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貧困街

 俺から見える景色、青空はこんな時にも清々しいくらい青く澄んでいた。

 さて今、俺の置かれている状況は正直言って最悪である。ハルクと別れてから俺は気づいたら貧困街にいた。これはもう認めてもいいだろう、この世界には地球とは違うもの、魔法が存在している。少しだけ驚いた、でもそれ以上の感想はない。こんなのラノベじゃ近所のコンビニに行くくらい日常茶飯事だ。それに、神と話して呪いとやらを受け取った時には薄々分かってはいた。

 閑話休憩。

 今の状況は、さっきも言った通り最悪だ。首を動かせる範囲で動かしてみると、ある程度自分の置かれている状況が分かった。

 薄暗い貧困街の裏路地、そんな辺鄙なとこにある家の裏口みたいなドアの前。

 これに生きる可能性を見出せと? アホか、こんちくしょう。

 人気がない、食料もない、日もない。オールナッシングだ。こんなとこを通るやつにろくな奴はいないと予測がつく。某ラノベじゃ、ここでヤンキーみたいなやつに絡まれてヒロインが出てくるんのだろうけど、皆も知っての通り、ぼくは赤ちゃんでちゅ。こんなんじゃ絡みたくても絡めないだろうが! ヤンキーの気持ちも考えろ!

 それにしても困った、完全に詰んでいる。生きる可能性はゼロに等しい。賭けるとしたらこの裏口から誰か二十四時間以内に出てくることぐらいだ。


 待つこと五分。その裏口の扉が開いた。どうやら俺は神様にまだ見放されていないらしい。

 顔をそちらに向けると、そこには筋肉がいた。あらゆる筋肉を全身に鎧のように纏い、これが本物のボディビルダーみたいな風格を出している。身長はゆうに百八十を越え、顔は堀が深く右目のところに十字の傷がある男だ。褐色の肌に深緑の髪、歴戦の戦士を思わせる雰囲気である。


「こりゃ、困ったな! がっはっはっは!」


 そう言うなり男は豪快に笑った。着ている全身のローブが揺れた。

 正直に言おう、怖い怖すぎる。なんだこの大男。先ほどの第一声で、そんなに悪い奴っていう感じはしないけれど。なんで筋肉ダルマなんだよ!


「ついに神さんは俺に子供を育てろとでもいうか! 男手二つで? こりゃとんだジョークだぜ!」


 大男は、俺に近づいてごつごつの手で俺を抱き上げた。一気に視界が高くなり、少しだけ気分が良くなる。けれど気を抜いたら最後、巻かれていた白いひざ掛けみたいな物がひらりと宙に舞い俺のベリーキュートな俺が顕れた。


「おいおい! 男のシンボルがついてるじゃねーか! こりゃ育て甲斐があるってもんだ! 黒い髪に黒目、気に入った! 俺がお前を一人前に育ててやる! がっはっはっは!」


 唾がめちゃくちゃ飛んできた、ばっちい。

 どうやら俺の育ち場所が決まったらしい、こんなあっさり決めてもいいのだろうか。まぁ、いいんだろう。ラッキーとでも思えばいいんだ。

 それにしても、黒髪に黒目か。白じゃないんだな、ここは日本人ってか? 期待してたのに残念だ。白髪ってめちゃくちゃかっこいいのに。気に入られたんだったら良しとしよう。


「そうだな、お前の名前を決めなくちゃな! アズ、アキ、アカ。うーん、しっくりこない! どうするか」


 もう名前を付けるみたいだ、考えが早いな。でも名前か、この五か月間ルーク・アルペンスっていう名前で生きてきたけど変わるのか。少し寂しいな、せっかくハルクとアンリが一生懸命決めてくれた名前なのに。


「おい、その辺にしとけ。ガキなんて男だけで育てられるわけないだろう、アホかお前は。あぁアホだったなお前は」 


「ルウか、おいこの子の名前どうする? 俺はどうしてもアを最初に持ってきたいんだが。お前は何か、つけたい言葉があるか?」


 裏口に赤いコートを羽織った男が扉にもたれかかっていた。赤いコートに赤髪、赤目。赤づくしだ。見てるだけでこっちが暑くなりそうだ。腰には二本の双剣を下げている。


「話を聞け、アジカ。育てるなんて馬鹿なこと言うな、男だけで子育てとか頭がくるっちまいそうだ。ちなみにつけるならルを最初にもってこい」


 こいつも名前付けようとしてるじゃねーか!

 そんなことは知らないみたいにクールぶってるけれど、俺のことをちらちら見て顔を赤くしている。なんか、また変な奴が加わった。さっきこの大男が男手二つで育てるとか言っていたがこいつの事か。


「いーや、この子は俺が育てる! 俺はこいつが気に入ったからな、ルウも分かってるだろ、俺が決めたらもう変えないことぐらい」


「あぁ、もう仕方ねーな。俺もいつ結婚して子供を作ろうとか別に悩んでいなかったが、お前がそういうなら仕方ない。分からないことは、あの酒場の女に聞けばいいんだ。分かったからよ、そのガキ俺にも抱っこさせろ」


 こいつらはいったい何がしたいんだろう。本格的に頭が痛くなってきた、捨て子ってこんなにも軽く拾われるのだろうか。それとも俺が運のいいだけか? 


「酒場の女? あぁローラの事か! がっはっはっは! あいつにこのこと言ったら驚くだろうな! その前にだ、こいつの名前を決めようぜ! アリ、アラ、アラタ。そーだ、アラタにしよう!」


「アホかお前は! あぁアホだったなお前は。名前はルージュで決まりだ。それ以外は受け付けない」


 ピクッと、アジカの眉が動いた。

 アジカは俺を下すとルウに向き直った。ルウも扉にもたれ掛かるのを止め向き直った。


「こいつの名前は、アラタだ! こいつを見つけたのは俺だ、だから俺が決める!」

「馬鹿言うな、初めてガキを育てるんだ、俺がつけた名前の方が後で拍がつくだろーが、獄炎のルウがつけた名前ってな」


 ピリピリと空気が痺れた。次の瞬間、体に電撃が走った。これを殺気と言わず何と呼ぶか俺は知らない。俺の股間はすでにダムが決壊した後だ。周りの空気が明らかに変わり心が締め付けられる感覚に陥った。


「そろそろ、どっちが強いか決めようかアジカ」

「そうだな! 二千八百八十戦して、二千八百八十引き分けだもんな」


 そう言い合うなり、ルウは帯の剣を引き抜いた。白く輝く刀身はそのまま切れ味を表しているようだ。また、アジカはさっきは分からなかったが、腰に短刀を巻いていたみたいでそれを抜いた。

 

「こんなとこだからな、一発勝負だ、一振りで決めるぞ」

「あぁ! いいぜ!」


 そして急にアジカとルウの周りの物が吹き飛んだ。俺はその影響で同じく吹き飛んだ。

 何が起こってんだ!? 

 二メートルくらい吹き飛ばされた後、俺が見た光景はありえないものだった。

 刀身がない剣が三つ。一振りをアジカ、もう二振りをルウが持っていた。


「ちっ、また引き分けか。なかなか決まらねーな。こっちは二振りもダメになっちまった」

「男は一振りの剣しか使わないから強くなれるんだ、まぁ名前は間をとって、アルにしよう! がっはっはっは!」

「唾散らしてんじゃねーよ」


 どうやら一度剣を交えたらしい。全く見えなかった。なんだあの剣技、凄まじいにも程があるだろう! 

 俺の名前は、アルだそうだ。前のアルペンスの馴染みもあり気に入った。なかなか、いい名前を付けてくれたじゃないか。だから、お願い、俺をうつぶせから助けてくださいお願いします。赤ちゃんを吹っ飛ばすなんて、なんて奴だよ!


「おい、アルを抱き起こせアジカ、家に連れて帰るぞ。それからローラを呼んで子育て開始だ。赤ちゃんを拾うなんて、今日は厄日か」

「じゃあ、ルウは一生アルに触るなよ! がっはっは!」

「んなわけあるか! 触りに触りまくるに決まってんだろうが」


 こんなわけで俺は一命を取りとめた。いいから早く抱き起せよこんちくしょー!

 でも俺はもしかしなくても幸運なのかもしれないな。



 

 

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