冒険者ギルドの凄腕新人アドバイザーとは俺のことよ!
王都アルメリアの冒険者ギルド――
そこは若者の夢と希望が詰まっていると言われている場所だ。冒険者ギルドとは、この世界に存在する人を襲う怪物――モンスターを退治するという依頼や貴重な動植物の採取・捕獲など様々な依頼を受けることが出来る場所である。もちろん、今言った依頼は代表的な物だから述べただけであって、依頼の種類なんて王都中の人と同じくらい沢山あるし、依頼を受けるだけではなく逆に出すことも出来る。
もちろんそんな数ある依頼の中でも難易度が高い依頼であればあるほど報酬もがっぽり稼げるという寸法だ。種族として最強と呼ばれるドラゴンの討伐なんかが高額な依頼の筆頭だな。
実際にそういった高額な依頼を通して、大金を掴んだヤツ等は大勢居る。
更に冒険者から一代限りとはいえ貴族にまで成り上がった者まで居るのだから、それを知った地方の若者どもが富と名声を求めて毎日ここを訪れるってわけだ。
だが現実は非常である。誰もかれもが富や名声を得られるわけではない。志半ばで倒れるものも居れば、成長の限界を感じて中堅止まりで腐るヤツも居る。
そんな状況の中、どうやって成り上がれば良いのか―――
これは誰もが知りたがる情報だ。その答えを求めるとすれば成功したヤツに聞けば手っ取り早いんだろうが、金もコネも無い人間にそんな情報を教えるヤツは居ないだろう。
もしくは「ちょっとドラゴンを倒しただけだ」と言われてそれっきりだ。そんなことが出来るのは人である事を辞めた一握りのイカれた化物だけだ。健全な未来ある若者が目指して良い目標では決してない。無いったら無い。
話は逸れたが、成り上がる方法を知るにはコネや金、時には運も必要だが何事にも例外はある。例えば俺の存在だ。
迷える子羊に救いを齎す神のように俺は新人共にアドバイスをしてやっているのだ。
そのアドバイスを元に若者は経験を積み重ね、新人から玄人へと変わっていく。そして高難度の依頼を達成し一攫千金の夢を果たすのだ。
ただし、誰にでも教えるって訳じゃない。ギルドに金をもらってる訳でもない、言わば慈善事業みたいなもんだから誰を選ぶのかは俺が決める。つまり見込みのあると思ったヤツにだけ話すのだ。
そう―――今、目の前で3人の冒険者に絡まれている女性………彼女のような素晴らしい資質を持った女性にこそ、俺のアドバイスは相応しいのだ。
「な、何か御用でしょうか………?私はこれから冒険者登録を行いたいのですが……」
「へっへっへ………お嬢ちゃん。ここはアンタが来るような場所じゃないぜぇ」
「そうそう………それとも俺たちの相手をしてくれるってんなら別だけどよ。うへへへへ」
テンプレの如き現れる新人潰しの野郎どもが、ギルドに登録に来たばかりの女性に絡んでいる。もちろん俺は見ていられないので助けることにする。
「何を揉めてるんだい?女性1人に寄ってたかって恥ずかしいと思わないのか?」
「何だテメェは!俺はこの嬢ちゃんと大切な話があるんだよ!」
そう言って野郎の1人が俺の顔を見た瞬間、そいつの顔色が真っ青に青ざめた。
「ゲェ!てめぇはドラゴンスレイヤーの………!」
その声に釣られて残りの二人も俺の顔を見る。そいつらも似たような反応をした。
「ウゲェ!こいつはヤベェぞ!」
「チッ!一旦引くぞ!」
野郎どもは女性を名残惜しそうに一瞥すると冒険者ギルドを出て行く。その様子を見て安堵したように溜息を吐いた女性は俺に向かってお礼を述べてきた。
改めてその女性を見ると、やはり素晴らしい素質を秘めていることが分かった。荒削りながらも若々しい生命力を感じる魔力の質を持っていることから魔術師タイプだと看破する。それを物語るように格好も中衛を担う魔術師のような格好をしており、宝玉の付いた杖とショートソードを腰に差した装備で防具はローブではなく女性用の胸元が見えるタイプの軽めの革鎧を着用していた。
そして肝心の見た目はというと、ミディアムロングの情熱的な艷のある赤毛を持ち、エルフの女性のように整った顔だ。
体型もスラリとした細身で特に腰のクビレが何とも艶めかしい曲線を描いている。しかしながら出る所はちゃんと出ており、革鎧から若干はみ出している2つの果実が胸元から見えるのは反則級の威力を誇っていた。更に美しい太ももが強調されて見えるタイプの動きやすいレギングとブーツをチョイスしているセンスも実に素晴らしい!!
ハッキリ言ってこれだけの素材と男心を擽るセンスのある逸材は王都中を探してもなかなか見つからないだろう。俺は彼女のような見込みのある新人に至高のアドバイスを行うことを使命としているのだ。
「いや、君が無事でよかった。それよりも君は新しく冒険者登録を行おうとしている新人だね?」
「えぇ………そのつもりで来ました。まさか来て早々に手荒い歓迎を受けることになるとは思ってもみませんでしたけど………と、名乗るのを忘れてました!私はキーラ・マイナーといいます。助けてくれてありがとうございました!」
ペコリと頭を下げるキーラ嬢。
すると男心を擽るグレープフルーツ大の育ちの良い2つの果実がよく見えて………顔はポーカーフェイスを気取りつつ、その光景を心に深く刻み込んでおくことにする。
「俺の名はレオナルドだ。それにしても、この場に俺が居て良かったな。
君の魔力の質を見るに1人くらいなら追っ払えたかもしれんが3人相手となるとキツかっただろうからね。まぁ、とにかく邪魔者はいなくなっただろうから冒険者登録も出来るね。それが済んだらちょっと僕とお話してくれないかな?登録が終わるまでここで待ってるからさ」
「お話………ですか?
分かりました。終わりましたら、そちらに向かいます」
再びペコリと頭を下げ(再び心のシャッターを押しつつ)キーラは冒険者登録の窓口に向かった。俺が邪魔者を追い払ったおかげか、今度は誰も彼女にちょっかいを出すものは居なかった。
しばらくして、登録が終わったのであろう。キーラが小走りで俺の所まで駆け寄ってきた。
「おまたせしました!
それでお話ってなんでしょうか?」
「お、急がせちゃったみたいで悪いね。話ってのは他でもない。俺から君に向けて冒険者におけるアドバイスをあげようと思ってね。さぁ、ここに座って」
俺はギルドに常設されている酒場のカウンターに座るようにいうと、ウェイトレスの姉ちゃんに果実水を頼む。もちろんキーラ嬢の為に頼んだ飲み物だ。
「さて………俺はこう見えてもギルドでは有名人でね。さっきの手合も俺がひと睨みしただけであんなもんさ。そして幸運にもそんな俺から新人の君に対してアドバイスがあるんだ」
ニコニコしながら、さきほどのウェイトレスが運んできた果実水をキーラに勧める。キーラはお礼を言うと果実水をストローで啜った。仕草がなんともエロい。
「ありがとうございます………あの、どうして私を助けてくれるんですか?」
不思議そうな顔でこちらを伺うキーラにグッとくるものがあるがとりあえず俺の中の紳士を抑えつつ、爽やかな好青年をイメージした笑顔でそれに答える。
「何で助けるのかって言うと、単純に言えば冒険者ギルドの新人アドバイザーをやってるからだ。
でも俺の場合はさっきも言ったけどギルドで俺は有名人でね。誰でも教えてあげる訳じゃない。資質がある人を選んでアドバイスをしてあげているんだ。君は俺のお眼鏡にかなったんだよ」
「………?はぁ、そうなのですか?それはありがとうございます?」
いまいち凄さが理解出来ていないのか、不思議そうな顔をするキーラ。だが、彼女の素質は冗談抜きで高いと俺の中の宇宙が言っているのだ。だから俺は彼女にアドバイザーとして的確なアドバイスをしようと思ったのだ。
「まぁ、俺に任せておけば大丈夫さ。ちょっと強引に誘って悪いとは思うけど、悪漢から助けてあげたって事でちょっと時間頂戴ね。君の為になるし」
俺はそう言ってキーラに冒険者としての説明をするのだった。
――――――――――
「――まず初めに、冒険者ってのはよくその名前の通り冒険をする者だと言われてるんだけど、生き残りたいなら冒険なんてしない方が賢明だね。
成功の要は準備8割って言われるのはどこの業界でもそうだけど、何か行動を起こすためにはそれぞれリスクが必要なんだ。商人なら金だとか時間だけど、えてして冒険者が必要なリスクってのは命なんだ。準備で8割成功率が上がるなら、絶対に怠っちゃいけない部分だね」
「――話は逸れるけど、あそこの冒険者の腰に指してる獲物を見てくれないかな?あれ見て分かると思うけど………全然、手入れしてない上に安物だってのが分かるよね。あれはダメな冒険者の典型だよ。自分の命を預ける武具を大切にしないヤツは早死しちまうんだ。強敵と戦ってる最中に剣がポッキリ………なんて洒落にならないだろ?だから冒険者は装備に出来るだけ金は掛けた方が良い――」
「――たまに依頼で他の街や村に行くこともあるのが冒険者なんだけど、近隣住民の反応はよく見たほうが良いよ。特に初めて行く所………特に人里離れた村なんて隔離されたような場所だ。依頼があると偽って人狩り、いや、冒険者狩りを村ぐるみで行う所もあるからね。特に金を持ってそうな冒険者や、綺麗な女性なんて居た場合は真っ先に狙われる。そういったことを回避する為には、やはり信頼ある仲間を作ってパーティーを組むことをおすすめするよ。単純に数は力だからね。ゴロツキが徒党を組むのはそれを知っているからさ。1人で出来ないことも、2人、3人なら可能になることだってある。さっき言った事は極端な例だけど、君は新人の内に早めに信頼出来る仲間を作った方が良い。何なら俺が仲介をやってもいいし―――」
相手が美人ということもあり、いつもよりも親切丁寧に説明をしてしまった。その分、時間が掛かってしまい、ちょっとの説明と言っていた当初の時間を遥かにオーバーしてしまい、外は茜色に染まっていた。つまり昼からずっとぶっ通しで俺は語っていたのだ。
「ご、ごめんよ。思いのほか話が弾んじゃって………ところで宿の方は大丈夫かい?」
「いいえ、こちらこそ大変貴重な話が聞けて助かります………宿の方は―――えーと………これから探そうかなぁと」
ちょっと困ったような顔でお礼を言うキーラ。罪悪感を感じた俺は、ついでに下心満載でアドバイスをする。
「本当にごめんよ!
お詫びといっては何だけど、俺がおすすめする宿を紹介するよ!俺の紹介だって言えば安くしてくれるし、安心安全だよ!良かったらどうかな?」
キーラは俺の提案を受けてすぐに返答した。
「本当ですか!助かります!実は冒険者になるにあたって、登録に金貨が必要になると思って無くて………お金が無くなっちゃったので、安く済むなら本当に助かります!」
ニパッと太陽のような微笑みを浮かべるキーラに鼻の下を伸ばしつつ、それじゃ案内するよ、と会計を済ませた瞬間、冒険者ギルドの扉が吹き飛んだ。
「は?」
キーラが驚いて吹き飛んだ扉を凝視する。
何を言ってるのか分からねーと思うが、会計を済ませた瞬間に狙ったかのように扉が吹き飛んだのだ。本当に意味が分からない。しかし、そんな意味不明な現象がなぜ起こったのか一瞬で理解することになった。
「レオナルドォォォォォ!アンタ、他の女に色目使ってんじゃないよ!」
突然、巨人の咆哮を彷彿とさせる死を覚悟してしまうような恐ろしい声を聞いた。
その声を聞いた瞬間、冷や汗が滝のように流れ始め、耳はもう答えは分かっているのに脳がその答えを拒否するという不思議な現象を体験する。しかしそんな現実逃避も長くは続かなかった。
扉の奥から現れたのは見事に腹筋が6つに割れた筋肉質な女性だった。身長は170cmほどで女性にしてはデカい。ついでに胸もデカい。
顔は鋭利な刃物を彷彿とさせるような顔立ちだが、非常に整った顔をしている。日に焼けた肌は健康的な小麦色に焼け、全体的に胸から太ももにかけて露出度が高い身軽そうな革製の防具を着ているが、その服装に似合わないほどの巨大な大剣を背負っている。
そんな女性が扉のあった場所に仁王立ちしていたのだ。
「出たぁぁぁぁ!“気違いドラゴンスレイヤー”だ!」
「ゲェ!?“アルメリアの狂人”!
「“全殺しのメリンダ”!」
「ぎゃあああ!“迷惑大魔王”!」
「うわぁ!“終末の狂戦士”!」
「な、何でこんな所に“ウッドガルズの悪夢”が!」
「あぁ!?なんか文句でもあんのかコラァ!?」
「「……………………」」
静まり返る冒険者ギルド。そして一連の流れが理解出来ず唖然とした表情のキーラ。そして俺はその騒動の隙に窓から逃げ出そうとして――――
「逃がすと思ってんのかい!」
俺の数センチ横に大剣が突き刺さった。薄っすらと頬から血がにじむ。
「ひいぃぃぃぃ!メ、メリンダ!きょ、今日は隣国の“ベオグラント”で仕事があるんじゃなかったっけ!?一日で帰って来れる距離じゃないんだけどなぁぁぁぁぁぁ!」
俺は焦りまくって不思議に思ったことを口に出してしまった。そして、未だに事態についていけないキーラの姿が視界の隅に映る。
「はぁ?そんなもん“走れば帰ってこれる”じゃないの。アンタの顔を早く見たかったから急いで帰ってきたってのに………アンタと来たら………」
長身の女性………いや、メリンダが俺に殺気を向けてきた。国で50人も居ないと言われているAクラスの冒険者………つまり人であることを辞めた兵器に等しい存在である。ついでに俺の奥さんだ。そして大事なことだから言っておきたいんだが、隣国からここまで“とても走ってこれるような距離じゃない”のは確かだ。もうこれだけで人間を辞めてる性能である。
メリンダに圧倒されていた一同だったが、レオナルドに助けて貰ったということもあり今度は自分の番だと、キーラは意を決したように二人に割って入った。
「あ、あの!………私、キーラと申します。そ、その………レオナルドさんに乱暴な人達から助けてもらって、それで色々アドバイスを貰っていたところなんです!事情は良く分かりませんが、落ち着いて下さい!」
そんな様子のキーラを見て毒気を抜かれたメリンダは、ため息を吐いて壁に刺さった巨大な大剣を引き抜いた。
「ふーん………そうかい。てっきり、私というものがありながらナンパでもしてんのかと思って怒っちまったよ。悪いね!勘違いしちまってさ!」
はっはっは、と豪快に笑うメリンダ。どうやらキーラのお蔭で俺は命拾いをしたようだ。俺が汗をぬぐっていると、何かに気付いたのかメリンダはキーラに話を振る。
「私はメリンダってんだ。ここにいるレオナルドの妻なんだけどさ………私と違ってレオナルドはめっぽうケンカが弱いんだ。悪漢から身を守ったって言ってたけど、信じられないねえ?」
メリンダが何やら失礼な事を言っている。あいつらを追い払ったのはアレだ。俺の凄腕力というか出来るオーラを感じたから逃げ出していったんだ。
「えーと………レオナルドさんが話しかけたら顔を青ざめて逃げていきましたね………そういえば、ドラゴンスレイヤーがどうとか言ってたような気がします」
「ははぁ、なるほどなるほど。殊勝なことをしたと思ったら、虎の威を借るなんたらってやつか。きっとその暴漢は、ドラゴンスレイヤーである私の結婚相手がこのレオナルドだって知ってたんだよ。レオナルドに手を出したら私が来るとでも思って逃げ出したのさ。はぁ………まったく男のくせに情けないねぇ。そんなんじゃ、いつまでも私に守られっぱなしだよ!」
そう言ってバンと俺の肩を叩いた。彼女からすれば冗談でどついた程度なのだろうが、俺はこの一撃を喰らって肩が外れた。
「ぎゃああああああああああああ!痛すぎるぅぅぅぅぅ!」
痛みでゴロゴロ転げまわっていると、メリンダは俺を無理やり立たせ、肩の関節を力任せに元に戻した。
「ぐぎゃあああああああ!いでええええええええええ!」
「五月蝿いねぇ、さっきから!
男なんだからビービー泣きわめくんじゃないよ!まったく鍛え方が足りない!
アンタの体たらくは見てられないから、今からアンタを鍛え直してやる事にするよ!」
そう言って俺の襟首を無造作にメリンダは掴んだ。
「ちょ!おま!どこ掴んで………ぐえぁ!クビィイィィ!クビ締まってる、締まってる!ギブギブ………あー!引っ張るなって、立つ、立つから待ってぐえぇぇぇぇぇぇぇ!」
抵抗も虚しく哀れ、俺はメリンダに地獄の訓練場へと連れ去られていってしまった。
――――その後の冒険者ギルドの様子
「………レオナルドさんは大丈夫なのかしら」
色々なことが短時間に起こったせいで理解が追いついていないキーラがポツリと漏らした一言がギルドマスターの耳に入る。ギルドマスターは遠い目をしながらキーラに語りかけた。
「彼は………何というか今頃地獄を見てると思うよ。何せメリンダと違って普通の一般人だから、彼女と合わせた訓練なんてやったら死ぬような思いをするだろうね」
「そ、そうだったんですか………私、てっきりレオナルドさんってとても凄い人なのだと思ったんですが」
「そうだね………メリンダはドラゴンも単騎討伐出来る人外だけど、彼は何というか………ただのスケベ野郎だよ。しかもスライムにも負けるような男だから全然強くない。ただ………」
ギルドマスターはレオナルドが連れ去られていった山の方を一瞥する。
「………あいつの助言って、意外と堅実でまともなんだよなぁ」
そうポツリと呟いた一言にキーラは頷いた。そしてギルドマスターはレオナルドが果たせなかったキーラの宿の紹介を代理で行ってくれたので、キーラは野宿をせずに済んだのであった。
余談ではあるが、その日の夜中ずっととある男の悲鳴が山に木霊していたのだが、事実を知る者達は誰もが口をつぐんで話そうとはしなかったそうな。