第四話 謎の城壁?へGo!
紫がかった空の下、地平線のかなたまで広がる荒野を砂埃を上げ疾走する車。
もちろん奏音自慢のスーパー4WDである。
ぐだぐだ悩んでも仕方ないと、とりあえず街(と人)を求めて走り出した奏音。 再スタートしてから延々走った末、一夜を車中で明かし、翌日もまたすでに半日が過ぎようとしていた。
元の世界の大陸中央部は砂漠と荒野ばかりの不毛の地であるため、人が住んでいたのは沿岸部。 だからこの世界でだって沿岸部を目指せばいづれ街にたどり着けるはず。
ただ、前の世界でならあるはずだった場所(すでに2・3ヶ所は過ぎたが)に、街は無く今だこうして疾走を続けているのだった。
まぁさすがに街は、その世界特有の広がり方があるのだろう。 奏音はそう思って気落ちする心を自分で慰めていた。
しかし街はともかく、地形が同様なのであればこのまま行くとそろそろ川があるはずなのだが……。
「もう、ほんと無駄に広いんだからこの大陸! いつまでたっても景色変わんないじゃない~!」
ずっと変わらぬ景色に、すでに飽き飽きしだした奏音が一人グチをこぼしている。
「それにしてもやっぱ人の手、完全に入ってるよねぇ。 ひどい路面だとはいえ一応道になって続いてるんだもん」
あまりな言いようとはいえ、一応の感心はする奏音。
「これだけの距離整備するには相当の年月と労力、必要だよねぇ」
どんな人たちがいるんだろ? 楽しみだけどちょっと不安だよね。
「さてっと、地図を信じるなら、そ~ろそろ川が出てきてもいいころよね」
事実地形に限れば今のところ、ナビに収録されていた通りの地形が展開されていた。
(もちろん細部にいたれば違うところもあるのだが)
奏音は、けっこうな速度で進む車の前方の景色に集中する。
しばし見つめていると延々と続いていた荒野の先に、帯状の緑地らしきものが目に入りだす。
「おっ、どうやらあれって川っぽい。 ようやく乾いた土地とお別れできるかな?」
奏音は早くたどり着こうとばかりに、その緑地帯目指し更にアクセルを踏み込む。
奏音の気持ちに答えるかのように力強く疾走する4WD。
「きたきたー! 川きたよ~♪」
河川に近づくと共に減速し、ゆっくりとした速度で車を進める。
いよいよ目前に広がってきた緑地帯、一見して茂ってる樹木は奏音の知ってるそれと大差ないように見える。
そしてその荒れた道が川を沿うように通るようになってしばし進めるとついに。
「橋だ! どう見ても橋だよ。 ねっ? スパナ」
奏音は思わずスパナに問いかける。 当然スパナから返事などあるはずも無く。
だが奏音は気にする風もなく、そのまま車を橋の近くまで進めると、そこから河原まで車を寄せていく。
そして河原まで車を下ろすと、そこで奏音はガマンできないとばかりに車から飛び降り、川っぺりに走りよる。 当然スパナも一緒だ。
もちろん先だっての恐竜モドキの件もあるので腰には大ぶりなサバイバルナイフを携帯し、水質調査のため検査キットも用意しているのだった。(これも過酷なアウトドア生活での必携品だ)
川の水は、多少にごりはあるものの見た感じに違和感はなく普通の水に見える。
奏音はキットからテスト用の試験片や、試験官を取り出し、さっそく川の水の調査を始める。
試験片や試験管の溶液の変化を待つ間、奏音は目の前から川向こうに伸びている橋を見やる。 川幅は100mないくらいで、そこに石造りのアーチ橋がかけられていた。 川の途中3ヶ所に支柱も設けられ、みるからに頑丈そうなつくりで、奏音のかなりの重量のあるマシンが通ったとしても充分持ちこたえることの出来そうな橋だった。
「すごい、りっぱなアーチ橋じゃん……。 良かったぁ、ちゃんとした文明もある世界だよぉ」
奏音は人こそまだ見ていないものの、目の前の建造物はまだ見ぬ人の存在を強く想起させるに充分である。
そして水質調査の結果を、キット付属のマニュアルにそって確認する。
「よし、おっけー! キットで調べられる範囲だけど、とりあえず問題ないみたい。 っていうか、結果見る限りまったくおんなじ水だよね、コレ」
水を確認したところで空になった水タンクに水を補充しておく。 準備しておくにこしたことは無いのだ。 それにしても小さくなった体での、車高の高い車への荷物の出し入れは大変である。 この世界に来て身に付いた、異常な身体能力がなければとてもやってられなかっただろう。
「っとにいいんだか、悪いんだか……。 まっ、やっぱ悪い、方が大きいけどね」
そんな空しい考えをしてしばし川べりでぼーっとしていると、対岸に動くものが居ることに気付く。 つうかなんか視力もすごく良くなってない? なにげにこんな所もスペックアップされてたようだ。
対岸の動くもの……は、例のモドキどもだった。 こんにゃろめ。 私は腹いせに落ちてた石を手に取ると、そいつらめがけて投げつけてやった。
またもや風切り音と共に一直線に飛んでいくただの小石。
向こう岸のモドキどもの手前に着弾すると、すさまじい音と共に水飛沫があがった。
「ん~! 残念、外したかぁ。 ま、今回は被害あったわけでなしまけといてやるか」
驚いて当たりをキョロキョロと伺っているモドキども。
そしてその場から逃げ去っていった。
「ふふっ、おっかしいの。 遠くからみてる分には面白いよね、あいつらも」
それにしてもどこにでもいるのか? あいつらは。 油断ならない。
しかし実際相対すると違うのだろうが、ずいぶん奏音も慣れてきたようだ。 また自分の能力に自身がついたことも、その理由にあるのかもしれない。
「あれ? なんか浮いてきてる?」
奏音の目は対岸とはいえ先ほどの着弾ポイント辺りに浮かんでいる何かに気が付いた。
それは魚だった。
どうやらすさまじい勢いで爆発したかのような衝撃が水中にまで達したため、周囲にいた魚が気を失って浮かんできているようだった。
「おー! 僥倖僥倖!! こりゃいいよ」
そう言うや否や、早速石を拾い今度は手前の水面向って軽く石を投げ込む。
激しい音とともにまたもや水飛沫があがる。 魚は浮かび上がるどころか水飛沫と一緒に飛び上がって、何匹かは岸にまで飛び出してくる始末だ。
それをスパナがシッポを思いっきり振って喜びもてあそぶ。
「ちょっとスパナ。 遊んだりしちゃだめだかんね? それ食料にするんだから。 それにまだ食べられるか確認しないとだめだし」
「それにしても……、大漁大漁~! うふふっ」
奏音は足元まで飛んできた魚を見てみる。
遠目からはわからなかったが……、
「でかっ! アロワナのでっかいのみたい……。 うわっ、すっごい歯。 これって知らずに水の中入ってたりしたら危なかったりするのかな?」
そいつは2m近くはあろうかという肉食の淡水魚だった。
それにしてもどこに危険が潜んでるかわからないと、つくづく思った奏音だった。
* * * * * *
その日はそのまま橋のたもとでキャンプすることにした奏音。
魚もしっかり食べられることを確認し、3枚に下ろし、ムニエルにして食べてみた。 もちろんスパナも一緒に食べた。(死なばもろともだよね)
案外淡白な味で、普通に食すことが出来た。
ちなみに米は大量にあるから、当分白いごはんには困らないのだ。
(この世界にお米ってあるんだろうか? なかったらショックだ……稲作するか?)
でもこの世界でこれからも生きていけそうな気がしてきた……ちょっとだけ。
キャンプといっても野外で眠ることに身の危険を感じている奏音は、今日もまた車のリアシートをベッド代わりに眠る。 スパナはその足元だ。
お休みスパナ。
明日目が覚めたら、元の世界ってなってたらいいのに……。
なんか武器必要だなぁ……またなんかつくろ。
そんなこんなを考えながら疲れていた奏音は落ちるように眠りについたのだった。
* * * * * *
橋を渡りしばらく走ると辺りはだんだん人の気配が濃厚になってきた。
農地のようなものが現われだしたのだ。
「なんかいよいよ人に会えそうな気配ただよってきたよ。 ……でもいきなり接触とかってやっぱまずいかな?」
奏音はひと思案する。
この世界の人間が自分と、この車を見てどんな反応をするか?
そもそも姿カタチはどうなんだろ? 今までの状況証拠からすると同じ人間っぽい気がするんだけど……。 文明レベルはやっぱ相当低いようだし。
そんなことを考えながらも車は道を進んで行く。 所々に湖が点在していて昨日までの荒野とちがって水資源は豊富そうだ。
そして更に進むこと1時間。
まだかなり離れているが、まるで城壁のように見える建造物が視界いっぱいに広がってきた。 中は相当に広そうだ。
ちなみにこの建造物もナビの地図には当然出てこない。 ナビだとこの辺りは普通の住宅街だ。
なんかまるで中世ヨーロッパ風だよね。 昨日の石造りの橋といい……、やっぱ科学技術とかあんまり発達してなさそう。 コンクリの建物なんて一つもない。 電線の類もなし。 見渡す限り高層建築物もなし。
そうすると……、
「このマシン、やっぱまずいよね?」
この世界の様子からしてまず車の存在自体がありえない。 昨日から今日まで目に付いたものは馬車ばかり。
そしてどうやらこの先進むにはあの城壁を越えなきゃいけないみたい。
(お城があるわけじゃなさそうだけど言いやすいから城壁って呼ぶことにした)
強行突破なんか容易く出来そうだけど、そんなことする意味もないし、わざわざ自分の首しめるようなことするほどバカじゃないのだ。
とりあえず双眼鏡を取り出し城壁を偵察してみると、道の先に門が見える。
そこには……、いた!
人間だっ!! 姿カタチも、一見すると私と変わらないように見える。
やっぱりこの世界にも人はいた。 良かったよぉ~!
それにしてもあの城壁はなんのためにあるんだろ? やっぱ王さまがいるんだろうか?
戦争が多いのかな?
もう一つ考えられるのは……、例の恐竜モドキども。
やつらの襲撃を防ぐためとか? 私が見たのはやつらだけだけど、もっといろんなやつがいるかもしれない。 もっとでかいのもいるかもしれない……。
どうもこっちの理由が正解のような気がするけど。
結局悩んだすえ、奏音はマシンを近くの岩場で見つけた横穴に隠すことにして、歩いて城壁の門をくぐることに決めた。
マシンを入れた後、横穴の入り口は大きめの岩を上から落とし更にいくつかの岩を積み重ね、その上から倒木をいやってほどかぶせ隠した。
どうやって?
ふふっ、"バカ力" さまさま、ね!?
シュールだわ。
マシンから持ち出したのは、サバイバルナイフにスマートフォン(PC代わりに使うのだ)、タオルにハンカチ、携帯食料に水筒、あとお菓子少々に思いつくばかりの小物と、色々みつくろってリュックに詰めて背負う。(ナイフはぶら下げてるとまずいかもしれないからリュックの中だ)
そしてそれとは別に念のため、チョークバックに小石をいっぱい詰めこんで腰にぶら下げておく。
スゴイ重さになっちゃうけど今の私にはこれくらい、羽毛のような軽さだよ! えへん。
――奏音の姿は傍目に見ても相当変だ。
140cmに満たない小さな体に、中身をパンパンに入れたリュックを背負う、銀髪ポニーテールのぶかぶかショートパンツ少女――。
この姿だけで門番に引止められそうな気がするのは考えすぎだろうか?
こうして奏音は、名残惜しげに車から離れスパナと共に城壁、いや城門を目指し歩き出したのだった。