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荒野を進めばそこは異世界  作者: ゆきのいつき
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第八話 新しい生活と奏音の秘密

「カノンちゃんにはここ……、使ってもらうようにしようと思うの」


 ケイトさんがちょっと躊躇ちゅうちょしながらもそう言ってドアを開け、私に中を見せる。

 そこは物置小屋のようで、身の回りで使う道具や、使わなくなった古めかしい農機具や馬具、それに……壊れた武器(これ恐竜モドキと戦って壊したのかな?)など、雑多に詰め込まれていた。 ニックさんは農業を営んでるけど、農作業がないときは農機具や武器の製作や修理など、いわゆる鍛冶屋さんのようなこともやるらしい。


それにしても……、


「ひどっ、ちらかし放題だ……」

「うっ。 い、いわないで……。 ニックにどれだけ言っても全然片付けやしないんだから」

 やれやれといった顔をしながらもニックを見るケイト。


「まっ、なんだ、物置小屋ってのはそういうもの放り込んどく部屋のこと言うんだろ? なっ!」


 ニックさんはそう言って対して気にした風もなく"わはは" と笑ってる。


 ニックさんとケイトさんのお家、今は私の家でもあるのだけど……は、40平方メートルくらいの平屋建てで、大きく居間と個室(っていうか寝室)に別れてる。 居間の真ん中には石積みの炉が造られてて、これは暖房のほかに食事の準備なんかにも使われるってことで、居間が食堂や台所も兼ねてるようだ。

 私が寝かされてた部屋はケイトさんの寝室で、隣りにニックさんの部屋があり、その横にあるのが今見せてもらった物置小屋なわけ。 四畳半ほどのこの部屋は、壁からはみ出した形で作られてて、外からでも出入りできるようになってた。


 あっ、小屋から出す道具ガラクタは、外にある作業小屋に押し込むらしい。 外には作業小屋のほかに、家畜小屋と穀物倉があって、いかにも農業やってるって感じの佇まいだ。


 で、そんな物置小屋なんだけど、さっきも言ったように今は散らかし放題になってる。

 これを片付けて私の部屋にしてくれるってことみたいだけど……、見るだけでなんかクシャミがでそうな埃っぽい部屋に私は思わず苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「まぁカノンちゃん、そんな顔しないで、ね? みんなで片付ければなんとかなると思うの……。 ねぇ? ニックぅ」

 語尾を強めてニックさんに言うケイトさん。


「そ、そうだな。 わは、わはははっ」


 ニックさん、ケイトさんにたじたじだ。

 どうやらニックさんってケイトさんに頭上がらないみたい。 まぁ夫婦円満の秘訣は奥さんの尻にしかれとけってことなんだろうか? にひひっ。


「でもまぁ、とりあえず今日も私と一緒に寝ましょ? カノンちゃん♪」

「うん! お願いしま~す」


 私は遠慮なしにそう答えた。

 ケイトさんは、ほんとうれしそうにうなずいた。


 昨日家族の一員として迎えられた私は、その日はケイトさんのベッドで、ケイトさんと一緒に眠ったのだ。 最初は遠慮したんだけど、あなたは私の娘になったんだから一緒に寝てあたり前よって押し切られた。 ちなみに私が最初目覚めるまではニックさんのベッドで二人"仲良く"寝たみたいだ。


 ところで、ケイトさんとニックさんは一緒になってすでに5年ほど経ってるらしいんだけど、二人の間には残念ながら今なお、子供が授からないらしい……。

 ケイトさんたちは私のこと、11・2才くらいの子供だと思っているようで、そういう事情もあって私を引き取ろうと思ってくれたんだろう。


 ずるいようだけど、私もあえて否定しなかった。 こんな小さい女の子の姿して、私、実は30才越えてます! なんて言えるわけもないし……。

 だからこれからは、ディケンズ家の女の子として生きていかなきゃならない。 ……まぁ多少変な行動してしまっても、その、"流され人"だからって理由でごまかせるんじゃないかな?



 家や部屋の説明が一通り終わり、私たちは居間で一休みする。

 ちなみにスパナは炉の脇でさっきからずっと熟睡中だ。

 コイツ、やる気ないなぁ……。


「ところでカノンちゃん。 私たちのことは、お母さん、お父さんって呼んでくれるとすごくうれしいんだけどなぁ……、ダメかな?」


 ケイトさんがちょっとテレながらも私にそう言ってきた。

「えっ、そ、そうですか。 そのぉ、でも、なんかテレちゃいます……ね。 あははっ」

 私はさすがにいきなりお母さんって呼ぶのは抵抗があった。


「あっ、いいのいいの! そうよね、いきなりお母さんって呼んでっていうのも無理あるよね? でも時間かかってもいいから、いつかそう呼んでもらえるとうれしいかな?」


 ケイトさんはそう言って、無理して言わなくていいって言ってくれたけど……、その顔はどう見ても、私にお母さんって言ってもらいたくてうずうずしてるって表情だった。


 はぁ……、仕方ない。


「……お母さん?」

「は、はいっ♪ カノンちゃん!」

 

 ケイトさんったら満面の笑みを浮かべて喜んでる。 そ、そんなにうれしいんだろうか?

「お母さん、その、これから色々迷惑かけちゃうかもしれませんがよろしくお願いします」

 私はこの際だから、改めて挨拶も一緒にしてみた。

「あ、それと親子になったんだから、私のこともカノンって呼び捨てにしてくださいね? お母さん!」


「ううっ、カノンちゃん。 いいえ、カノン。 ほんとにいい子なんだからぁ!」


 ケイトさんはそう言うと私を思いっきり抱き寄せ、そのまま立ち上がると抱きしめたままグルグル回りだした。

 ケ、ケイトさん、興奮しすぎです! 目がまわっちゃうよぉ~!


 そして、ようやくケイトさん、おっと、お母さんが落ち着きを取り戻し私を下ろしてくれる。

 そして下ろされた私のほうを見てくる視線がもう一つ。


 はぁ~、疲れるなぁ、もう。

 私はこの際開き直って行動を起こした。


「お父さん!」

 

 私はこう言ってニックさんのほうへ駆け寄り、抱きついちゃった。

 ニックさんの反応は面白いほどだった。


「か、カノン~! お、オレのこともお父さんって呼んでくれるのか? くぅ~!」

 

 ニックさん、お父さんはそう言って私を抱きしめ、次に私の脇に手を差し入れると一気に持ち上げ、いわゆる高い高~い!ってやつをしてくれちゃった。 それはもう、ものすごい勢いでやってくれちゃったから、お母さんの時の比じゃなくマジ目が回ってきちゃって……。


「ちょっと、ニック! ニックってば。 やりすぎよ、やりすぎ!!」


 お母さんが暴走するお父さんに言葉を浴びせ、それでようやく我に返ると、すでにもうフラフラで言葉も出せない私を慌てて下ろした。 お母さんはそんな私をギュッと抱きしめ、お父さんをにらみつける。


 お母さんの鬼の形相にしゅんとなり、かわいそうなほど縮こまるお父さん。

 なんかほんと弱いね、お父さん。

 

 それからしばらくお母さんと、そっこう復活したお父さん、二人のスキンシップに翻弄された私。

 もうカンベンしてください。 マジふらふらですからっ!


 ……それにしてもほんとに、私なんかを養女にしてよかったんだろうか? 二人の喜ぶ姿を見つつもそんな思いにかられてしまう私なのだった。


「カノン? どうしたの、急に黙り込んじゃって。 もしかして気分悪くなった? 私たち調子に乗りすぎちゃったかしら? ごめんね」


「ううん、違うの。 その、二人の気持ちがうれしくてうれしくて。 でも、そう思えば思うほど、ほんとにいいの?って思えてきちゃって……私、よそ者なのに……それに」


 私はさっきまでの気分がウソのように落ち込んできてしまった。

 そんな私を見てお母さん、ケイトさんが言う。


「カノン。 この前も言ったけど、そんなの私やニックには関係ないの。 私たちは、カノンのことが好きになったから養女にしたいって思ったの。 自分たちの娘になって欲しいって思ったのよ? カノンが異世界人、"流され人"だろうと関係ないわ」


 そう言って私の頭をやさしくなでてくれる。 でも……。


 異世界人だろうと関係ない。 

 二人はそう言うけど、でも私はまだ見せてないことがあって、それを見た時の二人の反応が怖かった。


「お母さん。 "流され人"のお話の中でその人たちの持ってた力の話しとかって聞いてる?」


 ケイトはカノンからの質問を少し考え、そしてニックのほうを見る。 ニックも同様に考え込んでいたが、しばらくすると二人は顔を合わせ、うなずき合うとケイトは言った。


「カノン? もしかしてカノンは私たちがあなたの力を見て、恐れをいだかないかって心配してるのかしら? もしそう思ってるのならお母さん、悲しいな?」


 お母さんの言葉に私は思わずその顔を見つめる。


「過去に現われた"流され人"が、変わった力を持ってたっていうのは文献とか見ると載ってはいるけど、それがどんな力なのかまで詳しくは書いてないの。 でも例えどんな力もってたって、私たちのカノンへの気持ちは変わらないわ」

 お母さんはキッパリと言い切った。 お父さんも深くうなずいてる。


 私は目を見開いてお母さんを見る。

 ああ、なんかまた泣いちゃいそうな気分になってきちゃった。 ほんとにこの人たちときたら、なんて……なんていい人たちなんだ。

 この世界に来て最初に会った人が、この人たちでほんとに良かった。


 この世もまだまだ捨てたものじゃなかったのかな? でもこの世界に飛ばされちゃったんだから……微妙なとこあるけど。


「ケイトさん……お母さん! ほんとのほんとにありがとう! 私もう気にしない。 だから……」

 私がここまで言ったところで再びお母さんに思いっきり抱きしめられた。


「もう何があってもカノンのこと離さないから! カノンがいやだっていっても絶対離してなんかやらないんだから、覚悟しときなさいね?」 

「うん、うん! 私だって。 私だってもう出てけって言われたって出てかないんだから!」


 そう言って私たちは顔を見合わせ、そして、笑った。 そしてその目からは涙が頬を伝い、流れ落ちていった。



 スパナはまだ熟睡したまんまだった。


 

 このバカ犬……。




* * * * * *




 翌日。

 

 私は自分の力を二人に見せておくことにした。

 あとマシンも。


 二人に隠し事は無しにしたかったから。(ただし歳のことはのぞかせていただきま~す)


 今、私たちは荷馬車に乗って私がマシンを隠した岩場に向ってる。

 大体の場所のイメージをお父さんに言ったらすぐ場所の見当がついたみたいで手っ取り早かった。

 道中、空竜や地竜?(っていうんだっけ)、を警戒しながらも岩場を目指す。

 そういや恐竜モドキのことまだ聞いてなかったなぁ……、戻ったら聞いて見なきゃ……。


 荷馬車で20分くらい走ると例の岩場近くまで来たので、ここからは荷馬車を降り、私が場所を思い出しながら歩いて進む。

 スパナは今日はまじめに私の横につき従って歩いている。


「なぁカノン、えらい岩でごつごつのとこに来ちまってるけどこの先に何があるんだい? この辺りは小型だが水竜が出る。 あんまり人が来ていいとこじゃないんだが?」

「えっ、そうなの? 知らなかった……。 ここには1回きただけだし、その時は見なかったし」

「おいおい、大丈夫かぁ? 一応武器は持ってきてるが……」


「大丈夫、大丈夫! 私も武器持ってきてるし。 バッチリだよ」

 私はそう言って、腰のチョークバッグをポンっと軽く叩いて見せた。

 

 ケイトはそれを見て言う。


「ちょっとカノン? それの中、悪いけど前見させてもらったけど、小石が入ってただけよ? まさかそれを武器って言うんじゃないでしょうね?」

「えっ? 武器だよ? 武器。 すっごいんだよコレ、どっかんだよぉ~」


 ケイトとニックはカノンの説明を聞いてもさっぱり要領を得ない。

 たぶん"流され人"の力と関係があるのだろうと察しはするのだが……。 しかしわからないことをいくら考えても仕方ないので、二人は気になりつつもカノンに付いて歩いていくのだった。


 それにしても歩きにくいところである。

 にもかかわらず、あの小さな体でひょいひょいと、岩の上をまるで普通の馬車道かのように、進んでいくカノンとスパナ。

 

 そんなところにも"流され人"の能力?の一端を垣間見た気がする、ケイトとニックであった。


 そしてどうやら目的地に着いたようだ。

 カノンが大小の岩で、小山のようになってる場所を指差して言った。


「着いたよ! ここに見せたいものが隠してあるの、にひひぃ」



 カノンの発言に、二人は顔を見合わせた。

 

 ただの岩山だ。

 多少倒木などが不自然な感じで転がっているが……。



 ケイトとニックは、カノンが行動を起こすまで、ただ見つめるほかないのであった。




 


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