第一話 なんでこうなるの?
とりあえず自分なりの異世界ものを書いてみたく……見切り発車です。
どうなっちゃうやら?
どこまでも続く青い空。
その空の下、これもどこまでも続くのではないか? と思える、大地に伸びる荒れ果てた道。
その道は都会の道路のようにきれいに舗装されているわけでもなく、それどころか所狭しと雑草が生え、そこかしこに水溜りが出来るような荒々しい道。
轍などというものはとっくの昔に無くなってしまい、使われることも無く忘れ去られてしまった廃道。 時折り現われるとがった岩々は、長い年月で表土が流され出てきたものだろう。 それは忘れた頃に時折り通る車のタイヤを痛めつけるのを待っているかのようだ。
そんな荒々しい道をものともせず、まるでキレイな舗装路であるかのように走り続けている一台の車。
その車の外観は一言でいうと異様。
まず目に付くのはその車両に対するタイヤの大きさだ。 直径1m近くはありそうなタイヤでまたその幅も太く40cmほどはあるだろうか? そのトレッドには荒々しく角ばった、どんな地形でも掴みそうな迫力あるパターンが刻まれている。
その大きなタイヤはボディから大幅にはみ出して付いていて、ボディとタイヤの間にはサスペンションアームが長く伸び、そのアームに囲まれるようにして動力を伝えるドライブシャフトが通っている。
それは4ヶ所全て同じであり、この車が4WDといわれる駆動方式であることを物語っている。
ボディの形状は元々はダブルキャブのピックアップトラックだったことが忍ばれる形状で、一応4人乗りの居住スペースの後ろは荷台が伸びている。
地面から床下までの高さはゆうに1mはあるだろう。 俗にいうハイリフトされた状態だ。 荷台にも色々な荷物が積まれているようだが今はカバーに覆われているため中身を伺い知ることは出来ない。
車両の前後には、大型の電動ウインチがそれぞれ装備されていて、不測の事態に備えられているようで頼もしい。
その車両、すさまじいカスタムをほどこされた4WDに乗っているのは髪を一本結びにし野球帽をかぶり、白いTシャツにジーンズというラフなカッコをした、30代前半くらいの女性。 その顔はこんな趣味をしているとは思えないキレイな顔をしていて、年齢の割には童顔で海外なら20代前半といっても通用しそうなほどだ。 スラリとしたスタイルで胸はちょっと残念なサイズである……。
そして彼女の横にはオスの大きなラブラドールレトリバーがシートの上で横たわって気持ちよさげに眠っている。
「もうこの道にも飽きちゃったなぁ。 いつまでたっても同じ景色だし……ねぇスパナ?」
女性はそう言って愛犬にグチをこぼす。
スパナと呼ばれた犬は、目元をピクッと動かし反応しただけでまた眠る体勢。
「お日様がずっと照ってるから電池の心配はないけど、いつになったら街に着くの? ってくらい何もないよねぇ……。 はぁ、ずっと夢だった海外の荒野でオフロード走行。 面白かったのは最初だけだったなぁ」
ちょっと女性とは思えない夢である。
ちなみに今どき(この物語上の)の車は基本電気自動車で、その電力のメインはソーラーパネルから供給されている。 昔と違いソーラーパネルの変換効率は75%以上にもなり、その効率向上には目を見張るものがあるのだった。 また使用されるモーターにおいても省電力で車を長時間走らせることが可能な高効率、高性能なものが多数開発されてきていた。
尚且つ、この4WD車はハイブリッドで小排気量ながら内燃機関、ようはガソリンエンジンまで搭載していて、もうなんでもアリの化け物車両、スーパー4WDなのであった。
女性は、日本人で名前は 佐倉 奏音という。
車好きの父親や兄の影響で小さいころから女だてらに色々な車を乗り回し、今現在はオフロード車にはまっていた。 自宅にはそんな車を整備・カスタムする工場まで存在する。
狭い国内ではなく広々とした海外の土地を走ってみたいと夢想して……、社会人になって貯めていたお金と、親からの借金(というかほとんどが親が出した)、兄からの餞別等、色々工面し今ここまで来ているのだった。 車両製作は主に兄が携わり、奏音はそのサポートを行なった。
それにしてもなかなかスゴイ環境で育った奏音なのだった。
しかし、元はと言えば整備された道じゃない荒々しい道が走りたいと、わざわざ使われなくなって久しい廃道となった道に入ったのは奏音自身だったのだが……。
グチりながらも走り続け、今はちょっとした丘陵地に差し掛かってきて森が広がり出してきている。
「よし、気分転換に森の中へ行ってみよう!」
奏音はそう言うと車を森のほうへ向ける。
そこにはすでに道は無く、ただの荒地を車の性能にまかせて走り抜けるのみである。
進めて行くと行く手に大きな岩の段差がある。 垂直とまではいかずとも50度くらいの壁で高さは1m少々というところか。 そんな壁の段が階段状に連なっている。
「ふふ~ん。 私に越えられない地形はない!」
そう言ってキラリと目を光らせると、おもむろにセンターコンソールにある4WDへの切り替えスイッチをいれ、副変速機のギアをローの更に上、スーパーローへと入れる。 そして更には左右のタイヤを差動させているデファレンシャルギアを直結にするスイッチ前後共にいれ、万全を期する奏音。
ゆっくり前進するスーパー4WD。 その速度は歩く速度のはるか下。 停まってしまいそうなほどの遅さ。
岩肌にタイヤがまき付くようにかかり、更に前進すると驚くことにその壁を車は登りだす。 およそ普通の人間には想像の出来ない異様な光景だ。 人が歩くのも困難であろう地形を難なく上っていく4WD。 運転している奏音は鼻歌まじり。 横のスパナは相変わらず寝ている。
通常ならタイヤが一輪浮き上がりでもするとそこに駆動が集中し、反対側の車輪は回転しなくなってしまうのだが、この車はデファレンシャルギア(デフ)をロックしてあるためそんな現象とは無縁だ。 さらにその大きなタイヤはそもそもそんな状態にはそうそうならず、またその長いサスペンションアームがタイヤの地形への追従性を底上げしまくっている。
そんなスーパー4WDは、あっと言う間にその岩のモーグルを通過してしまうのだった。
なにもなかったかのように再び進み始める奏音。 すでに駆動関係は元の状態に戻している。 先ほどの状態は高性能ではあるが駆動系にかける負荷も大きい。 あまり頻繁に使うものでもないのだ。
「あーあ、今みたいに面白いトコもっと出てこないかなぁ?」
奏音は先ほどのモーグルだけでは物足りなかったようでそうのたまう。
そう言いつつ車を走らせ続けると、いつしか森を抜け、またしても荒野に逆戻りとなる。
先ほどまで抜けるような青空だったはずだが、その空はあやしい色に変わりつつある。
「なんだろ? 雨でも降ってくるのかしら?」
訝しげに空を見る奏音。
空の色は今や、青から普通ありえそうもないピンク色に近いものへと変化している。 雲がかかっているわけでもないのにこれはいったいどういうことなのだろう?
奏音はひどく不安になってきて思わず愛犬スパナに手を伸ばし、その温もりを感じようとする。 スパナも今は目を覚まし、不安そうな主人を見つめている。
しばらく空の様子を見ていると、更に変化が現われてくる。
空の一部がまるで裂けたかのように光を発し、その亀裂状の光が地上に向って伸びてくる。 光の周りは微妙に揺らいでいて縦方向に走るオーロラのように見えなくもない。
奏音はことここにいたり、身の危険を感じだしのんびり走っていた車の速度を上げるためアクセルを思い切り踏み込む。 モーターの身上であるレスポンスの良さで、とたんに加速を始めるスーパー4WD。
「ちょ、一体なんなのよぉ~!」
奏音は焦ったような声を出す。
それもそのはず。
今や亀裂状の光は地上にまで達し、あろうことかその光の周りのオーロラ状のものが奏音に向って伸びてきているのだ!
奏音は今やアクセルべた踏み。 スピードメーターは100kmに届こうかという勢い。
この荒野でのその速度は一歩間違えば、車両大破の危険もある。 なにしろ地面は平らというわけではない。
だがそんな事をいってる場合でないのも事実。
今まさに奏音とスパナの乗る4WDはその光の中に飲み込まれようとしている。
「う、うそでしょ~!! なによ、何なのよ~!!」
奏音はもう何が何やらわからず、もう正気を保つのも難しい。
すでに完全に光とオーロラの中に飲み込まれてしまった奏音。
「ううぅ~っ! な、に、よぉ、これ……」
まずは、すさまじい痛みが全身を襲う。
そして痛みと共に、体中が沸騰しているのではないかという熱さも感じだすが、火傷をしているわけでもない。
体中の組織という組織が動き回って熱を出しているかのようだ。
「あぅ!」
「ぐぅ……」
「かはっ!」
永遠に続くかと思われた痛みだったがいつしか次第に無くなって行く。
しかし次にはあらゆる感覚が麻痺し出し……、奏音のその意識もついには刈り取られるように飛んでしまうのだった。
…………。
そして数時間後。
4WDは相変わらず? の荒野の中、停車している。
一見すると変わったところも見うけられず無傷……、無事のようである。
そんな中、奏音は目を覚ます。
「私、生きてる?」
まだ頭がくらくらして全身が鉛のように重い。 しかもノドがからからに乾いていて気持ちも多少悪い……。
「生きてるよ、私」
だんだん実感がわいてくる奏音。
しかしそれと共に違和感を感じ出す。
乗りなれた4WDのはずなのに視界が変だ。 異様に低い。
奏音の目線に合わせセッティングしてあったシートに座っているのに、この目線の低さはなんなんだ?
意識がハッキリしてくるにつれそんな異様さに気付きだす奏音。
そしてついに気付いた。 いやでも気付いてしまった。
見てしまったのだ、自分の姿を。
バックミラーに移るその姿。
それは、12・3才の子供の頃の自分。 いや、そのものじゃあない。
何しろ髪の色素は抜け銀髪っぽい色になり、その目はアメジストのような紫色。
「な、何なのよぉ~コレぇ? わけわかんないよぉ~!!」
叫ぶ声もかわいい子供の声になっている。
何が起こったのかもわからない奏音は、まさに途方に暮れてしまうのだった。
読んでいただいた方に感謝を!