第二話 現状把握は大切
「お、お、落ち着くのよワタシ! そうよ、これは夢よ。 夢を見てるに違いないわっ!」
こんなこと、自分が子供のころの姿に若返ってるなど(しかも髪や目の色違うし)、夢に違いないと思った奏音はベタなか確認方法として……、
ほっぺを思いっきりつねった。
「ひひゃいぃ……」
予想以上の痛みに思わず涙が出そうになる。
軽くつねっただけのはずなのになんでこうまで痛いのか? ちょっと疑問に思った奏音だったが、とりあえず今はそれどころじゃなかった。
「ゆ、夢じゃない……の?」
ガックリうなだれる奏音。
ドラマや漫画じゃあるまいし、何で自分にこんなことが起こるのか?
そもそもさっきのあの光と、オーロラのようなモノ。 あれはいったい何だったのか?
結果だけを見れば今の現状を引き起こしたのは、さっきの現象が関係しているのは間違いないところだとは思うけど……。
そう考えながら、ふとスパナはどうなってしまっただろう? とようやく自分以外のことに気がまわる奏音。
そして思い切って愛犬スパナのほうを見る。
「す、スパナ! やっぱおまえまで……」
「くぅ~ん……」
弱々しく尻尾をふり奏音を見るスパナ。
そこには半ば予想した通り……の姿があった。
老犬の域にさしかかろうとしていたはずのスパナは、今ややんちゃ盛りの若々しい姿へと変容していた。
そしてスパナもまた体毛はもともとの白っぽいブラウンから銀色に、そして目の色も奏音と同じ紫色へと変色していた。
ただ、若々しい姿に変わったとはいえ、スパナもまた先ほどの異常な現象がこたえたのか少々元気はないようだ。
そんなスパナの頭を撫でてやりつつ奏音は考えを続ける。
「やっぱりさっきの現象で私がこんな姿になったのは間違いないみたい」
奏音はスパナも同じように変容しているのを見てそう確信する。
それにしてもありえない。
ばかげてる。 でもこれは事実。 受け入れざるおえない……。
正直、若返ったことはウレシイ気もするけど。
そう思った奏音は改めて自分の姿を見る。
まず体は、ずいぶんと小さくなってしまった。
170cm近くあった身長はシートに座った感覚からして140cmないかもしれない。 なにしろ今のセッティングだと足がペダルに届かない。 それに何しろ着ていた服がダボダボもいいところである。
そして小さくなった体に相当して容姿も12・3才の子供のころの姿に若返っていて、髪はキレイな銀髪に、そして目の色はスパナ同様の紫。これキレイだけどちょっと妖しいよねぇ? さっきは気付かなかったけど肌の色も随分白っぽくなってるようだ。
正直我ながらカワイイと思ってしまった。
これで体型がもうすこしメリハリあればねぇ……。
「まぁ子供の姿なんだから仕方ないよね? アハハ」
そう言ってむなしい笑いを見せる奏音。
しかし、それにしてもさっきの現象……、あの時に感じた体の痛みと熱さ。 あれはこの体の変化のために感じたものだったのだろうか?
「はぁ、まるでSFの世界に迷い込んじゃったみたいじゃない……」
タメ息をつき、それでも次の行動にでる奏音。 前向きである。
とりあえず、まずはシートの調節だ。
座面を上げ、目線位置の修正。 次にシートを前に出しペダルに足が届くようにする。 そうするとステアリング位置が低くなり、しかも胸に当たりそうになるから、その位置も奥に押し込みつつ上に上げるように調節する。 (チルト&テレスコ機能、付いててよかったよ……、アニキに感謝しないとね)
ふと家族、兄のことを思い出してしまった奏音。
「私、家に帰れるのかなぁ? ここってどこになるんだろ?」
普通に考えれば別にさっきの現象の前と今とでは、いる場所に変わりはないはずなのだが、なぜかそんなコトを考えずにはいられない奏音。
おもむろにコンソールのナビ(カーナビゲーションシステム)を確認するが、しかし……。
「う~ん。 ずっと検索かかったままかぁ」
ナビゲーションを行なうためGPS機能を使うには、車両位置特定のため最低、衛星3つ以上を使って測位する必要があるのだけど……、ナビはその衛星を見つけられないでいる。
「衛星が無いなんて、そんなことありえないし……」
いいようのない不安に駆られ出す奏音。
そして車外の様子を確認するため周囲を見渡してみる。
視界に広がるのは一見すると今までと変わらない地形のようだが。
どこか違和感がある。 なんだろ?
まず一つは空の色だった。
真っ青だったはずの空は多少紫がかった色に変わっていた。 どことなく奏音の今の目の色を彷彿とさせる色だ。
しかし奏音がそれより気にしたことは……、
「道が……、整備されてる?」
奏音がさっきまで走ってきた道は、すでに使われなくなって久しい廃道。
それに対して今、目の前に続いている道は舗装こそされてはいないもののキッチリ、まぁ多少荒々しくはあるものの整備された走りやすい道、いや道路と言えるべきものになっていた。
ただ、その道路に刻まれている轍は随分と細く、またその間は多少荒れている。 まるで……そう、馬車のようなものでも通っているかのようだ。
奏音はもっと良く確認するため車外に出ようとドアを開ける。
そして出ようとしたのだが、ふと体が硬直してしまう。
「た、高い……」
まあ地上高1m以上のところにある運転席なんだから高いことは高いと言えるが、それはいつもと同じなわけで……。
だがしかし、奏音がいつもと違ってた。
その小さくなった体にはいつもの高さは非常に高く感じられてしまい思わず躊躇してしまったわけだった。
「はぁ、ったくいやんなっちゃうなぁ」
そう言って奏音は余りまくってジャマなジーンズの裾をたくし上げ、サイドステップに足をかけると、今度は思い切りよく飛び降りる。
そんな奏音を見て、スパナも運転席を乗り越えて同じように飛び降りてくる。 どうやら先ほどの現象の後遺症は治まったようだ。
「もうスパナ、横着してぇ! おまえ若返ったら、やることまでやんちゃになっちゃうわけ?」
奏音はそう言って怒ったような口ぶりでスパナに話しかけるが、その顔はかわいい笑顔になっていて、身を寄せてきたスパナの頭をやさしく撫でてやるのだった。
そして飛び降りた足元をあらためて見る奏音。
「やっぱ整備されてるよね? ずいぶん雑な仕上げではあるけど」
でも人がいるってことだよね……。
そう言って路面のそこら中に転がっている小石を拾い手のひらでもてあそんだあと、何気なく軽く投げる。
その小石は……、
奏音の視界から消え去るほどの遠くまで飛んでいき、見えなくなった。
「はぁ~~っ??」
奏音は思わず驚きの声を上げてしまった。
「な、何よそれぇ? 私ほんの軽く投げただけなのに? な、何で?」
奏音はもう一度、今度はもう少し大き目の石を選んで、「それっ」という掛け声と共に再び投げてみる。 ただし今度はおもいっきり。
結果は呆然となるに充分なものだった。
その石はすごい速度、まさに矢のような速度で、まっすぐ一直線に飛んでいき、あっと言う間に視界から消え去ってしまった。
「う、うっそぉ!」
プロ野球のピッチャーでもこんなデタラメなことは出来ないだろう。 ましてや今までの奏音だったら、投げてもせいぜい5・6mほど飛んでボトンと地面に落ちるのが関の山だ。
「これもさっきの現象のせい? ここの重力が小さいとか?」
重力というにはあまりに今までと動いた感じも変わらない。 さっき飛び降りたときも特に違和感も感じず、着地のショックも普通だった。
「そうすると考えられるのは筋力? 筋力が強くなったとか……」
奏音はそう言うや愛車の4WDのドア下辺りのフレームを軽く上に持ち上げてみた。
普通なら、持ち上げるなんてことは当然無理で、サスペンションで多少揺れるくらいのものだ。
が、驚くほか無かった。
車の片綸は完全に浮き上がり、あわや横転させるかという状態にまで持ち上がってしまったのだ!
「あは、あはははは……」
奏音は思わず、気の抜け切った笑い声をあげる。 スーパーマンかよ? 私は。
身長140cmにも満たない子供が、2トンはあろうかという4WDを片輪とはいえ持ち上げている。
シュール……、としかいいようのない光景である。
「どうやらさっきの現象以降、私の体って若返って色変わった以外にも色々変化あったみたい……。 どういった理屈でそうなったかわかんないけど」
自分の体を眺めつつ一人つぶやく奏音。
「それにしてもなんつー馬鹿力。 我ながらあきれちゃう」
麗しき乙女なのに……。
誰に向って言うでもなしに、力に驚きながらも自画自賛する奏音である。
「でもこうなるとスパナも同じと考えるのが普通ね。 私たち馬鹿力コンビになっちゃったわけね? あはは」
空しい笑い声を上げる。
「まぁ自分の体について色々確認したいことはあるけど、今はそれよりこれからどうするのかが大事よね」
どうやらここは今まで自分が居た世界とは違うような気がする。
「異世界……なの? まさかほんとにそんなことが……。 それもよりにもよってこの私に」
言ってしまってちょっと恥ずかしい気もする奏音。 さっきも言ったけど、SFやファンタジーの世界でもあるまいし……異世界などと。
でもそうとでも考えないと現状を理解することなどとても出来ない。
そうでないなら自分は狂ってると思うしかなくなっちゃう……。
でもそんなコトはありえない。 私はまとも(狂ってる要素なんてこれっぽっちも思いつかない!)だし、それにスパナもいるし。
あ~あ、ほんとどうしよう? ナビも使えないし……。
とりあえず地形自体はなんか今までと同じように見えるし、当初の目的通り街の方へ向ってみようかな?
ナビもまぁ、自分の位置がつかめないだけで地図としてだけなら使えるし。
(そもそもほんとに地形が一緒かどうかもわかんないけどさ……)
自分の中で一応の結論を出した奏音が、再び車に乗り込もうとしたやさき。
スパナが突然うなり声をあげる。
少し離れたところにあるちょっとした岩山、その脇の茂み。
そこに向ってうなるスパナ。
その時だった。
そいつが現われたのは……。
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