06
「あはははははははっ!」
リル姉の腕の中で、私が突然笑い出した。
「く、はははははっ! あーっははっはあぐえっ」
「エ、エメ?」
ちょっとえづいてしまった。いや怯えないでリル姉。発狂したわけじゃないから。
「リルねえも、わらって」
「え?」
「エメたち、ずっとわらってない。たのしいとわらう、なら、わらうとたのしいよ」
笑いはストレス発散になる。自分が本当に情けないし辛いしお腹空いたし泣きたいのは変わらないが、どんどん底に落ちていく気持ちを無理やり上げて、運気も上昇といこうじゃないか!
嫌なことばかり考えたって仕方ない。絶望とは愚者の結論である。雨の後には晴れるでしょう、明日は明日の風が吹く!
「はははははぐえっ、あははははぐぇおえ」
「エ、エメ、ちょ、無理しないで」
「あはははははははなしがいまちいちすすまない!」
「だ、誰に言ってるの?」
「あっひゃひゃひゃひゃひゃっ!」
「・・・ぷ」
おろおろしていたリル姉も、つい吹き出してしまったのを機に笑い出した。
「あははっははははっ! ぐぇ」
「きゃははははっ! おぇ」
「うっるせええっ!」
調子に乗って大笑いしていたら、近くの家の人に怒鳴られた。目が血走っているナイトキャップお兄さんにぺこぺこ謝りながら、私たちはこっそり顔を見合わせ笑い合った。涙はすでになくなっていた。
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ただ生きていれば満足、じゃない。安定した暮らしに必要なものは何か。
家、食べ物、服、様々あるが先立つものはすべて金。安定して収入を得るには手堅い仕事。誰かに養ってもらうという考えは捨てる。そう、我々は就職せねばならない。下級貧民から速やかに脱出し、中流層に食い込むため必要不可欠It's the職。前世で死ぬ数年前に就活終わって働き始めたのにまた就活だよ。別にいいけど。
どうせこの世界に児童就労を禁止する法律なんてないんだ。というわけで、ご飯を探しつつ人手を欲していそうなところを探すことにした。ただし注意点は夜のお店でないかどうか。仕事内容をぼかしたり、いきなり物を恵んでくれようとする相手は絶対だめだよとリル姉に釘を刺しておいた。
で、まあ探してみてるんだが、すぐにはなかなか決まらない。あってもアルバイト。一回手貸して、という程度のもの。やるけれども。小銭稼ぎじゃ仕方ないんだってば。雇うという話になると途端に渋りだすんだからやんなっちゃうよ。別に、週休二日で月三十万に社会保障とか言ってるわけじゃないんだから雇えよな。即戦力が欲しいとか言うけど何も教わらずにできたら自分で会社立ち上げるわっ。いやまあこれは前世の友達の愚痴だ。ほんと言うと私自身は大して就活で苦労してなかったから、多少甘く見ていた部分があった。やる気のある五歳児は雇ってもらえませんか。
今日も今日とて目ぼしい話はなく、ただ毎日挨拶をして警戒を解いた青果店のおばちゃんの手伝いをし、報酬に洋ナシっぽい不細工な果物を貰ってリル姉と合流した。リル姉のほうも収穫はなかったようだ。
「はたらくのと、すむのと、いっしょがいいよねえ」
住み込みと言いたい。こっちの世界の語彙がまだちょっと足りない。そういう労働形態はこの街にあるだろうか。
「リルねえは、どこまわった?」
「・・・」
え、あれ、なんか無視された。
「・・・リルねえ?」
ずる、とリル姉の体がこちらに倒れてきた。
「リルねえ!?」
一瞬、食べてた果物に毒が盛られていたかとか馬鹿なことを考えた。だがリル姉の呼吸が荒く、体が熱いのに気がついてこれは、風邪?
明日の風違い! いや、風邪よりもっと大変な病気だったら? いや風邪も危ないけど!
疲れが祟ったのか・・・こんな汚い路上に、放っておいたら死んでしまう。きっと我慢してたんだ。私に心配かけまいとして、きっともっと前から具合が悪かったに違いない。ああもうなんで気づけなかったかな!?
すぐにリル姉を背負い(チビなので足は引きずってしまうが)、とある場所へ急いだ。