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公爵令嬢の狼  作者: 三国司


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4/13

演習

「おはようございます、ベアトリス様」

「おはよう、ヴァイオレット、リーチェ、パジー、ウィンカ、マリー……」


 毎回お馴染みの挨拶を取り巻きの五人と交わし、私はヴァイオレットに自分の鞄を手渡した。もう面倒なので、言われる前に預けてしまう事にする。


 ヴァイオレットの期待に満ちた輝く瞳を見て、そういえば今日は放課後一緒に勉強する約束をしていたんだったと思い出した。彼女の目の下にはクマができているので、この二日間本当に眠れなかったのかもしれない。ヴァイオレットならあり得る。


(でも、だったら今日は彼とは会えないわね)


 狼の事を思い浮かべて少しがっかりしてしまった。私の生活に彼の存在は必要不可欠になってきている。同じ時間を過ごせば過ごすほど、想いは募ってゆくのだ。


 そこでふと、小さい頃にうちの屋敷に出入りしていた獣人の子の事を思い出した。父親の仕事を手伝って、毎日の料理で使う食材を運んできてくれていた子だ。

 ぱっちりとした目に鮮やかな紅い髪が印象的な男の子だったが、実は彼が私の初恋の人なのである。


 私は元々お祖父様の考え方には疑問を感じていたけれど、彼に好意を持って以降は、さらにその思いを深める事になった。

 そういう意味であの獣人の男の子は、今の私という存在を形成する重要な人物だった。

 しかしお祖父様の差別が酷かったせいで彼ら親子はすぐに仕事を辞めてしまい、会えなくなってそれきりだ。


「……ふふっ」

「どうされたのですか、ベアトリス様?」

「一人で笑っちゃって気味悪いですよ~」


 ウィンカが不思議そうに言い、リーチェが可愛い口調で煽ってくる。


「なんでもないわ」


 その初恋の男の子の事を“彼”に話した時の事を思い出して笑ってしまった。昔の話だというのに、それから一週間も拗ねていたのだから。

 今、私の心の中にいるのは彼だけなのに。





 その日の午後、放課後が近づくにつれヴァイオレットがそわそわし始める中、私のクラスと獣人クラスとで演習が行われた。

 演習は今回のように他のクラスと一緒にやる事もあれば、同じクラス内でする事もあるし、学年全体で大規模なものをする事もある。

 内容も一対一で戦うものや複数対複数で作戦を立てて戦うもの、教師を相手にするものなど、様々だ。


 今日は一対一の戦闘訓練で、室内の訓練場を使用する。私たちがその訓練場に着いた時には、うちのクラスの生徒も獣人クラスの生徒もほとんど集まっていて、注目を浴びてしまった。

 獣人生徒からは特に警戒と緊張が入り混じった視線を注がれたが、私がそちらを見ると途端に目をそらされる。


「今日はベアトリス・ドルーソンのクラスとか……」

「頑張れよ、イライアス」


 奥にいたイライアス・ウォーが、周りの仲間たちから肩を叩かれ、激励されている。

 うちのクラスと獣人クラスで一対一の戦闘訓練、という演習の場合、実力の拮抗する私とウォーは、ほとんどと言っていいほど対戦を組まされるのだ。

 今日もそうだろうが、今までの傾向から考えると出番は最後に違いないので、それまでは他の生徒の対戦をゆっくり観戦していよう。


 私は訓練場の床にハンカチを敷いて、スカートが皺にならないように気をつけながら座った。

 動きやすい運動着もあるのだが、デザインがあまり好きではないので、私は演習の時も制服のままである事が多い。

 乗馬の時以外にズボンを穿くのも少し恥ずかしいのだ。不良になったような気分になる。

 うちのクラスの貴族の生徒を見ても、やはり私と同じように制服のままの男女が多かった。取り巻きの中では、ヴァイオレットだけが運動着だ。

 一方、獣人クラスの生徒は堅苦しい制服の方が逆に苦手らしく、全員運動着に着替えて、心なしかのびのびとしている。


 始業のベルが鳴ると同時にやってきた教師が、さっそく演習ルールの説明を始めた。生徒たちももうルールは理解しているのだが、確認のためだ。

 生徒は相手を倒すために戦うのではなく、リボンを腕に巻いてそれを奪い合う。ほどきやすく巻かれたリボンが取られるか外れるかすれば負け、というルールである。


 その中での禁止事項は、対戦相手や周りで観戦している生徒に大きな怪我を負わせない事、訓練場を破壊しない事という二つ。

 戦闘訓練とは言っても学園内で行うものなので、なるべく生徒が怪我をしないような工夫がなされるのだ。

 いかに相手に怪我をさせずに相手が腕に巻いているリボンを外せるか、というところが今日の演習の目標になる。


 ルールの確認が済んだところで、教師がうちのクラスからヴァイオレットの名を、そして獣人クラスからも一人、女の子の名前を呼んだ。


「一番ね」

「頑張ってね~」


 私とリーチェが声援を送り、パジー、ウィンカ、マリーも自分の髪を触りながら「頑張ってくださーい」とおざなりに声を上げる。

 パジーたち三人は男爵家だがヴァイオレットは侯爵家のお嬢様なので、一応三人はいつも敬語や丁寧語でヴァイオレットに話している。ちなみにリーチェの家は商売をやっていて、両親は宝石商だ。

 

「見ていてください、ベアトリス様」

「ええ」


 ヴァイオレットはやる気いっぱいで、訓練場の中央に出ていった。

 カリンという名の相手の獣人生徒はヴァイオレットと同じくらいの身長で、女子にしては背が高く、手足が長い。確か鹿の獣人だったはずだ。

 先祖返り(アポカルト)症候群でない普通の獣人は、見た目では何の動物の特性を持っているのか分かりにくいが、私はこの学園の生徒の顔と名前、獣人ならばその特性もだいたい頭に入れているので、その記憶を探った。

 

 教師が二人それぞれの右腕に、同じ結び方でリボンを巻く。

 片端を引っ張れば、簡単にするりと解ける結び方だ。


 両者は握手をしてから、お互い後ろに十歩ほど歩いて距離を取る。あまり近づきすぎていると、人間側は呪文を唱える時間がなく、獣人に有利になるからだ。


 しかし試合開始の合図が出ると、ヴァイオレットは呪文を唱える事なく、身ひとつで相手のリボンを取りに出た。

 せっかく開いている距離を走って縮め、素早く手を伸ばしたのだが、さすがにかわされてしまう。

 カリンは一旦引いたものの、逃げ回ってもリボンは取れないので、今度は攻勢に転じてヴァイオレットに掴みかかった。

 二人は相手の攻撃を避けたり、蹴りを放ったりしながら、接近戦を繰り広げている。ヴァイオレットは個人で習っているという武道の技をカリンに掛けようとしているようだが、なかなか上手くいかない。


「ヴァイオレットってば、魔術を使う気ないみたいですねぇ」

「そのようね」


 身体能力で優る獣人相手にこちらも体術だけで向かっていこうだなんて、ヴァイオレットらしい無茶をする。

 今までの演習では普通に魔術を使っていたけれど、今日は自分の武術がどこまで通じるか試したいのだろう。

 獣人カリンのヴァイオレットに対する、変わり者を見るような表情が面白い。魔術を使わない事に戸惑っているみたい。

 

 けれど結局、この対戦の勝者はカリンとなった。最後はスタミナが切れたヴァイオレットが、隙を突かれてリボンを奪われたのだ。

 カリンはそれほど強い方ではないと思うが、それでも獣人相手に普通の人間が魔術なしで対等に戦うには、さらに体を鍛えないと無理なのだろう。


「申し訳ありません、ベアトリス様」


 ヴァイオレットがしょんぼりと肩を落として帰ってきたので、隣に座らせて慰める。


「私に謝る必要はないわ。面白い試合だったわよ」


 教師は次の生徒の名を呼び、また対戦が始まった。

 授業中に全ての生徒が戦える場合もあるし、時間が足りずに観戦だけになる場合もある。しかし他人の試合を観ているだけでも勉強になるものだ。


 授業の終わりの時間が近づいてきて、結局この日は、私の取り巻きの中では、ウィンカ以外の四人は試合ができた。

 パジーとマリーは日頃から魔術の勉強に熱心ではないので負けてしまい、同じく魔術の成績があまり良くないリーチェも敗北した。

 しかしリーチェはどうも、成績に関して『平均より少し下』というレベルをわざと保っているような気がするし、今回の敗北も本人が望んだ事のように思える。

 

 というのも、相手は獣人の男子生徒だったのだが、彼が気分よく勝てるようにしてあげた、という穿った見方ができる試合運びだったから。

 リーチェは怪我一つ負わずに、可愛く「きゃっ」と転んだだけでリボンを奪われたが、試合が終わると、相手の男子から「大丈夫か? ごめんな」とおずおずと声を掛けられ、仲良くなっていた。リーチェに「あなた、すごく強いね~」と天使の笑顔を向けられて、男子生徒は頬を赤く染めていたのである。

 これで彼もリーチェの“お友達”になった。

 リーチェには男友達が多いが、獣人の男子まで虜にするとはさすがだ。私には真似できない。


 そしていよいよ最後に、私とイライアス・ウォーの名前が呼ばれた。

 ウィンカを始め、他にもまだ試合をしていない生徒はいるが、教師は授業の残り十五分を私たちに当てたのだ。


「ベアトリス様、がんば~」

「応援しております!」


 リーチェとヴァイオレットの声援、そして、


「ベアトリス様、今日負ければ一勝三敗一引き分けになってしまいますよ!」

「何としてでも勝ってくださいね」

「必ずですよ!」


 パジー、ウィンカ、マリーからのプレッシャーを背に浴びながら、私は立ち上がって中央へと出ていった。

 そして同じく仲間の応援を受けつつ中央へ歩いてきたウォーと向かい合う。

 

 背の高い相手を睨み上げると、彼は落ち着いた表情でこちらを見下ろしてきた。ウォーの目の色は、髪の灰青より鮮やかな藍色だ。

 周りの生徒たちが勝手に緊張し始めて、空気が重くなる。

 私は気の強さを発揮してしばらくウォーを睨み続けていたが、相手もじっと目をそらさないので根負けして視線を外した。


 教師も何となく緊張ぎみにリボンを結んで――この教師はいつも、私の腕のリボンを外れづらいようきつ目に、ウォーのものを外れやすいよう緩く結ぶ――私たちに握手をするよう言った。


 私はもう一度ウォーを目で射て、無言で右手を差し出す。

 ウォーも無言でこちらを見たままゆっくりと右手を持ち上げ、私の手を握り込んだ。


 大きくて固い手だ――と感じた直後に、私はすぐさま腕を引く。

 ウォーも空になった手を一瞬見てから、静かに下ろした。


「それじゃあ離れて。……ウォー、もう数歩後ろへ。もっとだ」


 距離が開いているほど魔術で呪文を唱える人間の有利に、狭いほど獣人に有利になるので、教師の指示に、ウォーの後ろで座っている獣人生徒たちはこそこそと「贔屓だ」と不満をこぼした。

 しかし当のウォーは何も気にしていなさそうな顔で素直に後ろへ下がったので、他人事ながらもう少し反抗の態度を表に出した方がいいのではないかと思った。

 これくらいのハンデは、なんでもないという事だろうか。


「始め!」


 教師が合図を出すと同時に、私はジャケットのポケットから筒状に丸めた紙を三つ取り出した。この中には魔術陣が描かれてある。私が事前に用意しておいたものだ。


 魔術を発動させるには呪文を唱えなければならないし、術の威力が大きいほど呪文は長くなるが、魔術陣を用意しておけば呪文を唱える手間を省けるのだ。

 獣人と魔術師が戦う場合、魔術師が呪文を詠唱している間に獣人から攻撃を受ける事が多いので、この演習では、魔術を使う人間側は陣の使用も許可されている。


 ただし、用意できる陣は三つまで。

 陣は大きさによって威力が変わってくる事もあるので、使用できる紙の大きさにも制限がある。

 だいたい皆、必要になるであろう魔術を事前に紙に描いて演習に臨む。今回使わなかったのはヴァイオレットくらいだった。


 私もウォーと戦う時は、毎回ちゃんと魔術陣を三つ準備する。これ無しで勝てるほどウォーは弱くないのだ。唱え終わるのに二秒か三秒しか掛からない短い呪文でもウォーにとっては十分な時間になり、あっという間にリボンを奪われる事になるから。


 私は勝利への大事な鍵となる魔術陣をしっかり握った。丸めた紙の長さは、私の手の大きさほどだ。

 これまでの私の戦法は、防御の魔術陣でウォーの攻撃を防ぎ、その間に攻撃の呪文を唱え、放つ、というものだったが、今日は少し作戦を変えてある。

 上手くいけば、この魔術陣三つを使うだけでウォーに勝てる。


 虎視眈々と機会をうかがう私に対して、ウォーもこちらの様子を見ながらゆっくり左に歩いて移動している。

 獣人は普通、魔術師が魔術を発動させる前に先手を打って動き出すものなので、ウォーの態度は少し奇妙だった。

 自分の方が勝ち越しているため、余裕だと思っているのだろうか。そうだとしたら少し腹が立つ。


 開始と同時にウォーが攻めてくる事を予想してこの魔術陣を用意したというのに、計算が狂った。

 魔術陣は置いておいて、正攻法で呪文を唱えて魔術を放とう。

 そう考えてぶつぶつと詠唱を始めると、ウォーはやっとこちらに向かってきた。しなやかに身体を躍動させ、私のリボンを狙って走りこんでくる。


(まず一枚目)


 私は呪文の詠唱を中止し、当初予定していた作戦に戻る。

 手に持った魔術陣の一つをウォーに向けて放つと、それは空中でひらりと開いた。

 

ディオ!」


 合図と共に、魔術陣が描かれた紙は爆発した。

 とはいっても、訓練場を燃やさないため、そして怪我人を出さないために陣を描き変えてあるので、炎や煙は出ずに、爆発するのは空気だけだ。


 ウォーは、いつも私が使う防壁の魔術陣だろうと予測していたらしく、目の前で紙が爆発したのに驚いたようだった。咄嗟に対応できずに、腕でガードをして目を閉じる。

 爆発の威力は小規模なものだったのでウォーは立ったまま耐えたが、威力を弱くしたのも実は計算のうちだ。


 しかしウォーは私が風で乱れた髪を押さえているうちに、すぐさま体制を立て直し、再びこちらに向かってくる。

 爆発を弱くしたとはいえ初めて見る術に数秒は怯むと思っていたけれど、ウォーのその一連の動きは、私が予想していたよりも迅速だった。

 

 ほんの一秒であっという間に距離を詰めてきたので、私は慌てて次の魔術陣を投げた。


ディオ!」


 先程と同じ、空気だけの小さな爆発が起きる。

 しかし今回は私とウォーとの間の距離が十分でなかったので、私自身も爆風に襲われた。

 

「う……っ!」


 風圧に押されて、尻餅をつく。

 一方、ウォーはすでに一度攻撃を受けて大した事がないと分かっているので、今回もまともに喰らったものの、全く動揺はしていなかった。

 爆発が収まり、目を開くと、ウォーは立ち止まってはいたものの、いつでも動ける体勢だった。


 私と目が合ってからウォーは走り出したが、まるでこちらが目を開けるのを待っていたようなその動きに疑問を覚える。

 私が尻餅をついていた間に、ウォーはリボンを奪う事ができたのではないだろうか。


 三度目、ウォーが私の方へ向かってきたので、疑問は一旦頭の隅によけておいて、三つ目の魔術陣を投げた。

 

ディオ!」


 ウォーはまた空気の爆発だろうと、警戒する事なく手を伸ばしてくる。

 けれど今度の魔術陣は前の二つとは違うのだ。発動するまで何の魔術か読めないというところが、呪文不要の魔術陣のいいところである。


 小さな陣に根を張るようにして飛び出してきたのは、赤い薔薇の蔓だった。

 数十本はあろうかというその蔓が、ウォーの体に巻きつき、一瞬で彼の上半身を拘束する。


 一度目、二度目の爆発をあえて小規模にしたのは、ウォーを油断させるためだ。威力のあるものにしてしまえば私の投げる陣を避けようとするだろうし、そうすれば薔薇の蔓は彼に届かなくなる。


 私は内心、術の成功に喜んだ。

 この便利な拘束用の魔術を使うのは始めてだったのだが、どうして今まで使わなかったかというと、薔薇の棘によって相手に怪我をさせてしまう可能性が高いからだ。

 以前、他の生徒がこの術を演習で使ったのだが、必要以上に相手を傷つけたという事で失格になった事がある。


 しかし今回、私の魔術陣から出てきた薔薇にはどこにも棘がない。

 そういうふうに陣を改変したためだ。


 陣を思った通りに描き変えるのは難しい事で、この改変には半年を要したが、ちゃんと棘なしの薔薇が発動してくれてよかった。

 ちなみに先ほどの空気だけの爆発を起こす魔術陣も、改変に同じくらい時間が掛かっている。


 ウォーは拘束したものの、獣人ならば力を込めれば千切れそうなほど蔓の一本一本は細いので、私は急いで相手に近づき、リボンに手を伸ばした。

 もう少し大きな魔術陣を描けば蔓も太くなり、出現する本数も多くなったかもしれないが、演習では使える紙の大きさが決まっているから仕方がない。


 足は拘束していないので逃げられるかと思ったが、ウォーは抵抗を諦めた様子で動く気配はなかった。

 リボンの上に蔓が被さっていたので、術を解くと同時に素早くリボンを取った。


「ベアトリス・ドルーソンの勝利!」


 教師が手を上げて大きな声で結果を言うと、うちのクラスの生徒たちから拍手が起こった。けれど皆、どこか腑に落ちない顔をしている。


「空気だけの爆発とか、ベアトリス様の魔術はすごかったけど……でもさ」

「うん、ウォーにやる気がなかったように見えたな。手を抜いてる感じ」

「今回勝って三勝一敗一引き分けになるのは、まずいと思ったんじゃない?」

「あのウォーでも、ベアトリス・ドルーソンに恨まれるのは勘弁って事か」


 皆の感想には、私も同意する部分はある。

 ウォーには、この試合に勝つぞという必死さがなかった。


 まず私が尻餅を着いた時、ウォーならその隙にリボンを取れたはずだった。

 それに最後も私はウォーの上半身しか拘束できなかったのに足を使って逃げる事はしなかったし、蔓から逃れようともしなかった。

 そういうところに私は違和感を覚えたが、他の生徒たちも同じだったようだ。


「ベアトリス様ったら、イライアス・ウォーに手加減されるなんて」


 パジーとウィンカ、マリーが小声で話している声も聞こえてきたし、負けたウォーを迎え入れている獣人の生徒たちも、「どっか痛いのかよ?」「調子悪い?」などと彼の体調を心配している。


「いや、大丈夫だ」


 適当に返事をしているウォーを、私は冷ややかに見つめたのだった。

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