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荒野を進めばそこは異世界  作者: ゆきのいつき
22/24

第二十一話 騎士団  ☆

やっと投稿。

 ここ城郭都市「ヘクス」で内周区と外周区を隔てている関所は全部で六ヶ所。六角形をした都市の各頂点ごとに分かれた外周区、それぞれに一つの関所が設けられているということになる。

 竜人が現れたのはそんな六ヶ所ある外周区のうちの第二区画がある方向であり、今そこに面した関所の内周区側の広場において、ある集団が整然と隊列を組み、めったに見せないその姿を人々に見せ付けていた。


 綺麗に石畳が敷き詰められた広場に存在感を示す……その集団とは、ラスティリア教会直属の精鋭異能集団、ヴィオレ修道騎士団。そして、各都市にある騎士団の中でも最前線であるヘクスの騎士団は能力の高いものが多く、最強の名を欲しいままにしている。


 竜人の襲来に伴い、ついにヘクス虎の子の騎士団の登場となったようである。

 そんな騎士団を遠巻きに見守る人々の様子は千差万別。あるものは畏怖を、あるものは少しばかりの羨望を、そしてあるものは悲しげな表情を浮かべ、それぞれの想いを胸に、騎士団の姿を見つめていた。


 騎士団を端的に言い表すならば……、ともかく若い。

 まずはその一言が一番にくる。


 その理由はもちろん、メンバーの選定理由によるところが大きい。

 スピリアの力がなければ騎士団に入ることはかなわない――。

 それは即ち、その能力を持つものが多くなる第二次性徴を迎えたばかりの少年少女がその中心となることを意味し、今現在の騎士団の構成人員二十六人の九割にあたる二十三人が二十歳以下の年齢であることから見てもそれがわかる。ちなみに男女比はやはり男が多く、十九人が男、残りの七人が女である。

 そんな彼、彼女らの姿は、ひざ丈より少し短めのまっ白なチュニックをまとい、腰下には濃紺の、タイツまではいかないもののぴたりとした薄手のパンツ、足元はふくらはぎまで覆う白く着色された皮製の長いブーツを履いている。肩周りはノースリーブになっていて、腕は、別ピースとなった厚手の白い布の袖に通し、袖自体は肩部と数本の赤い編紐で繋がっている。手にも濃紺の薄手の手袋をはめ、これも皮製の濃い青色の手甲で保護され、それはさらに手首から肘近くまで筒状のカバーとなり伸びている。

 胸周りには、各個人で形状に多少ばらつきがあるものの、固い皮で出来た灰色をした胸当てが装備され、急所を保護しているようである。

 ちなみにチュニックの下には細かい網状の生地で出来た、これも濃紺の長袖の保護着を着込んでいて、それは首まわりまでしっかり覆われている。(しかし素材の強度としてはたいしたものではない)


 肝心の武装だが、腰にしっかり帯剣している。右利きならばその反対側の腰横に帯剣することとなり、騎士団は全員右利きのため綺麗に揃い見栄えがすこぶるいい。

 ただ帯剣しているその剣は相当に変っている。

 団員は全員スピリア使いであるため、携えている剣は体格に比べ全体的に大振りな傾向にあるのはもちろん、その形状はレイピアを無骨で太くしたイメージが多少近く、ナックルガードなどは騎士の手を完全に覆ってしまうほどに大きい。

 更に、今は鞘に収められているその刀身には、のこぎりのような細かな刃が多数付けられ、それで身を裂かれたなら激しい損傷を与えられるだろうことがいやでも窺える。また、その刀身の先端には注射針のように斜めにカットされた開口部があり、それは長い刀身を貫通し、つば脇に設けられた出口まで繋がっている。それが何を意図する物なのかは想像することもおぞましい。

 そして仕上げとして全員、表面は純白、裏面が鮮やかな紫色をしたフード付きマントを羽織っていて、フードをかぶりマントを閉じれば、さぞかし純白が眩しい清楚なイメージがする騎士団に見えることだろう。


 ところで騎士団員は移動手段として馬を使用していて、今ももちろん全員が馬上の人である。

 が、そんな整然と並んだ騎士団員から少し離れた場所にただ一人、馬に乗らず立ちつくしている騎士がいた。その騎士は、若い騎士が多い騎士団の中でも一際若く、さらには小さい――、少女。


 そう、その騎士とはカノンだった。



「ええっとだ、突然だけど……皆に騎士団に入る新たなメンバーを紹介するよ。

 竜人が目の前に居るこの緊急の時になんだ、と思うかもしれないけど……まぁ、勘弁してよね。

 ……でも名前聞いたらみんなそんな文句も言えないし、実力知ったらきっと納得すると思うよ」


 騎士団員が整然と並ぶその前で、それに向うように一人佇んでいた男性騎士が、少々軽い口調で発言した。その騎士の名は、アッシュ。アッシュ・スカー・アランデル。彼の父はこのヘクスの司祭であり、彼自身はヘクスのヴィオレ修道騎士団団長である。団長とは言うものの彼自身未だ十七歳になったばかりの若さであり、その容姿は一見すると少女のような美少年である。

 亜麻色の髪を肩口より少し短いくらいでざっくりと切り揃え、翠色の瞳をした多少タレ目の双眸は、終始浅い弧を描き、愛嬌があるように見えないこともないが、実のところ何を考えているのか分かりにくい。


「君~、皆に紹介するからさぁ、もうちょっとこっちへ来てくれる?」


 形式を重んじるはずの騎士団の中にあって団長自らがこれである。

 並んでいる団員たちからは軽くため息が出る。そして呼ばれた小さな少女、カノンは無言、そして無表情なまま、呼ばれた場所まで静かに歩いていく。その様子をこれも静かに見守る騎士団員たち。


 それにしても小さい、小さ過ぎる騎士である。


 皆はそう思うものの、やはり何も発言することはない。


 カノンが脇に来るのを確認し、馬上から颯爽と降りる団長、アッシュ。

 彼の身長もそれほど高いものではないが、そんな彼から見ても頭一つ分以上下に彼女の小さな頭があり、ついひと撫でしてしまうアッシュ。

 そんな彼の突飛な行動に思わず息を飲む居並ぶ団員たち。そして声こそ出さないものの、その表情は苦笑いへと変る。だが頭を撫でられた当の本人はあいかわらずの無表情で、アッシュの方を見向きもしない。


「つまらないなぁ……。君、もっと楽しくいこうよ」


 反応を示さないカノンに、そう嘆くアッシュ。


「っと、まぁそれは置いといてだ。

 えー、みんな、この子が新しいメンバーだよ。見ての通り、女の子で歳は十一歳だ。ダントツ若いよね~、今までの最年少だったミューより二つも若いんだもん、驚きだよね~」


 団員たちにそう紹介する、アッシュ。それを聞いた皆は、そんなことより名前は? と心の中で一斉に突っ込みを入れる。名前を出されたミュー(十三歳の小柄な少女である)に至っては周囲から視線を送られ、恥ずかしさに思わず俯いていた。


「アランデル団長、無駄話は結構ですから早々に話しを進めてください」


 横やりを入れたのは若い、はっきり言えば少年、少女ばかりで構成された騎士団員とは違う、金髪碧眼の妙齢の女性。シスター カルア=オクテインだった。

 アッシュの斜め後ろでカノンと一緒に控えていた彼女は、団の運営や支援、団長の補佐など、多岐にわたり行なっていて(今で言うマネジャーのような役割か)、事前にカノンをアッシュと引き合わせたのも彼女であった。その彼女の姿も今はシスターの装いではなく騎士団のそれである。


「ちっ、おばさんが偉そうにさ……。ったく、わかりましたよ~!

 みんな、この子の名前はカノン。カノン・へクス・ウィタリアっていうんだよ~!

 よろしくしてやってね~?」


 シスターに舌打ちで返し、団員には、なにげに軽~く紹介したアッシュ。

 しかし紹介されたほうはそれを聞き、一様に驚きの表情を浮べる。


 し、司教様と同じ家名!

 それってどういう~!?


 混乱する団員たち。

 それを見てほくそ笑む団長アッシュ。なんともゆがんだ性格である。


「ふふっ、みんな驚いた? 驚いたでしょ? 僕だって最初紹介されたとき驚いたんだから、やっぱみんなにもそれ、分かち合わないとね~。

 そう! この子ったら、司教様の娘さんなんだってさ。そういやこの銀髪といい、紫の目の色・・・・・といい、似てるとこ多いよね~」


 アッシュのこの発言が更に皆の混乱に拍車をかける。

 なにしろ紫の目の色は特別だ。スピリア使いの中では特に。


 紫は力の象徴――。


 世間一般的には流され人のみが、その色を持つように言われているが、実はそうでもなく、強い力を持つ人間の目の色はどんどんそれに近づいていくと言われている。そして過去、それを一番体現していたのがウィタリア司教であるとも……。

 しかし司教はもう老齢に差し掛かる歳のはずで、今もって紫の瞳をしているのかどうかは下の人間には知り得ぬことであるが、普通に考えればその力は既に失われているはずである。


 そんな司教の娘であると紹介されたカノン。

 言われてまじまじと見れば確かにその目は深い深い紫色。そして見事なまでの艶やかな銀髪。それだけ見ればまるで伝説の流され人のようである。そんな考えが団員たちの脳裏に浮かぶ。

 彼らはまだまだ幼さの残る、可愛らしい容貌をしたカノンを一層見つめるが、さすがにそれはないか……と、行き過ぎた考えを収める。そして団員たちの興味は、司教の娘、幼い少女の実力へと移っていく。


 そんな興味深々な団員たちの視線にも無表情を崩さないカノン。


「ほら君、君もみんなに挨拶しなよ? いくら司教様の娘でも、それくらいはキッチリしとかなきゃね~」


 お前が言うな!

 団員の心が一つになった瞬間である。


 それはともかく、アッシュの言葉にカノンは反応した。

 こくんと頷き、小さな唇から声がこぼれる。


「カノン・へクス・ウィタリア……。よろしくお願いします――」


 囁くようにそれだけ言うとさっさと黙り込むカノン。可愛らしい顔は終始無表情のままである。

 騎士たちはそんなカノンを見て内心「それだけ?」と思うものの、その親のことを考え、また自分たちよりも年下の少女であるということもあってか、それを態度に表すことはしない。


「あり? それだけなのカノンちゃん? つっまらな~い。それじゃ友だち出来ないよ~?」


挿絵(By みてみん)


 一人相変わらずの乗りのアッシュ。


「ま、いっか――。


 じゃ、紹介済んだし、出ようか。


 カノンは僕と一緒に出る。いいね?


 よーしみんな、表で偉そうにこっちを見てる竜人たちにさくさくっとお仕置きしてこよう。

 遅れた子は後でひどいよ? いいね?


 じゃ、行こっか!」


 アッシュの切り替えの早さに一瞬呆気にとられたものの、そこは皆勝手知ったると言ったところで、団長に答礼を返すと、すぐさま動きだす騎士団員たち。

 カノンはといえば、団長アッシュに馬上に引き上げられ、アッシュの前にちょこんと座らされていた。

 騎士団で使役している馬は非常に大きく、彼らのように大人になりきれていない少年少女たちには本来扱いきれるものではないはずなのだが、マリシアの力を持ってすればそれを御すのはたやすいことのようである。そもそもその身体能力からすれば馬に乗る必要すらないのかも知れないのではあるが……。そこはやはり騎士団の体面というものもあるし、相手に与える威圧感や押し出し、何より子供の体というより、人の体には持てるサイズや荷物にも限界があるともいえる。


 何はともあれ、内周区の物見高い富裕層の人々や団員の親族などから見送られ、関所から出立したヴィオレ修道騎士団なのであった。



 団員たちは結局カノンの実力を知らされないままである。

 が、もちろんそれに突っ込みを入れるものなどいないのであった。


話進みません……。


読んでいただきありがとうございます。

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