閑話―アレクセイ視点―
短いですがキャラ固めに書いてみました。
鳥が好きだ。
窓辺に遊びに来る、小さな鳥が特に。
様々な色の羽が美しく、目も嘴も足も小づくりで愛らしく、それらをぼうっと眺めるのが幼い頃の楽しみだった。
小鳥たちには高い壁も門も意味はなく、ましてそこが王宮であることなど関係なく、自由にやって来てはこちらが勉強中でも構わず高い声でさえずり、呼んでも来なければ手を伸ばせば逃げる。
そして青い空の向こうまで、いともたやすく飛んで行ってしまうのだ。
太陽に重なるその姿が眩しく、ただただ羨ましかった。
小鳥たちのように空を飛べる方法を、真剣に悩み始めたのは姉の言葉がきっかけだったが、その以前から憧れを抱いていたことは確かだった。
ある日、籠に入った小鳥を贈られた。全体は青いが腹だけ白く、人間で言うなれば頬のあたりに薄桃色の丸い模様がある、可愛らしい鳥であり、幼心にひどく嬉しかったのを覚えている。
しかし小鳥のほうは、黒い瞳を不安げに揺らしていた。毎日世話をしていても、籠の限界まで遠い位置に留まって懐くことはなく、こちらが構わない時にはよく、窓の外を眺めているようだった。
哀れになり、一度だけ外を自由に飛ばせてやろうとした。そのまま逃げられる可能性があることはなぜか考えておらず、ただ純粋に、小鳥の気が晴れればと思っていた。
暴れる小鳥を両手で包み、二階の自分の部屋の窓から宙へ放った。
すると、小鳥はもがきながら地面に墜落した。
飼いやすくするために羽を切られているということが、子供の知識にはなかったのだ。地に体を叩きつけられて、痙攣している可哀想な者を慌てて掬い上げた時、己の浅慮を激しく後悔した。
小鳥は足を骨折した。
怪我が癒え、羽が生え変わったら外へ逃がしてやった。
もう二度と鳥は飼うまい。空にいる者を捕えてはいけないのだ。
今、私の傍には赤い小鳥がいる。
手には乗せられないが、それでも小さく、よく動きよく喋る、愛らしい鳥だ。
「アレク? 聞いてる?」
いつの間にかぼうっと眺めてしまい、小鳥に訝しがられた。誤魔化すように笑みを浮かべて謝る。課題について、意見を交わしている最中だった。
「疲れてるかもしれないけどがんばろう。あとここだけだ」
両の拳を振って励ましてくれる様子が微笑ましく、気合いが入るよりは、やはり和んでしまう。年明け頃から髪を伸ばすことにしたらしく、なんとか頭の後ろで結わえられるようにまでなった髪の束が、動きに合わせて揺れ、ちらちら見える毛先が尾羽に思えた。
「その髪形、可愛いな。よく似合っている」
「ありがとう。でも今はそういうの求めてない」
小鳥はつれない。
彼女の深い緑の瞳には、怯えの色が浮ばない。
王族である自分を前にしても。誰が何が相手でも、いつもまっすぐに正面から見据える。
その目には他者が気づかない多くのことが映るようなのだ。まるで、鳥が遥か上空から、すべてを把握しているかのように。
彼女に見つめられ彼女の言葉を聞いていると、自分も同じ空を飛んでいる感覚に陥る。
「殿下、どうかお心を傾け過ぎませんよう」
近頃はロックが頻繁に釘を刺してくるようになった。決まって誰もいない時に、深刻そうな顔で。
「あの者はいずれ家来となる者です。どうかそのことを、お忘れなく」
昔から彼には心配をかけてばかりいる。
それを安心させるためにも、自分を戒めるためにも、同じ台詞を繰り返すのだ。
「わかっている。すべて、今だけだ」
もとより私は鳥ではない。空を飛ぶ夢は叶わないのだ。




