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 フェビアン先生の熱意と努力は目覚ましいものだった。

 教材はつらつら長いばかりの歴史書から子供がとっつきやすい物語集に変更、そこで使われる高度な文法を抜き出して、時に身近な例文に置き換えて説明したり、実際こちらにも作文させてみたりと工夫を凝らし、生徒の理解の具合を確認しつつのだいぶわかりやすい授業をしてくれるようになった。ま、私とリル姉の努力の成果でもあるけどな! さらっと説明を飛ばそうとするところを毎度毎度止めるのが大変だった。生徒のわからないところがわからないという致命的な欠陥を負っていた先生だったのだ。前世では私もそのがあったため、あまり人のことが言えないが。先生は優秀過ぎないほうがいいのかもね。

 こうして学校内部は改善されていったのだが、いかんせん生徒が増えない。いまだ私たち姉妹二人だけ。せっかく努力しているフェビアン先生があんまり可哀想なんで、すごくいい学校になったんだと店に来る客に宣伝してみたのだが、大人に言ってもいまいち反応が薄かった。

 結局、勉強したって何にもならないと皆が思ってるんだよな。確かに貴族になれるわけじゃないし、すぐさま役に立つ知識ばかりじゃない。この世界のものより高度な教育を受けていたはずの私でさえ、その役立たなさを一度は嘆いたことがあるくらいだ。しかし字は読めるに越したことはないと思うのだが。

 実は生徒を集めるのに一番いい方法は、ぶっちゃけ給食を出すことなんだよな。知識欲より食欲ですよ、やっぱ。だがそんな施設を作るスペースはどこにもにない。おそらく資金もない。


 そんでもって新たな問題発生。

「へーみんが貴族のマネしてんじゃねえよ!」

 近所の悪ガキどもがやっかみに来始めた。気軽に入れるよう開けっ放しにしている入り口から石を投げ込んでくるのである。何がしたい。ここは領主が経営してる学校だってわかってないのか。っていうかリル姉に当たるわぶっ殺すぞ!

 所詮温室育ちの先生は泣いてしまい、この遊びが楽しいのか日増しに悪ガキが増えていってもはや授業どころではない。机でバリケードを築いて対抗すると隙間から中に乗り込み、教科書をびりびりに破いてくれた。ぶっ殺してやる!

「知ってるぞ! お前ら親に捨てられた子なんだろ!? いらない子が勉強なんかなまいきなんだよ!」

「自分で稼いだことないゴクツブシにとやかく言われたくないわ!」

 悪口の語彙ならば日々勉強している私のほうが上だ。だからって何にもならないがな!

 ガキ大将風なやつがそこそこ裕福な商家の子供だったもんでなお腹立って腹立って、バリケードを出て叫んだところで、頭に石が当たった。

 リル姉の悲鳴が耳に響く。熱い痛みと、こめかみから顔の横を液体が伝っていく気持ち悪い感触があった。くそ、勉強してるだけでなんでこんな目に。懸命に努力する者を虐げて世界は幸福になるというのか? 義憤に燃え、止めるリル姉を振りきり大将の首を取ってやろうとしたが、敵はあっという間に残らず逃げてしまった。警吏担当の領主の兵が、ちょうど見回りに来たところだったのである。

「バカ! なんて無茶するの!?」

 リル姉が自分のスカートの端を破き、私の頭に巻いてくれながら、泣いて怒っていた。路上生活を脱してから、泣き顔はほとんど見なくなってたのになあ。

 うーん・・・ちょっと、我を見失ってたかな。だってリル姉も危なかったもんだから。いや、まあ、反省します。

「見張りを置きましょうか?」

 荒らされた教室を一緒に直してくれながら、兵士の人が言ってくれたが、それはあまり良い提案ではない。

「四六時中兵がいたらますます人が来なくなってしまいます」

 答えたのはフェビアン先生だ。彼もそろそろ庶民の感覚が掴めてきたらしい。しかし現状のままでもだめなんだよな。どうしたもんか。

「あの先頭にいた子は確か、最初のほうに来てくれていた子なんですが・・・」

 先生が指しているのはガキ大将のことらしい。

「とびきり元気な子だったのでよく覚えています。あっ、もしかしてあの時鞭で叩いてしまった恨みでこんなことを?」

 先生の顔が青くなった。なるほどね。ひっぱたかれていじけて不登校になった奴が、平然と毎日通っている私たちをやっかんでるんだな。負けたような気がして悔しいのだろう。教育方針が変わったことを知らないから。

 んー、でもそれって、まだ学校が気になってるってことだよな? あいつ本当は授業を受けたいんじゃ? あるいはそうかもしれない。ならきっかけを作ってやれば、もしかしたら案外簡単に問題は片付くんじゃないだろうか。

 店に戻ってから、私はさっそく準備を始めた。

「ジル姉、強いお酒ない?」

「十年早い」

「飲まないよ。実験に使うだけ」

「またか。というか頭は大丈夫なのか?」

「頭おかしくなったみたいな言い方やめてよ。大丈夫だよ」

 血みどろで帰って来たのでジル姉にも心配されてしまっていた。

「何をする気なの?」

 不思議そうなリル姉に、にっと笑みを向ける。

「あいつらが素直になれる魔法を見せてあげるの。リル姉も手伝って」

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