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白い部屋

 目覚めたとき一番初めに目に入ってきたものは、白い天井だった。

 どうやら俺は眠っていたらしい。病院のような場所だ。

 変な夢を見た、俺が死んで神と会う夢だ。

 体が覚醒するにつれて、体を動かそうとした。

 しかし全く力が入らない。


「泣かないなんて変だな、さすがは悪魔の子か」


 三十歳後半だろうか。銀髪で赤い目をした、切れ目の厳しい雰囲気を持つ男がのぞき込んできた。

 悪魔の子? この男は何を言ってるんだ? この年になって厨二を患うなんてかわいそうだな。

 ところでこいつは誰だ? 知り合いにこんな痛々しい奴がいたら嫌でも覚えているだろうに。でも髪の色に不思議と違和感はない。生粋の外国人なんだろうか。それにしては日本語が流暢だ。


「お前が女の子でさえあったら、人生困らなかっただろうに。残念だよ」


 さっきからこいつは何を言っているのだろうか。寝ている俺に向かってなんてこと言うんだ。

 それにこいつの暖かい目が気に入らない。なんだこの自分の子に向けるような視線は。

 ひょっとしてこいつは馬鹿なのだろうか? 馬鹿だな、うん。


「なんで女しか生まれない血統なのに男に生まれてきたんだ? はあぁぁぁぁ」


 男は同情のこもった目を向けてきた。

 こいつは人様の顔の上で....失礼にもほどがあるだろう!

 文句を言ってやろと俺は口を開こうとした時。


「あぁ、うう。ああぁ!」


 変な声が出た。まだ、本調子じゃないのだろうか。もう一度、試みるか。


「あああぁ、ううぅぅ!」


 もしかして俺は通り魔にのどをやられて、声が出なくなったのだろうか?

 体も動かないし、これは重症だな。お先真っ暗だ。


「なんだ、赤ん坊とはこんなにも気持ちが悪いものなのか。それともこの子だからか?」

 次は馬鹿にしたような眼だ。腹立つことこの上ない。デリカシーのデの字も感じさせない男だ。

 それに赤ん坊だと? 何言ってんだか。それじゃまるであの神が言ってたことと。


「ああああああぁあぁぁぁぁぁううううぅぅぅぅ!」

「ひ、ひいぃぃぃ! 気持ち悪いぞこの赤ん坊! おい、誰か来てくれ!」


 男はびっくりして顔を上げると、どこかに走り去っていった。清々したぜ。

 それはさておき、俺の事だ。思わず声を上げてしまった。

 そして俺のさっきからあった違和感が払拭された。神の話が正しいと、すべてに辻褄が合う。

 体が動かないことも馬鹿な男が話しかけてきたこともだ。

 どうやら転生の事も本当だったようだ。やっと飲み込めてきた。

 なら、さっきの男が俺の父親か? 嘘だろ、おい。俺の遺伝子が心配になる。

 ここが異世界とすると、さっきの男のような奴が一般ピーポーなのだろうか。

 きれいな銀髪だった、染めていないのだろう。

 それに言葉が通じることもありがたい。ここはご都合主義ってところか。

 いろいろと整理していると足音が聞こえ始めた、誰か来たようだ。


「馬鹿じゃないの、ハルク! 赤ん坊にビビッて妻である私に助けを乞うなんて」

「仕方ないいじゃないか! あの子は普通じゃないだから!」


 先ほどと違い、銀髪の気が強そうな若干、釣り目の女がのぞき込んできた。俺の母親なのだろうか。すごい美人だ。


「おーよちよち、可愛いでちゅねぇ」


 女はそう言いながら、俺を軽く持ち上げた。穏やかな顔でとても綺麗だ、これは俺の顔も期待できる。遺伝子はわからないが。

 そして抱きかかえられたことにより視界が開けた。俺がいるのは真っ白な部屋だった。

 家具はベット一つで他には何もなく、とても味気がない。窓もないがなぜか明るい。

 どこか寂しく不思議な部屋、俺はそういう印象を抱いた。

 ハルクと呼ばれた男の腰には剣がぶら下がっていた。いかにもファンタジーという感じの剣だ。

 異国情緒あふれる銀髪の男女に剣。

 これはもう認めるしかない、俺は地球ではない異世界に転生したようだ。

 すると母親らしき女の表情が険しいものに変わった。


「大事な話があるわハルク、この子は私たちの初めての子よ。一族は関係ない。たとえ女しか生まれない一族でこの子が認められなくっても、私たちが肯定してあげるの」


 そういう俺を抱きかかえた女はとても悲しそうな表情だった。

 さっきから聞くに、俺は望まれて生まれてきてないようだ。女しか生まれない家計なんてあるのだろうか。まぁ、異世界だ。アマゾネスみたいなものと理解しておこう。そこに俺は男として生まれたと。

 全く、神の言ってた呪いの影響か? とても不幸だな俺。


「わかっているアンリ、それは俺からも族長にも言っておくよ。けれど理解してくれ、俺らの族には族の掟がある。それを理解していてくれ、俺は婿だ。族長にきつくは言えない」


 そういうハルクの表情もひどく辛そうだった。本当に俺は望まれて生まれていないようだ。

 これからどうなるか心配だな。


「ハルク、この子生きていけるかしら。私はどうかこの子に生きて欲しいの」

「わかっているよ、必ず始末はさせない」


 ちょっと待てぇぇぇぇぇ! え? 俺ってそんな危ないところに生まれたのか!

 めちゃくちゃ心配になってきた。本当に大丈夫なのだろうか。


「まぁ、この話を今しても意味はないさ。また今度だ、でも俺は必ずこの子を生かせて見せる。たとえ悪魔の子だとしてもね」

「そうね、一緒に頑張りましょ。あと、この子はルークよ。悪魔の子なんて呼ばないで、次言ったら承知しないわよ」


 そういって二人は他愛もない話へと入っていった。

 それにしても異世界転生、本当にしたんだな。そしてこの世界には妹がいる。

 まずは、目標を立てよう。何事もまずは目標からだ。

 そしてそれはもう決まっている。俺の目標は....


「あうあうあうあぁぁぁぁ!」

(歩けるまで生きることだ!)


 思わず声に出してしまった。まぁ、仕方ない。抱きかかえているアンリとハルクは結構動揺していたが。

 それでも歩けるまで生きなければ何も言っていられない。どうやら、始末されるのかもしれないのだし。なんて、ハードな人生モードなのだろう。クソゲーにもほどがある。

 心配なことばかりだが、取り敢えず俺の人生が始まった。もうすぐ終わるかもだけど。

 



 

 

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