を震わせ、目からは少し涙が出ている。


「そう怒るんじゃない、ルウ! 息子に門出でだ喜びはしてもい怒るもんじゃないぞルウ!」


 そういったアジカの声も震えている。


「何を勘違いしているんだ、アジカ。俺のこの涙は感動の涙だ! 我が子供の成長に感動しているんだよ!」


 するとルウはアジカと肩を組んだ。いつも重要なこと言うときにする行動だ。


「で、どうするんだアジカ。贈るものは金なんて味気ないものじゃなくてもっと俺らにしか送れないものにしよう」


「そうこなくっちゃな! 俺にいい考えがある! 俺らにしか送れないとびきりの物があるだろうが!」


 肩を組みながらアジカとルウは相談を続ける。2人ともどこか嬉しそうな声の響きだった。


「もったいぶるな、教えてくれアジカ」


「特大の魔物から出る魔石にしよう! 俺らには旧帝国の暗殺部隊だった実力がある。難易度Sの魔物の魔石をあいつに贈ろう! それだけであいつの商人の格が上がるってもんよ!」


「それはいい考えだ。お前にしては名案だ」


「しては、は余計だ!」


 2人は顔を見合わせて笑いあう。

 方針は決まった。方針が決まったら次は行動だ。

 冒険者ギルドに行くために、昔使っていた神器の整備をする。


「神器を使うことはもうないだろうと思っていたが、こんなことに利用するなんてな」


「あぁ! この武器で葬り去ったのは何万という人の命だったが、こんなに武器を使うのが楽しみになったことは初めてだ!」


 アジカはメリケンサックのように使うのか、赤く光る小手。

 ルウは魔導士が使いそうな、紫色に鈍く光る魔石が先頭についている身長ぐらいある杖を何もないところから取り出した。

 無詠唱の空間魔法、これだけで2人の戦闘能力の高さがい伺える。


 「さぁ、狩りの時間だ!」


 2人声をそろえて、冒険者ギルドに向け家を発った。

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