プロローグ
俺の妹、遠崎秋穂は通り魔に惨殺された。
まだ犯人は捕まっていない。
ついさっき妹の葬儀が終わったところだ。
妹は享年十六歳と、あまりに早い死を迎えた。
俺と違いとても明るい性格で成績だって優秀。趣味はガーデニングでよく庭にたくさんの花を植えていた。
一見完璧にみえた俺の妹だが、料理だけは全くできないというお茶目なところもあった。そして料理の得意な俺に「どうしてもうまくなりたいのお兄ちゃん!」と言ってきては一緒に料理スキルを上げる努力をしていた。
代われることなら俺が代わりに死んでやりたかった。
「なんで、秋穂が死ななきゃなんねんだよ!」
俺は自宅の部屋の中で壁を殴りながら叫んだ。
「なんで....なんでなんだよ!」
俺は壁を殴り続けた、手の皮がむけ壁に血がにじんでもひたすらに殴った。そうしなければ心が壊れてしまいそうだった。
壁に血が滴り、手の感覚がなくなって俺は膝から崩れ落ちた。
やるせなさと悔しさが俺を襲った。
「絶対に許さない、絶対にだ。必ず見つけ出してぶっ殺してやる」
俺は妹の復讐を心に決めた。たとえそれが最悪な結果を生みだすとしても......
「ここか、秋穂が殺されたのは」
妹の葬儀から三日後、俺は妹が通り魔に殺された路地に来ていた。妹が殺された現場を一度見て確かめたかったからだ。
時刻は十八時、秋穂が襲われたのも同時刻で所属している陸上部の帰りだった。あたりは薄暗く、人通りも少ない。俺は持ってきた花束を妹の殺された場所に置いた。
膝をつき合掌する。
花束は来る途中に花屋に寄り、青い花だけで作って貰ったものだ。生前、妹は青い花が好きだった。趣味のガーデニングで庭を青い花だらけにするほどだ。理由を聞くと、「ひみつ!」と教えてくれなかったが。
三十分ほどたっただろうか。辺りはもうすでに真っ暗になっていた。俺は物思いにふけるのをやめると立ち上がった。
「帰ろう」
その時、「キャアァァァァァ!!」という女性の叫び声が聞こえた。すぐ近くだ。
俺は何かを悟り、咄嗟に走り出した。
叫び声が聞こえた場所に来てみるとそこには路地に横たわっている女性と、立ち尽くし片手にナイフを持った男が電灯に照らされていた。俺は何が起こっているのか全く理解ができなかった。
「どうだ? 綺麗だろ?」
野太く低い声だ。女性の体には無数に刺し傷があり、そこから鮮血が流れ出ている。女性の虚ろな目はじっと男のほうを睨んでいるように思えた。
「なんで擦り傷とかで出てくる血と違って、人を殺した時に出る血はこんなに鮮やかなんだろうな。それに」
男は女性をずっと見ている。まるで絵画を鑑賞するかのように。
男は一呼吸あけるとそのまま続けた。
「それに俺は運がいい。殺人を犯して警察からの逃亡生活の中で、この路地を見つけることができた。この路地は俺の姉が殺された路地にそっくりなんだよ。」
男は女性の鑑賞に飽きたのか、頭を上げながら言った。
この男はいったい何を言ってるんだ?
俺の頭は必死にこの男の言葉を理解しようとしているが、一向に成果を上げない。
男はそのまま続けた。
「俺の姉は俺が高二の時に通り魔に殺された。そう、今の俺のような奴にな。その時の俺は思ったね、なんで姉が殺されたんだろうって。他にもたくさん人はいたはずなのに。」
通り魔? 殺された? さっきから脳をフル回転させているが、言ってることが飲み込めない。脳がこの男の存在そのものを否定しているようだった。
男はずっと睨んでいる血塗れの女性を踏んづけた。女性の刺し傷から紅い血が勢いよく飛び出る。
そして次第に男の声は大きくなっていった。
「それって不平等だろう?理不尽だろう? だから俺は殺して殺して殺して殺して、殺しまくるのさ!! そうすれば姉の死は平等になるからな!!!」
男の言葉を脳が飲み込むと、俺を抑えるもののがなくなり、気づいた時には体が勝手に動いていた。
血塗れの女性を踏んづけている男に体当たりをし、男は路地の壁に当たり倒れこむ。倒れている男の髪を掴み、引きずり上げ肩を抑える。
男の服は女の血で酷く汚れていた。
「俺の妹もそんな風に殺したのか!?」
とっさに出たその一言は全く要領を得ない一言だった。
「誰のこと言ってんだお前。いてぇからその手、離せよ」
「六日前に殺された、ポニーテールの女子高校生の事だ! お前が殺したんだろ!」
俺は男の肩を抑える手により一層力を込めた。男の顔が痛みに歪んだ。
「あぁ! あの死ぬ前にお兄ちゃん、お兄ちゃん連呼してた嬢ちゃんか! そうかお前がそのお兄ちゃんか! 下半身からめちゃくちゃに刺してやった時の悲鳴は最高だったぜ! これは、偶然もいいとこだ。でもよかったじゃないか、嬢ちゃんは世界の平等への礎となったんだか!?」
男が言い終える前に俺は男の顔面を殴った。早く汚い口を閉じてもらいたかったからだ。
男は口の端に血をにじませながら、ニヤッと笑った。
「ぶっ殺してやる!」
俺は男の首に手をまわした。持てる力、すべてを人を殺すことに使うために。
「残念だったな、殺されるのは俺じゃなくお前だ」
突如、胸に鋭い痛みを感じた。胸には男が持っていたナイフが刺さっていた。しかし、俺は手の力を緩めずより一層、力を入れた。心に深く突き刺さり苦しめる復讐の二文字が俺をそうさせていた。
「っっかはぁ! その手を離せ、死んじまうだろっ!」
男はジタバタと暴れ、蹴りを俺の腹に入れてきたが、何も痛みを感じない。
感じないくらいに既に俺の心は病んでいた。
「やめ....ろ」
男の首ががっくりと垂れた。男は口から泡を吹いている。俺は妹の復讐ができたという、達成感を覚えた。それと同時に俺の意識もだんだんと薄れていくのが分かった。
俺はこのまま死ぬのだろうか? まあそれでもいいさ、妹の復讐がができたんだ、思い残すことは何もない。
「気が付いたか小僧」
なんだここは?
俺はさっきまで頭のいかれた通り魔と殺しあっていたはずだ。
起き上がろうとすると体には全くと言っていいほど力が入らなかった。
目の前にはゆうに身長の二倍以上ある扉の前に、金色の雲みたいなものに胡坐をかき座っているじいさんがいた。上半身は裸で、頭には毛がなく下半身に白い絹みたいなズボンをはいている。
そんな変な格好をしているにも関わらずじいさんからはとてつもない威厳が感じられた。またどこからか光が差し、じいさんは神秘さをも纏っている。
じいさんは俺を見極めるかのように無表情でじっと見た。
なんだこのじいさん、初対面なのに失礼だな。
俺は居心地の悪さを感じながら、沈黙を終わらせるために口火を切った。
「俺は......死んだのか?」
「そうだ。そしてここは死者の死後の行き先を決める審判の場所だ」
じいさんは間髪を入れず即答した。
やっぱり俺は死んだのか。だんだんと状況が飲み込めてきた。それならここは、死後の世界ということか。本当に死後の世界があるなんてな、びっくりだ。
じいさんは俺の目を見て離さない。居心地悪いんだよ、じっと見んな。
「自己紹介が遅れた、儂は死後の世界をつかさどる神だ。死者の魂を行くべきとこへ導くのを仕事としている」
俺は不満を抱きながら、じいさんの言葉聞いた。
そうか、じいさんは神様か。そりゃ死後の世界があるんだ、神がいてもおかしくない。
それにじいさんが神なら俺はどうしても聞かなければならないことがある。もちろん俺の死んだ後のことについてだ。
「ちょっといいか? じいさんは神様なんだろう。なら当然、俺の死んだ理由は知ってるよな?」
「あぁ、もちろんだ」
「なら教えてくれ、俺が殺した通り魔はその後、どうなった?」
じいさんは少し考えるそぶりを見せると俺に事実を教えてくれた。
「残念だが、お前が殺した気になっている通り魔は、死んでいない。あの後すぐに救急車が来て通り魔、相川新之助は一命をとりとめた。死んだのは小僧ともう一人の刺殺された女だ。まぁ相川新之助は現行犯で逮捕されたがな。」
なんだと!? 殺せてなかったのか!?
俺は復讐ができなかったということに驚きが隠せなかった。途方もない無力感が押し寄せてくる。
「........ありがとう。じいさんもういいよ、俺は何もできなかった、地獄に落としてくれ。これが俺の最後の希望だ」
じいさんは少し驚いたように眉を上げたが、すぐにまた同じ無表情に戻った。
「そう焦るな小僧。それにお前は地獄には行けない、なんの罪も犯していないんだ、行ける道理もないな。そこでだ、お前には選択肢が二つある。成仏か異世界に転生するかだ、その二つから選べ」
正直どうでもよかった。俺は早く地獄に落ちたかった。妹を守ることもできず、復讐すらも果たすことのできなかった無力な俺を誰かに裁いて欲しかった。しかし地獄には行けないと知った今、俺は少しでも罪を裁いてもらえるよう話を続けた。
「どう違うんだその二つは? 成仏はまぁ分かる、でも異世界に転生ってのは正直意味が分からん。アニメなんかで言うあの異世界か?」
「概ね合っている、その異世界だ。異世界に転生する権利は誰でも持っているというわけではない。罪を何も侵さず、お前のような人生を送った満二十歳以下のものだけだ。異世界への転生と成仏との相違点は一つ、記憶の持続だ。異世界への転生では記憶がそのままで、成仏はお前が過ごした世界での記憶を消し、また違う人生を送ってもらう。さぁ、選べ小僧!」
「俺は......成仏を選ぶよ。異世界なんかには行かない。俺はもう、楽になりたい」
「そうかそれが貴様の選択か。仕方ない、これだけは言わまいと思っていたが、あと一つだけ言っておくことがある。お前の妹は異世界への転生を選んだぞ」
なんだ....と!?
その時、俺は神の言葉によって異世界へ転生する理由ができた。妹が記憶を持ったまま異世界に転生した、ということはまた再会することも可能性は低いがゼロではないのだ。
さっきまであったはずの無力感は吹き飛び、心にあたたかい水のようなものが湧き出てくる感覚を覚えた。
「それを踏まえて、選べ小僧。まぁ、その目はもう決まったみたいだがな」
俺の目には灯がともっていたに違いない。今ならそれが断言できる、俺は胸を張りながらに大声で言った。
「俺は異世界へ転生する!」
「そうか。小僧、一つだけ言っておく。いくらつらい現実が目前にあるからと言って逃げるな! 立ち向かえ! さすればお前を待つ未来は変わる。神の助言じゃありがたく聞け、がっはっはっはっは!」
そういってじいさんは豪快に笑った。無表情よりよっぽどいい。
そして急にじいさんと俺の間にあった張り詰めた空気も緩和され、俺も約1週間ぶりの笑顔を浮かべた。
「だが悲報じゃ小僧。お前には他と違ってギフトが与えられる、ギフトといえば聞こえはいいが要するにディスアドバンテージじゃ。一つ目にあちらの世界にはパラメータという、個人の能力値が顕著に表されているものがある。そしてそれがおまえの場合、全て二分の一となる。例外として筋力は二分の一にはならんから安心せえ。まぁお前の世界でいうムリゲーというやつだ。それに加えてお前にはスキル[呪いの祝福]が与えられる。これはあちらでは足枷にしかならない[呪い]を受け入れやすくなるスキルじゃ」
「どんだけ生きづらくしてんだよ!!」
突っ込みを入れる余裕すら生まれた。それほど妹との再会の可能性は嬉しかった。まぁ、もうすでにつまずき始めてはいるが。
俺はじいさんに避難のこもった視線を送りると、じいさんは苦笑いを浮かべていた。
「まぁ、そう言うな。それこみでのさっきの助言だ。まぁ気張れ小僧!儂はずっと見守っておるからな、覚悟ができたら儂の後ろにある扉を開けろ。そしたら次、気が付く時は晴れて赤ん坊に逆戻りだ。達者でな」
するとじいさんは前触れもなく金色の雲を動かし扉の前を開けてくれた。
じいさんからは始めと違い、見極めるような視線ではなく、親が子供に送るような温かい視線が感じられた。いささか不満はあるが、悪いじいさんではないみたいだ。
そして覚悟なら妹があっちにいることを知った時から決まっている。
「じいさん、いや神様。俺はここに宣言する、神様の言った通り何が何でも諦めず必ず生き抜いて秋穂と再会してやるさ!」
そういって俺は黒い禍々しい黒い扉を開け、一歩前へ踏み出した。
「条約違反ですよ。我らの神、アドルフ」
先ほどまで青年と神しかいなかった空間に突如、一人の少女が現われた。真っ白なローブに身を包み、腰まである青い髪。背中からは髪をかき分け大きな白い翼がつきでて、頭上には金色のリングが浮かび、黒い扉の上に足を抱え座っている。
「堅いことを言うなレイン、儂とお前の中ではないか」
神はからかうような軽い口調で言った。
「そんな親しい関係になった覚えはありません。だいたい神自身が死後の魂の導きに関わる必要はないのです。それにあんな誘導みたいな真似までして、もともとあの子の導きは私の役目だったはず、結局あなたは何がしたかったのですか?」
翼の生えた女は扉の上から飛び降りると腕を組み、問いただした。
少女は不満いっぱいの顔に対し、神はにやにやと笑っている。
「なぁに、ただの暇つぶしさ。最近事務仕事ばかりでストレスが溜まっていたんだ、深い意味はない。どうした、そんなにあの小僧を導きたかったのか? 一目惚れでもしたか?」
少女は若干、キレそうになったが必死に思いとどめた。神に話す気がないのではどうしようもない。
「まったくどういう風の吹き回しやら......」
「それじゃあな、レイン。儂は早く神室に戻って事務仕事の続きをせねばならん。ああ、忙しい忙しい」
話は終わりとばかりに、神の体は光に包まれ消えていった。少し虫が良すぎるのではないだろうか人の仕事まで横取りしておいて、と少女は思った。
「そんなことしてもあの子の運命は変わらないのに」
ぽつりと少女は声を漏らした。
それと同時に、神の仕事をこっそり増やしておくことも心に決めた。
初めて書かせていただきました。
アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
厳しくてもかまいません。真摯に受け止めて、頑張っていこうと思います。
追伸、文を直しました。結構、めちゃくちゃです




