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荒野を進めばそこは異世界  作者: ゆきのいつき
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第三話 現状の考察も大事かも

 現われたのは、身の丈2m以上はあろうかと思われる、二足歩行をするトカゲのでっかいやつ。 まぁ、有り体に言えばまんま小型の恐竜のようなイキモノが……、あろうことか3匹も!

 

 その姿は、よくTVや映画に出てくる小型のすばしっこい恐竜に酷似していてスリムでいかにも狩りが得意そうだ。

 顔は恐竜そのもので、小さい目玉、長く延びた口は大きく割れ、そこには鋭い歯が並んでる。 

 体表は細かい羽毛のようなもので覆われていて、後頭部? から背中にかけては、たてがみのようにちょっと長い目の毛が生えてる。 そしてその色は地面の色に呼応するかのような明るい砂のような色で全体的にまだら模様になってる。

 手足には毛はなく細かいウロコ状で先端は不気味なカギ爪が備わってて(鳥の足に近い)……、これは非常に、ヤバイ!!


「スパナ? 車に入って! 早く!!」


 私はうなり声をあげてるスパナを車に戻すべく大声で呼び、私自身も飛び乗ろうとした。 けど……。


「きゃっ!」

 履いてたジーンズに足を取られ、その勢いで盛大にコケてしまった。


「何よ、もうっ! うっとうしいったらありゃしない」

 

 そう言って足を振る奏音。 ジーンズの裾が足の先でパタパタとはためく。 

 こんなことなら最初ちっちゃくなったことに気付いた時、ショートパンツにでも履き替えておけば良かった。

 でも服のことなんか気にかけるてる場合じゃなかったし。


 そうやってジタバタもがいてると、コケた私をかばうように恐竜モドキと私の間に入るスパナ。


「す、スパナ! 危ないよ、私のことはいいから早く車に入って!」

 

 でもスパナは逃げようとしない。

 モドキどもはその間もジリジリ近寄ってきて、もう今にも飛び掛ってきそうな距離まで詰めてくる。


 そしてモドキのうちの一匹が、なんとジャンプして一気に間合いを詰め、スパナに襲いかかった!


「スパナっ!」

 

 私は思わず足元の小石をひっつかみ、モドキに向って渾身の力で投げつけた。

 投げた石はうなりを上げて飛んで行き、吸い込まれるようにモドキの右肩? 辺りに命中した。


 その瞬間!


 すさまじい破裂音と共にモドキの体は右肩を中心に爆散し……、そこに残っていたのは首から上の頭部と、腰から下の下半身、としっぽ。 見るも無残に分断されたモドキの残骸だった。


「ふぇ!?」

 自分自身あっけにとられる。


「あは、あははは……、ふぇ~ん」

 私は笑い声とも泣き声ともいえない、意味のない声を出し、しばし呆然となってしまった。


 でも、まだ2匹残ってる。

 気を取り直し周囲をうかがう。


 そ、そうだ、スパナは? 無事だろうか? 警戒しつつ、スパナを探す。

 

 そしてスパナはいた。 無事だった。

 無事なんだけど、居た場所は……車の屋根の上だった。


「なんかもう、ほんっと、わけわかんないっ!」


 どうやらとっさにジャンプして屋根の上に飛び乗ったようだ。

 屋根の上って垂直飛びで3m以上は飛ばないと乗れないんですけど……。


 気を取り直し、再度周囲を確認する。


 どうやら他の恐竜モドキたちは、仲間の身に起こったことを目の当たりにして、相当警戒を強めたみたいだ。 ずいぶん離れたところまで移動している。


 こいつら案外アタマいい? モドキのくせにぃ。


 この隙に今度こそ私はマイマシンに乗り込んだ。

 ちなみにスパナの真似をして垂直飛び試したら、あっさりサイドステップに飛び乗れちゃった。 あ、1.5mです。 そこまででも。 でも、まだまだ余裕だった……。


 オソルベシ、この世界の私たち。


「さぁて、このマシンに乗ってしまえばこっちのもの。 怖いもの無しなんだからぁ!」

 私は小さくなったかわいらしい唇から舌をペロっと出し、舌なめずりする。

 

 そしておもむろに車の駆動をモーターからガソリンエンジンに切り替え、思いっきりアクセルをあおる。

 ギアはニュートラルだ。

 するとマフラーから気持ちのいい排気音(私にとっては、ネ。 人によっては爆音ウザッって言ってくる)が辺りにオモイッキリ轟く。


 やつらときたら、もう及び腰もいいところになってきてる。

「おーおー、びびってる、びびってる! 恐竜モドキも怖いものは怖いんだねぇ、いひひひ」

 もう完全"S"の人の奏音。


「それじゃ、お次はこれなんかどうかな?」


 ステアリング周りのスイッチを、パチパチといくつかオンにする。

 入れたのは、車のヘッドライトを筆頭に、フォグランプ、ドライビングランプ、スポットランプ。 どれもハイワッテージのものばかり! 要は付けてある補助ランプ全て点灯してやったわ!


 昼間とはいえ、コレだけの光量を一斉にたたきつけられれば、当分の間は目がくらんでなんにも見えなくなるってものっ。


 聞いたこともない大音量に加え、強烈な目くらましをくらい、ついにはパニックに陥るモドキたち。

 そしてとうとう2匹はこの場からあたふたと、ふらつきながら逃げ去って行く。


「あはははははっ! 見てスパナ? 2匹で頭ぶつけちゃってるよぉ! おっかしい。 ざまあ見ろだよねぇ? くくくくくっ」


 カワイイ顔が台無しのセリフを発する奏音。

 

 ――どうやら奏音は怒らせてはいけない人のようだ。

 それでも車を使ってひき殺そうとしなかっただけマシだったのかも知れない――。




* * * * * *




「はぁ。 まぁ、こんなもんかぁ……」

 タメ息と共に、奏音が後席のドアを開け降りてくる。 どうやらようやく着替えたようだ。


 その姿は、Tシャツは相変わらずだが長過ぎる丈は思い切って切り落とし、ジーンズはショートパンツに履き替えている。 ただウエストが細くなっているのでヒモで縛ってベルト代わりにしている。

 足のサイズの小さくなっているのだがこれの代えは難しく、仕方ないので先端には切ったTシャツの端切れをつめ、ヒモをきつめにして誤魔化した。

 ちなみに……、ブラは付ける意味が無くなり外してしまい、パンツはゆるゆるだが、こればっかりはどうしようも無いので、ズボンをはくことで落ちないからってことで妥協しているのであった。

 最後に髪の毛は、一本結びからポニーテールに変えてちょっとでもアップになるようにした。 野球帽はサイズが合わないんでもうかぶってない。


「なんかダサイ……」

 我ながらその姿は、ちょっと悲しい奏音だった。


 次に道のど真ん中にあった車を、脇の見通しのよさげなところに止め、アウトドア用のテーブルと折りたたみのイスを車から持ち出しセッティング。 携帯用ストーブを使ってお湯を沸かし、インスタントながらコーヒーを作り出す奏音。


 そして出来上がったコーヒーを飲むと、ようやく人心地ついた気分となる。

 さっき活躍してくれたスパナにも、もちろんミルクを献上している。


 そうして、ようやく落ち着いたところで、さっきまでの出来事を自分なりに整理しようと動きだす奏音。

 もちろん念のため、自分の周りには小石の山を築き、不足の事態に備えている。

 威力はすでに確認済みだし。

 

 テーブル上にはノートパソコン持参だ。

 駆動はもちろんソーラーパワー! そしてアウトドアでの使用を前提としたタフネス仕様のスゴイやつで、防水機能まであったりする。


「まずここはどうも私のいた南半球の大陸じゃなさそうだよね。 でも地形は類似していると」

 

 そう言いながらノートPCにデータを打ち込む。


「理由としては、空の色が違う。 GPSが機能しない。 それに……、恐竜モドキがいる!」

 っとに何よアレ! モドキのところで怒りがよみがえってきたのか、プンプンしながら入力する奏音。


「あと、廃道だったはずの道が、それなりに整備された道になってる……と。 路面には轍のあともアリ」

 轍、馬車の跡みたいなのよねぇ……、時代が違う? とか。 でもとりあえず……

「人はいる可能性高し、っていうか間違いなくいるよね? いなきゃ困るし」 


 それにしても恐竜モドキと人が一緒にいる世界ってどうなの? ありえないよね普通。 絶滅した生物がいるなんて。 ほんとありえない!


「壮大なドッキリってこと……ないよねぇ?」


 言ってみて自分がバカのような気がしてきた。 こんなドッキリなんてあるわけないのに。 でもそうだったらどんなに良かったか。


 ありえないといえば、究極は自分自身とスパナだ。 これこそほんとにありえないことが起こったってこと、いやでも実感できる。


「髪の色や目の色が変わるってのは、百歩譲ってありえたとして、20才近く若返るってどうなの? それに背が縮んじゃだめでしょ~!」


 ノートPCに入力されていく事象はそろいも揃ってありえないことばかり。

 もう奏音は脳ミソが沸騰しそうである。


「それにコレ」


 そういって足元に積み上げてある小石の山から1つ取り軽く投げる。

 あっというまに視界外に消え去る。


「身体能力が異常に上がってる。 スパナも上がってるようだし……。 ちょっとしたスーパーマンに早変わりだよね」

 

 力が強くなり、ジャンプ力もある、たぶん走ったら相当早く走れそうな気もする。


 ここで一つ疑問がわく。

 この世界の人間、まず間違いなくいるであろう人間は、私同様の身体能力を持っているのか否や?


「確認するにはやっぱ街を見つけていくしかないけど……、どうなんだろ? 居たらいたで色々やっかいごとが多そうな気が。 それに、言葉ってどうなの? 会話できなきゃ相当つらいよ」


 考えると頭が痛くなってくることばかり。

 なんで自分がこんな目にあわなきゃいけないのか? 理不尽だ!

 誰がこんなこと仕組んだのさっ!


「責任者でてこ~い!!」


 はっ、思わず声に出てた。


 落ち着こう私。

 当面、生きていく分には困らない程度に食料はある。(何しろ車でキャンプしながら旅をしてたんだから)

 とはいっても無限じゃないからここで食べられるものとか、水とか、口に入れていいのかも確認しなきゃいけない。


 人と会うとして、ここの文明レベルってどんなものなんだろ? さっきの轍のあとが馬車っぽいのがすごく気になる。


 よし、とりあえずはだ。

 まず生きていくために必要な水と食べ物の調査が一番。

 次に人がいるか確認。

 居たとしてどんな生活してるのかを調べた上で、接触。 言葉の問題があるけど……、これはあたって砕けてみるしかない。 (PCの翻訳ソフト、使えないだろうなぁ? やっぱ)


「あっ、お金の問題もある! ああっ、もう、悩ましいわぁ!」


 奏音はああでもない、こうでもないと一人延々と悩んではデータ入力、悩んでは入力と繰り返していた。 湧き出てくる問題に終わりはなく、悩みが尽きることもなさそうである。



 

 小さい子供が難しい顔をしてノートパソコンを睨みつけている姿はある意味滑稽でかわいらしいのだが、やはり笑顔のほうが数倍ステキにかわいらしく見えることだろう。


 子供の姿になった奏音に、そんな素直な笑顔を見せる機会はこの先訪れるのか?

 それすらも奏音のこれからの行動次第。


 見守っていくしかない……。



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