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聖暦960年 大陸西南のとある村に一人の男の子が生まれた。
だが産まれてスグにその子は高熱にみまわれた。
幼子の体力は決して高くない、家族は必死になって寝ずの看病をしたのだった。
三日三晩うなされた、だが四日目の朝にようやく熱は引き、一命を取り留めたのだった。
それはまさしく奇跡と言っても過言ではなかった。
私は意識を取り戻し…気がついた。
『ここは…何処だ、いったいなんなんだ』
何かを手がかりは無いかと手を伸ばすが、目の前に有るのは小さな手だった。
『!?』
その小さな手は何故か自分の思うがままに動いた。
何が何やらと混乱していると、一人の女性が目の前に現れた。
「良かった…本当に良かったわ」
手が視界の外に伸ばされたかと思うと、視界がゆっくりと動き出され女性に近づいていく。
『抱かれる!? まさか、私は…』
「生きていてくれてありがとう、私の赤ちゃん」
『赤ん坊!? 私が!?』
明らかに自分の意志で動く手足に、戸惑いながら思案する。
実験台にでもなり、脳移植でもされたか…否。目の前の状況は明らかに違う。
所謂仮想現実世界に意識だけ飛ばされたか…否定する材料がない、だが何となく違う気がする。
そこまで考えて…そう、考えて自分自身の意識の変化に気がついた。
かつて、殺人兵器として完成させた自分の思考能力。
「命令を実行する」ただそれだけを特化するためだけに、幼い頃に消滅させた「感情」が復活していることに。
幼い頃に殺した筈の、人間らしさという感情を意識しながら。
ここは自分が知ってる世界ではないと、漠然とそう感じたのだ。
『…これは、人らしく生きろとでも言うんだろうか』
母親に抱かれうつらうつらしながら、私は自身の生き方について悩むのだった。